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6話
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ちろりと舌を覗かせて自分の赤い唇を舐めると、物欲しそうな目でルーカスを上から下まで眺めた。
「私はずっとルーカス一筋なんですけど。残念です。君が番を見つけてしまっただなんて」
「俺は昔から言ってたはずだぞ。独り立ちする時が来たら番を探すって。お前がそんな態度をとるって分かっていたら、このクエスト、受けなかった」
ハウツの視線を真っ向から受け止め、ルーカスは睨む目に更に力を籠める。
――でも、セックス云々を否定しないところをみると、やっぱセフレだったのか。
俺はそんな二人を他人事のように眺めながら、そんな事を考えていた。
以前のセフレの存在を目の前にして、なにも感じないかと言われると微妙だ。
普通にムカつく。
でも過去に嫉妬しても意味がないし、そもそも俺とルーカスの始まりだってセフレからだったのだ。俺はヤツにとやかく言える立場じゃない。
というか、俺達は冒険者だ。
俺達がちゃんと付き合う前は、互いがクエストを受けて街を離れている間、欲を発散させるために花街で相手を見繕っていた期間だってある。お互い様といえばお互い様だ。
――故郷に行くってなりゃ、昔の相手に会う事もあるかなとは思ってたし。まぁ想定内だよな。それに……。
向かい合って立つハウツをちらりと流し見る。
やたらと俺に意味深な言葉を掛けてルーカスを煽っているけど、わざわざルーカスを狙ってクエストを出しておきながら、この態度はおかしい。
――他になんか狙いがあるのだろう。それがなにかは分からないけれど……。
俺は内心でため息をつくと、未だにハウツを睨んでいるルーカスの胸元を軽く手の甲で叩いた。
「落ち着けよ、ルーカス」
「ノア……」
我に返ったルーカスが情けない顔で俺を見下ろしてくる。
余程、自分の昔の色恋沙汰を、俺に知られたくなかったのだろう。
そんなヤツに、俺は苦笑いを浮かべてみせた。
「魔物研究所からの依頼は、基本断る事ができないって知ってるだろ? やるしかないんだから、昔のしがらみに振り回されてるんじゃないよ」
「……ルーカス。君の番は、私の存在を知っても随分冷静ですね。君、本当に愛されているの?」
ルーカスを諌めていた俺を、如何にも気に入らないとばかりにハウツは目を眇めて眺めると、嘲笑うように言葉を紡いだ。その表情には隠しようもない嫌悪感が溢れている。
「――っ!」
そのハウツの態度に、ルーカスはこめかみに青筋を立てギリっと奥歯を噛み締めた。
怒りを爆発させる寸前のルーカスを背中に隠すように前に出た俺は、ハウツの顔から目を離さずスッパリと言い切った。
「あんたさ、ちゃんと調査をしたいのなら、その態度なんとかしな。俺は、そんな見え見えのやっすい挑発に乗るほど暇じゃねぇし、クエスト出しておきながら協力する気のないヤツを守るほど、優しくもないんだよ」
「へぇ……」
容赦なく切り捨てる俺に、ハウツは驚いたように目を瞠った。
「人族に根性なんてもの期待していなかったけれど、君、なかなか強そうですね」
「お褒めに預かり、どーも。で? どうするんだ?」
嫌味な褒め言葉を鼻で嗤ってあしらうと、俺は小首を傾げてみせた。
「ふふ、ルーカスの番なのは気に入らないけど、君っていう個人には興味が引かれます。私も調査を完了させないと本部からお叱りを受けてしまうし、このまま君たちに頼みましょう」
ハウツはにやりと笑うと、すっと腕を差し延べてきた。俺はそれを躊躇なく掴むと、ハウツににこりと笑ってみせる。
「なら、調査の間はよろしくな、ハウツ」
「……本当、いい性格してるね、君。ま、いいけですけど。こちらこそ宜しく。ノアちゃん」
「――ノアちゃん⁉」
俺の背後で大人しく状況を見守っていたルーカスが、その一点に噛み付いた。
「てめぇ、俺の番に馴れ馴れしいんだよ、ハウツ!」
大きな声を上げながら、背後から俺を抱き締めてくる。
「煩いですよ、ルーカス。君も少しは大人になったら? 私もノアちゃんも、互いに不愉快だけど譲歩して協力しようってしてるのに」
ハウツはルーカスをやや呆れた様子で眺めて言うと、ぐるりと周囲に目を向けた。
「いつまでもここに留まる訳にもいきませんし、仕事の話に戻りましょう」
そう言うと、こほんと軽く咳払いをして、地面に転がる魔物の死骸を指差した。
「貴方達が来るまでの間、この辺りの魔物の生態調査していたのですが……。恐らく調査対象のキメラにテリトリーを追い出された魔物や獣が、この山に移動してきてるみたいです。山の規模に対して魔物の数が多いし、気が立っているように見えました」
「さっきあんたを襲った魔物もそのクチか」
俺も後ろを振り返り魔物の死骸を一瞥して尋ねると、ハウツは軽く頷いた。
「そうですね。ちょっとした下調べのはずが、予想以上に魔物が集まってしまって、郷に帰れずに困っていました。ま、君たちが来てくれて助かりましたけれど」
「助かったっつー割には、随分な態度だったけどな」
さっきまでのハウツの態度が未だに納得できないのか、ルーカスは「はっ!」と鼻を鳴らしハウツを睥睨している。
俺はルーカスに抱き込まれたまま、ヤツを振り仰いだ。
「ルーカス」
「……なんだよ」
不機嫌そうに眉間にシワを寄せ、耳をピクつかせている。そんなルーカスの肩口に、俺は後頭部をぐりっと擦り付けた。
「ありがとう」
「?」
ルーカスは眉間のシワを解き、驚いたように俺を見下ろしてぱちりと瞬く。
「昨日の夜の約束、早速守ってくれて」
「……っ、ノア!」
ぎゅうっと、俺を抱き締める腕に力が籠もった。
ルーカスに抱き締められたままの俺の耳に、昨夜のルーカスの言葉が蘇る。
『お前の事を否定して傷つけるヤツがいたら、そいつはもう俺の敵だ。郷のヤツでも関係ねぇ。俺が徹底的に排除してやるから安心しろ』
ルーカスはあの約束があろうと無かろうと、きっと同じ行動に出ただろう。
でもあの約束があったからこそ、俺はハウツの言動に振り回されなくて済んでいるんだ。
なら、俺も礼の一つも言わなきゃフェアじゃない。
にっと笑ってみせると、ルーカスは抱き締めた腕の力もそのままに、俺の首筋に顔を埋めた。
「……俺のノアが最高すぎるんだが……」
絞り出すようなルーカスの声に、俺は思わず破顔してしまった。
「落ち着いたか?」
「ああ……」
顔を上げないままルーカスは頷く。態勢はともかく、宥める事には成功したようだ。
俺は真横に見えるルーカスの獣耳をちらりと見て、ハウツに視線を戻した。途端に黄金色の瞳とかち合う。
「お見事」
腕を組み、片眉を跳ね上げているハウツに、俺は肩を竦めてみせた。
「なに、いつもの事だ」
「番というより、調教師みたいですけどね」
どんな状況でも嫌味は忘れないらしい。
そういう人間なんだと納得して、俺は肩に乗るルーカスの頭をよしよしと撫でた。
「調教、ね。いい得て妙だな。俺、恋愛相手は猫かわいがりしたい派だから?」
「え、初耳なんだけど⁉」
「――冗談だよ」
がばっとルーカスが顔を上げるのを見て、俺はヤツの腕を軽くぽんぽんと叩く。軽い冗談なのに、真に受けられたら堪らない。
「……っぶは……っ!」
そんな俺たちを見ていたハウツは、思わずといった感じで噴き出した。
「うん、本当にノアちゃんは素敵な性格してるね。ルーカスの番でさえなかったら、大好きになっていたかもしれません」
その言葉にルーカスは再びムスッと唇を尖らせ、涙を浮かべて笑うハウツを睨むのだった。
「私はずっとルーカス一筋なんですけど。残念です。君が番を見つけてしまっただなんて」
「俺は昔から言ってたはずだぞ。独り立ちする時が来たら番を探すって。お前がそんな態度をとるって分かっていたら、このクエスト、受けなかった」
ハウツの視線を真っ向から受け止め、ルーカスは睨む目に更に力を籠める。
――でも、セックス云々を否定しないところをみると、やっぱセフレだったのか。
俺はそんな二人を他人事のように眺めながら、そんな事を考えていた。
以前のセフレの存在を目の前にして、なにも感じないかと言われると微妙だ。
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でも過去に嫉妬しても意味がないし、そもそも俺とルーカスの始まりだってセフレからだったのだ。俺はヤツにとやかく言える立場じゃない。
というか、俺達は冒険者だ。
俺達がちゃんと付き合う前は、互いがクエストを受けて街を離れている間、欲を発散させるために花街で相手を見繕っていた期間だってある。お互い様といえばお互い様だ。
――故郷に行くってなりゃ、昔の相手に会う事もあるかなとは思ってたし。まぁ想定内だよな。それに……。
向かい合って立つハウツをちらりと流し見る。
やたらと俺に意味深な言葉を掛けてルーカスを煽っているけど、わざわざルーカスを狙ってクエストを出しておきながら、この態度はおかしい。
――他になんか狙いがあるのだろう。それがなにかは分からないけれど……。
俺は内心でため息をつくと、未だにハウツを睨んでいるルーカスの胸元を軽く手の甲で叩いた。
「落ち着けよ、ルーカス」
「ノア……」
我に返ったルーカスが情けない顔で俺を見下ろしてくる。
余程、自分の昔の色恋沙汰を、俺に知られたくなかったのだろう。
そんなヤツに、俺は苦笑いを浮かべてみせた。
「魔物研究所からの依頼は、基本断る事ができないって知ってるだろ? やるしかないんだから、昔のしがらみに振り回されてるんじゃないよ」
「……ルーカス。君の番は、私の存在を知っても随分冷静ですね。君、本当に愛されているの?」
ルーカスを諌めていた俺を、如何にも気に入らないとばかりにハウツは目を眇めて眺めると、嘲笑うように言葉を紡いだ。その表情には隠しようもない嫌悪感が溢れている。
「――っ!」
そのハウツの態度に、ルーカスはこめかみに青筋を立てギリっと奥歯を噛み締めた。
怒りを爆発させる寸前のルーカスを背中に隠すように前に出た俺は、ハウツの顔から目を離さずスッパリと言い切った。
「あんたさ、ちゃんと調査をしたいのなら、その態度なんとかしな。俺は、そんな見え見えのやっすい挑発に乗るほど暇じゃねぇし、クエスト出しておきながら協力する気のないヤツを守るほど、優しくもないんだよ」
「へぇ……」
容赦なく切り捨てる俺に、ハウツは驚いたように目を瞠った。
「人族に根性なんてもの期待していなかったけれど、君、なかなか強そうですね」
「お褒めに預かり、どーも。で? どうするんだ?」
嫌味な褒め言葉を鼻で嗤ってあしらうと、俺は小首を傾げてみせた。
「ふふ、ルーカスの番なのは気に入らないけど、君っていう個人には興味が引かれます。私も調査を完了させないと本部からお叱りを受けてしまうし、このまま君たちに頼みましょう」
ハウツはにやりと笑うと、すっと腕を差し延べてきた。俺はそれを躊躇なく掴むと、ハウツににこりと笑ってみせる。
「なら、調査の間はよろしくな、ハウツ」
「……本当、いい性格してるね、君。ま、いいけですけど。こちらこそ宜しく。ノアちゃん」
「――ノアちゃん⁉」
俺の背後で大人しく状況を見守っていたルーカスが、その一点に噛み付いた。
「てめぇ、俺の番に馴れ馴れしいんだよ、ハウツ!」
大きな声を上げながら、背後から俺を抱き締めてくる。
「煩いですよ、ルーカス。君も少しは大人になったら? 私もノアちゃんも、互いに不愉快だけど譲歩して協力しようってしてるのに」
ハウツはルーカスをやや呆れた様子で眺めて言うと、ぐるりと周囲に目を向けた。
「いつまでもここに留まる訳にもいきませんし、仕事の話に戻りましょう」
そう言うと、こほんと軽く咳払いをして、地面に転がる魔物の死骸を指差した。
「貴方達が来るまでの間、この辺りの魔物の生態調査していたのですが……。恐らく調査対象のキメラにテリトリーを追い出された魔物や獣が、この山に移動してきてるみたいです。山の規模に対して魔物の数が多いし、気が立っているように見えました」
「さっきあんたを襲った魔物もそのクチか」
俺も後ろを振り返り魔物の死骸を一瞥して尋ねると、ハウツは軽く頷いた。
「そうですね。ちょっとした下調べのはずが、予想以上に魔物が集まってしまって、郷に帰れずに困っていました。ま、君たちが来てくれて助かりましたけれど」
「助かったっつー割には、随分な態度だったけどな」
さっきまでのハウツの態度が未だに納得できないのか、ルーカスは「はっ!」と鼻を鳴らしハウツを睥睨している。
俺はルーカスに抱き込まれたまま、ヤツを振り仰いだ。
「ルーカス」
「……なんだよ」
不機嫌そうに眉間にシワを寄せ、耳をピクつかせている。そんなルーカスの肩口に、俺は後頭部をぐりっと擦り付けた。
「ありがとう」
「?」
ルーカスは眉間のシワを解き、驚いたように俺を見下ろしてぱちりと瞬く。
「昨日の夜の約束、早速守ってくれて」
「……っ、ノア!」
ぎゅうっと、俺を抱き締める腕に力が籠もった。
ルーカスに抱き締められたままの俺の耳に、昨夜のルーカスの言葉が蘇る。
『お前の事を否定して傷つけるヤツがいたら、そいつはもう俺の敵だ。郷のヤツでも関係ねぇ。俺が徹底的に排除してやるから安心しろ』
ルーカスはあの約束があろうと無かろうと、きっと同じ行動に出ただろう。
でもあの約束があったからこそ、俺はハウツの言動に振り回されなくて済んでいるんだ。
なら、俺も礼の一つも言わなきゃフェアじゃない。
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「……俺のノアが最高すぎるんだが……」
絞り出すようなルーカスの声に、俺は思わず破顔してしまった。
「落ち着いたか?」
「ああ……」
顔を上げないままルーカスは頷く。態勢はともかく、宥める事には成功したようだ。
俺は真横に見えるルーカスの獣耳をちらりと見て、ハウツに視線を戻した。途端に黄金色の瞳とかち合う。
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「なに、いつもの事だ」
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どんな状況でも嫌味は忘れないらしい。
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「調教、ね。いい得て妙だな。俺、恋愛相手は猫かわいがりしたい派だから?」
「え、初耳なんだけど⁉」
「――冗談だよ」
がばっとルーカスが顔を上げるのを見て、俺はヤツの腕を軽くぽんぽんと叩く。軽い冗談なのに、真に受けられたら堪らない。
「……っぶは……っ!」
そんな俺たちを見ていたハウツは、思わずといった感じで噴き出した。
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