青春少女 北野麻由美はたった一度の青春を謳歌する

益木 永

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第1章

第2話

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 そんな私が高校デビューを果たしてから結構経った。どれくらい経ったかというと、夏休みが終わり、二学期がこれから始まるぐらい。
 私はいつもの様に通学路を歩いていた。通っている高校は電車通学もOKだけど、私は徒歩で通学している。理由としては、私の家から高校までを歩いてかかる時間は長くても三十分。少し駆け足ぐらいで行けば、ニ十分も切れるぐらいの距離関係である事が大きい。
 最初は大変だったけど、段々と通学を続けて行けば体が慣れていくからか、一学期の最後の方には全然苦にならなかった。けれど、二学期が始まったばかりでしかも夏休みで通学しなかった期間があった関係で流石に今は少しだるい。
 それでも、だ。私は高校デビューをある程度成功させているという自覚はある。勿論、完璧という訳には行かなかったけど。
「おっ、リリー!」
「あぁ、麻由美じゃない。おはよー」
 私は、目の前に友人の存在がある事を認識すると真っ先に声を掛けた。リリー、と呼んだ相手は私が高校で一番の仲良しになった南莉々(みなみりり)だ。先ほどの様に、私はリリーと呼ぶ彼女とは何だか、意気投合したとしか言いようがない。
 本当に、それぐらいきっかけというきっかけが思い浮かばないくらい気づいたら仲良くなっていったと言っても良い。
「おはよ、リリー。今日も中々なべっぴんさんじゃない?」
「おだてても何も出ないわよ、ったく」
 リリーは苦笑して、私の誉め言葉を受け取る。容姿的には少しキツい性格かもしれない、と思われそうな目つきをしてはいるものの、実際に話して見ると容姿のイメージ程のキツさはそれほどない。
 勝気な性格ではあるんだけど。
「でもリリー、本当に今日は中々決まっているよ。その髪とかお手入れ大変じゃない? 私は無理だわー」
「そう? 慣れればどうって事ないでしょ。麻由美も髪伸ばしたら?」
 リリーはそういう風に、なんて事も無いように言ってくる。
 しかし、私には無理だという確信がある。
 そんな綺麗なロングヘアー、私には維持を出来る自信がない。つまり、お手入れを出来る自信は私には残念ながら備わっていないのだ。それは昔からショートにしているこの髪型が答え、というものだ。
 でも私は、顔については可愛いと評される事はあるんだから、髪が長くなくても全然行けるはず……! そんな風に自分で自分をなだめていた。
「はあ。夏休みはリリーとも、皆とも楽しくやれたけどいざ終わると寂しいなあ」
「しょうがないでしょ。私たち、学生何だから新学期は逃げてくれないの」
 そうは言うけど、やはり私は寂しいものは寂しい。
 はあ……と私はまたもやため息を付く。そう思う理由としては、寂しい以外にもある理由がある。
 と、言っていると目の前にその理由らしき人物が見えてきたような。
「……あぁ、北野じゃない。相変わらずね」
「何よ藍春」
 うわ、本人だった……と私が思わず口漏らさなかった事を褒めて欲しい。その理由というのは、言うまでもない。こいつの存在だ。
「何でもないけど? ただ、あなた見ているとちょっと気分が下がるだけよ」
 やっぱり言ってきたな。藍春(あおはる)は何だか私にこうして突っかかってくる事があるから本当に苦手だ。別に、その態度は私だけに限った訳じゃないけど。
「ちょっと、朝からそういうのは良くないんじゃないの?」
 リリーが私を庇う様に反論する。やっぱりリリー優しい……!
「そうよ、相変わらずそういう態度を繰り返してないでくれない?」
「ふん、別にちょっとからかっただけだってのに」
 これのどこがからかっているのか。いや、本人は本当にからかっているつもりなのかもしれないけど。朝からこういうの勘弁してほしい。
「じゃあ、あたしは先に行っているから呑気に歩いていけば?」
 そうして、藍春は早歩きでその場を去っていったのだった……。あー、こいつ何なんだよマジで、って怒りそう。
「何よあいつ、マジでムカつくわね!」
 まるで心情がリンクするようにリリーが大声で言う。まあ、それはそうだよね。
 藍春って、何だかクラスの中でも高圧的っていうか何だか人を見下している様なそんな態度をする奴。そんな奴にも取り巻きがいるんだから、本当に世の中はよくわからないものだ。
「はあ、朝からヘヴィーな気分よ……」
 特に私が気に入らないのか、藍春とは度々口論になった事もある。入学したての時だって……。
「もお! 麻由美、こういう時こそ気分を上げていかなきゃ! こいつには負けたくないとか、それぐらいの気概持たないと!」
 そうは言っても、それを実行するのは簡単ではないのだ。わざわざ口にする事の程でもないけど。


「おー、相変わらず凄い熱量を持った試合だね~」
「本当にね、あれは凄いわ」
 放課後、リリーに誘われた私はちょっと離れた所からサッカー部が行っている練習試合を観戦していた。私たちが観戦している場所は二階の渡り廊下。左右が吹き抜けになっている事と、場所によってはグラウンドがはっきり見える事と、何だかグラウンドで観戦するのは気が引けたからといった様々な理由があってここで観戦している。
 何故、気が引けるのか……それは。
「「キャアアァァァァア!!」」
 相変わらず、黄色い悲鳴だ。
 サッカー部の男子は、この高校では女子人気が凄い高いらしくグラウンドで観戦している女子が凄く多いのだ……! この女子たちは所謂校内のサッカー部の追っかけをしているらしく彼女らの中で決まったルールの元、活動しているとかなんとか。
 ちなみに私たちは参加していない。絶対に面倒くさいから。
 しかも、その追っかけの一部は私たちがいるこの渡り廊下にも何人かいるのだ……比較的人が少ないからここを選んだものの、何だか居づらい。
「こっちも相変わらずね……」
「……そうだね」
 黄色い悲鳴を上げる追っかけ達を眺めながら、リリーの言う事に私は同意をする。本当に、ここまでの熱量を上げる事は凄い。
「あ、麻由美! 凄いシュートが決まってる」
「ホント?!」
 私はリリーが指す方を見ると、そこにはサッカボールがゴールへと綺麗にシュートされていく様子が。私はシュートをした男子を見る。
「西城、本当にサッカー上手いわねえ」
「……うん」
 あ、あいつだったんだ……! 私はそのシュートをした西城の顔を見る。あれだけ激しく動いているだけあって、結構汗をかいている様子だったけどそれでも表情は晴れやか。爽やかに感じられた。
「凄いなあ……」
 彼の顔を見ていると、隣にリリーがいる事すら不意に忘れてしまうそうになる。いけない、いけない! ここで自分の世界に入るのはよろしくない、正気を維持しなさい! そう私は心の中で言い聞かせていた。

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