牢獄/復讐

月歌(ツキウタ)

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第3話 五つの監房

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◆◆◆◆◆

色々と聞きたいことがある。聞きたいことだらけで泣きそうだ。俺は悩んだ挙げ句、一番尋ねたいことを口にした。

「ここはどこだ?」
「和歌山県の白浜だよ」
「‥‥‥‥‥。」

予想外の返事がピエロ看守から返ってきた。どうやらこの監獄は和歌山県の白浜にあるらしい。でも、聞きたいことはそこじゃない‥‥。

「‥‥白浜温泉か?」

無難な質問に逃げてしまった。

「車でなら白浜温泉に行けるよ。そうだ、今度一緒に温泉に行こう!露天風呂とか気持ちいいよね。」

ピエロの看守と露天風呂。想像するのはやめよう。それよりも‥‥。

「露天風呂の事は気になる。でも、今はこの監獄のことを説明して欲しい。それと、大阪の居酒屋で一人で酒を飲んでいた俺がこの監獄にいる理由を教えてくれ。」

踏み込んだ質問をした。踏み込みすぎただろうか?いや、ここは強気で行く。

「ああ、この監獄‥‥面白いでしょ?バブルの時期の建物だから古びてるけど、そこがいいかなと思ってるんだ。秋山君は気に入ってくれた?」

ピエロ看守が車椅子を押すのをやめて、俺の前に回り込む。そして目を輝かせて説明を続ける。

「バブル期の成金趣味人が、別荘を建ててその地下に監獄を作ったらしいよ。かなりお金を注ぎ込んだらしくて、造りはしっかりしていて人を閉じ込めるにはぴったり!」

「バブル期の遺物か‥‥。」

俺が感想を漏らすとピエロは嬉しそうに笑う。そして、監獄を指さしながら部屋の構造を話し出す。

「ここをまっすぐ進むと、上に繋がるエレベーターがあるんだ。で、入口から見ると、廊下を中心にして右側に五つの監房があって、今は四つの監房に囚人を収監してるところ。」

「囚人は四人か‥‥。」

とんでもない凶悪犯だった!しかも、監房が一室空いてる。それって、俺用の監房なんじゃないのか?

最悪だ。死んだ。

「そう、色々と手違いはあったけど、今の囚人数は四人。手違いについては‥‥またの機会に話すね。」

「‥‥‥ああ」

俺は必死に声を出した。喉がカラカラで声が掠れる。

「で、廊下を挟んで左側には囚人用のシャワールームがあって。その横の部屋は元は医務室だったけど、今は囚人の世話役を住まわせてんるだ。世話役は監視役も兼ねてるのに、またサボってるよ‥‥あいつ」

ピエロ看守は俺の背後にまわると、車椅子を押し始めた。医務室の前で車椅子を止めると、金田は扉を蹴飛ばした。大きな音に俺はビクリと震える。

「おい、開けろ!」
「‥‥‥‥はい」

しばらくのやり取りの後に医務室の扉が開くと、ぬっと巨漢の男が姿を表した。俺は車椅子の肘おきをぎゅっと握りしめる。

「一号監房の男の治療を頼む。あと、失禁したから着替えもさせてくれ。」

「わ、分かった‥‥治療する。失禁は駄目だから折檻する。いいか?」

「殴りすぎるなよ?」
「だ、大丈夫、手加減した」
「手加減『する』だろ?」
「手加減する」

「じゃあ、このノコギリも洗っといて。自分のやる事分かったか?」

巨漢男は頷いて金田からノコギリを受け取る。ねっとりと血のついたノコギリから俺は目を逸らした。

「僕達は上に居るから、監獄で何かあったらすぐに緊急ボタンを押せよ。わかったな、佐々木?」

「分かった。」

金田は頷くと世話役の股間をいきなり掴んで、ぎゅっと捻った。

「ひいっ!」

俺は思わず声を上げてしまう。俺の声に反応を示したのはピエロ看守で、ニッコリ笑って口を開く。

「佐々木はサドだけど、マゾっけもあって‥‥股間を捻じると喜ぶんだよね。だから、これはご褒美なんだ」

確かに、巨漢男の佐々木は恍惚とした表情を浮かべて呻いている。

怖い。

「ご、ごめん!秋山君は昔から真面目だからこんな悪ふざけは嫌いだったね。嫌な思いをさせてごめんね」

金田は男の一物から手を離すと、慌てて俺に言い訳をする。俺は掠れた声で金田に懇願していた。

「吐きそうで‥‥ここを出たい。水を飲みたい。金田、頼む‥。」

「分かった!すぐに上に行くね」

ピエロ看守が再び車椅子を押し出した。



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