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番外編
2.レイと子猫とダンカン家
しおりを挟む首を傾げてみるけど、そんな動物がいた覚えがない。
暫く考えてから、「ああ!」と思いついた。
基本的に、獏の獣人であるダンカン公爵の屋敷に、不法侵入を試みる猛者はいない。
でも一応公爵家にも警備を担当する私設の騎士団があるし、夜間警備で使われる番犬もいる。
ーー猛獣って、あの子たちのことかな。
狼の血が流れているといわれるダンカン家の番犬は、めちゃくちゃ大きく、後ろ脚で立ち上がられると、俺の身長を遥かに凌ぐ。
顔も恐いし、牙を剥き出しにして唸る姿は、まさに「猛獣」そのものだ。
でも、さすがにちゃんと調教されていて、俺に唸ることはない。寧ろ「構って!」とばかりに腹を出して転がってみせる可愛い子たちだ。
「でも、ちゃんと調教してるだろ? まぁちょっと怖いけど、中身は可愛いじゃないか」
多分ササは、子猫が番犬に襲われる心配をしてくれたんだろう。
そんなことを考えていたら、ササが何故か盛大に吹き出した。
「ち……調教……っ! か……か……かっか……躾られちゃったの……っ?」
彼女は慌て口元を掌で押さえ俯いたけど、その肩はふるふると震えている。
「え、ササ、大丈夫?」
震え過ぎて若干身悶えてるようにも見え、思わず声をかけると、ササは「んん……っ」と咳払いして顔を上げた。
「失礼致しました。ええ、レイ様が調教されているのなら、大事には至らないでしょう……。ですがダンカン邸で猫を飼うのは、やはり難しいと存じます」
「? いや、俺が調教したわけじゃないけど……まぁいいや。猫はダメって、じゃあ猫以外はいいんだ?」
「そうですね。現に犬も馬もいますし、動物がダメという訳ではないんですよ。ただ私ども使用人は詳しく説明を伺っておりません。もし気になるようでしたら、レイ様が直接閣下にお尋ねした方が宜しいかと」
「ふ~ん?」
俺は何か隠している様子のササを見て、それ以上問い詰めることはしなかった。
ま、彼女もダンカン家の使用人なんだし、「言うな」と命令を受けているなら、これ以上聞いてもムダだしさ。
ササと話をしている間に、子猫たちは遊び疲れたのか、座ったままウトウトと頭を揺らし始めていた。
つぶらな瞳はとろんと眠そうに細まり、すぐにでも寝落ちしてしまいそうだ。
そんな子猫の様子を見ていたら、なんだか俺も眠くなってきてしまった。
こすっと指で目を擦っていると、ササが気遣わしげに俺に声をかけてきた。
「お疲れでしょう。おやすみになりませんか?」
「いや、疲れたって程じゃないけど……」
寧ろ殆ど活動していないのに、眠気は常に俺の身体に纏わりついている感じだ。
庭に散歩に行ったのも、この眠気が原因ともいえた。
「いいえ、レイ様。今のレイ様は、お一人の身体ではございません。通常は何てことない行動でも、体力が消耗しやすいのです。それに今の時期は、眠気が生じやすいといわれております。どうぞご無理はなさらず、おやすみになってください」
ササにそう言われて、自分の腹を見下ろす。
ーーそう、ここには今……。
さすさすと優しく自分の腹を撫で、俺はササに向かって頷いた。
「そうだね。少し寝ようかな」
そう言いながら立ち上がると、さっきまでうとうとしていた子猫たちが「にーにー」と煩く鳴き始めた。
「あらあら……」
ササが目を丸くして子猫を見つめる。
「この子たち、レイ様を母だと思ったのかしら……」
「え?」
その言葉に子猫たちに目を向けると、キトンブルーの瞳が俺の向いている事に気付く。
「……可愛いなぁ……」
つい口元を綻ばせていると、ササが小さな声で「今日がこの子たちの命日にならなきゃいいけど……」と呟く声が聞こえる。
「え?」
何か物騒な言葉が聞こえた気がして首を傾げていると、ササは首を振ってからにこりと笑った。
「子猫は私がお預かりします。レイ様はどうぞおやすみください」
「ーーなぁ……」
俺を気遣うササに、暫く迷った末、俺は口を開いた。
「この子たちと一緒寝ちゃダメ?」
「……え?」
「俺、昔から猫飼うのに憧れてたんだ。でも、ここじゃ猫は飼えないんだろ? なら、少しだけでいいから、飼ってる気分を味わいたいんだ」
本当は、こんな小さな子猫と一緒に寝るべきじゃないのは分かってる。
でも、ちょっとだけ。ほんの数分でも良いから、この小さな温もりと共に有りたかった。
ササは俺を見あげて暫く考えていたけれど、小さく嘆息してにこっと笑った。
「子猫を潰さないように気を付けてくださいね」
「ありがとう!」
思わずぱっと笑顔を浮かべてしまった。
本当は俺を諌めないといけない立場だろうに、見逃してくれたササに感謝しかない。
「さ、一緒に寝よう」
よろよろと蹌踉めきながら俺に近付こうとする子猫を、そっと掬い上げる。
まろい線を描く額にキスを落とすと、ベッドに向かった。
ササが、頭元にブランケットを具合よく準備してくれる。
お礼を言って、ふかふかのブランケットの上に子猫をそっと下ろした。
そして俺もベッドに横になる。ふかふかしたクッションに頭を乗せると、丁度真横に子猫の寝床が見えた。
二匹ともにーにー鳴きながら、一生懸命俺の方に来ようとしている。
俺は横を向いて腕を伸ばし、二匹を腕に囲うようにしてやった。するとそれで落ち着いたのか、二匹はぽすんと尻を落とし、やがてスヤスヤと眠りについてくれた。
柔く上下に動くお腹の動きを見ているうちに、俺にも眠気がやってくる。
「おやすみなさいませ」
ササの囁きにコクリと頷き、俺はゆっくりと瞼を閉じたのだった。
★☆★☆
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