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ラジェス帝国編
33話 私の側に……
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「レグラス様?」
首を傾げてレグラス様をじぃっと見つめると、彼は自分の左手で口元を覆い隠し、するりと僕から視線を逸らした。
でも右手は変わらずに僕の手を握ったままだ。
その手の温かさは僕に凄く安心感を与えてくる。僕はその手に勇気を貰い、そのままレグラス様から目を逸らさずにいた。
するとレグラス様は「降参」とばかりに、口元から手を離し視線を逸らしたまま僕に掌を向けてきた。
「……そんなに見つめられると、こう……罪悪感が湧くんだが……」
「ーー罪悪感ですか?」
意外な言葉に、僕がオウム返しに繰り返すと、レグラス様は「ふぅ……」と息をついて目を合わせないまま話し始めた。
「その……なんだ……。私もまだ成人前だったし、君もまだ幼かったというのもあるのだろうが……。君から魔力を貰っても、媚薬としての効果はなかった。それは本当だ」
「そうなんですね」
初めてレグラス様とお会いしたのは、僕が五歳の時だ。身体の発達的にも未成熟だし、まぁ媚薬として作用しなかったのなら何より。
でもレグラス様は、何故こうも動揺したままなんだろう?
そう思っていると、彼は如何にも渋々といった体で僕に視線を戻した。
「まったく……。君は口ではあまり意見を言わないくせに、何故そうも目でものを言うんだ……」
ちょっと言い掛かりじみた言葉だったけど、そう言うレグラス様は少しだけ不貞腐れているように見えて、僕はクスクスと笑ってしまった。
「注視は猫の習性だから問題ないって、レグラス様が言って下さったんじゃないですか」
「…………確かに言ったな」
片眉を跳ね上げたレグラス様は、やがて諦めたように僕の頭にぽんと手を乗せた。
「媚薬効果はなかった。ただ、ある種の執着心のような感覚が湧いたのは否めない」
「執着心?」
「ある意味、媚薬と効果は似てるのかもな。是が非でも君を手に入れたいと思ったんだ。これは、私のモノだ……とね。流石に君は幼かったから、怖がらせたくなくて態度には出さないように自重したんだが……」
「ーーが?」
「主治医として留学先に付いてきたダレンに言わせると、当時の私は随分君を猫可愛がりしていたようだ」
その信じ難いレグラス様の言葉に、僕は何回も瞬いてしまった。
「………………レグラス様が?」
だって、あんまり表情が変わらないレグラス様が、だよ?
猫可愛がりって……。
一体どんな顔をして可愛がってたの?
え、まさか無表情で?
「本当に君は……。これから君が何を考えているか判断に悩む時には、君の目を見る事にしよう」
ゆるりとレグラス様の唇が弧を描く。
そして頭に乗せていた手を下ろして僕の肩を抱くと、そっと自分の胸元に引き寄せた。
予想しなかったレグラス様の行動に、少しだけ僕は身体を強張らせる。
猫の性質なのか、今までに人との関わりが希薄だったせいなのか、こんな触れ合いには慣れなくて僕は酷く緊張してしまうんだ。
そんな僕に気付いたのか、レグラス様は両腕でふんわり閉じ込めるような抱擁に変えた。
「あの時も思っていたが、私は君が可愛くて仕方ない。だからこそ君を手に入れたいと思ったんだ。ネヴィ家が君を冷遇している事には早々に気が付いていたから、余計に君を守りたいと思った」
「レグラス様……」
「早く君をあの家から連れ出したかったのだが、随分時間が掛かってしまった。それをすまなく思う」
「僕……」
言葉を紡ごうとしたけど、思ったように考えが纏まらなくて口籠ってしまった。
今まで僕は、僕を取り巻いていた人たちの悪意から身を守るために、常に疑い、身構え、そして諦める人生だった。
こんな僕にとって、誰かを心から信頼する事は何よりも難しい事だ。
レグラス様も、他に何らかの思惑があるのかもしれない。だから、優しげな態度や言葉で僕を懐柔しようとしているのかもしれない。
でも僕が帝国に来るようにあれこれ手を回してくれたのは確かだろうし、帝国にきた後も何かと気遣ってくれている。
そして、今。
僕をあの家から連れ出すのに時間がかかったと謝ってくれたんだ。
レグラス様はなんにも悪くないし、謝罪の必要もないのに。
強張っていた僕の身体から、すっと力が抜ける。
トクトクと、穏やかに打つレグラス様の心臓の音に耳を傾けた。
誰かを信頼するのは怖い。
勿論、裏切られるのも嫌だけど、それによって心が痛んだり淋しい気持ちになりたくないんだ。そんな気持ちは、また魔力を暴走させる引き金になりそうで、本当怖い。
でも、誰かを信頼するとしたら。その相手はレグラス様だって、そう僕は思ったんだ。
レグラス様の言葉を信じてみたい。
「僕はレグラス様のお役に立てますか?」
「……君は、私の側にいるだけでいい。役に立つ立たないは関係ないんだ。ーーだが、そうだな。君が敢えてそう言うという事は、それが君の気がかりなんだな?」
優しい口調で問われ僕かコクリと頷くと、レグラス様は僕を抱く腕に力を籠めた。
「私には君が必要だ。留学後十年経っても君を諦められなかったし、だからこそ手を回して君を手に入れた。そして私はそこまで苦労して手に入れた君を手放すつもりはない」
すっとレグラス様の顔が近付く。
僕の耳元に唇を寄せると、レグラスはそっと囁くように告げた。
「ここに……。私の側にいて欲しい」
首を傾げてレグラス様をじぃっと見つめると、彼は自分の左手で口元を覆い隠し、するりと僕から視線を逸らした。
でも右手は変わらずに僕の手を握ったままだ。
その手の温かさは僕に凄く安心感を与えてくる。僕はその手に勇気を貰い、そのままレグラス様から目を逸らさずにいた。
するとレグラス様は「降参」とばかりに、口元から手を離し視線を逸らしたまま僕に掌を向けてきた。
「……そんなに見つめられると、こう……罪悪感が湧くんだが……」
「ーー罪悪感ですか?」
意外な言葉に、僕がオウム返しに繰り返すと、レグラス様は「ふぅ……」と息をついて目を合わせないまま話し始めた。
「その……なんだ……。私もまだ成人前だったし、君もまだ幼かったというのもあるのだろうが……。君から魔力を貰っても、媚薬としての効果はなかった。それは本当だ」
「そうなんですね」
初めてレグラス様とお会いしたのは、僕が五歳の時だ。身体の発達的にも未成熟だし、まぁ媚薬として作用しなかったのなら何より。
でもレグラス様は、何故こうも動揺したままなんだろう?
そう思っていると、彼は如何にも渋々といった体で僕に視線を戻した。
「まったく……。君は口ではあまり意見を言わないくせに、何故そうも目でものを言うんだ……」
ちょっと言い掛かりじみた言葉だったけど、そう言うレグラス様は少しだけ不貞腐れているように見えて、僕はクスクスと笑ってしまった。
「注視は猫の習性だから問題ないって、レグラス様が言って下さったんじゃないですか」
「…………確かに言ったな」
片眉を跳ね上げたレグラス様は、やがて諦めたように僕の頭にぽんと手を乗せた。
「媚薬効果はなかった。ただ、ある種の執着心のような感覚が湧いたのは否めない」
「執着心?」
「ある意味、媚薬と効果は似てるのかもな。是が非でも君を手に入れたいと思ったんだ。これは、私のモノだ……とね。流石に君は幼かったから、怖がらせたくなくて態度には出さないように自重したんだが……」
「ーーが?」
「主治医として留学先に付いてきたダレンに言わせると、当時の私は随分君を猫可愛がりしていたようだ」
その信じ難いレグラス様の言葉に、僕は何回も瞬いてしまった。
「………………レグラス様が?」
だって、あんまり表情が変わらないレグラス様が、だよ?
猫可愛がりって……。
一体どんな顔をして可愛がってたの?
え、まさか無表情で?
「本当に君は……。これから君が何を考えているか判断に悩む時には、君の目を見る事にしよう」
ゆるりとレグラス様の唇が弧を描く。
そして頭に乗せていた手を下ろして僕の肩を抱くと、そっと自分の胸元に引き寄せた。
予想しなかったレグラス様の行動に、少しだけ僕は身体を強張らせる。
猫の性質なのか、今までに人との関わりが希薄だったせいなのか、こんな触れ合いには慣れなくて僕は酷く緊張してしまうんだ。
そんな僕に気付いたのか、レグラス様は両腕でふんわり閉じ込めるような抱擁に変えた。
「あの時も思っていたが、私は君が可愛くて仕方ない。だからこそ君を手に入れたいと思ったんだ。ネヴィ家が君を冷遇している事には早々に気が付いていたから、余計に君を守りたいと思った」
「レグラス様……」
「早く君をあの家から連れ出したかったのだが、随分時間が掛かってしまった。それをすまなく思う」
「僕……」
言葉を紡ごうとしたけど、思ったように考えが纏まらなくて口籠ってしまった。
今まで僕は、僕を取り巻いていた人たちの悪意から身を守るために、常に疑い、身構え、そして諦める人生だった。
こんな僕にとって、誰かを心から信頼する事は何よりも難しい事だ。
レグラス様も、他に何らかの思惑があるのかもしれない。だから、優しげな態度や言葉で僕を懐柔しようとしているのかもしれない。
でも僕が帝国に来るようにあれこれ手を回してくれたのは確かだろうし、帝国にきた後も何かと気遣ってくれている。
そして、今。
僕をあの家から連れ出すのに時間がかかったと謝ってくれたんだ。
レグラス様はなんにも悪くないし、謝罪の必要もないのに。
強張っていた僕の身体から、すっと力が抜ける。
トクトクと、穏やかに打つレグラス様の心臓の音に耳を傾けた。
誰かを信頼するのは怖い。
勿論、裏切られるのも嫌だけど、それによって心が痛んだり淋しい気持ちになりたくないんだ。そんな気持ちは、また魔力を暴走させる引き金になりそうで、本当怖い。
でも、誰かを信頼するとしたら。その相手はレグラス様だって、そう僕は思ったんだ。
レグラス様の言葉を信じてみたい。
「僕はレグラス様のお役に立てますか?」
「……君は、私の側にいるだけでいい。役に立つ立たないは関係ないんだ。ーーだが、そうだな。君が敢えてそう言うという事は、それが君の気がかりなんだな?」
優しい口調で問われ僕かコクリと頷くと、レグラス様は僕を抱く腕に力を籠めた。
「私には君が必要だ。留学後十年経っても君を諦められなかったし、だからこそ手を回して君を手に入れた。そして私はそこまで苦労して手に入れた君を手放すつもりはない」
すっとレグラス様の顔が近付く。
僕の耳元に唇を寄せると、レグラスはそっと囁くように告げた。
「ここに……。私の側にいて欲しい」
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