漆黒の闇に誓う愛

飛鷹

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夢の花は真夜中に花開く。

2.【受け視点】

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「フィオ!」

呼ばれてくるりと振り返れば、幼馴染のナスカが走って近付いてくるところだった。

「どうしたの、ナスカ?」

足を止めて彼が側まで来るのを待つ。隣に並んだタイミングで歩き出しながら、フィオはナスカを見上げつつ小首を傾げた。
同じ年ながら、発育の良いナスカは同年代の仲間と比べても頭ひとつ分ほど身長が高い。
もう17歳になるというのに小柄なままの自分とは大違いだ、とフィオは心の中で呟いた。

「来週、成人の儀があるだろ?フィオはこれからどうすんの?」

「ああ……」

そろりと視線を逸して口の端で苦く笑った。

「僕には成人の儀は無理だから。このままこの国に残るよ」

「残って薬師になるつもり?」

「そうだなぁ……」

指を顎に当てて「ん~……」と考える。

「先生が許可をくれたら、ね。でもまだ未熟だから、先生について色々教わる予定」

「そっか……」

ナスカはフィオの小麦色の頭を見下ろす。猫科特有の、靭やかに動く尻尾が一度不機嫌そうにしなり、パシリとフィオが持つカバンを叩いた。

「ナスカ、どうしたの?」

「…………お前さ、あの人間に懐き過ぎじゃね?」

「だって良い方だよ?こんな僕を弟子にもしてくれたし。先生がいなかったら、僕この先一人で生きていく術を身につける事できなかったよ」

「それは、そうだろうけど……」

ナスカは少し口ごもり、拗ねたように唇を尖らせた。
幼馴染だから、フィオが成人の儀には参加できない理由を知っていた。大人になれないフィオは、いつまでも小柄で華奢な体躯をしている。
それは一部の人間には絶大な人気をはくしていて、気の早い者は既に求婚状をフィオの両親へ送っていると聞いた。

フィオは『大人』になれないだけ。可愛い狐の耳や尻尾はそのままに、身体は成熟するから子を成すことも可能なのだ。ある意味、獣人マニアなヤツらからしてみたら理想そのものな姿のフィオにイタズラをしてくる人間は時々いて、それをフィオの幼馴染たちは協力しながら蹴散らしていたのだ。

そもそも獣人の国に住み着く人間なんて変わり者ばかり。
例えフィオが言う『先生』が良い人であっても、油断は禁物なのだ。だけど、フィオにはそれが分からない。

「でもさ、フィオ。もう俺たちはあと少ししたら旅立つ。ここに残るお前を守ることができねーんだよ」

「そうだね………」

フィオは眩しそうに優しい目を細めて、ナスカを見つめた。

「寂しくなるよ………。でも僕は大丈夫」

にこりと微笑んで見せる。

「先生から護身に使える薬草ボムの作り方も習ってるんだよ。結構効き目がエグいから、ナスカに旅の御守としてあげるよ」

「へぇ………」

はいっと手渡された小さな水風船の様な物。柔らかくはあるものの、弾力ある膜で作られたソレはナスカの掌でぷにぷにと弾むように揺れた。

「使う時は投げ付けてね。当たらなくても、半径1メートルくらいの中に対象がいたら効果あるから」

「どうなんの?」

「ん?普通に死ぬ」

「は?」

「え?」

「こ………効果、エグくない?」

「だから、さっきエグいって言ったじゃん」

「や、言ったけどさぁ……。護身用なんだろ?殺傷力、本気過ぎねぇ?」

「それね、僕も先生に言ったんだよ。そうしたら、『貴方に手を出そうとする変態たちに、諦めるって言葉はないですから。ヤるなら徹底的に』って」

「…………………へぇ」

「まぁ、僕も人を殺したくはないから、今少し効果を抑えたやつ開発中なんだ。それだったら、この国に嫁いで来てくれた人間に狩りや山菜取りで魔獣に襲われないように渡せるでしょ?」

「そっか。そりゃイイ事だな」

賛同すれば、フィオは嬉しそうに笑った。それを微笑ましく眺めながら、『先生』とやらの本気を見た気がしたナスカは少し寒気を覚えて、むき出しの腕を擦りつつ身震いしたのだった。
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