貧乏子爵家の僕が『聖女様』なんてあり得ない!

寝転 プリン

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11話 家族団欒

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 アルトが馬車で送ってくれたおかげで、普段よりもずいぶん早くに僕は我が家に到着した。
 母さんはまさか僕がこんな時間に帰ってくるとは思っていなかったらしく、慌ただしく僕の元へと駆けてくる。その体にはエプロンがついたままで、アルトは僕に向かって不思議そうに尋ねてきた。

「君の家にはメイドがいないのか?確か初めて出会った時も、お母上の手料理について思い出していたようだが…」

「ご指摘の通り、僕の家にはメイドはいません。貴族としてはあり得ないことだと思いますが、僕らは誰かに甲斐甲斐しくお世話をされるよりも、自分達の力で生活することを望んでいるんです」

「なるほど…そういう考え方もあるのだな」

 第二王子として常に周りからお世話をされてきたアルトは、僕ら家族の考え方はあまり理解できないものだろう。それでもアルトは僕の言葉に理解を示してくれて、王族だからと驕る事のない彼に僕は魅力を感じた。
 母さんはハァハァと息を切らしながら僕らの元に到着し、呼吸が整ってきたところでやっと口を開いた。

「レオ!!今日は逆にとっても早く帰ってきたのね?昨日に続いて馬車の音が聞こえてきたから、母さん慌てて家を飛び出してきちゃった!!
 ――それで、えっと…レオのお隣にいるそちらの方は?なんだか凄く高貴な方に見えるのだけれど…」

 母さんがそう聞くと、アルトは息を呑むほどに洗練された動きで右足を引き、右手を体に添えてから左手を水平に差し出す"ボウ・アンド・スクレープ"を披露した。

「私はスペディナ王国第二王子、アルト・スターリッジと申します。ご子息であるレオナルドとは友人であり、本日は彼を私の馬車で送り届けに参りました」

 母さんはアルトの自己紹介を受け、驚きのあまり絶句して固まってしまう。二日連続で驚かせてしまって申し訳ないけど、僕としては友人であるアルトを紹介できる場を設けてもらえて嬉しかった。

「母さん、何度も驚かせてごめんね。僕もまさかアルト様に馬車へ乗せてもらえるとは思ってなかったんだけど…」

「いいのよ、レオ。あなたのお友達である殿下とご挨拶ができて、母さんは嬉しいわ!」

 母さんは僕に向けて朗らかにそう言った後、アルトに向けてカーテシーを返した。

「殿下、お忙しい中我が家に足を運んでくださりありがとうございます。もし良ければ一緒にお食事はいかがですか?」

 母さんの思い切った誘いに、僕はアルトの様子を伺うように顔を見上げた。アルトは幼い頃から毒の訓練を受けているし、常に食べ物には警戒している。そんな彼が僕の母さんの料理を食べるなんて、例え友人の母だとしても不可能だろう。
 僕の予想通りアルトは少し困ったような表情を浮かべていて、僕は咄嗟に母さんに向けてこう伝えた。

「母さん…僕の友人に優しくしてくれるのはありがたいけど、アルトは王子様だしそれは難しいよ」

「いや…お言葉に甘えて、ご一緒させてもらうよ。明日に向けての準備があるから、あまり長居は出来ないがね」

 僕の家族のことを信じてくれるというのは、同時に僕に対しての信頼も意味する。アルトはそれが分かっているからこそ、母さんからの食事の誘いを受けたんだろう。
 つくづく良い友人だなと思っていると、母さんは腕まくりをしながら鼻息を荒くして答えた。

「それなら、殿下のためにも腕によりをかけて作りますね!」

 こうして僕らは一緒に食卓を囲むことになったのだけど、アルトは怖がることもなく純粋に楽しみにしているようだった。

「君があれだけ幸せそうに思いを馳せていたお母上の料理達が味わえるなんてな」

「あの時のことは恥ずかしいから忘れてください…っ」

 マリア様から紅茶をぶっかけられた後、呑気に母さんの手料理を思い出していたなんて、思い返しただけで恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
 母さんは宣言通り、いつもよりかなり豪華な料理を作ってくれた。元々今日は僕が友人を作ったことのお祝いをする為に色々と仕込んでくれていたらしい。
 テーブルには母さん特製ミートパイやカプレーゼ、キノコとベーコンの入ったミルクスープが並ぶ。どれもこれも全部美味しそうで僕が目をキラキラさせていると、アルトは僕の隣で声を弾ませた。

「確かにどれも凄く見た目が良いな。君が思い出すのも納得だ」

「さぁ、冷めないうちに召し上がれ!」

 母に声をかけられ、僕は我慢できずに切り分けられたミートパイを頬張る。サクサクのパイ生地や、甘みの中にピリッとした黒胡椒がアクセントのフィリングが美味しくて、僕はうっとりと目を細めた。
 だけど僕がこうしている間、アルトは体を強張らせて食事が出来ないでいた。今は毒味をしてくれるノックスもいないし、アルトは万が一のことを考えて恐怖と戦っているのだろう。

「くそッ…!どうして、私は…!」

 悔しそうに嘆いているアルトを落ち着かせるように、僕はゆっくりとアルトの手を握った。
 そして不安に駆られて冷たくなってしまった彼の指先を温めるように包み込み、優しく微笑んでみせた。

「アルト様、我が家の料理に毒は入っていません。安心して召し上がってください」

 僕はそう言いながら、アルト用に分けられていた皿全てを一口ずつ食べていく。こうすることで僕が彼の毒味役となり、少しでもアルトを安心させたくて。
 アルトは僕の行動に少し驚いていたけど、荒くなっていた呼吸が徐々に落ち着いてきて、僕はアルトの口元にスープを掬ったスプーンを運んだ。
 するとアルトは恐る恐るスープを口に含み、じっくりと味わいながら嚥下する。

「ん……美味いな」

「そうでしょう?母さんの料理はとっても美味しいんです!」

 張り詰めていた空気感が解け、アルトは自らスプーンを持ってスープを飲んだり、ミートパイを食べて満足げに頷いた。

「殿下のいつも食べている食事に比べれば質素な物だと思うけど、気に入ってくださって嬉しいわぁ」

 僕達のはしゃぎ声を聞きつけたのか、父さんが執務室から出てきてリビングを覗いてきた。

「で、で、殿下が我が家に…っ!?」

 父さんはアルトの姿を見て腰を抜かしていたが、軽く咳払いをしてから佇まいを正すと、アルトに向かってボウ・アンド・スクレープをしてみせた。

「息子のレオナルドから殿下についての話は聞いております。息子と親しくしていただきありがとうございます」

「こちらこそ、こんなに親身にしていただき感謝します」

 こうして僕達はみんなでわいわいと食事を楽しみ、アルトはぽつりと一言こぼした。

「こんなに楽しい食事は初めてだ。家族というのは、こんなにも暖かなものだったのだな」

 そう言ったアルトの顔は少し切なそうで、僕はアルトを元気づけるためにあえて大きな声でこう言った。

「いつでも我が家に遊びに来てください!アルトは両親公認の友人だし、歓迎しますよ!」

「ーーあぁ。ありがとうレオナルド」

 アルトの顔には、もう寂しそうな雰囲気は残っていなかった。
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