76 / 87
第68話 卯と辰と
しおりを挟む「待たせたな……」
高度上空3000メートル……世界樹頂上と同じ高さで、世界樹に向けて言葉を放つ。
今は日も沈んで、辺りは暗い。高度と暗闇に埋もれていれば更に巨大になった俺でも、闇に紛れる事はまだ可能な様だ……
だが、周辺の小さな粒子の様な反応が騒がしい。世界樹内部の反応が順次、外周部から麓付近へと流れて行く……女王が避難させているのかもしれない、これから始まるのは普通の戦闘じゃないから……
強靭な力を持った、強大な質量の者同士のぶつかり合い……怪獣決戦になる。
相手がどの位の質量になるかは分からないが、普通の人間サイズで留まっていられるとは思えない……進化の向かう先には、巨大化後に軽量コンパクトを目指す形になる物が多い。
質量ではなく密度の増加……では密度が最大になったら?
圧縮して更に高める。高めて高めてどうしようもなくなる限界まで高めた先は……再び質量の増加。それを繰り返した先に巨大化していく……そんなバケモノ同士の戦い。
あの謁見の間が人間には広大と言える程に広くても、あの程度の大きさしかないのでは……俺達のリングには狭すぎる。
何より、内部に入るためには再び穴を開けなくてはいけないのだが……丁度いい塩梅に加減が出来る気がしない、人間態のままだったらそのまま消し飛ばしてしまうかもしれないから……
『気にするでない……人が肉身のままで死ねるような、妾達は真面な生物ではない。存在の全てを引き出して尚、消滅する程の破壊で無ければ死ねはせぬ。妾も、そして其方もな……』
直接脳内に声が響く……どうやら、俺のあの理不尽なタフネスや再生能力は、存在の余力が余りに余りまくってストックされた上での現象だって事か……死ぬっていう感覚からは、ほど遠いとは思っていたが……痛みに弱い、俺の凡人メンタルは余程ヘタレだったって事だな……
『そうかい、これが俺の限界だ。これで駄目なら済まないな……俺じゃご期待には添えれない様だ』
『善い……期待以上じゃ、しばし待ってたもれ……女子は身支度に時間が掛かるでな……』
夜のデートのお誘いをゴメンナサイされる事は免れた様だ……返って来た返事も、俺の為にわざわざ準備をしてくれる様だ……存在を細胞の一欠片まで消滅しあう命がけのデートだけどな。
すぐに変化は見て取れた。世界樹の天辺に巨大な蓮の花が咲いた……早送りを見ているかの様な、蕾から花開く瞬間まであっという間だ。開花した蓮の中央に立つは……白と黒の鎧を着た女王。
頭頂部に付いた白い耳はエルフの様に長く、顔も白いが目だけは紅玉の様に赤く丸く、腕も雪の様に白いが、胸から下半身は黒い……兎だ。もっと言うとバニースーツの鎧を着た人型だ。
前から見ているので分からないが、多分黒いお尻の部分には白くて丸い尻尾が付いているはずだ!肩を出した身体のラインを出すタイプのバニースーツ姿の女の子が装甲化しているみたいだ……俺の様にトゲトゲしい角ばった見た目ではなく、流線形の女の子らしい丸みを帯びたラインで形成されたボディは生身とは違った魅力を出している。
そんな流線形装甲の純白の太もも半ばからスラッとした長い足を覆う黒い網目状の装甲……『網タイツ』
こんな神の聖衣とも言うべき恰好をユウメがしようものなら俺は200%我慢出来ずに襲う自信があります!一回襲って100%、落ち着いた所で更にもう一回襲うので200%の意味で!って、ウボワァ!!
『目の前の相手を無視して、他の相手を懸想するとは不粋な輩め……』
女王……ウサギデーモンの持つ扇子から放たれた衝撃波が俺の顔面をしたたかに撃ちつけてくれた……このアンコウ、戦いの中で戦いを忘れたわ!……はい、ごめんなさい。
『まだ身支度の途中だろ……こっちはとっくに全力なんだ。まだ始める訳にはいかないんだろ?』
『そう、がっつくでない。少しばかり大きくなりおったからと言うて、そうイキリ立つで無いわ』
今の状態なら、確実に俺の方が強い。そう、言い切れる……ただ彼女の望みである、殺す事は出来ない。俺と同じように存在の余力……ストックが彼女にある限り、この世界で消滅させる事は出来ない……
蛇公爵が脳髄含む上半身が挽肉になろうとも、再生しようとした様に……限界まで存在を顕現させた上で、完全に消去しなければ破壊する事は出来ない。
故に魔族、故に神……肉体の死ではなく、存在の死で無ければ消える事すら出来ない存在。
全知全能と呼べる能力を持っていても、持っているが故に自分の死すら満足に選ぶ事が出来ない。それを哀れと呼ぶには、俺もまた同じ化物だ……他人事じゃない。
俺達の存在は概念みたいなものだ……確かに存在すると信じられてるのに、それを証明する術がない。
神を信じる奴がいる、信じない奴もいる。悪魔を信じる奴がいる、信じない奴もいる。時間を信じる奴がいる、信じない奴もいる。時間は戻せる、戻せない。超えれる、超えれない。時の流れは感じても、時そのものが存在すると証明出来た奴はいない。
信じようが信じまいが、在ると言う奴と無いと言う奴。どちらも存在するあやふやな存在……神とか悪魔なんて、そんないい加減なモノなんだろう。そんな事はどうだっていい!
『だったら!先に教えといてくれないか?あんたが災厄と呼ぶあの子から、あの災厄の本の呪縛を解いてやる方法を!』
『やれやれ……せっかちな男は嫌われるのじゃ……じゃが、よかろう。手付けを払わねば臍を曲げられても敵わぬからのう……さて、何から話したものか……』
悠然と、のんびりとした口調で語るウサギデーモンの念話は穏やかだ……だが、今も彼女の気配のプレッシャーは爆発的に増大を繰り返して留まる事を知らない。正直、逃げ出したい位に膨れ上がってもまだ止まらない。
だが、聞き逃す訳にはいかない。彼女が俺の上なら、俺は更に少しでも自分を押し上げるだけだ……ちょっとした現実逃避で意識が外れたが、お互い静かに有らん限りの力を振り絞っている。
『そうじゃのう……まず、最初にあれは真理の教典ではない……災厄の教典<パンドラ>……それを持つ者を解き放つ方法……それは全ての事象を一度終わらせる概念“死”を持っての解放しかない』
『おいっ!冗談じゃない、ここまで来ておいて蛇公爵と同じ答えじゃ俺は逃げるぞ!』
『其方ならではなんじゃがな……暗黒とは闇、闇とは深淵、深淵とは概念……即ち、死じゃ。其方なら、この世界の地獄のどこであろうと望む場所に逝ける。誕生と繁栄……“慈愛”の概念となった妾では出来ぬ。まったく羨ましい限りじゃ……』
『つまりアンリを一度殺して、別の世界に連れていけって事か?』
『選択肢の一つはな、妾達とて似た様な形でこの世界に流れ着いておる……それを同様にやるだけじゃ……』
『なるべくなら参考にしたくないな……パンドラから解放する方法は死ぬしかない。それは分かった……だったらもう一つの選択肢だ!パンドラを無力化する方法は?』
『パンドラを持ちし者、無限の災厄を振りまく存在“絶対悪”……造られし概念の事は、造った者に聞くのが早かろう……』
『教えてくれ!そいつはどこにいる!?』
『それを今、言う訳が無かろう。……待ち人を手放す程、妾は耄碌しておらぬ……これ以上は、妾を逝かせた後戯でしか語らぬと思え』
『……つまり……俺がお前を倒せば、お前の知識を知る事が出来て……』
『そうじゃ……妾が勝てば、其方の力を奪って妾が死ねる……概念同士の戦いは、その存在の喰らい合い。欲しければ奪い合う原始的な行為じゃ……』
『よく言うぜ!勝っても負けてもアンタは望み通りだ!だったらさっさと俺に全部曝け出せ!望み通り盛大に逝かせてやるッ!!』
『善かろう、深淵よ!進化の終着点を司りし、死の概念!妾の全てをその身で味わえ、強欲なる暗黒の貪食蛇よ!!』
ウサギデーモンの最期のフォールアウトが始まった……今までの様に一方的に殺すだけだった虐殺じゃない。本当の殺し合いが始まる……
少しの恐怖感はあるが、不思議と気分は落ち着いている……愛しい嫁さんのバニー姿を想像する程度にはな!
武器を使う時に覚悟を決めていたんじゃ遅い、武器を持つと決めた時点で覚悟は済ませた。覚悟を決めた俺はアンリがいる限り無敵だっての!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる