三十歳、アレだと魔法使いになれるはずが、異世界転生したら"イケメンエルフ"になりました。

にのまえ

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白猫族のヌヌ

お別れ

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 奴隷商の荷馬車の荷台――鉄格子の中でヌヌは目が覚めた。この中にヌヌ一人ではなく、助けてくれた黒猫と耳の長いエルフ、オオカミの子、竜人……同じくらいの男の子と女の子がいた。

「目が覚めたのか。オレはカイってんだ……しばらくよろしくな」

「うん、私はヌヌです」

 ヌヌの妹を助けてくれたのは黒猫族のカイ。彼はいろいろ話してくれた――いま、国境を超えて違う国にいること、カイは奴隷商人に俊足の能力をかわれて護衛をしたり、見張り、人さらいの手伝いをしているといった。

 周りの捕まった亜人たちはカイを睨む。しかし、カイは慣れっこなのかニシシだと笑い――ここに止まるより、とっとと売られた方がいいときもある。人間の何もいい人がいてソイツに買ってもらえれば、仕事は大変かもしれねぇーがぁ。ベッドに眠れて、うまい飯にありつける。

 ――まあ、変な客もいるから見抜け。

 など、無理な話をした。

「ヌヌもこれから大変だぞ。せいぜい変な客に買われないこったな……もし、変な奴に買われそうになったら、牙と爪を使え。乱暴者だと思われろよ」

「う、うん」

 七歳になったばかりのヌヌ。彼女は約十年もの間、カイに言われたとおり客を威嚇し続け、いろんな国を周り、ほかの子たちが売れていく姿を見続けた。

 ――たくさん泣いて、別れて。
 ――たくさん笑った、喧嘩もした。

 そんなヌヌにも買い手が現れたのだ、買った人は多額の金を奴隷商人に払ったらしい。もう逃げる事はできない。

「ヌヌ、お別れだ――元気でな!」

「うん」

 大人になったカイとヌヌ。長年一緒にいて二人に恋は生まれなかったが、彼とは家族のように過ごしてきた。

「じゃーな、ヌヌ」

「じゃーね、カイ」

 ――今生の別れである。
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