この物語の意味を知るとき

益木 永

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〈第1章 春、彼女と出会う〉

第4話

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「金住、今日も来月に配る文芸冊子の内容についての話し合いをするんだよな?」
「当然。しっかりと進めていかないと再来月分が間に合わなくなるからね」

 すぐに行村先輩が今日の部活内容の確認をする。どうやら、今日は来月に配る文芸冊子の内容についての話し合いだそうだ。文芸冊子についてはあの時に配られたパンフレットから存在を知っていた。

 ここ数日の内に実は、文芸冊子が置かれている場所を確認しには行っていた。文芸冊子はどうやら職員室前の掲示板に置かれているようだった。文芸冊子を持っていく人は意外にも多かった。あの時は知らなかったが、多分、金住先輩の存在が大きかったのだろう。

「私は毎月上げている小説のシリーズとSF小説の本の解説を書いていく予定だけど、それで大丈夫よね?」
「ああ、大丈夫。あの小説シリーズ、私も終わりが気になるから頑張って書いていて欲しい。それと、SF小説の解説は一体どんな作品についてなんだい?」
「ああ、ちょっと待って……そうそう、これ」

 母野先輩はスマートフォンを取り出すと、その画面を金住先輩に見せる。

「ふむ……内容は一応過激なものは乗せられないけれど、それは大丈夫?」
「大丈夫。昨日読み切ったけど、そこまで過激な内容では無かったから。ただ、人が死ぬシーンとかは描かれているからその辺りはしっかり確認してもらわないといけないかも」
「人が死ぬくらいだとミステリー小説とかサスペンス小説の紹介も出来ないからな」

 横から入った行村先輩の発言にそうね、と母野先輩は同意する。というか、僕は全く話に参加できていない。金住先輩がちょろちょろ、と僕の方を見遣るが、あれは一体なんだろう。

「それじゃあカオルくん」
「え」

 急に金住先輩に声を掛けられる。

「君は小説に関してはどれくらい知っているんだい?」
「あ……えっと、そこまで詳しくはないんですけど、たまに読むくらいなら」

 なるほど、と金住先輩は相槌を打つ。自分で言ってて肩身が狭くなるような答えだった。

「それじゃあ、とりあえず流れだけでも見てもらった方が早いと思うけれど、二人はどう思う?」
「私はまあ、無理に参加するよりかは流れを理解した方が良いと思うけれど……」
「だが、完全に蚊帳の外にいるのも問題だよな……」

 折角体験参加をしてもらっているからね、と金住先輩は後付ける。参加するまでの流れは半ば無理やりの様な気がするけれど。
 けれど、先輩達の話はどこか惹きつけられる様な内容と思った。

 一年前も三人だけだったかは知らないけれど、いつもこの様な空気感で部活動をしているんだろうな、というのは察する事ができた。

「あの、僕は話聞いているだけでも大丈夫なので、そのまま続けてもいいです」
「わかった。でも、気になる所があったら質問してみてもいいからね」

 わかりました、と僕は返した。とりあえず、先輩たちのしている話を集中して聞こう。舞台とか映画とかで登場人物たちが話しているのを観客席から見て、聞いているみたいな光景だとは思うけれど、やはり気になるものは気になる。

 ここから、加速的に部活の話し合いは盛り上がっていく事になる。

  3

「はい。皆さん盛り上がるのは良いですが、そろそろ時間ですよ」

 北山先生の一声により、話し合いは見事に途切れた。

「もう閉める時間なんですか?」
「はい。それじゃあ片付けをしましょうか。私も手伝いたい所ですが、仕事の事があるのでここで」

 わかりました、と金住先輩は言った。横から母野先輩がぼそりと耳打ちする。

「北山先生、結構忙しいみたいで基本的に顔出しする頻度は少ないの。今日は君が来てくれるから時間を無理に空けて来てくれたみたい」

 まさか、わざわざそこまでしてもらうとは……。
 これ、来てなかったら無駄骨で終わらせてしまう所だったかもしれない。

「それじゃあ、後は任せましたよ」

 そう言って北山先生は部室から出て行った。

「……あの、北山先生って部活動中はいつもあんな感じなんですか?」

 僕は気になっていた事を金住先輩に話す。あの先生は顧問であるのに、あまり話し合いには参加していなかったのだ。

「うん。北山先生には話が円滑に進まなかった時や喧嘩が始まりそうな時に仲裁してもらう形でいてもらっているからね。なるべく生徒主体でやりたいっていう私の要望に応えて貰っている形なんだ」
「そうなんですか……」

 実際、生徒主体で進めていた方が文芸冊子作る活動はあまり意味がないと思うからね、と付け加えられた。だから、北山先生はあのスタンスで部員を見守っているんだろうか。

「それじゃあ、理久とみゆきは一緒に片付けようか。カオルくんはもう帰っても大丈夫だからね」
「え……と、」

 僕も手伝いますと、答えようとすると母野先輩が「やすみの言葉に素直に甘えさせてもらってね」と止めに入る。

「でも……」
「大丈夫。これは部員でやる事だから。それにあなたはまだ部員ではないから掃除をやらせるのも悪いわ」

 そういうものなのだろうか。けれど、ここで手伝いますと言わなかったら逆に困らせてしまうだろうと、簡単な予想もできた。ここは金住先輩の言葉に甘えさせてもらおう。

「それじゃあ、すみません。先に失礼します」

 それでよし、と行村先輩は頷く。
 僕は自分の通学カバンを背負ってそのまま部室を出る。

「ありがとうございました」
「うん。それじゃあ答え、期待しているからね」

 金住先輩が最後にそう言ったのが聞こえた。部室のドアはバタンと軽い音を立てて閉まった。
 結局部活の門限時間まで居座ってしまった。

 あの人たちは積極的に部活をしていると、感じた。

 毎月配布する文芸冊子を作るための施策を考えたり、どんな内容を掲載するか考えたり。どこか必死で真剣だった。
 そして、それと同じくらい楽しそうだと思った。僕もあの部活に入ったらあんな感じで熱中できるのだろうか。
 ……いや、無理だと直感的に思う。

 僕はそんな人間ではないと、思う。
 これは自分が思っているだけだけれど、僕は物語という言葉がどこか苦手で仕方なかった。
 人は物語をあっさりと否定するし、肯定する。
 それが不気味に感じてしまう。

 物語が悪い訳ではない。けれど、人をそうさせるのは物語というものが強いから。部活動の中で物語と最も近い距離にあるのは多分、文芸部だ。
 そして、物語というものに苦手意識を持つ僕は、文芸部の活動に熱中できる気がしなかった。けれど、それでも心惹かれるものがあった。

 どうするか板挟みになっているんだ、とそこで気づく。

 それぐらいあの人たちの姿が輝いている様に見えたのだと。
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