この物語の意味を知るとき

益木 永

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〈第3章 秋、変わる色〉

第19話

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「すみません、演劇部の部室ってここで合ってますか?」

 僕は恐らくここであろうという部屋のドアを開けて、確認するように言った。

「お? 神代じゃねえか」
「あれ? もしかして、この人が部活の後輩さんなんだね」

 すぐにそんな声が聞こえてきた。片方は聞き馴染みのある低めの声で、もう片方は少し高めの初めて聞く声だった。

「あ、ここで合ってるんですね」
「おう。演劇部の部室はここだ」

 行村先輩はそう答えた。

 とりあえず、無事に演劇部の部室には行けたという事だ。どうやら、音楽室の隣にある部屋を使っているらしかった。

「それにしても、どうしてここなんですか?」
「音楽室も使うという理由でこちらの使われていなかった部屋を利用してもらっているらしいぞ」

 僕は、そんな話をしつつ部屋の中を眺めていた。

 部屋の中は大分、機材がそろっている印象だった。僕には大体どういう時に使うものなのかはわからなかったけれど、部活動の練習や本番で使うものだろうとなんとなく思った。

 また、打ち合わせ中だったのだろうか。それなりの人数で輪になった集まっている様子も伺えた。

「それで、神代はどうしてここに来たんだ?」
「行村先輩に用事があったんですよ。昨日の件で」

 ああ、なるほど……と腕を組んだ行村先輩はしばらくして輪になって集まっていた人の中から……多分、部長の人に席を外しますと伝えて、僕と共に外で聞くと言ってそのまま部室を出て行った。

 僕はそのまま後を追いかけた。

「なんでわざわざ外に」

 そんな事を聞いたら、行村先輩は「ちょっと聞かれるのが恥ずかしいんだ」と答えた。恥ずかしがる事もあるのか。

「一階の階段裏が目立たないからそこで聞く。というわけでもう少し歩いてくれ」
「は、はあ……」

 とりあえず、行村先輩の後に続いて階段を下りて行った。



「まあ、それで感想とかなんだが……」
「はい」

 一階の階段裏の小さい広間に着いた僕は行村先輩の話通り感想を伝える。概ね僕が伝えた事としては面白かったという事、それだけだった。

 けれど、その後行村先輩にある事を言われた。

「それだけじゃ、悪いがあまり参考にならないな。俺がいくつかのシーンを挙げるから、そのシーンで思った事伝えてくれ」
「え、あ、はい!」

 この様な感じで僕は各々のシーンでどういった印象を持ったか、一つずつ話す事になった。

 行村先輩はここはどう思ったかや、どの様に感じたか。それらを隅々まで丁寧にやった。僕はそれに対して答えながら思った事がある。

 すごい情熱的に取り組んでいると、思った。

 ただ脚本を手伝うだけでは、ここまでは行かないだろう。脚本を創るという事はそれだけ行村先輩がしたかった事なのだ、とてもやりたい事なのだ、と言うのが素人目で見てもひしひしと伝わるぐらい徹底的な話し合いだった。

 僕は、ただ行村先輩の質問に答えるだけだったけれど。

「なるほど……大体このような感じだったんだな?」
「……はい」

 そんな時間が突如止まったかの様に感じた。

 この確認はもう充分だと思ったから。自分から話せる事はもう話し切ったから、確認に移ったのだろうな、とちょっと遠い目で見てみる。

「なるほど、マジでここまで付き合ってくれてありがとな!」
「い、いえ。別にそこまでは」

 急な感謝に僕は少し戸惑いながらもそう答える。どちらかというと照れだったのかもしれないけれど。

「……やっぱ他人の声を聴くのも大事だなって思うな」
「え?」

 行村先輩がそう言うと、先輩はそのまま次の話に続ける。

「本当の所、不安だったんだよな。演劇部の皆は良い脚本だ! とは言ってくれたものの、本当にそうなのか俺は疑問があったんだよ」

 いつものイメージからは考えられない、少し弱きな気持ちを吐露した。

「だから、神代に聞いてみたんだけどな。……やっぱ外の声を聞くのも大事だって思ったよ」
「そんな……でも百パーセント正しいとは」

 そうだろうな、と行村先輩は答える。そして、でもと行村先輩は続けて言う。

「正しくないからって参考にならないとは言えないだろ。そりゃあ全否定とか全肯定みたいな本当にためになるとは言えないものだってあるだろうけど、ただそれだけで済ませてしまうのはお互い良くないと思うんだ」

 そうして、行村先輩は「時間掛けさせて悪かった。お前も部室に戻っておいてくれ」と言う。

 けれど、僕は彼が言った言葉にとても意外な気持ちがあった。よくわからない。けれど、行村先輩の言う事には確かにあった。

 『物語の意味』についてのヒントが間違いなくそこにあったのだ。

「あの」

 だから僕は無意識に、夢中になって行村先輩にこう伝えたのだ。

「僕も脚本、手伝っていいですか?」

 行村先輩は不意を突かれたと言わんばかりに目を見開かせる。これだけでは伝わらないと思い、僕は続けて話す。

「僕も、行村先輩が言った通りだって思ったんです! それに僕も脚本が行村先輩にとって納得行くものになってほしいので! だから手伝いたいです!」

 勢い任せだったけれど、僕は、どうしてもしたかったのだ。

 行村先輩があんなにも情熱を持ってやっているのなら、僕はそれを手伝いたい。

「……そうか」

 行村先輩はそう呟くと、ニッと笑顔を浮かべて言った。

「それなら、今後も手伝ってくれるか?」
「はい!」

 こうして、僕は文芸部の準備と兼任しながら演劇部の脚本の手伝いをする事を決めたのだった。
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