貧乏子爵家の僕が『聖女様』なんてあり得ない!

寝転 プリン

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10話 聖女と呼ばれた人

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 全ての授業を終えて帰路につくと、通学路を一人で歩いている僕の後ろから、ガラガラと馬車の音が聞こえてきた。
 この辺りはあまり人通りもないし、ましてや馬車なんて通ったのは初めてのこと。明らかに怪しすぎる。
 まさか人攫いなのではと思い身構えていると、馬車に乗っていたのは予想外の人物だった。

「レオナルド、君の家まで私の馬車で送ろう。遠慮せずに乗って行くと良い」

「アルト…!?どうしてここに?」

 馬車に乗っていたのはなんとアルトで、彼は僕のすぐ傍で馬車を制止させると、僕の前へと降り立つ。
 この道はアルトの住むお屋敷からは遠いはずだ。なのに何故こんな道を通っているのだろう?
 そう思ってアルトに問いかけると、アルトは少し気まずそうに視線を逸らしながら答えた。

「調査からなるべく早く帰れるように心がけはするが、君と会えるのはしばらく先だと思うと…その…。何故だか居ても立っても居られなくなってしまってな…」

 視線をうろうろとさせながら話すアルトに、僕は無性に嬉しさを感じてしまう。
 出発直前のアルトの邪魔にならないようにと遠慮していたが、僕もアルトともっと話したかったなという心残りがあったから。まさか彼も自分と同じ気持ちでいてくれたなんて。
 自然とにやけてしまう顔を引き締めて、僕はアルトにお願いした。
 
「実は僕もアルトとまた話したいと思っていたんです。お言葉に甘えて、馬車に乗ってもいいですか?」

「あぁ、もちろんだとも」

 僕の言葉にアルトは口角を上げて、僕へと右手を差し出してくる。はて?と思って首を傾げていると、アルトはそのまま僕の手を取って引き寄せた。

「この道は街灯もなく暗い。それに、馬車に乗るには段差もあるし危ないだろう?わざわざ迎えに来たのに転倒なんてしたら、元も子もないしな。だから私が君の手を引いてあげようと思ったのだ」

 なんだかアルトが王子様みたいにキラキラ輝いて見えて、僕は目を瞬かせた。
 ――いや、確かにアルトはこの国の第二王子ではあるんだけど…。まるで巷で噂のロマンス小説に出てくる、爽やか王子様みたいだというか…。
 結局僕はアルトに手を引かれるままに馬車へと乗り込み、そのまま馬車は僕の家に向けて発進したのだった。


 馬車に乗っている間、僕らは絶え間なく他愛ない会話を続けていた。
 今日の授業のことや、普段学園でどう過ごしているのかなど…。昨日知り合った僕らはまだお互いのことを何も知らない為、いくら話しても話題は尽きない。
 その会話の中で、アルトはぽつりと呟いた。

「こんな時、伝承にある”聖女”とやらが居てくれれば心強いのだがな…」

「聖女様、ですか…」

 この国に古くから伝わる伝承で、聖女と呼ばれる人物がいた。
 彼女は何百年も前に世界中に広がった瘴気を祓い、平和をもたらしたのだという。
 更には魔法に等しい治癒術を使って、怪我をした人や病に苦しむ人々を救ったのだとか。そして、魔法を使えたのは後にも先にも聖女ただ一人。
 生活の必需品として微量の魔素を含む"魔鉱石"というものは存在するが、それも限られた地域でしか取れず、今後魔鉱石不足の問題が起きるのではと騒がれている。
 便利な灯りや火が使えなくなるかもと思うと、何とも恐ろしい話だ。

「まぁ、あんなものはただのおとぎ話にしかすぎないがな。魔法なんてこの世には存在しないのだから……。
 そもそも聖女がもし実際にいたのだとしたら、私がこれから向かうカルヴァ・アビスが現代まで残っていることへの辻褄が合わない」

「そうですね…。でも、僕もまさに今この時、アルトに降りかかるであろう瘴気を払ってくれる聖女様がいたらと考えずにはいられません」

 アルトが無事に帰ってきてくれるのであれば、僕は架空の存在にも喜んで手を合わせられる。
 シンと静まった馬車の中、僕らは刻一刻と迫り来る闇に目を背けるように、そっと目を閉じたのだった。
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