【完結】兄弟愛ー吉良上野介の孫二人ー異聞ー

月歌(ツキウタ)

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本編

第五十二話 江戸かわら版③

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◆◆◆◆◆


――人知れず火種は動く――

皆々様、ご存じでございましょうか。

あの吉良上野介殿が、この秋――
長らく住まわれた呉服橋御門内の屋敷を離れ、
川向こうの本所へと屋敷を移されました。

かつての屋敷は、大名が軒を連ねる格式高き武家屋敷街。
いっぽう新たな屋敷は、町屋も交じる、ひっそりとした場所にございます。

まこと、静かで人目の少ない土地柄――
「まるで浪士どもに討ち入らせよと、幕府が仕向けたようなものだ」
などと、江戸の町では囁かれておりまする。

確かに……あの場所ならば、夜の帳に紛れて押し入ることも難しくはありますまい。

されど、町に広まる噂はそれだけではございませぬ。

「本所の吉良邸を、夜ごと不審者がうかがっている」
「浪士が姿を消したのは、仇討ちの機を待っている証ではないか」
「町年寄の誰それが浪士の姿を見たとか、見ぬとか……」

忘れられていたかに見えた赤穂の名が、またしても町に甦り、
まことしやかに囁かれるは「討ち入り、間近」との声。

火の気も恋しい秋の夜――
もしや刀の火花が走るやも。

――今宵は、戸締まりをしっかりと。
屋根の上、塀の向こう、人の気配にはご用心を。

御上の沈黙の裏で、歴史は動き出しておるのかもしれませぬぞ。

まこと、今年は静かに終わりませぬ……!

――筆五郎

◆◆◆◆◆
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