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親戚一同が帰宅したその晩、食堂に行くとイレーナの分だけ用意されていなかった。
「アナタが生意気な事ばかり言ってハンナを泣かせた罰です!」と母親が睨みながら言うと、ハンナは「いい気味ね」と言うかのように勝ち誇った顔をイレーナに向ける。
両親もハンナも、イレーナが泣いて許しを請うか部屋に逃げ帰るかするものと思っていた。
だが、イレーナは泣きもせず許しを請いもせず、部屋に逃げ帰る事もしないで心底理解できないという表情で答える。
「私へのご厚意で贈られた物を譲れないと言うと夕食が抜きになる程の罪ですのに、人の大切な物を奪おうとするのは罪ではないのですか?」
口答えされると思っていなかった母親が激高する。
「親に口答えするとは何ですか!! 罰として今日から3日間食事抜きとします!」
「お姉様かわいそうに。私が嫌いなニンジンなら差し上げてよ?」
怒りに震える母と優越感に満たされる妹、見て見ぬ振りをする父親を眺めつつちょっと考えたイレーナは振り返って老執事に声を掛ける。
「じぃ、馬車を準備してください」
3人は何を言い出したのか分からず呆然とした。
「どちらに行かれますか?」と訊かれたイレーナは答える。
「ヨーゼフおじ様とアマンダおば様の所へ。私もまだまだ勉強が足りないみたいでお母様の言ってる事が少しも理解出来ないから、お母様の兄であるヨーゼフおじ様なら分かるかと思って」
「かしこまりました」と出て行こうとする老執事を父親が慌てて止める。
「待て! 馬車の準備はしなくていい! イレーナの分もちゃんと用意してある。おい! 早く持ってこい!」
さすがに昼間に親戚一同から責められたのだ、まさか食事抜きにしたなどと知られる訳にいかない。
父親は「イレーナの分は作らなくて良い」と指示をしていたので用意はされていないはずだが、何故かすぐに出てきた。
コックが後でコッソリ部屋に運ぼうと考えていたためだが、誰もおかしいと気付かない。
その後、4人は特に会話をする事もなく黙々と、ハンナはイレーナをにらみつけながら食事を終えた。
◇◇◇◇◇◇
イレーナは15歳、ハンナは14歳になったが、甘やかされ続けたハンナの我が儘ぶりは輪をかけて酷くなっていた。
「お姉様のこのドレス、明るい髪色の私の方が似合いますよね、戴くわね」
勝手に部屋に入ってきて勝手に物色しイレーナのお気に入りのドレスを奪って部屋を出て行くハンナを見て、イレーナは勉強を一旦やめて立ち上がりハンナの部屋へと向かった。
ハンナの部屋に入るとベッドの上に先ほどのドレスが無造作に放り投げられている。
このドレスが気に入った訳ではなく「姉の大切な物を奪った」という愉悦に浸りたいだけだった事が分かる。
ハンナの部屋に黙って入ったイレーナは、そのドレスには目もくれずクローゼットを開けてハンナが一番気に入っているドレスを手に取る。
「お! お姉様、勝手に人のクローゼットを漁るのはやめてください!」
自分がつい数分前に同じ事をしたことなど忘れて文句を言う。
「ハンナ、あなたより先に社会に出た私がちゃんと教えてあげます。世の中というのはね、等価交換なのです。食事をしたり物を買ったりしたらお金を支払う。何かを得ようとしたら同じ価値の何かを失う。これが世の中の摂理なのですわ」
「え……えっと、よく分からない……」
「あなたは私の一番お気に入りのドレスを手に入れました。なので、あなたが一番お気に入りのドレスを私に渡す必要があるのです。これが世の中の摂理です。
もっとも、あなたのドレスはどれも原色で胸元が大きく開いてて品が無いので、等価かどうか微妙ですが……」
「ちょ、ちょっと待って! 私はこんな地味なドレス趣味じゃ無い! これを持ち帰ってくれれば良いから!!」
ハンナは懇願するも時既に遅し。
「先に持ち出したのはあなたですよ、時は戻せないのですから、行動はよく考えてするようにしましょうね」
イレーナは妹の行動を正そうと一つ一つ指摘していく。
「お、お母様! お姉様が私のドレスを!」
ハンナが部屋を飛び出して母親に泣きつきにいくとすぐにドタドタと淑女らしからぬ品のない足音が近づいてくる。
「イレーナ! アナタ妹のドレスを奪うとは何と非道な事を!!」
咄嗟のことなのに自分に都合の良い事しか伝えていないのも流石と言おうか。
「先に私のドレスを勝手に持って行ったのはハンナですよ。なぜ私だけを責めるのですか?」
「だ……、だからと言ってハンナの大切な物を奪う事はないでしょう!?」
「奪ったのではなくハンナの望み通りに交換しただけですわ」
「何訳のわからない事を! いいからそれを置いて自分のドレスを持って部屋に戻りなさい!」
「仕方有りませんね……、私もこんなドレスは着たくないので自分の物を持ち帰る事といたします」
イレーナはこの年齢になってもまだ、母親と妹の行動や発言が理解できずにいた。
「アナタが生意気な事ばかり言ってハンナを泣かせた罰です!」と母親が睨みながら言うと、ハンナは「いい気味ね」と言うかのように勝ち誇った顔をイレーナに向ける。
両親もハンナも、イレーナが泣いて許しを請うか部屋に逃げ帰るかするものと思っていた。
だが、イレーナは泣きもせず許しを請いもせず、部屋に逃げ帰る事もしないで心底理解できないという表情で答える。
「私へのご厚意で贈られた物を譲れないと言うと夕食が抜きになる程の罪ですのに、人の大切な物を奪おうとするのは罪ではないのですか?」
口答えされると思っていなかった母親が激高する。
「親に口答えするとは何ですか!! 罰として今日から3日間食事抜きとします!」
「お姉様かわいそうに。私が嫌いなニンジンなら差し上げてよ?」
怒りに震える母と優越感に満たされる妹、見て見ぬ振りをする父親を眺めつつちょっと考えたイレーナは振り返って老執事に声を掛ける。
「じぃ、馬車を準備してください」
3人は何を言い出したのか分からず呆然とした。
「どちらに行かれますか?」と訊かれたイレーナは答える。
「ヨーゼフおじ様とアマンダおば様の所へ。私もまだまだ勉強が足りないみたいでお母様の言ってる事が少しも理解出来ないから、お母様の兄であるヨーゼフおじ様なら分かるかと思って」
「かしこまりました」と出て行こうとする老執事を父親が慌てて止める。
「待て! 馬車の準備はしなくていい! イレーナの分もちゃんと用意してある。おい! 早く持ってこい!」
さすがに昼間に親戚一同から責められたのだ、まさか食事抜きにしたなどと知られる訳にいかない。
父親は「イレーナの分は作らなくて良い」と指示をしていたので用意はされていないはずだが、何故かすぐに出てきた。
コックが後でコッソリ部屋に運ぼうと考えていたためだが、誰もおかしいと気付かない。
その後、4人は特に会話をする事もなく黙々と、ハンナはイレーナをにらみつけながら食事を終えた。
◇◇◇◇◇◇
イレーナは15歳、ハンナは14歳になったが、甘やかされ続けたハンナの我が儘ぶりは輪をかけて酷くなっていた。
「お姉様のこのドレス、明るい髪色の私の方が似合いますよね、戴くわね」
勝手に部屋に入ってきて勝手に物色しイレーナのお気に入りのドレスを奪って部屋を出て行くハンナを見て、イレーナは勉強を一旦やめて立ち上がりハンナの部屋へと向かった。
ハンナの部屋に入るとベッドの上に先ほどのドレスが無造作に放り投げられている。
このドレスが気に入った訳ではなく「姉の大切な物を奪った」という愉悦に浸りたいだけだった事が分かる。
ハンナの部屋に黙って入ったイレーナは、そのドレスには目もくれずクローゼットを開けてハンナが一番気に入っているドレスを手に取る。
「お! お姉様、勝手に人のクローゼットを漁るのはやめてください!」
自分がつい数分前に同じ事をしたことなど忘れて文句を言う。
「ハンナ、あなたより先に社会に出た私がちゃんと教えてあげます。世の中というのはね、等価交換なのです。食事をしたり物を買ったりしたらお金を支払う。何かを得ようとしたら同じ価値の何かを失う。これが世の中の摂理なのですわ」
「え……えっと、よく分からない……」
「あなたは私の一番お気に入りのドレスを手に入れました。なので、あなたが一番お気に入りのドレスを私に渡す必要があるのです。これが世の中の摂理です。
もっとも、あなたのドレスはどれも原色で胸元が大きく開いてて品が無いので、等価かどうか微妙ですが……」
「ちょ、ちょっと待って! 私はこんな地味なドレス趣味じゃ無い! これを持ち帰ってくれれば良いから!!」
ハンナは懇願するも時既に遅し。
「先に持ち出したのはあなたですよ、時は戻せないのですから、行動はよく考えてするようにしましょうね」
イレーナは妹の行動を正そうと一つ一つ指摘していく。
「お、お母様! お姉様が私のドレスを!」
ハンナが部屋を飛び出して母親に泣きつきにいくとすぐにドタドタと淑女らしからぬ品のない足音が近づいてくる。
「イレーナ! アナタ妹のドレスを奪うとは何と非道な事を!!」
咄嗟のことなのに自分に都合の良い事しか伝えていないのも流石と言おうか。
「先に私のドレスを勝手に持って行ったのはハンナですよ。なぜ私だけを責めるのですか?」
「だ……、だからと言ってハンナの大切な物を奪う事はないでしょう!?」
「奪ったのではなくハンナの望み通りに交換しただけですわ」
「何訳のわからない事を! いいからそれを置いて自分のドレスを持って部屋に戻りなさい!」
「仕方有りませんね……、私もこんなドレスは着たくないので自分の物を持ち帰る事といたします」
イレーナはこの年齢になってもまだ、母親と妹の行動や発言が理解できずにいた。
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