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本編
第五十七話 江戸かわら版④
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◆◆◆◆◆
松の廊下の刃傷沙汰より、早や一年。
年も改まり、吉良家はつつがなく静かな正月を迎えているという。
仇討ち、仇討ちと騒がれて久しいが、肝心の大石内蔵助殿とやら、京は伏見にて昼から酒盛り、女を侍らせては鼓を打たせる始末。
今や「討つ気など毛頭なし」との声もちらほら。町人たちも徐々に熱が冷めてきたようで、
「もはや芝居の筋書きの方が、よほど血湧き肉躍る」
とは、神田の髪結いの談。
かく申す筆者も、吉良屋敷の塀を見張ってはみたものの、番所の者らと目が合うばかりで、何の絵にもならず。
いやはや、かわら版泣かせとはこのことよ。
さて、それでは話題を変えて、粋な江戸の正月事情を少々——
本所の団子屋では、鏡餅を模した串団子が大評判。また、深川の川沿いには、元旦から凧あげをする子らの姿があふれ、空はまるで絵巻物のよう。
「仇討ちよりも、まずは祝い酒」と、皆それぞれに浮かれ顔。
火鉢を囲んで語るは恋の噂と新年の商いばかり。
いつのまにやら、あの仇討ち騒動も、湯屋の話題にすら上らぬ日が増えてきたとか。
とはいえ——
静けさこそ、嵐の前触れか。
江戸の町は、まだまだ油断ならぬ。
筆者、今後も目と耳を光らせてまいりますぞ。
――かわら版記者 「筆五郎」
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松の廊下の刃傷沙汰より、早や一年。
年も改まり、吉良家はつつがなく静かな正月を迎えているという。
仇討ち、仇討ちと騒がれて久しいが、肝心の大石内蔵助殿とやら、京は伏見にて昼から酒盛り、女を侍らせては鼓を打たせる始末。
今や「討つ気など毛頭なし」との声もちらほら。町人たちも徐々に熱が冷めてきたようで、
「もはや芝居の筋書きの方が、よほど血湧き肉躍る」
とは、神田の髪結いの談。
かく申す筆者も、吉良屋敷の塀を見張ってはみたものの、番所の者らと目が合うばかりで、何の絵にもならず。
いやはや、かわら版泣かせとはこのことよ。
さて、それでは話題を変えて、粋な江戸の正月事情を少々——
本所の団子屋では、鏡餅を模した串団子が大評判。また、深川の川沿いには、元旦から凧あげをする子らの姿があふれ、空はまるで絵巻物のよう。
「仇討ちよりも、まずは祝い酒」と、皆それぞれに浮かれ顔。
火鉢を囲んで語るは恋の噂と新年の商いばかり。
いつのまにやら、あの仇討ち騒動も、湯屋の話題にすら上らぬ日が増えてきたとか。
とはいえ——
静けさこそ、嵐の前触れか。
江戸の町は、まだまだ油断ならぬ。
筆者、今後も目と耳を光らせてまいりますぞ。
――かわら版記者 「筆五郎」
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