宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹

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番外編

3.レイと子猫とダンカン家

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ちぃちぃ……か細い鳴き声が聞こえる。

「……ん、」

 何か濡れたようなものが指に当たっている気がする。
 ちろちろと、なんだか指が擽ったい。

「あ、こら……っ! レイが起きるでしょう……」

 ヒソヒソと聞こえてくる声はマイナさん?
 ゆっくり瞼を開けて見てみると、俺の隣で横たわっているマイナさんがいた。

「あれ、マイナさん?」
「ああ、起こしてしまいましたね。体調はどうです?」

 心配げに眉を下げるマイナさんに、俺はふっと笑ってみせた。

「おかえり、マイナさ……」

 その言葉の途中で、再びちぃちぃ……と鳴き声が聞こえてくる。

「あ! 子猫!」

 寝ぼけていた頭が一気に覚醒して、俺は慌てて小さな存在を求めて視線を巡らせた。
 すると、俺の指に小さな足を引っ掛けて、吸い付こうとしている子猫たちの姿が見えた。

 元気そうな姿を見て、ほっと息をつく。
 そして、そんな俺の様子を見ているマイナさんの存在を思い出し、俺はちょっと慌ててしまった。

「あのさ、マイナさん、この子たちだけど……」
「ちゃんとバンガーから報告を受けてますよ」

 静かな声が囁くように言う。
 その声に、俺は叱られたわけじゃないのに、しょんぼりと項垂れてしまった。
 ダンカン家では猫が飼えないと聞いたのに、我が儘を通してしまった自覚はある。

「ごめんなさい……」
「貴方が謝ることじゃないですよ」

 マイナさんの手が俺の髪を掬うように掻き上げる。そして露わになった額に優しく口づけを落とした。

「ちゃんと話をしていなかった私が悪いんです」

 そう言うと、マイナさんはゆっくりとした口調で教えてくれた。

「動物は感が鋭いんです。違和感に対して敏感に反応してしまうんですよ。特に猫はその気質が強くて」

 その言葉に、昔読んだ本に、猫は悪いものを気付いて祓うとも書いてあった事を思い出す。

「私は獏ですから、夢を渡ります。それに猫は気付いて、非常に敏感に反応するんです。それが猫には強いストレスになるらしくて、彼らはダンカン家では長生きできません」

 マイナさんが壊れ物に触れるように俺の頬を撫でる。

「貴方の希望に沿えなくてすみません……」

 そっと目を伏せるマイナさんに、俺は首を振った。

「別にマイナさんが謝ることじゃないよね」
「しかし……」
「ね、マイナさん」

 彼の言葉を遮って俺は言葉を続ける。

「俺、ずっと前から俺を見てくれる人が欲しかったんだ。俺だけを求めて、俺にだけ愛情をくれる人。そんな人が、ずっとずっと欲しかった」

 その言葉にマイナさんは視線を上げ、その綺麗なファイアオパールの瞳で俺を見つめた。

「俺は本当に欲しいものを、ちゃんと手に入れた。それどころか……」

 ちらりと視線を下げて自分の腹部を見る。

「絶対に無理だと思ってた家族も手に入る。これで十分だ」
「でも、猫を飼うのに憧れていたのでしょう?」

 ササがマイナさんに報告したのかな?
 その言葉に、俺はにこっと笑った。

「憧れは所詮憧れだよ。猫は確かに可愛いけど、よく考えたらこれから俺も大変になるだろうし、責任が持てない事を言うべきじゃなかったって思ってるんだ」
「レイ……」
「それに俺の愛情も有限だからね? マイナさんへと、その……俺たちの子でいっぱいいっぱいだ」

 ちょっとはにかみながらそういった途端、マイナさんが俺に抱きついてきた。

「あああ、もう! なんでレイはこんなに可愛いんですか! 最高に可愛い! 国宝級に愛らしい! いや、国宝なんかと比べるべくもない! 至高です! もう貴方の願いはなんでも叶えてあげたい……っ!!」

 抱きついたままのマイナさんの背中を優しく撫でる。

「俺の願い、なんでも叶えてくれるんだ?」
「当然です!」

 顔を上げてきっぱり言い切ったマイナさんを、ゆるりと目尻を下げて見つめた。

「じゃあ、この子たちの引き取り先を探してあげて? ちゃんと面倒を見てくれて、愛情を注いでくれて……。淋しくないようにしてくれる人……探して欲しい」
「マイグレース・ダンカンの名にかけて、ちゃんと条件に合う人間を探しましょう」

 貴族が好んで野良猫なんて飼うはずがないのに。
 でもそんな無茶な願いに、マイナさんな躊躇なく頷いて承知してくれた。
 ちぃちぃと鳴く可愛い子猫に目を向ける。そっと掌に掬い上げると、小さな頭に鼻先を擦り付けた。

 ーーちゃんと幸せになりますように

 心の中でそんな事を願う俺を、マイナさんは黙ってただ優しく抱き締めてくれていた。
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