大学の図書館で手に取った本が何故か異世界への扉でした

山下レ央

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第1章:エルフの国編

第23話 5年前の事件

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 大和とジェイルの模擬戦が終盤に差し掛かる頃、王室特殊兵団スターライツ本部の第3会議室では1番隊、2番隊、4番隊の隊長と副隊長による、バギランド王国訪問に向けた打ち合わせも終わろうとしていた。

「まあこんな感じで問題ないか?」

「ええ、問題ないわ」

「異議なしです」

「じゃあこれにて会議は終了だ」

 ヴォルドがマナカとサユリに会議内容の最後の確認をし、了承を得たことで会議は終了した。
 隊長達に同行していた3人の副隊長は、自分の任務に戻るために一足先に退出していった。
 だが、会議が終了したにもかかわらず、会議室にいる隊長達3人はまだ部屋を出ようとする様子はない。

「そういえばヴォルド、ジェイルの奴が大和を模擬戦に誘ったらしいぞ?」

 会議が終わり、真面目な空気から一変し、マナカがヴォルドにジェイルと大和の動向を話した。

「あー、またか・・・」

「ああ。これで何人目だろうか・・・」

「少なくとも私含め私の同期は全員やりましたよ」

 ヴォルドとサユリは大して驚くこともなく、まるで過去にも何度かあったかのような反応をした。

「いい加減見どころのあるやつを模擬戦誘うのやめてもらいたいんだがね」

「まあ無理でしょ。ケイト団長も許してることだしそれに、ジェイルは戦闘狂だし」
 
「あの、ジェイル先輩はいつからこのようなことを?」

「ジェイルの前任のロメロ元3番隊隊長が引退してジェイルが隊長に就任してからだ。
まあつまり4年前からだな」

「ていうことは私が入団する前からやってるんですね・・・」

 サユリは内心ジェイルに呆れつつ、ジェイルに強制的に模擬戦をやらされた者たちへ同情した。
 サユリがそんなことを考えてる間に、マナカはヴォルドに別の話題を振っていた。

「そういえばアイラさんの命日は明日だったな」

「ああ。明日墓参りに行くよ」

「去年は任務で南部まで行ってて命日に行けなかったからな。
今年は一緒に行かせてもらうぞ」

「おう」

 サユリはヴォルドとマナカの会話の内容が気になったので自分も会話に入る。

「あの、アイラさんってヴォルド先輩の姉上でしたよね?」
 
「ああそうだ」

「確か5年前、任務中に殉職されたとか・・・」

 サユリは少しヴォルドに気を遣いつつ、自分も墓参りに行きたいと伝えるつもりだった。
 だが、ヴォルドの予想外の発言に一旦それどころではなくなる。

「公にはそうなっているが・・・てかサユリはまだ隊長になってから1年くらいだから知らないのか」 

「知らない?何をです?」

 サユリはヴォルドに当然の疑問を抱いた。

「あら?まだ話してなかったの?」

「仕方ないだろ。俺とサユリがここまで長い時間仕事で話すことはなかったんだから」

 どうやらヴォルドだけでなく、マナカもヴォルドの言おうとしていることを知っているようだ。

「公にはってどういうことです?」

 サユリの疑問にヴォルドが少し間を置いて話し始める。

「いいかサユリ、これから話すことは王室特殊兵団スターライツの隊長格とケイト団長しか知らない極秘情報だ。
決して誰にも話さないと約束できるか?」

 ヴォルドは先程までのラフな雰囲気から一変し、真剣な眼差しでサユリを見つめながら問う。

「もちろんです。王室特殊兵団4番隊隊長、サユリ・ノンデムの名の下に、これから聴く内容は口外しないことを誓います」

 サユリがヴォルドにそう宣言すると、ヴォルドは少し力を抜いてサユリに話し始める。

「わかった。では話そう。
これは今から5年前のことだ────」


□□□□□

 大和がこちらの世界に転移してくる5年前、現在と同様に王都シャーリスは平和な雰囲気だった。
 そんな王都とは裏腹に、王室特殊兵団スターライツの本部では、緊急招集をかけられた幹部たちが揃っていた。
 当時の王室特殊兵団スターライツは、シャーリス王国軍傘下の王室護衛団を吸収する形で合併して2年目を迎えたばかりだった。
 新体制の王室特殊兵団は最近王都シャーリスや、その周辺地域で多発しているある事件についての対策会議を行おうとしていあ。

「よし、皆集まったわね。始めるわよ」
 
 初めに声を出したのは、当時王室特殊兵団スターライツの第23代団長を務めていたヴォルドの姉であるアイラ・ハイツだ。
 顔立ちは少しヴォルドに似ているが、全体的な雰囲気は大人の女性という感じだ。
 アイラが隊長たちが座る丸テーブルの近くにあるホワイトボードの前まで行くと、早速会議が始まる。
 会議室に集められたのは、
1番隊隊長ケイト・バストン
2番隊隊長マナカ・ミドパルド
3番隊隊長ロメロ・リンドール
4番隊隊長リフト・アベスティア
5番隊隊長アダム・メルファン
6番隊隊長フィルロス・オリンドル
7番隊隊長エリカ・オルフェンゴール
の7名の隊長、そしてその彼らを束ねる総隊長兼副団長のアルフェン・ノザームだ。
 
「じゃあケイト、報告を頼むわ」

「はっ!」

 ケイトはアイラにそう言われると、指示通りに事件の詳細について話し始める。

「先週から王都シャーリスで発生しているハーフエルフ誘拐事件は昨夜の事件で8件目となりました。
ただ残念ながら、今回も今までと同様に犯人に逃げられてしまった上、犯人と対峙した警察官2名と王室特殊兵団スターライツの団員1名が犠牲になりました・・・」

 ケイトがそう言うと、アイラは少し悲しそうな表情をしたが、今は仕事中なのですぐに冷静さを取り戻す。

「・・・わかったわ。民間人への犠牲は?」

「民間人への犠牲は誘拐された者のみです」

「今回もね」

「はい、目撃者によりますと、何名か誘拐を阻止しようときた民間人がいたようですが、犯人らその民間人らを殺すどころか怪我すらさせることなく気絶させたそうです。
そして目撃しただけのものは何もされなかったそうです」

 アイラ達は犯人の妙な行動に困惑していた。

「犯人の真意が知りたいわね」

「ええ、せめて犯人を捕えられればいいのですが・・・」

「そうね。報告は以上かしら?」

「はい、以上になります」

「犯人は決まって夜に犯行を行うわ。今日の夜の捜索任務から隊長クラスも現場へ入りなさい。
今回は警察どころか王室特殊兵団スターライツにも犠牲者が出た。
つまり犯人は相当の手練よ。くれぐれも油断しないように」

『はっ!』

「それでは解散」

 隊長たちは返事をすると、すぐに会議室を出て自分の隊の所へ向かった。
 ただ1人を除いては。

「アイラ団長、少しよろしいでしょうか」

 アイラに話しかけたのは、7名の隊長達を束ねる総隊長職に就きながら、副団長も兼任しているアルフェン・ノザームという男だ。

「あら、何かしら?」

「犯人の奴らについて気になることがございまして」

「気になること?」

「はい、犯人の犯行現場についてなのですが」

 アイラはアルフェンの言葉を聴くと、自分も気になっていた部分だったのでアルフェンに詳しく聴こうと思った。

「詳しく聴かせてちょうだい」

「はい、犯人の動きにはどうやら法則性があると思われます。
その法則というのは」
 
「方角ね」

「はい、犯人の1回目の犯行は王都シャーリス東部、2回目は西部です。
そして3回目は南部、4回目は北部、5回目は東部で、6回目は西部、7回目は南部で、昨夜の8回目の犯行は北部でした」

「つまりその法則性に従うなら、次の犯行は東部の可能性が高いという事ね」

「はい、その通りでございます」

 アイラは犯人の法則性には何となく気づいていたが、犯人がまた同じ法則で動く確証がなかったため、会議では話さなかったのだ。
 それに、同様の理由で隊を東部に集中させて、もし他で犯行が起こったら王室特殊兵団スターライツの信頼が落ちると言うものだ。
 だが、アルフェンの発言でアイラは考えを改めることとなる。

「そこでアイラ団長、王室特殊兵団スターライツの中でも実力の高い1番隊、3番隊、5番隊を東部に配置し、残りの隊は別の方角に配置するというのはどうでしょうか?」

「それでは残りの隊を2部隊ずつ派遣したとしたら1つの方角だけ捨てることになってしまうわよ?」

「それは問題ありません。今回は私も自分の部下と共に直々に出動しようと考えておりますので、残ったに1つの方角を監視します」

「わかったわ。許可する。
では残りの方角の人選はあなたに任せるわ」

「了解しました。では失礼致します」

 アルフェンがそう言って部屋を出ると、会議室にはアイラ1人となった。

「・・・さて、私もやるべき事をやりますか」

 アイラは窓の外を眺めながら1人で呟いた。

□□□□□

 対策会議終了から時間が経ち、王都シャーリスは月に照らされ、薄い暗闇が包む夜になっていた。
 今回はアルフェンの命令で
東部を1番隊、3番隊、5番隊
西部を4番隊、7番隊
南部を2番隊、6番隊
北部をアルフェン直属の部下達が警備することとなった。
 アイラは1人団長室に残り、いざという時に自分も出れるように武装を完了していた。
 アイラが1人で地図を眺めていると、突然団長室の扉が勢いよく開き、連絡兵が息を切らしながら入ってくる。

「団長!失礼します!ただいま王都シャーリス東部にて1番隊Aチームが犯人と交戦状態に入りました!」

「本当か!?」

「はい!」

「では隊長のケイトとリーダーのヴォルドに可能なら生かして捕らえろと伝えてくれ」

「わかりました!失礼致します!」

 連絡兵はそう言うと急いで連絡室へと向かってたった。

「やはり思った通りね」

 アイラは1人で呟くと、自身も部屋を出て現場に向かう。
 ただ、その現場は1番隊がいる場所ではなかった。

□□□□□

 ヴォルド達が犯人と交戦している頃、シャーリス北西部の海岸にそびえ立つ王家の別荘に怪しい人影が迫っていた。

「誰だ?」

「この先は国王陛下の許可なき者は立ち入ることは許さん。
もしこのまま許可証を見せずに立ち入ろうとするならざ実力行使をする」

 屋敷の門番2人がマントを被った怪しい男に対し警告する。
 しかしマントの男は足を止めることなく門に向かって歩き続ける。

「やれやれ、とりあえず拘束させてもらうぞ」

 門番の1人がマントの男に拘束魔法をかけようとした次の瞬間、その門番は爆散して絶命した。

「な!?貴様ぁ!!」

 それを見ていたもう1人の門番が激昂し、マントの男に向かっていった。

高圧電流ハイボルト!!」

 門番がマントの男に雷属性魔法を放ったが、マントの男にらは全く効いていなかった。
 そしてマントの男は門番の男に近づくと、門番の男が認識出来ない速さで魔法を発動させ、門番の男を爆殺した。
 そしてそのマントの男は屋敷の門を開け、屋敷の敷地内に入っていく。
 マントの男が屋敷の扉を開けようとした瞬間、マントの男に背後から風の刃が飛んでくる。
 マントの男は咄嗟に回避し、風の刃な放たれた方へ顔を向けた。

「あなたも誘拐犯の仲間かしら?」

 風の刃が放たれた方向に立っていたのはアイラだった。
 マントの男はその場を離れようとするが、アイラは逃がさない。

「逃がすわけないでしょ?猛毒大風刃ヴェノムハリケーン!」

 アイラは猛毒を仕込んだ風の刃の魔法をマントの男に浴びせる。
 マントの男は何とか耐えているが、マントはそうもいかず、風の勢いで飛んでいってしまった。
  
「やはりあなたが犯人の仲間だったのね、アルフェン」

 なんとマントの男の正体はアルフェン・ノザームだった。

「団長・・・いえ、私はただここに捜査をしに来ただけですが」

 アルフェンは何とか誤魔化そうとしているが、残念ながらアイラには通じない。

「いいえあなたも仲間なはずよ。根拠ならあるわ」

「なに?」

「ていうより、門番をあんな殺し方を出来るのは国内であなたしかいないでしょう?」

「ふっ・・・じゃあ俺が犯人の仲間だってことを証明してみてくださいよ」

 アルフェンは余裕なに満ちた表情を浮かべながらアイラに問いかけた。

「前までは根拠はないけど事件に対する色々な反応が怪しいと思っていたわ。
こちらがいくら対策してもその裏を簡単にかいてくる。
まるで内通者がいるとしか思えないくらいにね。
これだとまだ今日の会議の後、確信に変わったわ」

「会議の後ですか?」

 アルフェンは表情を変えずにアイラを見続けている。

「ええ、王室特殊兵団スターライツと警察の捜査の結果や目撃証言での犯人の特徴から犯人は単独犯っていう結論が出ているにもかかわらずあなたは私に犯人のについて気になることって言ってたわよね?」
 
「それは言葉の綾というか・・・」

「そしてもう一つの根拠はあなたの素性と誘拐された者達の素性よ」

「・・・なに?」

 アイラが言ったことに対し、アルフェンの表情に焦りが見え始めた。

「同じハーフエルフってことは確かだけど、あなた含め誘拐された者たちは妖魔族の血も受け継いでいることがわかったわ」

「・・・」

 アルフェンはアイラを睨みつけている。
 だが、アイラはアルフェンの反応に関係なく話を続ける。
 
「ここからは私の想像だけど、あなた達は妖魔王を誕生させようとしているのではないかしら?
確か召喚魔法系統に同族の生贄を使った復活魔法があったと思うのだけど、それを使うつもりなのね?」

「・・・クッ・・・クハハハハハハ!!」
 
 アルフェンはアイラに問い詰められて吹っ切れたように笑いだした。

「まさかアイラ団長に気づかれるとはな!」

「やっぱりそうなのね・・・」

 アイラはアルフェンが犯人の仲間だと思っていた反面、それが嘘であって欲しいと思っていた。
 だが、残念ながらアイラの予想は的中してしまったのだ。

「その通りだ。今から200年前、お前らエルフ族によって追い出され、絶滅寸前まで追い詰められた我が一族の無念を晴らすために妖魔王を誕生させるのだよ!
だがそれには貴様の言う通り、同族の生贄が必要だった!
だが、ただでさえ100名規模まで減った我が一族を生贄にするのは望ましくない。
そこでお前ら忌々しきエルフ族と交わった裏切り者共の子孫を使うことにしたのだ!
幸い、生贄魔法は同族が使えない場合は同族の血を引く者を10名程度集めれば使用可能だからな。
裏切り者の更生のチャンスを与えるのだよ!」

 アルフェンの表情は憎しみが満ちたものに変わり、今回の計画をアイラにペラペラと話していた。
 アイラはそんなアルフェンに対し、冷静に問いかける。

「その口振りだとあなたも生贄になるのだけどいいのかしら?」

 アイラの冷静な問いかけにアルフェンは堂々と答える。

「確かに今の言い回しでは俺も生贄になる。
だが俺は生贄にはならない。なぜなら俺は・・・」

 アルフェンは何かを言おうとしながら魔法陣から剣を抜き、アイラに斬り掛かる。
 
「俺は純血の妖魔族だからだよ!!」

 衝撃の事実を暴露すると共に自分に斬り掛かってくるアルフェンに対し、アイラも腰辺りにある剣をさやから抜き、アルフェンの攻撃に備えた。
 2人の剣がぶつかり合い、凄まじい剣閃が走った。
 こうしてアイラ対アルフェンの戦いが幕を開けた。

 
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