漆黒の闇に誓う愛

飛鷹

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獣人は番の愛を希う。

【受け視点】

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「ねぇ、アンタの身体、抱かせてくんない?」

夜も遅い街中の、小さな酒場でグラスを傾けていた時にかけられた言葉が、コレだった。
俺は相手も見ずに肩を竦めた。

「残念。俺は売り、してねぇんだわ。発散したいなら他所あたりな」

言うだけ言うと、再びグラスを傾ける。旨いとか不味いとか、それ以前に。少しでも睡眠を確保するために酒を飲む。
明日は久し振りに遠出の予定だ。
少しは身体を休めとかないと、途中で倒れでもしたら話にならない。

もう一杯、何か頼むか………。

空になったグラスをカウンターテーブルに置き、さて何を飲むか……と顔を上げた時、ガシッと背後から肩を掴まれた。
その不躾な行為に思わず眉を顰める。

「俺が、アンタが良いと言ってるんだ」

「は?」

何様だよ……と僅かに振り返ると、グレーのマントを頭上から被った男が立っていた。フードに隠れて顔は見えないけれど、やたらと強い眼光でコチラを瞬き一つせずに見下ろしているのは分かる。

その体格の良さから、とこぞの兵士か傭兵かとあたりをつけるけど、知り合いではなさそうだな、と判断してその手を払い除けた。

「俺はお前に興味ないんだよ。さっさと失せろ」

殺気を纏わせて睨みあげると、ヤツは僅かに目を細めた。何故か少し傷付いたようにも感じたけど、そもそも失礼な態度を取ってきたのはコイツだ。俺が気を使う場面じゃない。

ふぃっと顔を逸して、棚に並ぶ酒瓶を眺める。本当は移動して飲み直しした方が良いんだろうが、俺の都合的にソレも無理だ。
だったら、背後の不愉快男は無視して飲むに限る。ため息をついて、先程から奥に引っ込んだままのマスターを呼ぼうとして、俺は声を飲み込んだ。

パタ…パタタ……と何かがカウンターテーブルにシミを作る。俺は恐る恐る振り返り、もう一度背後の男を見上げた。フードを後にずらして顔を晒した男は、流れ落ちる涙を拭う事なく真っ直ぐに俺を見つめていた。
灰黒色の髪にグレーがかった淡い青の瞳を持つその男。その切れ長な目を見て、俺は記憶の隅を刺激された気がした。

「………………。おまえ、は………」


☆★☆★☆★☆★

「ではっ!南部統括隊長のこれからの幸せを願って、カンパーイ!!」

陽気な性格の一兵士が音頭を取り、賑やかな夜が始まった。

「やー俺っ、統括に憧れて南部入りしたんすよ!なのに、見送る事になるなんて………。俺、オレ……」
「分かるー!俺も憧れて入った!家が西部にあるから西部部隊にって言われて、速攻南部に引っ越したもんね!」
「気合い入ってんねーお前。俺も人のコト言えんけど!」

兵士を生業としている奴らが大人しく座って飲むはずもなく、次から次へと俺の元にやってくる。まー、部下に慕われて有り難い事ではあるが………。

俺は苦笑いしながら、奴らを眺めた。

「しがない伯爵家三男に、そこまで入れ込んでくれてありがとよ」

グラスを少し持ち上げて礼を言えば、俺の周りに集まってた奴らが我先にとガツガツとグラスをカチ合わせてきた。
お前ら、少し手加減しろ。グラスが割れんだろ。

見送ってもらう立場だから、今日は小言は控えるけど。

「統括隊長、これからどちらに行かれるんですか?」

長年副隊長として側で戦ってくれたベルがひっそりと問う。
他の兵士たちはそれぞれ思い出話に花を咲かせて、煩いくらいに賑やかだ。

「あー……実家の領地に行く予定」

「………。そうですか……」

「そう暗い顔すんなよ」

「オレ……」

暗い顔のまま、ベルが呟いた。

「南部統括隊長が双刀を振るう所を見るのが、本当に好きでした」

「ありがと、ベル」

柔らかく微笑む。
魔の森に囲まれたこの国は、常に魔獣の襲撃に晒されている。そのために国を4分割して東西南北にそれぞれ隊を置き、魔獣を狩る兵士達が配属されていた。
南部は魔の森の真正面に位置するせいか、襲撃も頻繁で兵士の死亡率が最も高い部隊だった。

貴族の長男以外の子息は、王宮に入るか部隊に入るか、市井に下るかしか生きるすべがない。
頭が良いやつは、当然王宮に入り文官なり騎士なりになる。王宮に入りきれなかった奴らは、大体が平民になるのを嫌がりこの部隊に入る事になる。……が、この部隊内でも当然、貴賤の差はあった。

貴族の子息らはその特権を活かして、魔の森の切れ目があり襲撃が最も少ない北部部隊を望み配属される。南部部隊に配属されるのは、殆どが貧しい平民達だ。
彼らは『戦う』という事の意味も曖昧にしか知らず、闇雲に刀を振り回す烏合の衆とバカにされ、実際戦う技術もなく死んでいく………、そんな部隊だった。

俺は貴族の子息なら必ず通う王立学院を主席で卒業して、王宮勤めを強く望まれていた。でも、学院時代に街を散策する中で知った部隊の実情がどうにも我慢できなくて。
青臭い正義を振り翳して南部部隊への入隊を決めた。
その事を後悔するつもりはない。

俺は持てる知識と実家の財力を駆使して兵士達の装備を整え、訓練方法を伝授し、魔獣と戦う戦法の組み方を兵士達に叩き込んだ。

勿論俺も、部隊に配属されるまでは貴族のボンボンだったから、机上の論理とバカにされることもあったし、実際に全くの的外れな事もやった。
でもそうやって経験を積んで、訓練方法や戦法に還元して………。10年経った今では兵士の死亡率も下がり、何ならその兵士の能力を見込み王宮から引き抜きがかかる程の奴らを育てれるようになっていた。

今じゃ、運が良ければ平民でも王宮勤めができる可能性がある部隊と、平民にも貴族にも人気の部隊になっている。

俺は満足気に周りで歓声をあげる兵士らを見渡した。

「いい奴らが育った。不甲斐ない南部統括隊長が去っても、この部隊が弱くなる事はない……」

「統括隊長………」

「俺はそれで満足だ……」

ポンポンと頭を撫でてやると、ベルは唇を噛み締めて俯いた。

「俺……が…っ!統括の代わりに、俺が魔獣に襲われればよかった…………っ!!」

漏れ出る言葉は、深い後悔の念に濡れて苦い余韻を残す。

「ヤメロ、ベル。お前が襲われてたら、俺は何があってもお前を助けるし、そうなったら噛まれるのは俺だし。今と何一つ変わんねぇだろ」

「…………………」

先月の魔獣の討伐で、俺は脱走奴隷を庇って魔獣に襲われた。右肩に深く食い込んだ牙は骨まで達していて、俺の右腕は思うように動かなくなってしまった。

双刀使いが、片腕を駄目にしてしまえば戦力として落ちる。
そしてベル以外は知らない事。骨に刻まれた、魔獣の呪い。
死ぬ直前の魔獣は呪詛を刻む。新陳代謝のある身体部分ならどうにかなった。
でも骨に刻まれた呪詛は消えない。俺の身体は呪詛に蝕まれ、刻一刻と死に近付いていた。
骨を伝い広がる呪詛は、腐食の呪を全身に運ぶ。もう俺はこうして座ることすらも、激痛で難しくなっていたのだ。

でも、送別の席には来た。気のいい奴らに、統括隊長は元気に領地へ去ったと思われたくて。
酒で幾分か紛れた痛みを押し隠し、俺は席を立つ。

「統括隊長………」

縋るようなベルの声。

「悪いな、後は頼む」

「ウェンス統括、俺は………」

俯くベルの、紡ぐ言葉を待つ。

「ウェンス南部統括隊長。俺は、貴方が、本当に好き、でした」

苦い苦い好意の言葉。ポン、と肩を叩き、俺はそっと酒場の扉を潜った。
歩くたびに悲鳴を上げる身体に鞭を打ち、夜の闇に溶ける路地を進む。くたびれた看板を見上げて、軋む扉を潜り中へ。
小さな酒場はカウンター席だけ。薄暗い店内には客は居らず、マスターがカウンター内にそっと立って俺を待っていた。

「お帰り、ウェンス」

「……叔父さん久し振り」

挨拶もそこそこに、カウンターテーブルにグラスが置かれる。俺の好きな銘柄のウイスキー。
俺は薄っすらと笑った。

「叔父さん、コレ」

グラスと入れ替えるように、カウンターに革袋を置く。ズシャリと、それなりの重量を伺わせる音を立てたソレに、叔父は視線を落とす。

「ウェンス…………」
「明日の朝、出る。多分、大丈夫と思うけどと、もし万が一の時のために叔父さんに渡しといていい?」

呼びかける声に、被せるように言う。叔父は辛そうに唇を戦慄かせ、目頭を押さえた。

「…………ああ」

叔父に渡した金は、俺の・・葬儀代だ。彼は革袋をカウンター内に下ろすと、店の奥に引っ込んでしまった。
それを見送って、俺は懐から布に包まれた物を取り出した。丁寧に布を広げると、黒光りする銃が現れる。リボルバータイプのソレの、シリンダー部分をそっと撫で、俺はポケットから弾を取り出して装填した。

明日の朝一番に魔の森に行く。そしてコレで、この人生を終わらせるつもりだった。
呪詛による苦痛は筆舌に尽くし難く、呪詛が俺の人生を終わらせるまでの間、正気を保っていられる自信がなかったのだ。
だから、俺は明日死ぬ事を選んだ。

魔の森で死ねば、魔獣が俺の身体を喰うだろう。だけど万が一、屍が発見されたら身元引受人の叔父に連絡がいく。だから葬儀代を預けようと思ったんだ。

カラン、と涼し気な音を立てて氷が揺れる。ゆっくり身体に染み込むアルコールの成分が、耐え難い苦痛を与える呪詛を緩和する。
ふぅ……と息を吐き、これで少しは眠れそうだな……と思ったその時、その男が店の扉を潜り……。そして冒頭に戻る。


☆★☆★☆★☆★

「お前、あの時の脱走奴隷、か?」

涙を流し続ける男に声をかける。彼はゆっくりと首を振った。

「俺は奴隷じゃない。番を追って、気配を辿ってこの国に来たんだ」

「………つがい……。お前、獣人か……」

その言葉に頷く男。この魔の森を超えた先にある海を渡った所にある獣人の国。昔、番を求めてこの国に来た獣人が攫うように人間を拉致し、止めに入った者達を殺戮した事がある。

そのため、この国では獣人の入国規制が厳しくて、規制を無視しようもんなら即刻奴隷にさせられるんだが………。

「あの時、入国の審査を受けるために南門に居たんだ。そしたら番の匂いがして、思わず森に向かって走り出して捕まっただけ」

「………だけ、って、それ」

完全アウトだな。魔の森いる魔獣を刺激しかねない行為。そりゃ即奴隷落ちするぞ。

「番がどんどん魔の森に近付いてる気配がして、俺、居ても立っても居られないくて。拘束引き千切って脱走して………」

そして俺達の部隊の前に転がり出てきて、魔獣がコイツに狙いを変更したために俺が咄嗟に庇って………そして噛まれた、と。

「あー、じゃ何か?今、入国できてるんなら審査、通ったんだろう?じゃこんな所にいないで、番の所に行けよ」

出口を指差すと、ヤツは再び涙を流した。

「だから俺は、ここに居る」

「……………あ?」

「アンタ、だよ。俺の番」

「……………………」

ア然として男を凝視する。こんな死にかけの男が番とは、運のねぇヤツ………。あ……、あれか。俺が死んだら、別の番が現れるとか、そんなパターンなのか?獣人の事はよく知らんし、どーでも良いが………。

「アンタが魔獣の呪詛を受けるとは思わなかった。俺たちは獣の部分があるし元が頑丈だから、魔獣の呪詛もどうにかなる。だが人間は死ぬんだろ?」

「あー…………、まぁそうだな」

「だから、俺はアンタを抱きにきた。本来なら礼を尽くし求婚して番として求めるべきだが、時間がない」

「いやいやいや、今にも死にそうなヤツを抱くなよ。番がいなくても今まで生きてこれたんだろ?これからも番なしで頑張れ。それか新しい番?が現れんのを待てよ」

「番は獣人一人に対して、生涯ただ一人だ」

「…………あ、そう」

「見つけた番を手に入れられないなら獣人は発狂する。それに番が死ぬと、獣人は番がいない人生に耐えられなくて軈て死ぬ。だから獣人は自分と番を守るために、人生を分け与える事ができるんだ」

「………分ける?」

「そう。同じ時を生きれる様に。そして共に死ねるように」

随分と重い設定だな、番制度……………。

「受けた呪詛は、獣人の人生を分ければ上書きされて消える」

その言葉に固まる。

「アンタを抱きたい。俺の人生を半分、受け入れてくれ」

「や、ちょっと待て…………」

「俺を置いて、死なないで……………」

まるで懇願するような声音。喪う事が恐ろしくて堪らないというように、震える指差で俺の顔の輪郭を辿る。
俺は、ため息をついて視線を逸した。

「無理、だよ。俺、もうこうやって座ってんのもキッツいのさ。腕一本動かすのも、激痛走んの。お前とセックスとか、まじ無理」

「………………」

何も言わない男。俺はこの店で飲むのを諦めて立ち上がった。まださっき飲んだアルコールが効いてるみたいだ。
動けるうちに家に帰って、宅飲みするか。
一歩踏み出して、走る激痛に顔を顰める。僅かに蹌踉よろめいた俺を、ヤツはそっと背後から支えてきた。

「アンタはそのままでいいよ。動かなくていい。全部、俺がヤる。アンタには激痛を上回る快楽を与えて、グズグズに溶かしてやるよ」

首筋に顔を埋める。そして、『スンっ』と鼻を鳴らして匂いを嗅いできた。

「俺のモノになって………………………」

「ーーーーーっ……」

その小さな刺激に、ナニかのスイッチが入った気がした。マジか……、俺………。

カウンターテーブルに腕を付き、肩を落とす。俺ってこんなにお人好しだったっけ?と思い、そして今まで散々人が良すぎる、バカじゃねぇ?と言われた人生を振り返り、もう一度深くため息をついた。

南部部隊に入った時も、実家に頼み込み装備を購入した時も。そして脱走奴隷(奴隷じゃなかったけど)を庇って魔獣に齧られた時も。確かに俺はお人好しだったんだろうなぁ。

「お前、名前は?」

「レイフ。アンタは?」

「ウェンス」

ウェンス、ウェンス、と転がすように呟いている。俺はゆっくり身体を捻り、レイフを見上げた。

「俺んちで良いか?」

「番の匂いに囲まれるとか、最高」

うっとりと漏らす声に、今度こそ俺は苦笑いしてしまっていた。



☆★☆★☆★☆★

「ヤバい。この匂い、かなりクる」

はぁぁと熱い息を漏らすレイフ。店の扉を出るなりヤツは俺を抱えあげて家へと足速に向かい、教えてもいないベッドルームを探し出しそっと俺をそこに降ろした。

「ウェンスは寝てるだけでいい。じっとしてろ」

顔の両サイドに腕を付き、真上から見下ろしてくる。ひどく整ったキレイな顔。その顔に、明らかに欲が滲む表情を浮かべて、うっとりと呟いた。

落ちてくる唇を避ける事なく受け入れる。啄むように唇を嫐られ、そして許しを請うように閉じた唇を優しくノックしてきた。少し唇を開くと、分厚い舌を捩じ込んできて口腔を蹂躙してくる。
ぬるりぬるりと感触を堪能しながら舌を絡め、口蓋を突き、唾液を流し込み、正しくやりたい放題。

この手のコトに慣れていない俺は、唇が僅かに離れた隙にはふりと詰めていた息を吐いた。溢れた唾液に汚れた顔はさぞ見苦しかろうと、のろりと腕を上げて拭おうとするが、やんわりと押し留められシーツに縫い留められる。

「動くな…………」

ペロリと口元を舐めて囁く。ゆっくりと顔を傾け、角度を変えて再び唇同士は重なり、くちゅくちゅと淫靡な音だけがその場を支配した。

執拗な口付けに夢中になっている間に、スルリとシャツの中に手が差し込まれ、擽るように胸の飾りを掠めた。

「っん……」

ぴくんと反応して跳ねる身体をあやすように、反対の手で腰の辺りを撫で擦る。身体の奥に、呪詛が与える痛みが確かにあるのに、やわやわと与えられる快楽がその痛みを包み込んでしまう。

口付けを受けたまま、胸の突起は指先に摘まれ、ぎゅっと押し潰され、掌で円を描くように優しく撫でられ。その度に甘い痺れが腰の辺りを彷徨う。

「ふ……、ぁ」

「気持ち良さそうだな」

甘い光を瞳に滲ませて、じっと観察するように俺を見つめる瞳。視線を絡ませたまま、レイフの指は胸から離れ脇腹を辿り、迷うことなくズボンの縁からナカに潜り込んだ。

「……………勃ってる」

ふ……と笑いを漏らすレイフ。そりゃそうだろ、あれだけ刺激されたら………。思わず赤くなった俺の頬をそろりと撫でた。

「くっそ嬉しい」

くちっと先走りに濡れるソレを、優しく扱く。直接の刺激にゾワゾワと快感が全身を走る。快楽に身体が反応する度に、痛みも強くなる。だというのに、その痛みすら甘美な刺激に変わって、容赦なく身体を駆け巡る。

「ぁ、何……で………」

「グズグズに溶かすって言ったろ?」

一際強く昂りを扱かれて、呆気なく欲を放ってしまった。

「ん、ぁぁあああっ…………、ぁっ」

「かわいー……………」

うっとりと呟いたレイフは、丁寧な仕草で俺の服を剥ぎ取ると、ゆるりと指を滑らせて後孔へと辿り着いた。

「広げるから、待って」

くちり……と微かな水音と共に指が潜り込む。襲い来る異物感に、苦しくなって眉を顰めた。

「苦しそうな顔も、唆られる」

嬉しそうに呟かれる声に、俺は一瞬ヒヤリとした。コイツ、俺を嬲り喰う気かよ………。

「ここら辺に、確か………」

くちくちと後孔を嬲りながら、ゆっくりと指を動かす。ある一点を擦られて、俺の身体は大きく跳ねた。
い………今の、ナニ?

「見付けた………ウェンスのイイところ」

熱い息が胸元に落ちる。その後に繰り広げられた世界は、天国か地獄か………。甘く痺れるポイントを執拗に刺激され、最後には涙ながらに懇願する俺がいた。

「はっ……ぁ……、ゃあ……っ!レイフ……、れ……ぃふぅ……。も、無理……っは……欲………ぃぃっ………」

動かない右手は捨て置き、左手でレイフにしがみ付く。ヒクリ、とあらぬ部位が甘くヒクついた。

「はァ…………、堪らない」

色気を含ませてため息をついたレイフは、そろりと腰に指を這わせて微笑んだ。

「アンタのイイ所、沢山突いてやる」

硬く起立した自身の昂りを後孔に充てがう。俺が緊張から詰めていた息を吐き出した瞬間を狙って、ソレを中に捩じ込んできた。

「ーーーーーーーっ」

「最初は背後からのが楽でイイんだけどな。それだと呪詛の痛みが強くなる。番うまでコッチで我慢してくれ」

痛みが響かないようにそっと脚を抱えあげる。ググッと更に腰を進めて、最奥を目指す。熱いモノにナカを擦られて、俺は湧き上る快楽の波に揺蕩うことしかできない。

ぱちゅ……ん、と小さな音が、やけに生生しく耳に突く。ぐりりっと腰を密着させて、奥の奥をトントンと突いてくる。その緩くも甘い刺激に、喉の奥を戦慄かせた。

「ふ、んぅ………」

「ッツ!あー…………ガン突きして貪りてぇ………」

ゆるりと腰を回してくる。

「ナカ、目茶苦茶うねってる。分かる?」

腹の上からクッと押さえられて、俺も僅かに頷いた。……が、些細な刺激にも喘ぐ事しかできず、言葉にならない。

優しく繰り返される律動は、ひたすら甘い快楽を生む。緩々と高められ、絶頂は直ぐそこまで来ていた。

「っん、ぁ……は……っ………、は………」

「ああ……イキそうなんだな……」

流れ落ちる汗と、眉根を寄せて苦しげに歪む顔。そして合間合間に聞こえる荒い息遣い。男も感じていると分かり、キュウキュウと中が締まる。

「くっそっ!持ってかれるっ!!」

ギリリっと歯を食いしばって絶頂を回避したレイフは、一度だけ大きく腰を引き抜き、容赦なく最奥に突き立てた。同時に首筋に噛み付き牙を立てる。

「はっ……………!!」

その強烈な衝撃に、中の熱い昂りを食い千切る勢いで締め付け………。俺は何かが身体を書き換え、組替える感覚を感じながら、えげつないくらい激しい絶頂を迎えた。

「っ!出る……っ」

と、同時に熱い迸りを感じ、レイフもその時を迎えたのが分かった。

「っはぁ…………」
「ん…………」

余韻に浸りながら、互いに甘い息が漏れる。気怠く投げ出した四肢に痛みを感じる事は既になく、俺はトロリと滲む甘美な疲労感に重い瞼を瞬かせた。

「寝ろよ。今まで碌に眠れてねぇんだろ?」

そろりと気遣うように髪が掬い上げられる。僅かに唇を動かしてみたものの、霞む脳裏に浮かぶ言葉を紡ぐ気力はなくて。
俺はゆっくりと瞼を閉じた。

「オヤスミ、俺の番。良い夢を………」

愛しげに囁かれる言葉を遠くに聞きながら、眠りの世界に落ちていったのだった。


☆★☆★☆★☆★

朝日が瞼を刺激する。久し振りに纏った時間の睡眠が取れた俺は、すんなりと浮上する意識と共に目を開けた。
クシャリと前髪を掻き上げたところで、俺はそれに気付いてマジマジと自分の右腕を見つめる。

「動く…………」

「当たり前だ。俺の人生を分けたんだから」

「…………!」

不意にかけられた声に、慌てて横を向くとそこに灰黒色の髪の男がいた。

「お前…………」

「レイフ、だ。忘れたのか、俺の愛しい番」

指の背で優しく頬を無でる。愛おしげに目を細めて、甘やかに微笑んできた。

「ウェンス、俺の名前を呼んでくれ」

「…………………。」

まじまじと見つめる。そしてもう一度腕に視線を向けて、フッと笑った。
動く右腕の指で形のいいレイフの唇に触れる。

「俺なんかに人生を分けるとは、損な役割りだな、レイフ」

「損、か………」

唇を開き、ぱくりと指を喰む。ねっとりと舌を這わせて、昨夜の行為を思い出させるように、淫靡な笑みを浮かべた。

「番を手に入れて、名を呼ばれる栄誉を手に入れたんだ。そもそも番は損得で考えるものでもねぇよ」

両腕を伸ばして俺を抱き込む。髪に顔を埋めて、レイフは呟いた。

「獣人の国に行こう、ウェンス。上書きしたとはいえ、まだお前の体調は万全じゃない。向こうで養生してくれねぇか?」

「こっちじゃダメなのか?」

「呪詛に関する薬草は、あっちの方が豊富だ」

「なるほど……」

そういえば、『魔獣の呪詛もどうにかなる』とか言ってたな。その方法が、その薬草か。

俺は瞳を閉じて、ガッチリした胸元に甘えるように額をスリッと擦り付けた。

「ま、俺も退職して暇だし。行くか、獣人の国」

「ッ!!!」

思わず、といった感じで、レイフが俺の肩を掴んで己の身体から引き離す。

「?」

何だ?と首を傾げると、レイフは真っ赤に染まった顔のままウロウロと視線を彷徨わせた。

「む…………胸元に擦り寄る行為は、信頼と愛情の表現だ。アンタ、俺を愛してるのか?」

「は?」

「俺には番が何よりも一番だ。愛しいし尊いと思ってる。だがアンタは人間だ。昨日出逢ったばっかりの、求婚すらままならなかった男を、愛せる……のか?」

精悍な顔に似合わない戸惑いの表情を浮かべるレイフに、俺は思わず笑いだしてしまった。

「ははは………っ!嫌だったら、そもそも抱かれてねぇよ。大人しく死を迎えてる」

「や、そうじゃなく………」

モゴモゴと口籠る。

「嫌じゃない、とかじゃなくて………」

「あぁ……」

言い淀む男に、俺は笑いを引っ込めて囁いた。

「俺はお前を………レイフを愛してるよ。出逢ったばかりでも、惹かれてしまったんだから、仕方ない」

感極まった!という顔で、再び俺をぎゅうぎゅうに抱き締める。獣人は総じて力強いんだ。少しは手加減しろよ。

ぽんぽんと腕を軽く叩く。

「ま、出逢ったばかりの俺達だ。名前以外は何にも知らないしな。今日はいろいろ話をしようじゃないか」

「ーーっ、ぁあ……そうだな。本当に、そうだ」

「じゃ、先ず俺からな。お前、獣人って言うけど、何の獣人?」

「俺か?俺はーーーーーーー」


柔らかな朝の陽射しに包まれて、睦み合う番が一組。幸せと喜びを醸し出す彼らの人生は、今、これから始まる。



■□■□■□■□■□■

南部部隊:10の小部隊があり、それぞれに部隊長がいる。統括部隊長は、その小部隊長を取りまとめるトップ。

ウェンス(26歳):伯爵家三男。魔獣討伐部隊のあり方に義憤を感じて、一番過酷な南部部隊に望んで入団した変わり者。貴族らしいシルバーブロンドの髪に碧眼の持ち主。鍛えても筋肉の付きが薄いのが悩みのタネ。でも双刀使いでそれなりの力はある。

レイフ(27歳):本文では出さなかったけど、チーターの獣人。本来ならその身体機能は素晴らしく、魔獣如きにやられることはない。

今回の失態は、探し求めて漸く出会えた番の匂いに酔ってしまって、部隊の前に転がり出てしまったため。

恥ずかしいので、ウェンスには一生ヒミツ。
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平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

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