お一人様希望なので、その番認定は困ります〜愛されるのが怖い僕と、番が欲しい宰相閣下の話~

飛鷹

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sideイリアス

16話

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「………で?どういうコトですか、イリアス様?」

眩しい朝日が差し込む部屋で、ウィリテを腕の中に囲い込みながら幸せな時間を満喫している所へブシアがやってきた。
遠慮も配慮も羞恥もなく、仲睦まじくベッドで休む私達を腕を組んだ状態で見下ろし、地底から響くような低い声を捻り出している。

そんなブシアをチラリと見て、再びウィリテに目を向けた。
昨夜はちょっと無理をさせてしまったから、ウィリテはまだぐっすりと眠っている。
そんな彼を起こさないように、そっと額を指で辿れば乱れた髪に隠れていた綺麗な顔が顕になった。
誘われるように額に唇を寄せていると、ベッドサイドから「ン゙ン゙ン゙……っ」とわざとらしい咳払いが落ちた。

邪魔者の無粋な行動に舌打ちを堪えて睨めば、ヤツは片眉を跳ね上げて呆れたような顔を隠しもせずに私を見下ろしていた。

「いくら据え膳とはいえ、ナニ盛っちやってんですか……」

「煩い……」

ふいっと視線を逸らす。
ブシアの言いたいことは分かっている。
……が。
あの、恥じらいつつも、頑張って誘惑してくるウィリテを見れば致し方ないことだと思う。
よって、私は悪くない。

「部屋を分けるって聞いて、番様に何らかあって、そうする必要があるんだなっては思ってましたけど!イリアス様も配慮かできる大人になったんだなぁ~って感銘を受けてましたけど!!」

その割には『不能』発言をしていたようだが……。
む、と眉間にシワを刻む。

「結局、ヤることヤってんなら、あの配慮って……。俺の感銘、返して欲しいですよ」

やれやれと、バカにするかのように肩を竦めるブシアに物申そうと口を開こうとした、その時。
腕の中のウィリテがもぞりと身動いだ。
起こしてしまっただろうか、と慌てて顔を覗き込めば、まだまだ安らかな眠りの中にいるようだ。
ほっと胸を撫で下ろし、もう一度ブシアを強く睨んだ。

「ウィリテを起こしたくない。小言は後で聞く」

「はいはい」

はぁ~っとわざとらしいため息をついて、ブシアはきびすを返した。
そして扉の前で一度足を止めて、「あ、」と今思い出したかのような声を洩らした。

「忘れてた」

顔だけこちら側に向けると、ヤツはにんまりと口角を上げてんでみせた。

「母君、今日こちらにお見えになるそうですよ?」

「……………!!!?」

思わず、跳ね起きる。勿論、丁寧にウィリテを腕の中から解放してからだが。

「何故!?」

「曰く、『息子の恋路の邪魔をするほど野暮じゃないけど、ちゃんと確認しないと』だそうですよ。ちゃんと準備してくださいね~」

ひらりと手を振り、ブシアは部屋から出ていった。

「…………。母上は一体何をしにくるのだ………」

私は思わず渋い顔になってしまった。
あの母のことだ。姑根性や野次馬根性でやって来る訳ではないはずだ。
私の番のために必要と思って、あの人はこの場所を訪れるのだろう。
ならば、母には見えていて私には見えていない『事』があるはずだ……。
自分の至らなさに、少し肩を落としたのだった。


★☆★☆


「初めまして。君がウィリテ?」

にっこりと微笑んで挨拶の言葉を告げる母を、ウィリテはぽかんとした表情で見ていた。緊張とも違うその様子に、思わず心配になって顔を覗き込むと、彼ははっと我に返って慌てたような顔になった。

「す……すみません!あの、こんなに綺麗な方を見たことがなくて、失礼しました」

そしておもむろに、ぺこりと頭を下げる。

「ウィリテと申します。平民で薬師をしております」

「緊張しなくていいよ。ってイリアス、いつまで立ち話させるつもり?」

優しく眦を細めて、玄関ホールで出迎えたウィリテにもう一度微笑んでみせると、私の方にチラリと視線を流す。
若干の呆れを含む視線に、私はこほんと咳ばらいをして母を客間にいざなった。確かに緊張した面持ちのウィリテが可愛くて、彼ばかり見つめていた私が悪い。
客間のソファーに腰を落ち着かせると、改めて母にウィリテを紹介した。

「遅くなりましたが、彼はウィリテ。私の唯一の人です」

「初めまして。あの、イリアス……様に番として……」
「ウィリテ、何故『様』を付けるの?」

並んで座るウィリテの耳に、触れんばかりに唇を寄せて囁く。昨夜はあれほど甘い声で「イリアス、イリアス」って啼いてくれたのに、これでは寂しくて仕方ない。
意地悪く囁いた瞬間、ウィリテは顔を真っ赤にして耳を抑えながら、ぱっと飛びずさった。耳を押さえている手がぷるぷる震えているのが、可愛くて堪らない。

その可愛らしい反応を見て溜飲を下げていると、最早呆れを通り越して引きまくっている母と視線があった。
ちょっと居た堪れないカンジの沈黙がその場を支配する。

「ま、俺も獏の獣人の執着は身を以って知ってるけどさ……」

そしてやれやれと溜息を落とした母は、すっと姿勢を正して少し厳しい目を私に向けた。

「番を得た獏の頭の中がポンコツになるのは知ってたから、俺はここを訪れたんだよ、イリアス」

その言葉に、私もウィリテも居住まいを正して母と向き合った。

「そういえば、何故こちらにお見えになったのですか?私も番を得たのですから、近々王都に戻る予定でしたが」

「まぁ俺としては急ぎじゃないけど、イリアス的には急ぎかなって思ってさ。でも絶対、忘れてるだろうな……って思ったから来たんだよ」

「忘れる?」

母の言葉に怪訝な顔になってしまう。私が一体何を忘れているというのか……。
母としては急ぎじゃないけれど、私には急ぎ?そして絶対ウィリテに関係がある事柄のはずだが……。
そんな私の顔をじっと見ていた母は、「俺の息子ってこんなにポンコツだっけ」と首を傾げ始めたから更に居た堪れない。

「お前ね、貴族と平民は婚姻を結べないって事、知らない訳じゃないよね」

その言葉に、愕然となった。
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