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〈第3章 秋、変わる色〉
第20話
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「それで演劇部の脚本手伝いを自分から言い出したのかい?」
金住先輩は不思議そうな顔をしながら、僕にそう聞いてきた。
「そんな感じですね……」
行村先輩から先に部室へ戻ってもいい、と言われた僕は文芸部の部室に戻ってきたのだが、金住先輩が何かを察したのか僕に対して「何かあったんだね?」と単刀直入に聞いてきたのだ。
僕は隠しても仕方ないのでそのまま正直に先ほどまでの出来事を話したのだが、その時に金住先輩はあの不思議そうな顔をしたのだ。
「いやあ、まさか自分で仕事を増やしてくるとはね……先にやられてしまったよ」
「……つまり?」
すると、肩に何かが触れられる。振り向くと、そこには母野先輩がいた。
この時点で何があるか予想できた。
「やすみがあなたに文芸部の文化祭の出し物の協力をするように頼もうとしていたところなのよね」
「え……」
「先に言っておけば良かったね。私もみゆきもリクも余裕あるとは言えないから君に頼もうと思っていたのだけど」
つまり、そういう事だったのだ。
「す、すみません。ただでさえ大変なのに」
「いや、それはいいんだ。ただ君が自発的にそういった行動をしてくるとは思わなくてね」
「つまり、あなたに部活としての作業仕事を出そうとした矢先に薫くんが仕事を自分で持ってきたって事なのよ。あなたがした事は間違いではないけどね」
それを聞くと、金住先輩は僕が自発的に行動すると予想していなかったという事になる。
正直、あまり自分から行動できているとは言えなかったのでそうなっても仕方ないのだが……。けれど、金住先輩や母野先輩からは少し心配事になっているかもしれない。
「……一応、聞くけれど頼めるかい? 二つの作業を行き来するのは少しばかり大変だとは思うけれど」
「……えっと」
それは、僕を心配しての事だった。これは僕にしか頼めない事なのだと金住先輩は言っていた。それなら、僕の答えは一つだった。
「大丈夫、です。文芸部での作業も頑張ってみます」
「カオルくん、大丈夫? 無理はしてないかしら?」
母野先輩が心配そうに聞いてきた。
「大丈夫です。全部やる訳ではないみたいですし」
それに、僕はこれを聞いて喜びが一つあった。
金住先輩が僕に頼っても良いと判断してくれたという事だ。それだけで僕は嬉しい気持ちになっているのだ、と自己分析をする。意外と僕は単純だな、って思いつつ、それでも嬉しい気持ちを抑える事なんてできなかった。
「僕も金住先輩の作業を手伝うので、どうぞよろしくお願いします」
そう僕は答えたのだった。
金住先輩と、母野先輩はお互いの顔を見合うとうん、と首を頷かせて金住先輩は改めて僕の方を見た。
「それでは、どうぞよろしくお願いします」
これから大変な作業が始まる。けれど、そこには後ろ向きな気持ちは無かった。
むしろ、心はとても晴れやかだった。
14
それから、僕は行村先輩の脚本の練り合わせの手伝いをしながら、一方で金住先輩たちが行う作業を手伝う事になった。
「それじゃあ、このシーンはもうちょっとわかりやすく変えた方がいいか?」
「多分、このシーンはそうした方が話がスムーズに進むかと、思います」
行村先輩とはこのような打ち合わせをしたりした。
「それじゃあ配置の事なんだけど、先生に聞いてきてほしい」
「了解です!」
金住先輩には結構使い走りされて色々な所を移動したりしたけれど、不思議と苦痛には思えなかった。むしろ心の中には充実感一色で、とても楽しいという気持ちがあったのだ。
こうして、僕は二つの仕事を交互に行いながらしていた。
忙しい日々が幕を開けたのだ。
「なあなあ、カオル最近忙しいけどどうしたんだ?」
ある日、教室でいずみ達に声を掛けられた。
「そうだぞ。お前流石に大変じゃないのか?」
友人がこうやって心配の声を掛けてきてくれる。そういえば、最近は忙しくて話があっても短い時間で終わってしまったりしていた。そういえば最近、金住先輩から曰く、
『友人付き合いは決して蔑ろにしてはいけない。けれど、そればかりも良くない』
といつの日か言っていたのを思い出す。僕は少しなら大丈夫か、と思いつつ。
「大変だけど、とても楽しいかな?」
と答えた。すると、いずみはワーッと目を輝かせて言った。
「そうなんだー! なんか、最近カオルが楽しそうでいいなって思ってるんだよね?」
「そうか、それなら心配する必要は無かったな」
「でもやり過ぎはよくないぞー。無理のない範囲で頑張れ~」
そう言ってくれたのだ。なんというか、とても良い友人だ。こちらが誇りたくなる程良く出来た人たちだ、と僕は思う。
「うん、まあでも皆と話すのも決して悪い訳じゃないから今日はどこか行かない?」
「あー! いいね~!」
いずみはわくわくと腕を小さく降りながら答える。
「じゃあ、あそこ行かね? ファストフードの店なんだけど」
「うん、それならいいかも」
「んじゃ決まり~。放課後に校門前で待ってるからな~」
こうして僕たちは放課後に皆でどこか行く事が決まった。忘れないように金住先輩たちへ早めに帰ると伝えておかないと。
金住先輩は不思議そうな顔をしながら、僕にそう聞いてきた。
「そんな感じですね……」
行村先輩から先に部室へ戻ってもいい、と言われた僕は文芸部の部室に戻ってきたのだが、金住先輩が何かを察したのか僕に対して「何かあったんだね?」と単刀直入に聞いてきたのだ。
僕は隠しても仕方ないのでそのまま正直に先ほどまでの出来事を話したのだが、その時に金住先輩はあの不思議そうな顔をしたのだ。
「いやあ、まさか自分で仕事を増やしてくるとはね……先にやられてしまったよ」
「……つまり?」
すると、肩に何かが触れられる。振り向くと、そこには母野先輩がいた。
この時点で何があるか予想できた。
「やすみがあなたに文芸部の文化祭の出し物の協力をするように頼もうとしていたところなのよね」
「え……」
「先に言っておけば良かったね。私もみゆきもリクも余裕あるとは言えないから君に頼もうと思っていたのだけど」
つまり、そういう事だったのだ。
「す、すみません。ただでさえ大変なのに」
「いや、それはいいんだ。ただ君が自発的にそういった行動をしてくるとは思わなくてね」
「つまり、あなたに部活としての作業仕事を出そうとした矢先に薫くんが仕事を自分で持ってきたって事なのよ。あなたがした事は間違いではないけどね」
それを聞くと、金住先輩は僕が自発的に行動すると予想していなかったという事になる。
正直、あまり自分から行動できているとは言えなかったのでそうなっても仕方ないのだが……。けれど、金住先輩や母野先輩からは少し心配事になっているかもしれない。
「……一応、聞くけれど頼めるかい? 二つの作業を行き来するのは少しばかり大変だとは思うけれど」
「……えっと」
それは、僕を心配しての事だった。これは僕にしか頼めない事なのだと金住先輩は言っていた。それなら、僕の答えは一つだった。
「大丈夫、です。文芸部での作業も頑張ってみます」
「カオルくん、大丈夫? 無理はしてないかしら?」
母野先輩が心配そうに聞いてきた。
「大丈夫です。全部やる訳ではないみたいですし」
それに、僕はこれを聞いて喜びが一つあった。
金住先輩が僕に頼っても良いと判断してくれたという事だ。それだけで僕は嬉しい気持ちになっているのだ、と自己分析をする。意外と僕は単純だな、って思いつつ、それでも嬉しい気持ちを抑える事なんてできなかった。
「僕も金住先輩の作業を手伝うので、どうぞよろしくお願いします」
そう僕は答えたのだった。
金住先輩と、母野先輩はお互いの顔を見合うとうん、と首を頷かせて金住先輩は改めて僕の方を見た。
「それでは、どうぞよろしくお願いします」
これから大変な作業が始まる。けれど、そこには後ろ向きな気持ちは無かった。
むしろ、心はとても晴れやかだった。
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それから、僕は行村先輩の脚本の練り合わせの手伝いをしながら、一方で金住先輩たちが行う作業を手伝う事になった。
「それじゃあ、このシーンはもうちょっとわかりやすく変えた方がいいか?」
「多分、このシーンはそうした方が話がスムーズに進むかと、思います」
行村先輩とはこのような打ち合わせをしたりした。
「それじゃあ配置の事なんだけど、先生に聞いてきてほしい」
「了解です!」
金住先輩には結構使い走りされて色々な所を移動したりしたけれど、不思議と苦痛には思えなかった。むしろ心の中には充実感一色で、とても楽しいという気持ちがあったのだ。
こうして、僕は二つの仕事を交互に行いながらしていた。
忙しい日々が幕を開けたのだ。
「なあなあ、カオル最近忙しいけどどうしたんだ?」
ある日、教室でいずみ達に声を掛けられた。
「そうだぞ。お前流石に大変じゃないのか?」
友人がこうやって心配の声を掛けてきてくれる。そういえば、最近は忙しくて話があっても短い時間で終わってしまったりしていた。そういえば最近、金住先輩から曰く、
『友人付き合いは決して蔑ろにしてはいけない。けれど、そればかりも良くない』
といつの日か言っていたのを思い出す。僕は少しなら大丈夫か、と思いつつ。
「大変だけど、とても楽しいかな?」
と答えた。すると、いずみはワーッと目を輝かせて言った。
「そうなんだー! なんか、最近カオルが楽しそうでいいなって思ってるんだよね?」
「そうか、それなら心配する必要は無かったな」
「でもやり過ぎはよくないぞー。無理のない範囲で頑張れ~」
そう言ってくれたのだ。なんというか、とても良い友人だ。こちらが誇りたくなる程良く出来た人たちだ、と僕は思う。
「うん、まあでも皆と話すのも決して悪い訳じゃないから今日はどこか行かない?」
「あー! いいね~!」
いずみはわくわくと腕を小さく降りながら答える。
「じゃあ、あそこ行かね? ファストフードの店なんだけど」
「うん、それならいいかも」
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