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夢の花は真夜中に花開く。
3.【受け視点】
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「先生、こんにちは」
街から外れた、森に近い場所に立つ門扉を潜って暫く歩くと、その家は見えてきた。随分と立派な建物ではあるけど、貴族や金持ちの人達が好みそうな繊細さはなく、どちらかと言うとドッシリと重厚感のある邸宅だった。
先生と出会って、早くも10数年が経つ。小さい頃フィオを診てくれた神官の勧めで、薬師である先生に薬を依頼するようになったのが切っ掛け。時々体調が崩れて寝込む事はあるけど、それでも成人の儀の年まで生きていられたのは先生のお陰なのだ。
勝手知ったる先生の家。返事がなくても勝手に扉を開けて中に入る。
先生は子供のフィオから見てもビックリするくらいキレイな人で、初めて会った時には身体の怠さも吹き飛んでマジマジと見上げてしまった。
美しい金の髪と、神秘的な薄紅の瞳。陶器と見紛うばかりの白い肌。何よりもその完璧に整った顔は、いっそ神々しいばかりだった。
先生は不躾な視線を向けるフィオにも嫌な顔一つせずに、膝を付いて優しく両手を包み込み挨拶をしてくれた。
『初めまして、フィオ。大切な貴方が元気になれるように、精一杯頑張りますね』
『たいせつ?』
『はい、大切です。ですから、いつでも私を頼ってくださいね?貴方に何かあったら、私が困りますから』
不思議な物言いに、コテリと首を傾げる。そしてよく分からないのは、自分が子供だから?と両親へ視線を向けると、両親も困ったように眉を下げて何とも言えない顔になっていた。
「あれは何だったんだろうね?」
時々思い出しては、やっぱり首を傾げてしまう。『先生は人間なのに、獣人みたいな事をいうよね』とは母の言葉だ。
それにはフィオも同意しかない。
人間なのに、時々凄く餓えたような眼をする先生に怯えてぴくんと肩を揺らした事は正直数え切れないくらいにある。
ーーーーバレないように取り繕うのが大変……。
フィオは先生の事が大好きだ。なのに、あの眼だけはどうしても慣れないし、怖いと感じてしまうのだ。
苦笑いしつつ邸内を進み、目的の人物を探した。
今はまたギリギリ午前中と言える時間帯。でもどうやら先生はまだお休み中の様だ。
スン、と鼻を鳴らす。やっぱり寝室からの匂いが強い。
「どうしようかな……」
きっと昨夜は研究で夜更かしをしたのだろう。今の調剤技術だけでは満足しないで、新たな薬の開発に余念がない先生は確かに凄い。凄いとは思うけど、一人間としては生活能力が低すぎてビックリしてしまう。
さてどうしたものか、と念のためダイニングルームを覗くと、一昨日フィオが作ったスープの鍋がテーブルに鎮座したままだった。
ーーーーこれは多分、昨日一日何も食べてないね………。
大きくため息を落とす。初めてあった時、神秘的な存在だと感じた先生は、ただの浮世離れした研究バカだったんだ。
まぁ、勝手に崇めてしまったのは自分なので、先生は悪くない。
でも、流石に初めて家を訪れて、この生活能力のなさを見た時にはちょっとショックだったけれども。
手早くテーブルを片付けて、キッチンへ運ぶ。簡単な食事を作ってから起こすとしよう。
そう考えて、食料庫から適当に材料を引っ張り出し、胃に優しいメニューを考えつつ包丁を握りしめた。
「先生、起きてます?」
コンコンと扉を叩く。しかし返事はなくて、しーんと静まり返る寝室。
勝手知ったる先生の家だけど、寝室に入ったことは数えるくらいしかない。どうしようかと思う。でも確か今日は薬師ギルドに行く予定だと言っていたような……。
逡巡したフィオは、先生の予定を思い出して意を決して扉を開けた。
「…………せんせぇ?」
そっと声を潜めて呼びかける。カーテンを締め切って薄暗い部屋は、先生の匂いに満ちていて少しドキドキしてしまった。
ベッドに膨らみがうっすらと見える。狐は夜目が効くけど、不思議と部屋の中は視界が悪い。
足元に注意しつつゆっくり歩いたせいか、足音も立てずに近付く形となってしまい、フィオは小さく笑った。
ーーーー起こすために近付いてるのに。
なのに起こさないように注意している自分が可笑しい。そう思いつつ、更にベッドに近付いたフィオは思わず息を飲んでしまった。
そこには。
先生と、もう一人…………。
別の人間が寝ていたのだ。
そして二人とも、夜着も服も…………。着てはいなかった……。
街から外れた、森に近い場所に立つ門扉を潜って暫く歩くと、その家は見えてきた。随分と立派な建物ではあるけど、貴族や金持ちの人達が好みそうな繊細さはなく、どちらかと言うとドッシリと重厚感のある邸宅だった。
先生と出会って、早くも10数年が経つ。小さい頃フィオを診てくれた神官の勧めで、薬師である先生に薬を依頼するようになったのが切っ掛け。時々体調が崩れて寝込む事はあるけど、それでも成人の儀の年まで生きていられたのは先生のお陰なのだ。
勝手知ったる先生の家。返事がなくても勝手に扉を開けて中に入る。
先生は子供のフィオから見てもビックリするくらいキレイな人で、初めて会った時には身体の怠さも吹き飛んでマジマジと見上げてしまった。
美しい金の髪と、神秘的な薄紅の瞳。陶器と見紛うばかりの白い肌。何よりもその完璧に整った顔は、いっそ神々しいばかりだった。
先生は不躾な視線を向けるフィオにも嫌な顔一つせずに、膝を付いて優しく両手を包み込み挨拶をしてくれた。
『初めまして、フィオ。大切な貴方が元気になれるように、精一杯頑張りますね』
『たいせつ?』
『はい、大切です。ですから、いつでも私を頼ってくださいね?貴方に何かあったら、私が困りますから』
不思議な物言いに、コテリと首を傾げる。そしてよく分からないのは、自分が子供だから?と両親へ視線を向けると、両親も困ったように眉を下げて何とも言えない顔になっていた。
「あれは何だったんだろうね?」
時々思い出しては、やっぱり首を傾げてしまう。『先生は人間なのに、獣人みたいな事をいうよね』とは母の言葉だ。
それにはフィオも同意しかない。
人間なのに、時々凄く餓えたような眼をする先生に怯えてぴくんと肩を揺らした事は正直数え切れないくらいにある。
ーーーーバレないように取り繕うのが大変……。
フィオは先生の事が大好きだ。なのに、あの眼だけはどうしても慣れないし、怖いと感じてしまうのだ。
苦笑いしつつ邸内を進み、目的の人物を探した。
今はまたギリギリ午前中と言える時間帯。でもどうやら先生はまだお休み中の様だ。
スン、と鼻を鳴らす。やっぱり寝室からの匂いが強い。
「どうしようかな……」
きっと昨夜は研究で夜更かしをしたのだろう。今の調剤技術だけでは満足しないで、新たな薬の開発に余念がない先生は確かに凄い。凄いとは思うけど、一人間としては生活能力が低すぎてビックリしてしまう。
さてどうしたものか、と念のためダイニングルームを覗くと、一昨日フィオが作ったスープの鍋がテーブルに鎮座したままだった。
ーーーーこれは多分、昨日一日何も食べてないね………。
大きくため息を落とす。初めてあった時、神秘的な存在だと感じた先生は、ただの浮世離れした研究バカだったんだ。
まぁ、勝手に崇めてしまったのは自分なので、先生は悪くない。
でも、流石に初めて家を訪れて、この生活能力のなさを見た時にはちょっとショックだったけれども。
手早くテーブルを片付けて、キッチンへ運ぶ。簡単な食事を作ってから起こすとしよう。
そう考えて、食料庫から適当に材料を引っ張り出し、胃に優しいメニューを考えつつ包丁を握りしめた。
「先生、起きてます?」
コンコンと扉を叩く。しかし返事はなくて、しーんと静まり返る寝室。
勝手知ったる先生の家だけど、寝室に入ったことは数えるくらいしかない。どうしようかと思う。でも確か今日は薬師ギルドに行く予定だと言っていたような……。
逡巡したフィオは、先生の予定を思い出して意を決して扉を開けた。
「…………せんせぇ?」
そっと声を潜めて呼びかける。カーテンを締め切って薄暗い部屋は、先生の匂いに満ちていて少しドキドキしてしまった。
ベッドに膨らみがうっすらと見える。狐は夜目が効くけど、不思議と部屋の中は視界が悪い。
足元に注意しつつゆっくり歩いたせいか、足音も立てずに近付く形となってしまい、フィオは小さく笑った。
ーーーー起こすために近付いてるのに。
なのに起こさないように注意している自分が可笑しい。そう思いつつ、更にベッドに近付いたフィオは思わず息を飲んでしまった。
そこには。
先生と、もう一人…………。
別の人間が寝ていたのだ。
そして二人とも、夜着も服も…………。着てはいなかった……。
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