戦場のセンチネル

月歌(ツキウタ)

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戦場のセンチネル

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◆◆◆◆◆

「勝利だ!我々は勝利した!!」
「落城した!勝った!」
「勝利に!勝利に!」

勝鬨が聞こえる。

そうか、戦争に勝利したのか。もうすぐ元の平和が訪れる。後もう少しで家に帰れる。

「勝った‥かえ、れる」
「もう、戦いたく‥‥ない」

『何が勝利だ!俺は両足と左手を喪った。痛い!痛い!助けてくれ!』
『苦しい。死にたい。殺してくれ』
『腕が痒い。蛆が湧いて、蛆だ!』

勝鬨を切っ掛けに、救護テントの中も勝利の声が上がる。同時に、痛みや恐怖や怨嗟の思念に埋め尽くされてる。

「っ、うあっ‥」

俺は強烈な思念に襲われてその場に蹲る。目の前の兵士が包帯を巻かれた腕を掻きむしっている。腐った腕からは蛆が湧き出し溢れる。

俺がその様子を呆然と見つめていると、不意に男の背が悲壮な兵士の姿を隠す。

「ユリウス、ここは一般兵の救護テントだ。お前の力は士官や将校を癒やすためにある。ここをすぐに離れなさい、ユリウス」

俺は兄の背中にしがみついて懇願していた。

「士官や将校の皆様に怪我はございません。ルードルフ兄上、私に一般兵の治療させて下さい。」

「駄目だ、ユリウス」

「でも、苦しんでいる兵士が沢山います。彼らは祖国の為に戦い傷つきました。私はタワーで国の為に働くように教わり育ちました。彼らを癒やすことは、国の為になります」

背中にしがみつく俺に苛立った兄が振り返った時、それが起こった。俺の背後にいた負傷兵が突然抱きついてきた。

「うわっ」
「ユリウス!」

俺を抱き寄せた兵士は大きな声で『センチネル』と叫び押し倒す。

「何を!?」

「タワーに住んでいたなら、あんたは『センチネル』だな?その蛆男は腕を惜しんで、医者の提案を蹴って寿命を縮めた。そんなやつを助ける必要はない。」

「‥‥でも」

「俺はそこの医者に両膝から下を切られた。だから助かる。助かるはずだ。生きて帰りたい。なあ、俺が確実に故郷に帰れるように、俺を癒やしてくれ。俺を救ってくれ!」

「貴方は私の助けは必要ないです」

この男は俺の助けがなくとも助かる。そう思ったからそのまま伝えた。でも、それは男の怒りをかった。男は腰から小さなナイフを取り出して、俺の胸を刺した。

「ユリウス!」

兄が血相を変えて男を殴り飛ばした。歯を折られた兵士が床に倒れ込んだ。その時、小さな呟きが聞こえた。

『俺の赤ん坊が生まれたんだ。』
「え?」
『生きて帰りたい。女房と赤ん坊が待ってる。俺の帰りを待ってる』

気絶した男からもう声は聞こえない。痛覚を咄嗟に切ったから痛みはない。ナイフを抜き去ると胸から大量の血液が溢れ出す。

「ユリウス、すぐに止血する」

「大丈夫です、兄上。傷を治すためにナイフを抜いたのです。ほら、もう傷口が塞がってきている。」

兄に抱き寄せられて傷口を剥き出しにされた。胸の傷は既に塞がりつつあり、兄が感嘆の声を上げる。

「‥‥‥これがセンチネルの治癒力」

「兄上、私がゾーンアウトしたら、ガイディングをお願いします。流れた私の血液を介して戦場で傷ついた兵士を癒やします。」

「待ちなさい、ユリウス!」
「ごめんなさい、兄上」

兄の胸に顔をうずめると、流れた自身の血脈に語りかける。

『地に根を生やし人々を癒やせ』

床に飛び散った血液が一気に地面に染み込む。やがて、地の中を走る血脈が患者を探り当てる。

『癒やせ、癒やせ、癒やせ!!』

「ああっあ、傷が癒えていく!」
「足が、足が生えてきた。嘘だろ」
「息ができる。息ができる!!」
「痛みがない」

足が生えるのは‥‥やり過ぎだよ。
でも、いい。
もっと助けて。沢山の人を。
もっともっと。

『血脈よ走れ。』

地中を這う血脈が救護テント外に走り出す。戦場に向かったその先で、血液が迷い出す。戦場には敵と味方が入り乱れて倒れている。

「あっ、待って‥‥」
「ユリウス?」

敵兵まで救い出す血脈の流れを押し止めると、流れが滞り血液が癒やしの力を失う。

「兄上‥‥」
「ユリウス」

「危うく‥‥敵兵を救うところでした。戦場が混乱するので、そこで倒れた者は‥‥私の手では救えません。」

俺の言葉に耳を傾けていた兄は、髪を撫でた後に抱き上げた。額にキスされて目を細めると、ルードルフ兄上が辛そうに口を開く。

「当たり前だ‥‥お前は神じゃない。神であってはならないんだ。また、タワーにお前を奪われるのは‥御免だ。俺の弟をやめないでくれ、ユリウス」

俺はちょっと笑って兄に甘える。

「兄上、褒めては下さらないのですか?沢山の人を救いました。だから、優しくして下さい。優しく‥‥」

急に息が苦しくなる。
俺は兄に抱きついてこれからくる出来事を伝える。

「ゾーンアウトします、兄上」
「ユリウス」

「私のガイドは兄上がいい。離さないで。もし駄目でも‥‥他のガイドを呼ばないで。触られたくない。他人に触られたくない。怖い」

「ユリウス、俺では深いガイディングができない。兄弟でそれは‥‥」

「兄上‥‥どうか、こえてください。私のために‥‥」

わざとゾーンアウトした。
ルードルフ兄上と繋がりたくて。

俺は兄上の唇を奪っていた。溢れる吐息に熱を感じながら意識が遠のく。どうか、この想いが兄上に届きますように‥‥。





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