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sideイリアス
17話
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「……っ!?」
知っていたが、今が幸せすぎて失念していたのだ。
思わず肩を揺らして動揺した私の隣で、ウィリテは困ったように眉を下げている。
「あの、それは僕がイリアスの番として隣に立つのは難しいということですか?」
「ああ、違う違う。それでいったら俺も平民出身だからね。問題はそこじゃなくて……」
「貴族院……」
しまった、と呻くように呟くと、母は大きく頷いた。
「ウィリテ、君がどこかの貴族の養子になって、貴族籍に入れば問題はない」
「養子?」
不安そうなウィリテの声に、母は心配はいらないとばかりに微笑んだ。
「そう。で、その養子縁組をするのには貴族院の承認が必要なんだよ」
「その貴族院の会議は半期に一度しか開催されない。その開催日が……」
ズキズキと痛むこめかみを押さえながら呟くように言う。自分の迂闊さが恨めしい。
「三日後だね」
私の言葉尻を引き継ぎ、あっさりと母が言った。
そう。その三日後の貴族院の会議を逃せば、ウィリテが貴族の養子になるのは半年後。婚姻に至っては更に後になってしまう。
しかしどう急いでも、養子先となる貴族の選定もできていない現状を鑑みると、三日後の貴族院会議での承認は諦めざるを得ない。折角手に入れた番との婚姻後の蜜月も、当然ながら先送り。
ちらりと隣に座るウィリテに視線を流せば、現状がよく分からなくて、私を見つめてきょとんと瞬いている。
その愛しくも可愛らしい姿に、『半年も我慢できる訳がないだろう!』と内心で叫んでしまった。
ぐぬぬぬっと頭を抱えた私を見て、「ぶふっ」と誰かが噴出した。
「ねー、可愛い我が子を苛めるの、その辺で止めときなよ」
その声に顔を上げると、クスクス笑いながら近付いてくるその姿が視界に入る。私は何故その人がここに現れたのか分からず、困惑してしまった。
しかし母はその登場を知っていたらしく、澄ました顔で肩を竦めてみせた。
「だって、最近のイリアス、ちょっと大人になっちゃって面白くなかったんだよね。あ。ウィリテ、紹介するね。彼、バラハン子爵。俺の幼馴染だよ」
「どうも初めまして。君がウィリテ?美人だね!」
彼はニコニコと笑いながらウィリテに声をかけている。ちょっと胡散臭い笑みに、私は警戒しながら声をかけた。
「こちらには何故……?」
「んー?大事な幼馴染のお願いを叶えるために来たんだよ」
母は年齢より遥かに若く見えるが、彼はその母より更に年齢不詳な見た目をしている。その若々しい顔に一筋縄ではいかない雰囲気を漂わせた。
「イリアス、バラハン子爵にウィリテの養子先になってもらおうと思ってるんだ」
「え?」
ぎょっと目を剥く。何故って、彼は優しい母の幼馴染とは思えないほど、損得勘定でしか動かない人なのだ。
「今、しっつれーな事考えてたでしょ、イリアス」
スパンと言い当てられて口籠る。
「まあ、宰相閣下に恩が売れるチャンスだしね。喜んでウィリテ君の養親になってあげるよ」
ふふっと笑い母の隣に座ると、数枚の用紙をぺらりとテーブルに置いた。見ると養子縁組に関する申請書のようだった。
「流石ソルネス、仕事が早いね!」
「当然!さ、ウィリテ、この書類に署名して。これを貴族院に提出すれば、今期の議題として検討してもらえるからね」
母とバラハン子爵に促されて、ウィリテは困ったように私の顔を見た。
私はそんな彼をじっと見つめる。
形だけとはいえ、この国の宰相であり公爵の番を養子にするのだ。その後の影響を考えると、養親となる貴族を選ぶのも難しい。
だけどバラハン子爵ならば、損得勘定でしか動かない点は難だが、母の古くからの友人という点もあり十分信用できる。
寧ろこれ以上はない養親だ。
これはきっと昨日今日の打診ではないはず。
あの崖の上で私と話をした後に、直ぐに彼に連絡を取ってくれたのだろう。
そう考えると、母には感謝してもしきれない。
私は母に向き直り、深々と一礼した。
「ご尽力頂き、ありがとうございます」
「ま、何といってもカワイイ我が子だからね」
「ここで僕にお礼を言わないのがイリアスだよね、知ってたけど」
ゆるりと慈愛の滲む笑みを浮かべる母の隣で、「はっ」と鼻で嗤って意地悪そうにそう宣うバラハン子爵。
でもどんな形であれ、二人が私たちのために尽力を惜しまず動いてくれたからこそ、正式にウィリテを手にすることができるのだ。そう思うと、素直にバラハン子爵に頭を下げることができた。
「バラハン子爵、私のウィリテをよろしくお願いします」
「うをっ!?イリアスが素直って、気持ちワル……」
通常運転で失礼な事を言っているが、それも構わない。
ゆったりと頭を上げると、そのままウィリテに向き合う。そしてその滑らかな頬に掌を当てて、愛しさを籠めて微笑んだ。
「ウィリテ、私は君とこれから続く永い時を共に歩んでいきたい。結婚、してくれるね?」
突然のプロポーズの言葉に、ウィリテは驚いた顔になった。でもそのすぐあと。大輪の花が綻ぶように美しく笑ってくれた。
「もちろん、喜んで!」
一人で生きていくことを望んでいた私の愛しい番は、この瞬間二人で生きていくことを選んでくれたのだ。
その嬉しい言葉に、私は心からの感謝と溢れんばかりの愛を籠めて、愛しい番に口付けを贈ったのだった。
知っていたが、今が幸せすぎて失念していたのだ。
思わず肩を揺らして動揺した私の隣で、ウィリテは困ったように眉を下げている。
「あの、それは僕がイリアスの番として隣に立つのは難しいということですか?」
「ああ、違う違う。それでいったら俺も平民出身だからね。問題はそこじゃなくて……」
「貴族院……」
しまった、と呻くように呟くと、母は大きく頷いた。
「ウィリテ、君がどこかの貴族の養子になって、貴族籍に入れば問題はない」
「養子?」
不安そうなウィリテの声に、母は心配はいらないとばかりに微笑んだ。
「そう。で、その養子縁組をするのには貴族院の承認が必要なんだよ」
「その貴族院の会議は半期に一度しか開催されない。その開催日が……」
ズキズキと痛むこめかみを押さえながら呟くように言う。自分の迂闊さが恨めしい。
「三日後だね」
私の言葉尻を引き継ぎ、あっさりと母が言った。
そう。その三日後の貴族院の会議を逃せば、ウィリテが貴族の養子になるのは半年後。婚姻に至っては更に後になってしまう。
しかしどう急いでも、養子先となる貴族の選定もできていない現状を鑑みると、三日後の貴族院会議での承認は諦めざるを得ない。折角手に入れた番との婚姻後の蜜月も、当然ながら先送り。
ちらりと隣に座るウィリテに視線を流せば、現状がよく分からなくて、私を見つめてきょとんと瞬いている。
その愛しくも可愛らしい姿に、『半年も我慢できる訳がないだろう!』と内心で叫んでしまった。
ぐぬぬぬっと頭を抱えた私を見て、「ぶふっ」と誰かが噴出した。
「ねー、可愛い我が子を苛めるの、その辺で止めときなよ」
その声に顔を上げると、クスクス笑いながら近付いてくるその姿が視界に入る。私は何故その人がここに現れたのか分からず、困惑してしまった。
しかし母はその登場を知っていたらしく、澄ました顔で肩を竦めてみせた。
「だって、最近のイリアス、ちょっと大人になっちゃって面白くなかったんだよね。あ。ウィリテ、紹介するね。彼、バラハン子爵。俺の幼馴染だよ」
「どうも初めまして。君がウィリテ?美人だね!」
彼はニコニコと笑いながらウィリテに声をかけている。ちょっと胡散臭い笑みに、私は警戒しながら声をかけた。
「こちらには何故……?」
「んー?大事な幼馴染のお願いを叶えるために来たんだよ」
母は年齢より遥かに若く見えるが、彼はその母より更に年齢不詳な見た目をしている。その若々しい顔に一筋縄ではいかない雰囲気を漂わせた。
「イリアス、バラハン子爵にウィリテの養子先になってもらおうと思ってるんだ」
「え?」
ぎょっと目を剥く。何故って、彼は優しい母の幼馴染とは思えないほど、損得勘定でしか動かない人なのだ。
「今、しっつれーな事考えてたでしょ、イリアス」
スパンと言い当てられて口籠る。
「まあ、宰相閣下に恩が売れるチャンスだしね。喜んでウィリテ君の養親になってあげるよ」
ふふっと笑い母の隣に座ると、数枚の用紙をぺらりとテーブルに置いた。見ると養子縁組に関する申請書のようだった。
「流石ソルネス、仕事が早いね!」
「当然!さ、ウィリテ、この書類に署名して。これを貴族院に提出すれば、今期の議題として検討してもらえるからね」
母とバラハン子爵に促されて、ウィリテは困ったように私の顔を見た。
私はそんな彼をじっと見つめる。
形だけとはいえ、この国の宰相であり公爵の番を養子にするのだ。その後の影響を考えると、養親となる貴族を選ぶのも難しい。
だけどバラハン子爵ならば、損得勘定でしか動かない点は難だが、母の古くからの友人という点もあり十分信用できる。
寧ろこれ以上はない養親だ。
これはきっと昨日今日の打診ではないはず。
あの崖の上で私と話をした後に、直ぐに彼に連絡を取ってくれたのだろう。
そう考えると、母には感謝してもしきれない。
私は母に向き直り、深々と一礼した。
「ご尽力頂き、ありがとうございます」
「ま、何といってもカワイイ我が子だからね」
「ここで僕にお礼を言わないのがイリアスだよね、知ってたけど」
ゆるりと慈愛の滲む笑みを浮かべる母の隣で、「はっ」と鼻で嗤って意地悪そうにそう宣うバラハン子爵。
でもどんな形であれ、二人が私たちのために尽力を惜しまず動いてくれたからこそ、正式にウィリテを手にすることができるのだ。そう思うと、素直にバラハン子爵に頭を下げることができた。
「バラハン子爵、私のウィリテをよろしくお願いします」
「うをっ!?イリアスが素直って、気持ちワル……」
通常運転で失礼な事を言っているが、それも構わない。
ゆったりと頭を上げると、そのままウィリテに向き合う。そしてその滑らかな頬に掌を当てて、愛しさを籠めて微笑んだ。
「ウィリテ、私は君とこれから続く永い時を共に歩んでいきたい。結婚、してくれるね?」
突然のプロポーズの言葉に、ウィリテは驚いた顔になった。でもそのすぐあと。大輪の花が綻ぶように美しく笑ってくれた。
「もちろん、喜んで!」
一人で生きていくことを望んでいた私の愛しい番は、この瞬間二人で生きていくことを選んでくれたのだ。
その嬉しい言葉に、私は心からの感謝と溢れんばかりの愛を籠めて、愛しい番に口付けを贈ったのだった。
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