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17話 僕らの背負う運命
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そもそも僕は女性じゃないのに、第二の聖女と呼ばれるのはどうかと思う。
盛大に打ち付けた背中を擦りながら起き上がり、僕は自分の身の丈に合わない称号を返品する為に銀のバングルを外そうと試みた。
しかし、何度外そうと引っ張ってみても、バングルは僕の腕にピッタリとくっついて離れない。ならば腕を振り回してみたらどうかと思いブンブンと腕を回しても、相変わらずブレスレットは僕の手首についたまま。
そんな僕の奮闘する姿を見ながら、陛下はいつのまにか僕の前に立って問い詰めてきた。
「そなたは聖女と呼ばれるのが嫌なのか?確かに男性であるそなたを聖女と呼ぶのはいささか問題があるが…。
だが、聖女以外にこのような力を持つ者は前例が無いし、新たに呼び名を考えるというのも…」
「いや、確かにその呼び名も問題ではあるんですけどね!?僕のような平凡な人間に聖女なんて大役は務まらないですよ!瘴気を祓うような凄まじい魔力なんて、僕は持ってないですし!
それに聖女というのは世間的に、もっとこう…絹のような髪を持つ美しい女性とか、そういうイメージがあるじゃないですか!」
伝承として語り継がれている聖女の見た目も、腰の辺りまで伸びた銀髪がまるで天の使いのようだと記載されていた。それがこんな、黒髪以外特筆すべき点の無い容姿の僕に引き継がれるなんて先代聖女があまりにも可哀想だろう!?
聖女というのはもっと清い存在に受け継がれるものなんじゃないの!?
そんな意味のない葛藤でパニックになっている僕の背中を擦りながら、アルトは陛下に物申した。
「無礼を承知で申し上げますが、私もレオナルドが聖女という大役を任せられるのには反対です。彼はまだ十六歳の学生ですよ?子爵家の息子とはいえ、私のように鍛錬をしていたわけでもない彼に任せるのは危険すぎます!」
陛下に面と向かって反論するアルトに驚きつつ、僕も便乗して何度も頷いた。
見た目云々を抜きにしたって、僕よりも適任な人がきっと他に居るはずだ。きっとそうに違いない。
「しかし…だ。そなた達の言う聖女に適した人材を探し出すには計り知れない時間が必要になる。そもそもこの国に居るのかさえ分からないのだぞ?しらみつぶしに国民を鏡の前に立たせたとして、その間の瘴気の成長はいったいどうするつもりだ?」
陛下は冷たい眼差しで僕たちを見下ろしながら、僕の肩に手を置いた。驚く暇もなくギリギリと骨が軋む音が聞こえる程に強く掴まれ、僕は思わず声が漏れてしまう。
「――っ…!!」
「国民を危険に晒すことは、この国の王として認められない。貴様が拒むと言うのなら、私は無理やりにでも命令に従わせる。
そうだな…まずは貴様の家族を人質にでも取るとするか?」
本心の見えない碧眼に見つめられ、僕は自身の乾いたくちびるを舌で舐める。知らぬ間に噛みしめていたらしく、少しだけ血の味がした。
一秒が何時間にも思える中で、沈黙を破ったのはアルトだった。
「――父上、約束をお忘れですか?例え相手があなたであっても、私は彼を傷つけるものは許さないと話したはずですよ」
部屋全体が凍り付くような声色で、アルトは陛下を牽制した。二人の間でどんな約束をされていたのかは知らないけれど、アルトの恐れ知らずな行動に僕の心臓は口から飛び出してしまいそうだ。
「レオナルド、恐れることはない。何があっても私は君を守る。だから君は自分のしたい選択を取ってくれ」
――僕のしたい、選択。
アルトに投げかけられた言葉に、恐怖で震えていた僕の身体はピタリと止まる。
聖女という役割は、僕にとっては重すぎるものだ。だけど、僕がそれを断ったことでこの国の人が危険に晒されるとしたら?
そう想像した時に真っ先に思い浮かんだのは、アルトの顔だった。
もし僕があの時アルトにお守りを渡さず、彼が僕の元に帰れなかったら。そしてこの先、僕が聖女になるのを拒んだことで、彼が瘴気の被害を止める為に危険な目に遭い続けるのだとしたら。
……僕は絶対に、自分で自分のことが許せないと思う。
「分かりました。まだ実感は湧きませんが、自分に出来る最善を尽くしてみます」
「レオナルドッ!君が一人で苦しむ必要は無いんだぞ!?」
アルトは愕然とした表情を浮かべながら、僕の心配をしてくれている。
きっと彼も、僕と同じ。僕を危険な目に合わせたくないと思っているのだろう。
そう思っただけで、僕は凄く幸せな気持ちになった。
「――少々手荒だったな。らしくもなく、取り乱していたようだ。
安心するがいい。何も彼一人で瘴気を祓う旅をさせるつもりはないのだからな」
陛下はそう言うと、殺気立っているアルトの方に振り返った。
「私が先代国王から伝え聞いた史実によれば、聖女の傍らには彼女を守る剣として聖騎士が付き添ったとされている。
アルト、今度はお前がその役割を継ぐのだ」
陛下に告げられたアルトは全てを悟った様子で、ふっと笑みを浮かべる。
「最初からそのつもりで、この場に私を同席させたのですね?父上」
「さあ、どうだろうな」
アルトは自分を落ち着かせるようにふーっと息を深く吐いたあと、僕の手を掴んで口づけた。その表情は先程とは違い、穏やかなものに変わっている。
「これから先何があろうとも、私は君の剣であり続けると誓おう」
こうして僕たちは貧乏子爵家の息子と第二王子という立場から打って変わり、国を守る聖女と聖騎士という運命を背負うことになったのだった。
盛大に打ち付けた背中を擦りながら起き上がり、僕は自分の身の丈に合わない称号を返品する為に銀のバングルを外そうと試みた。
しかし、何度外そうと引っ張ってみても、バングルは僕の腕にピッタリとくっついて離れない。ならば腕を振り回してみたらどうかと思いブンブンと腕を回しても、相変わらずブレスレットは僕の手首についたまま。
そんな僕の奮闘する姿を見ながら、陛下はいつのまにか僕の前に立って問い詰めてきた。
「そなたは聖女と呼ばれるのが嫌なのか?確かに男性であるそなたを聖女と呼ぶのはいささか問題があるが…。
だが、聖女以外にこのような力を持つ者は前例が無いし、新たに呼び名を考えるというのも…」
「いや、確かにその呼び名も問題ではあるんですけどね!?僕のような平凡な人間に聖女なんて大役は務まらないですよ!瘴気を祓うような凄まじい魔力なんて、僕は持ってないですし!
それに聖女というのは世間的に、もっとこう…絹のような髪を持つ美しい女性とか、そういうイメージがあるじゃないですか!」
伝承として語り継がれている聖女の見た目も、腰の辺りまで伸びた銀髪がまるで天の使いのようだと記載されていた。それがこんな、黒髪以外特筆すべき点の無い容姿の僕に引き継がれるなんて先代聖女があまりにも可哀想だろう!?
聖女というのはもっと清い存在に受け継がれるものなんじゃないの!?
そんな意味のない葛藤でパニックになっている僕の背中を擦りながら、アルトは陛下に物申した。
「無礼を承知で申し上げますが、私もレオナルドが聖女という大役を任せられるのには反対です。彼はまだ十六歳の学生ですよ?子爵家の息子とはいえ、私のように鍛錬をしていたわけでもない彼に任せるのは危険すぎます!」
陛下に面と向かって反論するアルトに驚きつつ、僕も便乗して何度も頷いた。
見た目云々を抜きにしたって、僕よりも適任な人がきっと他に居るはずだ。きっとそうに違いない。
「しかし…だ。そなた達の言う聖女に適した人材を探し出すには計り知れない時間が必要になる。そもそもこの国に居るのかさえ分からないのだぞ?しらみつぶしに国民を鏡の前に立たせたとして、その間の瘴気の成長はいったいどうするつもりだ?」
陛下は冷たい眼差しで僕たちを見下ろしながら、僕の肩に手を置いた。驚く暇もなくギリギリと骨が軋む音が聞こえる程に強く掴まれ、僕は思わず声が漏れてしまう。
「――っ…!!」
「国民を危険に晒すことは、この国の王として認められない。貴様が拒むと言うのなら、私は無理やりにでも命令に従わせる。
そうだな…まずは貴様の家族を人質にでも取るとするか?」
本心の見えない碧眼に見つめられ、僕は自身の乾いたくちびるを舌で舐める。知らぬ間に噛みしめていたらしく、少しだけ血の味がした。
一秒が何時間にも思える中で、沈黙を破ったのはアルトだった。
「――父上、約束をお忘れですか?例え相手があなたであっても、私は彼を傷つけるものは許さないと話したはずですよ」
部屋全体が凍り付くような声色で、アルトは陛下を牽制した。二人の間でどんな約束をされていたのかは知らないけれど、アルトの恐れ知らずな行動に僕の心臓は口から飛び出してしまいそうだ。
「レオナルド、恐れることはない。何があっても私は君を守る。だから君は自分のしたい選択を取ってくれ」
――僕のしたい、選択。
アルトに投げかけられた言葉に、恐怖で震えていた僕の身体はピタリと止まる。
聖女という役割は、僕にとっては重すぎるものだ。だけど、僕がそれを断ったことでこの国の人が危険に晒されるとしたら?
そう想像した時に真っ先に思い浮かんだのは、アルトの顔だった。
もし僕があの時アルトにお守りを渡さず、彼が僕の元に帰れなかったら。そしてこの先、僕が聖女になるのを拒んだことで、彼が瘴気の被害を止める為に危険な目に遭い続けるのだとしたら。
……僕は絶対に、自分で自分のことが許せないと思う。
「分かりました。まだ実感は湧きませんが、自分に出来る最善を尽くしてみます」
「レオナルドッ!君が一人で苦しむ必要は無いんだぞ!?」
アルトは愕然とした表情を浮かべながら、僕の心配をしてくれている。
きっと彼も、僕と同じ。僕を危険な目に合わせたくないと思っているのだろう。
そう思っただけで、僕は凄く幸せな気持ちになった。
「――少々手荒だったな。らしくもなく、取り乱していたようだ。
安心するがいい。何も彼一人で瘴気を祓う旅をさせるつもりはないのだからな」
陛下はそう言うと、殺気立っているアルトの方に振り返った。
「私が先代国王から伝え聞いた史実によれば、聖女の傍らには彼女を守る剣として聖騎士が付き添ったとされている。
アルト、今度はお前がその役割を継ぐのだ」
陛下に告げられたアルトは全てを悟った様子で、ふっと笑みを浮かべる。
「最初からそのつもりで、この場に私を同席させたのですね?父上」
「さあ、どうだろうな」
アルトは自分を落ち着かせるようにふーっと息を深く吐いたあと、僕の手を掴んで口づけた。その表情は先程とは違い、穏やかなものに変わっている。
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