貧乏子爵家の僕が『聖女様』なんてあり得ない!

寝転 プリン

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16話 王との謁見

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 アルトに連れられて迷路になりそうな王城の長い廊下を渡り、僕達は陛下の居る謁見の間に通された。ノックスは部屋の前で待機するように命じられているらしく、一旦別れを告げる。
 大きな音を立てて開かれた扉の先。部屋の最奥部にある玉座に座る陛下の威圧感は、空気を伝ってピリピリと僕の頬を撫でていった。
 これだけ離れているというのに、凄い迫力だ。侮っていた訳ではないけれど、実際に目にすると蛇に睨まれた蛙のように身がすくんでしまう。
 スペディナ王国の現国王という強大な存在に圧倒される僕を、アルトは支えるようにぐっと肩を掴んでくれた。

「大丈夫だ。君はただ堂々と、あるがままに質問に答えてくれ」

 そうだ。何を恐れる必要がある? 僕は問い詰められるようなことは何一つやっていない、真面目が取り柄の平凡な十六歳だ。アルトの言う通り、堂々といこうじゃないか。
 アルトの激励によって勇気を取り戻した僕は、一歩一歩確実に陛下の元へ歩みを進める。そうしてついに陛下の目の前にたどり着いた僕は、片膝をつきながら飛び出してくるであろう言葉を待った。

「――よく来たな。そなたがレオナルド・ルーカスか?」

「はい、陛下。わたくしがレオナルド・ルーカスにございます」

「そう格式張らずとも良い。そなたは我が息子、アルトの友人なのだろう?」

 僕に尋ねる陛下の声は何故か楽し気で、予想外の出来事に僕は面食らってしまう。
 アルトからの話を聞いた時は、幼い頃から自分の息子に苦しい毒の訓練を受けさせるような、冷酷な人間だと思っていたのに。むしろ今は、アルトに友人が出来たことを嬉しがっているような…?
 どう答えれば良いか分からずに言葉を迷っていると、陛下は玉座から立ち上がり手をパンパンと叩く。

「それでは本題に入ろう。少々埃っぽいが我慢してくれ」

 陛下がそう言うと、ガラガラと大きな音を立てながら何かが台車に載せて運ばれてくる。それには大きな白い布がかけられており、目の前に置かれても正体が何なのかは理解できなかった。

「陛下、これはいったい…?」

「そなたの存在を聞き、私が王になってから初めて取り出してきた代物だ。
 この国に伝わる聖女の話を、そなたも耳にしたことがあるだろう?これはその時代から王家で代々保管されてきた鏡なのだ」

 陛下が不意に白い布を取ると、僕の前に大きな鏡が出現する。
 聖女の居た時代…つまり、この鏡は数百年も前の物だと言うのに、鏡を囲うように装飾された宝石達の輝きは衰えていない。

「聖女の伝承は、史実だったのですね」

 僕の隣で、アルトは驚いたように目を大きく開きながら、陛下に尋ねた。

「左様。だが、この件は王以外の人間には隠されていた。得体の知れない瘴気が蔓延した過去が事実だと知らせれば、国民を不安にさせてしまうからだ」

 王は鏡に触れながら少しの間だけ目を伏せ、それから僕の方に向き直って口を開いた。

「一つだけ、例の伝承には誤りがある。…いや、"誤り"という表現は正しくないな。
 これは意図的に事実と捻じ曲げて伝えられたのだから」

 陛下の言葉に、僕は無意識のうちにごくりと唾を呑む。緊張や不安で喉が渇いて仕方が無い。
 僕は今、とんでもないことに巻き込まれそうになっているのではないだろうか?
 歴代の国王しか知らされることのなかった極秘の情報に、僕なんかが触れてしまっても良いのか?
 今すぐ逃げ出したくて震えそうな身体を自分自身でぎゅっと抱きしめながら、僕は覚悟を決めた表情で陛下を見上げた。

「――この国には、まだ各地に祓いきれていない瘴気が残っている。そして今もなおその瘴気は衰えることはなく、力を増してきているのだ。
 カルヴァ・アビス周辺で起きた現象も、瘴気の残滓が時を経て増大した故のものであろう」

 衝撃の事実に、ヒュッと息を吸う音が響く。広がる霧、謎の病…それが全て瘴気のせいだとすれば辻褄が合う。だけどまさか、霧散せずにその場に留まるばかりか、力を増しているなんて。

「――その鏡、いま一度災厄の影さす時、聖き力を宿す者を示さん……」

 陛下から発せられた言葉に、僕は意識を現実へと戻す。

「この鏡は、聖なる力を宿す者を示す何らかの力がある。先代の聖女が逝去する間際、大量の魔鉱石を使用し作られたのだと聞いてはいるのだが…。肝心の方法についてはどこにも記載がなかったので、さっぱり分からぬのだ」

 陛下が顎に手を添えて悩んでいる最中に、僕は引き寄せられるように鏡に向けてそっと手を差し出した。
 すると次の瞬間、眩い光が謁見の間を包み込み、僕は咄嗟に目を瞑った。

「今の光は…?まるであの時、私のことを救ってくれた光のようだったが…」

 アルトの困惑した声が聞こえ、自分やアルトが無事なことを認識する。
 閃光のせいでチカチカとする視界の中でなんとか目を凝らすと、僕の右手首には銀で作られたバングルがいつの間にかはめられていた。真ん中には大きな水晶が埋め込まれていて、繊細な装飾が施されている。
 左手をかざすように触れてみると仄かに温かく、目の前で起きた不可思議な現象に戸惑いは増すばかりだ。

「やはり、私の予想は正しかったようだな。
 そなたこそが第二の聖女として、この国を照らす光になるのだ!」

 陛下はそう言いながら、豪快に笑った。陛下の言葉を理解出来たのは、それから約数分後。
 そして理解した途端、僕は驚きのあまり姿勢を崩して後ろに倒れながら、こう叫んだのだった。

「貧乏子爵家の僕が『聖女様』なんてあり得ないんですけどぉ!?」
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