貧乏子爵家の僕が『聖女様』なんてあり得ない!

寝転 プリン

文字の大きさ
18 / 18

18話 浄化の旅に向けて

しおりを挟む
「僕はアルト様を巻き込むことには断固反対です!」

 僕の放った言葉に、アルトの目は大きく見開かれる。
 アルトを守りたいから聖女になることを受け入れたのに、一番傍で危険な目に遭わせるなんて御免だ。そう思って反論したというのに、アルトは僕の言葉を聞き入れてはくれなかった。

「君が何と言おうとも、私は君の旅路に同行する。危険が伴うのは重々承知の上で、私は君を守りたいんだ」

 強い覚悟を持った瞳で宣言されてしまうと、流石に断りきれず。結局僕はアルトの同行を承諾し、旅に付き添ってもらうことになった。
 それに、口では同行に反対していても内心では嬉しかったんだ。周囲から聖女だと祀り上げられても、僕にはまだ何の力もない。聖なる力をどう発動させるのかさえ分からないのだ。アルトのことを守ったのだって、僕自身が何かをしたわけじゃないし。
 でも、アルトが傍に居てくれるならこんな僕でも頑張れる気がする。

「話は済んだか?旅に向かわせる前に、アルトにはこれを授けよう」

 陛下は鏡を運んできた時と同じようにパンパンと手を叩いた。そうして運ばれて来たのは、一本の古びた剣。白磁色の鞘部分には僕のバングルと同様に、水晶が埋め込まれている。

「この剣は当時の聖騎士が使用していたと言われている、聖剣”ルミナス・ヴァルディーテ”。鏡と同じく今まで使われる時がなく、ほとんど忘れかけられていた代物だ。刀身は錆びついて鞘から抜けることは無いが、何かの役に立つやもしれん」

 アルトは陛下から手渡された聖剣を見つめ、鞘についた埃を優しい手つきで払う。その後試しに鞘から抜こうとしたが、錆びついたギィ…という音がするだけで抜けることはなかった。
 普通の剣であれば何の役にも立たないお荷物だけど、大昔に聖女を護ってきた聖剣ならば僕らのことも導いてくれるかもしれない。

「ありがたく頂戴いたします」

 アルトは陛下に感謝を述べながら、背中に担ぐようにして聖剣を携えた。その姿に少しだけ見とれてしまい、僕は慌てて視線を逸らす。美形は何をやっても様になって羨ましい。

「準備が整ったところで、そなた達の初任務として向かって欲しい場所を告げよう。
――その地の名は”ネムス・テネブリロア”。闇の伝承を秘めた森として、人の立ち入ることのない森だ。この森から獣の鳴き声のようなものが連夜聞こえている為、鳴き声の正体を調査してくれ」

 いかにも危険が伴いそうな依頼に、僕は無意識のうちにぶるりと体が震えてしまう。
 こんなことになるぐらいなら、毎朝父さんがやっている鍛錬に付き合っていれば良かった。元々あまり身体が強くないから遠慮していたけど、今より少しぐらいは頑丈な身体になっていたかもしれない。
 急速に自信を無くして萎んでいく僕の心に寄り添うように、アルトは僕の隣に立って力強く手を握ってくれた。

「安心してくれ。私が君を守ると先程からも言っているだろう?…それとも、私では力不足かい?」

 そう尋ねながら僕を見つめるアルトに完敗し、僕は不安を振り払う為にも首を横に振った。

「これほど心強い仲間はいません。不束者ですが、これからよろしくお願いします」

 あぁ、でも…僕の覚悟は決まったけれど、両親はなんと言うだろう。ちょっと過保護な父さんと母さんが僕を笑顔で送り出すというのは、かなり難しい話なんじゃないだろうか。
 湧き続ける懸念点に僕が頭を悩ませていると、陛下は僕の心情を読み取ったのか深く頷いた。

「あまりに突然のことで、そなたの両親も混乱するであろう。今回の件について正式に纏めた書類を至急作成する。息子も話し合いの場に同席させるつもりだ。
 この国の未来の為、上手く説得してほしい」

 ――本当に、この人はアルトを毒の訓練で苦しめた人なんだろうか?
 正直陛下に会うまでは、友人のアルトを苦しめた存在として警戒していた。なのに、僕にアルトの友人なのかと尋ねた時と言い、今の陛下は穏やかな善人に見えてしまう。
 しかし、ついさっき強く掴まれてジンジンと痛む肩が陛下の冷酷さを警告した。何を信じていいのかさっぱり分からない。そもそも、一国の王である陛下の善悪を判断しようと思うことが間違っているのかも。
 頭の中を少しずつ整理しながら、僕は陛下の要求を呑んだ。

「――承知しました。必ず両親を納得させたうえで、ネムス・テネブリロアへと旅立ちます」
 
 僕らの旅の第一関門だ。僕は気合いを入れ直すように自分の頬を軽く叩いた後で、窓から差し込む光にバングルをかざしてみる。キラキラと輝く水晶がまるで僕のことを応援しているようで、僕の表情は少しだけ緩んだのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

転生悪役召喚士見習いのΩくんと4人の最強の番

寿団子
BL
転生した世界は、前世でやっていた乙女ゲームの世界だった。 悪役お姫様の兄に生まれ変わった少年は普通のゲーム転生ではない事に気付く。 ゲームにはなかったオメガバースの世界が追加されていた。 αの家系であった一族のΩとして、家から追い出された少年は1人の召喚士と出会う。 番となる人物の魔力を与えられないと呪いによりヒートが暴走する身体になっていた。 4人の最強の攻略キャラと番になる事で、その呪いは神秘の力に変わる。 4人の攻略キャラクターα×転生悪役令息Ω 忍び寄る女王の祭典でなにかが起こる。

悪役未満な俺の執事は完全無欠な冷徹龍神騎士団長

赤飯茸
BL
人間の少年は生まれ変わり、独りぼっちの地獄の中で包み込んでくれたのは美しい騎士団長だった。 乙女ゲームの世界に転生して、人気攻略キャラクターの騎士団長はプライベートでは少年の執事をしている。 冷徹キャラは愛しい主人の前では人生を捧げて尽くして守り抜く。 それが、あの日の約束。 キスで目覚めて、執事の報酬はご主人様自身。 ゲームで知っていた彼はゲームで知らない一面ばかりを見せる。 時々情緒不安定になり、重めの愛が溢れた変態で、最強龍神騎士様と人間少年の溺愛執着寵愛物語。 執事で騎士団長の龍神王×孤独な人間転生者

【完結済】俺は推しじゃない!ただの冒険者だ!

キノア9g
BL
ごく普通の中堅冒険者・イーサン。 今日もほどほどのクエストを探しにギルドを訪れたところ、見慣れない美形の冒険者・アシュレイと出くわす。 最初は「珍しい奴がいるな」程度だった。 だが次の瞬間── 「あなたは僕の推しです!」 そう叫びながら抱きついてきたかと思えば、つきまとう、語りかける、迫ってくる。 挙句、自宅の前で待ち伏せまで!?  「金なんかねぇぞ!」 「大丈夫です! 僕が、稼ぎますから!」 平穏な日常をこよなく愛するイーサンと、 “推しの幸せ”のためなら迷惑も距離感も超えていく超ポジティブ転生者・アシュレイ。 愛とは、追うものか、追われるものか。 差し出される支援、注がれる好意、止まらぬ猛アプローチ。 ふたりの距離が縮まる日はくるのか!? 強くて貢ぎ癖のあるイケメン転生者 × 弱めで普通な中堅冒険者。 異世界で始まる、ドタバタ&ちょっぴり胸キュンなBLコメディ、ここに開幕! 全8話

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結済み】騎士団長は親友に生き写しの隣国の魔術師を溺愛する

兔世夜美(トヨヤミ)
BL
アイゼンベルク帝国の騎士団長ジュリアスは留学してきた隣国ゼレスティア公国の数十年ぶりのビショップ候補、シタンの後見となる。その理由はシタンが十年前に失った親友であり片恋の相手、ラシードにうり二つだから。だが出会ったシタンのラシードとは違う表情や振る舞いに心が惹かれていき…。過去の恋と現在目の前にいる存在。その両方の間で惑うジュリアスの心の行方は。※最終話まで毎日更新。※大柄な体躯の30代黒髪碧眼の騎士団長×細身の20代長髪魔術師のカップリングです。※完結済みの「テンペストの魔女」と若干繋がっていますがそちらを知らなくても読めます。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

処理中です...