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悪女のすゝめ
01. 公爵家の優秀な長女
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幼い頃から公爵である父は私にあらゆる事を学ばせた。
領地のこと、様々な学問、外国語の習得、淑女としてのマナー、ダンスに声楽や演奏、とにかく時間がある限り全ての事を。
当時、我が家には子供は長女の私と二つ年下の妹だけだったことから、将来は私が婿養子をとって公爵家を継ぐことになっていたのだ。
余所からとる婿の出来に期待するよりも元から公爵家の娘として生まれた私に責を負わせたほうが効率が良いはずだ、と合理的な父はそう考えたのだろう。
「いいかオードリー、お前はラザフォードを背負って立つ人間なのだから常に皆より抜きんでた存在でなければならない。そのためには絶えず努力し、最高の結果を残す必要があるのだ」
「はい、お父様」
私は学ぶことが全く苦にならなかったため父の教えを従順に受け入れてひたすらに励み、その努力の結果は父をいつも満足させた。
父は常に厳しい教師のようであり、娘だからと甘やかすようなことはなかったが、理不尽なことを言ったり無茶な要求をすることはなかったし、きちんと私の意見を聞き、私の考えを認めてくれていたから私に不満はなかった。
私は公爵家の娘として尊重され、何不自由なく育てられた。
妹のエリーもまた、実質的な跡取りとなる私ほどではなかったが公爵家の令嬢として相応しくあるべきと普通の令嬢よりも厳しく育てられていたようだ。
ただ、彼女の場合は持って生まれた性質だったのだろうか、両親の言うことをはいはいと言って聞いているように見えてその実、物事を常に自分の思うように動かすようなところがあった。
その最たるものが嫁ぎ先についてだ。
妹は父が妹の縁談について本気で検討する前に、元々は父が目をかけていた遠縁の男性に嫁ぎたいと申し出た。
その男性は実家に問題があり満足な当主教育がされていないと判断した父が、公爵家にとっても必要な領地である彼の実家の将来を見据えて公爵家で面倒をみていたのだ。
だからといって、彼は到底妹を嫁がせるような身分の相手ではなかった。妹は順当にいけば年頃もちょうど見合う王子に嫁ぐことすら検討されていたのだから。
しかし、そうはならなかった。
妹は父にことある毎に自分には王子はおろか高位の貴族夫人は務まらないこと、意中の彼意外に嫁ぐことはできないのだと懇願した。
彼以外では駄目なのだと。彼しかいない、彼でなければならないのだと。
妹の熱意に根負けした父が10も年上の子爵家の跡取りと妹の婚約を実質的に認めた時には私も本当に驚いた。
私は粘り勝ちで望みを叶えた妹に感心すると同時に、案外、父は家のことだけではなく娘のことも考えているのだなと妙に納得したものだった。
そして、そのことについて素直に祝いを言った私に妹は何でもないことのように笑って答えた。
「お姉様は頭が良く、勤勉で教えられたことが何でもできるでしょう? でも私はそうじゃない。頑張っても人並み程度なの。それに貴族夫人としてはきっと完全に落第ね。
ただ、もしかしたら私のほうがお姉様よりも少しだけ要領よく自分の思い通りに物事をすすめられる能力があるのかもしれない。
だから、もし、いつかお姉様に誰にも邪魔されずに絶対に叶えたい願い事ができたなら遠慮なく私の意見を聞きに来て。
お姉様はとても優秀なのに何故か自分の利益を犠牲にするようなところがあるから心配なの」
そう言うと妹は真剣な口調で続けた。
「あのね、これまで私たちはそれほど仲の良い姉妹というわけではなかったわよね。お姉様はいつも忙しくしていらしたし。
だから、私の気持ちをきちんとわかってくださっているのかどうかわからないから言うのだけれど、今のは決してお姉様を貶しているんじゃないわよ。
私はお姉様のことを誰よりも尊敬してるし頼りにしてるわ。そして、私はお姉様のことが大好きだし、できればお姉様にも私のことを好きになってほしいと思ってる。
だって、将来的に貴族夫人として落第点の私の後ろ盾となってくれるのは当たり前に強い権力をもつだろうお姉様以外にいないもの。
私達、縁あって結びついた二人きりの姉妹ですもの、お互いに関心を持ち合い、助け合っていくべきだわ。そうでしょう?」
私は妹の年の割に落ち着いた、悟ったような少し変わった物言いと、全然悪びれない態度をみて久しぶりに声をたてて笑った。
エリーと私は彼女が言うように、それまで特別仲の良い姉妹というわけではなかった。血のつながりがあるだけに他人よりは親しいというくらいのうっすらとした好意による関係。
だけど、その頃から私達は姉妹というより親友のような関係になっていったように思う。そのことが私にはとても心強く感じられたし、エリーのほうもそう感じてくれているようだった。
ただ、そうして妹との関係が前よりも強固で心地よいものに変わったころ、公爵家にひょっこりと男児が生まれた。
なんとなくそういうこともあるかと受け入れるしかなかった私とは違って、そのことに驚愕した様子のエリーの狼狽ぶりに変に冷静になったところもあったのだが。
年の離れた弟が生まれると父は私に言った。
「前々から王家より打診を受けていたのだ。娘を王子に嫁がせるようにと。私はお前は公爵家の跡取りだと考えていたから断っていた。エリーについては荷が重いからと。
だが、ジェームズが生まれ、強く断る理由がなくなってしまったのだ。
オードリー、私はこれまで公爵家のためにと努力してきたお前を第二王子の妃にするために差し出さなくてはならん。許せ」
第二王子は王妃の第一子だ。
この国では王と言えども妻は一人だけと決まっているが、婚姻後数年間、王妃が王子を授からなかった場合には特例として第二妃を娶ることになっている。
王が秘密裏に愛人をもつことや公妾を置くことは黙殺されるが血統については厳しく管理されるべきと考えられているためだ。
現王妃の場合は懐妊しないまま4年が過ぎたころに第二妃が選出され、この第二妃がすぐに第一王子を産み落とすことになった。
しかし、第二妃の出産後間もなく王妃も懐妊。無事王子を出産したものだから事が難しくなった。
通常であれば権力保持のため第二妃は王妃の実家の派閥から選ばれるはずだった。
だが、この時点で王妃の実家であるワグナー侯爵家は政敵である野心家のカレル公爵家の勢力に押され気味で、第二妃はカレル公爵の派閥から選出されていたため、水面下でどちらの王子を王太子にするかという戦いが始まったのだ。
父の話では王は王妃の子を王位につけたいという意向を持っており、カレル公爵家よりも力のある我がラザフォード家に元々目を付けていたのだそうだ。
第二王子と私やエリーが年まわりもちょうどいいことからどちらかを娶せ、ラザフォードを後見にしたいのだと。
そもそも父は積極的に娘を王妃にする気はなかったのだろうと思う。ラザフォードは王家とはつかず離れずやってきて、それで上手くまわっているのだから何も火中の栗を拾う必要はないと。
しかし、逆に王は父がそういう考えでいることをわかっていたからこそ諦めてはくれなかった。
そして弟が生まれた機会を逃さず、内々にだが婚約が決まってるエリーではなく、私を第二王子の婚約者にと王命に近いかたちで要求をつきつけたのだ。
父は王からの申し出を断ることができなかった。
領地のこと、様々な学問、外国語の習得、淑女としてのマナー、ダンスに声楽や演奏、とにかく時間がある限り全ての事を。
当時、我が家には子供は長女の私と二つ年下の妹だけだったことから、将来は私が婿養子をとって公爵家を継ぐことになっていたのだ。
余所からとる婿の出来に期待するよりも元から公爵家の娘として生まれた私に責を負わせたほうが効率が良いはずだ、と合理的な父はそう考えたのだろう。
「いいかオードリー、お前はラザフォードを背負って立つ人間なのだから常に皆より抜きんでた存在でなければならない。そのためには絶えず努力し、最高の結果を残す必要があるのだ」
「はい、お父様」
私は学ぶことが全く苦にならなかったため父の教えを従順に受け入れてひたすらに励み、その努力の結果は父をいつも満足させた。
父は常に厳しい教師のようであり、娘だからと甘やかすようなことはなかったが、理不尽なことを言ったり無茶な要求をすることはなかったし、きちんと私の意見を聞き、私の考えを認めてくれていたから私に不満はなかった。
私は公爵家の娘として尊重され、何不自由なく育てられた。
妹のエリーもまた、実質的な跡取りとなる私ほどではなかったが公爵家の令嬢として相応しくあるべきと普通の令嬢よりも厳しく育てられていたようだ。
ただ、彼女の場合は持って生まれた性質だったのだろうか、両親の言うことをはいはいと言って聞いているように見えてその実、物事を常に自分の思うように動かすようなところがあった。
その最たるものが嫁ぎ先についてだ。
妹は父が妹の縁談について本気で検討する前に、元々は父が目をかけていた遠縁の男性に嫁ぎたいと申し出た。
その男性は実家に問題があり満足な当主教育がされていないと判断した父が、公爵家にとっても必要な領地である彼の実家の将来を見据えて公爵家で面倒をみていたのだ。
だからといって、彼は到底妹を嫁がせるような身分の相手ではなかった。妹は順当にいけば年頃もちょうど見合う王子に嫁ぐことすら検討されていたのだから。
しかし、そうはならなかった。
妹は父にことある毎に自分には王子はおろか高位の貴族夫人は務まらないこと、意中の彼意外に嫁ぐことはできないのだと懇願した。
彼以外では駄目なのだと。彼しかいない、彼でなければならないのだと。
妹の熱意に根負けした父が10も年上の子爵家の跡取りと妹の婚約を実質的に認めた時には私も本当に驚いた。
私は粘り勝ちで望みを叶えた妹に感心すると同時に、案外、父は家のことだけではなく娘のことも考えているのだなと妙に納得したものだった。
そして、そのことについて素直に祝いを言った私に妹は何でもないことのように笑って答えた。
「お姉様は頭が良く、勤勉で教えられたことが何でもできるでしょう? でも私はそうじゃない。頑張っても人並み程度なの。それに貴族夫人としてはきっと完全に落第ね。
ただ、もしかしたら私のほうがお姉様よりも少しだけ要領よく自分の思い通りに物事をすすめられる能力があるのかもしれない。
だから、もし、いつかお姉様に誰にも邪魔されずに絶対に叶えたい願い事ができたなら遠慮なく私の意見を聞きに来て。
お姉様はとても優秀なのに何故か自分の利益を犠牲にするようなところがあるから心配なの」
そう言うと妹は真剣な口調で続けた。
「あのね、これまで私たちはそれほど仲の良い姉妹というわけではなかったわよね。お姉様はいつも忙しくしていらしたし。
だから、私の気持ちをきちんとわかってくださっているのかどうかわからないから言うのだけれど、今のは決してお姉様を貶しているんじゃないわよ。
私はお姉様のことを誰よりも尊敬してるし頼りにしてるわ。そして、私はお姉様のことが大好きだし、できればお姉様にも私のことを好きになってほしいと思ってる。
だって、将来的に貴族夫人として落第点の私の後ろ盾となってくれるのは当たり前に強い権力をもつだろうお姉様以外にいないもの。
私達、縁あって結びついた二人きりの姉妹ですもの、お互いに関心を持ち合い、助け合っていくべきだわ。そうでしょう?」
私は妹の年の割に落ち着いた、悟ったような少し変わった物言いと、全然悪びれない態度をみて久しぶりに声をたてて笑った。
エリーと私は彼女が言うように、それまで特別仲の良い姉妹というわけではなかった。血のつながりがあるだけに他人よりは親しいというくらいのうっすらとした好意による関係。
だけど、その頃から私達は姉妹というより親友のような関係になっていったように思う。そのことが私にはとても心強く感じられたし、エリーのほうもそう感じてくれているようだった。
ただ、そうして妹との関係が前よりも強固で心地よいものに変わったころ、公爵家にひょっこりと男児が生まれた。
なんとなくそういうこともあるかと受け入れるしかなかった私とは違って、そのことに驚愕した様子のエリーの狼狽ぶりに変に冷静になったところもあったのだが。
年の離れた弟が生まれると父は私に言った。
「前々から王家より打診を受けていたのだ。娘を王子に嫁がせるようにと。私はお前は公爵家の跡取りだと考えていたから断っていた。エリーについては荷が重いからと。
だが、ジェームズが生まれ、強く断る理由がなくなってしまったのだ。
オードリー、私はこれまで公爵家のためにと努力してきたお前を第二王子の妃にするために差し出さなくてはならん。許せ」
第二王子は王妃の第一子だ。
この国では王と言えども妻は一人だけと決まっているが、婚姻後数年間、王妃が王子を授からなかった場合には特例として第二妃を娶ることになっている。
王が秘密裏に愛人をもつことや公妾を置くことは黙殺されるが血統については厳しく管理されるべきと考えられているためだ。
現王妃の場合は懐妊しないまま4年が過ぎたころに第二妃が選出され、この第二妃がすぐに第一王子を産み落とすことになった。
しかし、第二妃の出産後間もなく王妃も懐妊。無事王子を出産したものだから事が難しくなった。
通常であれば権力保持のため第二妃は王妃の実家の派閥から選ばれるはずだった。
だが、この時点で王妃の実家であるワグナー侯爵家は政敵である野心家のカレル公爵家の勢力に押され気味で、第二妃はカレル公爵の派閥から選出されていたため、水面下でどちらの王子を王太子にするかという戦いが始まったのだ。
父の話では王は王妃の子を王位につけたいという意向を持っており、カレル公爵家よりも力のある我がラザフォード家に元々目を付けていたのだそうだ。
第二王子と私やエリーが年まわりもちょうどいいことからどちらかを娶せ、ラザフォードを後見にしたいのだと。
そもそも父は積極的に娘を王妃にする気はなかったのだろうと思う。ラザフォードは王家とはつかず離れずやってきて、それで上手くまわっているのだから何も火中の栗を拾う必要はないと。
しかし、逆に王は父がそういう考えでいることをわかっていたからこそ諦めてはくれなかった。
そして弟が生まれた機会を逃さず、内々にだが婚約が決まってるエリーではなく、私を第二王子の婚約者にと王命に近いかたちで要求をつきつけたのだ。
父は王からの申し出を断ることができなかった。
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