牢獄/復讐

月歌(ツキウタ)

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第16話 憎悪

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「‥‥‥光一」

俺は思わずピエロ看守の名前を呼んでいた。その声に反応するように、金田のまつ毛が僅かに震える。

でも、目を覚まさない。

「光一、俺は‥‥」

八木を前にして過去の嫌な記憶が一気に蘇る。俺は友達のふりをして『金田光一』を八木達に売った。

殴られる恐怖。タバコを押し付けられる痛み。フェラチオを強要される忌まわしい日々。

その日々から抜け出すために、身代わりが必要だった。金田に近づいて八木達に売った後も、金田とは友達のふりを続けた。

標的が逃げないように、金田を絡みとる。時には虐められている金田を庇って、共に八木達に殴られ嬲られた。

恐怖の時間を重ねて絆は深まり、俺は時々金田のことを『光一』と呼んでいた。金田は俺のことを『秋山君』としか呼ばない。

でも、俺が『光一』と呼ぶと金田は嬉しそうに笑った。

歪んだ関係は高校卒業と共に全て断ち切った筈だった。でも、過去は戻ってきて俺を捉える。

「光一、俺は逃げたい!こんな過去はいらない!八木になんて会いたくなかった!巻き込んだのはお前だろ?気絶してないで俺を助けろ、光一!」

俺は取り乱してただ泣き叫んでいた。そして、八木に殴られて黙り込む。

「お前ってすぐ泣くよな?マジでウザい。まあでも‥‥『ピエロ』は殴っても反応薄かったし、お前を殴ってるほうが面白かった。」

俺が黙ったまま俯いていると八木に顎を掴まれた。そのまま顔を上げさせられる。八木は嗤っていた。

「そういや、お前のあだ名は『公衆便所』だったな?フェラチオがやたら上手すぎる公衆便所‥‥ちょっとムラってきたわ。今ここで俺のちんぽをしゃぶれよ、秋山」

憎悪が溢れ出す。

「うっ、がっぁ!」

その憎悪はナイフとなり八木の脇腹に深々と刺さっていた。

刺したのはピエロの看守。

「秋山君を虐めるな‥‥」

八木の脇腹を抉るサバイバルナイフを更に深くに刺し込むと、金田はゆっくりと手を離す。

八木はうめき声を漏らしながら床に倒れこんだ。

「秋山君、大丈夫!?」

ピエロの看守は俺に駆け寄ると首に巻き付いた鎖を解いていく。俺は恐怖に襲われて金田に抱きついた。

八木も怖いが金田も怖い。

「‥‥光一」

混乱したまま命乞いをするように、目の前の男に抱きついていた。


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