10 / 19
10話 聖女と呼ばれた人
しおりを挟む
全ての授業を終えて帰路につくと、通学路を一人で歩いている僕の後ろから、ガラガラと馬車の音が聞こえてきた。
この辺りはあまり人通りもないし、ましてや馬車なんて通ったのは初めてのこと。明らかに怪しすぎる。
まさか人攫いなのではと思い身構えていると、馬車に乗っていたのは予想外の人物だった。
「レオナルド、君の家まで私の馬車で送ろう。遠慮せずに乗って行くと良い」
「アルト…!?どうしてここに?」
馬車に乗っていたのはなんとアルトで、彼は僕のすぐ傍で馬車を制止させると、僕の前へと降り立つ。
この道はアルトの住むお屋敷からは遠いはずだ。なのに何故こんな道を通っているのだろう?
そう思ってアルトに問いかけると、アルトは少し気まずそうに視線を逸らしながら答えた。
「調査からなるべく早く帰れるように心がけはするが、君と会えるのはしばらく先だと思うと…その…。何故だか居ても立っても居られなくなってしまってな…」
視線をうろうろとさせながら話すアルトに、僕は無性に嬉しさを感じてしまう。
出発直前のアルトの邪魔にならないようにと遠慮していたが、僕もアルトともっと話したかったなという心残りがあったから。まさか彼も自分と同じ気持ちでいてくれたなんて。
自然とにやけてしまう顔を引き締めて、僕はアルトにお願いした。
「実は僕もアルトとまた話したいと思っていたんです。お言葉に甘えて、馬車に乗ってもいいですか?」
「あぁ、もちろんだとも」
僕の言葉にアルトは口角を上げて、僕へと右手を差し出してくる。はて?と思って首を傾げていると、アルトはそのまま僕の手を取って引き寄せた。
「この道は街灯もなく暗い。それに、馬車に乗るには段差もあるし危ないだろう?わざわざ迎えに来たのに転倒なんてしたら、元も子もないしな。だから私が君の手を引いてあげようと思ったのだ」
なんだかアルトが王子様みたいにキラキラ輝いて見えて、僕は目を瞬かせた。
――いや、確かにアルトはこの国の第二王子ではあるんだけど…。まるで巷で噂のロマンス小説に出てくる、爽やか王子様みたいだというか…。
結局僕はアルトに手を引かれるままに馬車へと乗り込み、そのまま馬車は僕の家に向けて発進したのだった。
馬車に乗っている間、僕らは絶え間なく他愛ない会話を続けていた。
今日の授業のことや、普段学園でどう過ごしているのかなど…。昨日知り合った僕らはまだお互いのことを何も知らない為、いくら話しても話題は尽きない。
その会話の中で、アルトはぽつりと呟いた。
「こんな時、伝承にある”聖女”とやらが居てくれれば心強いのだがな…」
「聖女様、ですか…」
この国に古くから伝わる伝承で、聖女と呼ばれる人物がいた。
彼女は何百年も前に世界中に広がった瘴気を祓い、平和をもたらしたのだという。
更には魔法に等しい治癒術を使って、怪我をした人や病に苦しむ人々を救ったのだとか。そして、魔法を使えたのは後にも先にも聖女ただ一人。
生活の必需品として微量の魔素を含む"魔鉱石"というものは存在するが、それも限られた地域でしか取れず、今後魔鉱石不足の問題が起きるのではと騒がれている。
便利な灯りや火が使えなくなるかもと思うと、何とも恐ろしい話だ。
「まぁ、あんなものはただのおとぎ話にしかすぎないがな。魔法なんてこの世には存在しないのだから……。
そもそも聖女がもし実際にいたのだとしたら、私がこれから向かうカルヴァ・アビスが現代まで残っていることへの辻褄が合わない」
「そうですね…。でも、僕もまさに今この時、アルトに降りかかるであろう瘴気を払ってくれる聖女様がいたらと考えずにはいられません」
アルトが無事に帰ってきてくれるのであれば、僕は架空の存在にも喜んで手を合わせられる。
シンと静まった馬車の中、僕らは刻一刻と迫り来る闇に目を背けるように、そっと目を閉じたのだった。
この辺りはあまり人通りもないし、ましてや馬車なんて通ったのは初めてのこと。明らかに怪しすぎる。
まさか人攫いなのではと思い身構えていると、馬車に乗っていたのは予想外の人物だった。
「レオナルド、君の家まで私の馬車で送ろう。遠慮せずに乗って行くと良い」
「アルト…!?どうしてここに?」
馬車に乗っていたのはなんとアルトで、彼は僕のすぐ傍で馬車を制止させると、僕の前へと降り立つ。
この道はアルトの住むお屋敷からは遠いはずだ。なのに何故こんな道を通っているのだろう?
そう思ってアルトに問いかけると、アルトは少し気まずそうに視線を逸らしながら答えた。
「調査からなるべく早く帰れるように心がけはするが、君と会えるのはしばらく先だと思うと…その…。何故だか居ても立っても居られなくなってしまってな…」
視線をうろうろとさせながら話すアルトに、僕は無性に嬉しさを感じてしまう。
出発直前のアルトの邪魔にならないようにと遠慮していたが、僕もアルトともっと話したかったなという心残りがあったから。まさか彼も自分と同じ気持ちでいてくれたなんて。
自然とにやけてしまう顔を引き締めて、僕はアルトにお願いした。
「実は僕もアルトとまた話したいと思っていたんです。お言葉に甘えて、馬車に乗ってもいいですか?」
「あぁ、もちろんだとも」
僕の言葉にアルトは口角を上げて、僕へと右手を差し出してくる。はて?と思って首を傾げていると、アルトはそのまま僕の手を取って引き寄せた。
「この道は街灯もなく暗い。それに、馬車に乗るには段差もあるし危ないだろう?わざわざ迎えに来たのに転倒なんてしたら、元も子もないしな。だから私が君の手を引いてあげようと思ったのだ」
なんだかアルトが王子様みたいにキラキラ輝いて見えて、僕は目を瞬かせた。
――いや、確かにアルトはこの国の第二王子ではあるんだけど…。まるで巷で噂のロマンス小説に出てくる、爽やか王子様みたいだというか…。
結局僕はアルトに手を引かれるままに馬車へと乗り込み、そのまま馬車は僕の家に向けて発進したのだった。
馬車に乗っている間、僕らは絶え間なく他愛ない会話を続けていた。
今日の授業のことや、普段学園でどう過ごしているのかなど…。昨日知り合った僕らはまだお互いのことを何も知らない為、いくら話しても話題は尽きない。
その会話の中で、アルトはぽつりと呟いた。
「こんな時、伝承にある”聖女”とやらが居てくれれば心強いのだがな…」
「聖女様、ですか…」
この国に古くから伝わる伝承で、聖女と呼ばれる人物がいた。
彼女は何百年も前に世界中に広がった瘴気を祓い、平和をもたらしたのだという。
更には魔法に等しい治癒術を使って、怪我をした人や病に苦しむ人々を救ったのだとか。そして、魔法を使えたのは後にも先にも聖女ただ一人。
生活の必需品として微量の魔素を含む"魔鉱石"というものは存在するが、それも限られた地域でしか取れず、今後魔鉱石不足の問題が起きるのではと騒がれている。
便利な灯りや火が使えなくなるかもと思うと、何とも恐ろしい話だ。
「まぁ、あんなものはただのおとぎ話にしかすぎないがな。魔法なんてこの世には存在しないのだから……。
そもそも聖女がもし実際にいたのだとしたら、私がこれから向かうカルヴァ・アビスが現代まで残っていることへの辻褄が合わない」
「そうですね…。でも、僕もまさに今この時、アルトに降りかかるであろう瘴気を払ってくれる聖女様がいたらと考えずにはいられません」
アルトが無事に帰ってきてくれるのであれば、僕は架空の存在にも喜んで手を合わせられる。
シンと静まった馬車の中、僕らは刻一刻と迫り来る闇に目を背けるように、そっと目を閉じたのだった。
28
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?~前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します~
いつく しいま
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。
――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん!
ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――
いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。
これは見過ごせない……!
腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…?
「俺のものになって」
「ちょっと、この子を独占しないでよ」
「お前こそ」
ちょっと困るって!
これは、法的事案だよ……!
***
※男主人公をめぐる逆ハーレムあり
※法廷・ミステリーパートの描写あり(基本理解できる範囲になっております)
以前こちらで投稿していた作品を、2章の構成を整えて再投稿します。以前読んでくださっていた方、本当にありがとうございました。36話まで1日3回(11時半、15時半、19時半)予約投稿済みです。
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
α様に囲われて独立が出来ません!
翠 月華
BL
男女という性別に加え第二の性別アルファ、ベータ、オメガというモノがある世界。
そんな世界には愚かな過去がある。一昔前、オメガは疎まれ蔑まられていた。そんなオメガ達だがある日を境に数が減少した。その哀しき理由に気づかず、オメガを酷似した結果オメガは宇宙の人口の一割以下まで減った。そして、人々は焦りオメガを保護という名で囲っていった。
そんな世の中に一人の平凡で平穏な暮らしを望むベータ、那央がいた。
しかし、那央はベータではなく、オメガだった。
那央の運命はいかに…
聖女を演じた巻き添え兄は、王弟殿下の求愛から逃げられない
深嶋(深嶋つづみ)
BL
谷口理恩は一年ほど前、妹と一緒に異世界に転移してしまった。
聖女として魔術の才を開花させた妹・世奈のおかげもあって、二人はアルゼノール王国の大教会に保護され、不自由のない暮らしを送ることができている。が、最近は世奈の奔放さに理恩は頭を抱えることもあった。
ある日、世奈の仕事を肩代わりした理恩は、病に臥せっている幼い第二王子・イヴァン王子のもとに参じることに。
――「僕が大人になったら、僕の妃になってくれませんか」。
何度も謁見を重ねるうちに理恩に懐いた彼は、目の前の聖女が偽者であることに気付かぬまま、やがて理恩に求愛する。
理恩は驚き、後ろめたい気持ちを抱きながらも、「大人になっても同じ気持ちでいてくれたなら」と約束を交わした。
その直後、何者かの陰謀に陥れられた世奈の巻き添えとなり、理恩は辺境の地へと飛ばされてしまい……。
――数年後、アルゼノール王国を出て世界中を巡っていた理恩は、とある国で偶然、王弟・イヴァンと再会する。
傷心の旅をしているのだという彼は、どういうわけか理恩との交流を持ちたがって――?
つがいごっこ~4歳のときに番ったらしいアルファと30歳で再会しまして~
深山恐竜
BL
親が言うには、俺は4歳のときにうなじを噛まれたらしい。
子どもがたくさんいる遊び場で、気が付いたらそうなっていたとか。
うなじに残る小さな歯型。
これを得られたのは、正直かなりラッキーだった。
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる