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第68話 卯と辰と
「待たせたな……」
高度上空3000メートル……世界樹頂上と同じ高さで、世界樹に向けて言葉を放つ。
今は日も沈んで、辺りは暗い。高度と暗闇に埋もれていれば更に巨大になった俺でも、闇に紛れる事はまだ可能な様だ……
だが、周辺の小さな粒子の様な反応が騒がしい。世界樹内部の反応が順次、外周部から麓付近へと流れて行く……女王が避難させているのかもしれない、これから始まるのは普通の戦闘じゃないから……
強靭な力を持った、強大な質量の者同士のぶつかり合い……怪獣決戦になる。
相手がどの位の質量になるかは分からないが、普通の人間サイズで留まっていられるとは思えない……進化の向かう先には、巨大化後に軽量コンパクトを目指す形になる物が多い。
質量ではなく密度の増加……では密度が最大になったら?
圧縮して更に高める。高めて高めてどうしようもなくなる限界まで高めた先は……再び質量の増加。それを繰り返した先に巨大化していく……そんなバケモノ同士の戦い。
あの謁見の間が人間には広大と言える程に広くても、あの程度の大きさしかないのでは……俺達のリングには狭すぎる。
何より、内部に入るためには再び穴を開けなくてはいけないのだが……丁度いい塩梅に加減が出来る気がしない、人間態のままだったらそのまま消し飛ばしてしまうかもしれないから……
『気にするでない……人が肉身のままで死ねるような、妾達は真面な生物ではない。存在の全てを引き出して尚、消滅する程の破壊で無ければ死ねはせぬ。妾も、そして其方もな……』
直接脳内に声が響く……どうやら、俺のあの理不尽なタフネスや再生能力は、存在の余力が余りに余りまくってストックされた上での現象だって事か……死ぬっていう感覚からは、ほど遠いとは思っていたが……痛みに弱い、俺の凡人メンタルは余程ヘタレだったって事だな……
『そうかい、これが俺の限界だ。これで駄目なら済まないな……俺じゃご期待には添えれない様だ』
『善い……期待以上じゃ、しばし待ってたもれ……女子は身支度に時間が掛かるでな……』
夜のデートのお誘いをゴメンナサイされる事は免れた様だ……返って来た返事も、俺の為にわざわざ準備をしてくれる様だ……存在を細胞の一欠片まで消滅しあう命がけのデートだけどな。
すぐに変化は見て取れた。世界樹の天辺に巨大な蓮の花が咲いた……早送りを見ているかの様な、蕾から花開く瞬間まであっという間だ。開花した蓮の中央に立つは……白と黒の鎧を着た女王。
頭頂部に付いた白い耳はエルフの様に長く、顔も白いが目だけは紅玉の様に赤く丸く、腕も雪の様に白いが、胸から下半身は黒い……兎だ。もっと言うとバニースーツの鎧を着た人型だ。
前から見ているので分からないが、多分黒いお尻の部分には白くて丸い尻尾が付いているはずだ!肩を出した身体のラインを出すタイプのバニースーツ姿の女の子が装甲化しているみたいだ……俺の様にトゲトゲしい角ばった見た目ではなく、流線形の女の子らしい丸みを帯びたラインで形成されたボディは生身とは違った魅力を出している。
そんな流線形装甲の純白の太もも半ばからスラッとした長い足を覆う黒い網目状の装甲……『網タイツ』
こんな神の聖衣とも言うべき恰好をユウメがしようものなら俺は200%我慢出来ずに襲う自信があります!一回襲って100%、落ち着いた所で更にもう一回襲うので200%の意味で!って、ウボワァ!!
『目の前の相手を無視して、他の相手を懸想するとは不粋な輩め……』
女王……ウサギデーモンの持つ扇子から放たれた衝撃波が俺の顔面をしたたかに撃ちつけてくれた……このアンコウ、戦いの中で戦いを忘れたわ!……はい、ごめんなさい。
『まだ身支度の途中だろ……こっちはとっくに全力なんだ。まだ始める訳にはいかないんだろ?』
『そう、がっつくでない。少しばかり大きくなりおったからと言うて、そうイキリ立つで無いわ』
今の状態なら、確実に俺の方が強い。そう、言い切れる……ただ彼女の望みである、殺す事は出来ない。俺と同じように存在の余力……ストックが彼女にある限り、この世界で消滅させる事は出来ない……
蛇公爵が脳髄含む上半身が挽肉になろうとも、再生しようとした様に……限界まで存在を顕現させた上で、完全に消去しなければ破壊する事は出来ない。
故に魔族、故に神……肉体の死ではなく、存在の死で無ければ消える事すら出来ない存在。
全知全能と呼べる能力を持っていても、持っているが故に自分の死すら満足に選ぶ事が出来ない。それを哀れと呼ぶには、俺もまた同じ化物だ……他人事じゃない。
俺達の存在は概念みたいなものだ……確かに存在すると信じられてるのに、それを証明する術がない。
神を信じる奴がいる、信じない奴もいる。悪魔を信じる奴がいる、信じない奴もいる。時間を信じる奴がいる、信じない奴もいる。時間は戻せる、戻せない。超えれる、超えれない。時の流れは感じても、時そのものが存在すると証明出来た奴はいない。
信じようが信じまいが、在ると言う奴と無いと言う奴。どちらも存在するあやふやな存在……神とか悪魔なんて、そんないい加減なモノなんだろう。そんな事はどうだっていい!
『だったら!先に教えといてくれないか?あんたが災厄と呼ぶあの子から、あの災厄の本の呪縛を解いてやる方法を!』
『やれやれ……せっかちな男は嫌われるのじゃ……じゃが、よかろう。手付けを払わねば臍を曲げられても敵わぬからのう……さて、何から話したものか……』
悠然と、のんびりとした口調で語るウサギデーモンの念話は穏やかだ……だが、今も彼女の気配のプレッシャーは爆発的に増大を繰り返して留まる事を知らない。正直、逃げ出したい位に膨れ上がってもまだ止まらない。
だが、聞き逃す訳にはいかない。彼女が俺の上なら、俺は更に少しでも自分を押し上げるだけだ……ちょっとした現実逃避で意識が外れたが、お互い静かに有らん限りの力を振り絞っている。
『そうじゃのう……まず、最初にあれは真理の教典ではない……災厄の教典<パンドラ>……それを持つ者を解き放つ方法……それは全ての事象を一度終わらせる概念“死”を持っての解放しかない』
『おいっ!冗談じゃない、ここまで来ておいて蛇公爵と同じ答えじゃ俺は逃げるぞ!』
『其方ならではなんじゃがな……暗黒とは闇、闇とは深淵、深淵とは概念……即ち、死じゃ。其方なら、この世界の地獄のどこであろうと望む場所に逝ける。誕生と繁栄……“慈愛”の概念となった妾では出来ぬ。まったく羨ましい限りじゃ……』
『つまりアンリを一度殺して、別の世界に連れていけって事か?』
『選択肢の一つはな、妾達とて似た様な形でこの世界に流れ着いておる……それを同様にやるだけじゃ……』
『なるべくなら参考にしたくないな……パンドラから解放する方法は死ぬしかない。それは分かった……だったらもう一つの選択肢だ!パンドラを無力化する方法は?』
『パンドラを持ちし者、無限の災厄を振りまく存在“絶対悪”……造られし概念の事は、造った者に聞くのが早かろう……』
『教えてくれ!そいつはどこにいる!?』
『それを今、言う訳が無かろう。……待ち人を手放す程、妾は耄碌しておらぬ……これ以上は、妾を逝かせた後戯でしか語らぬと思え』
『……つまり……俺がお前を倒せば、お前の知識を知る事が出来て……』
『そうじゃ……妾が勝てば、其方の力を奪って妾が死ねる……概念同士の戦いは、その存在の喰らい合い。欲しければ奪い合う原始的な行為じゃ……』
『よく言うぜ!勝っても負けてもアンタは望み通りだ!だったらさっさと俺に全部曝け出せ!望み通り盛大に逝かせてやるッ!!』
『善かろう、深淵よ!進化の終着点を司りし、死の概念!妾の全てをその身で味わえ、強欲なる暗黒の貪食蛇よ!!』
ウサギデーモンの最期のフォールアウトが始まった……今までの様に一方的に殺すだけだった虐殺じゃない。本当の殺し合いが始まる……
少しの恐怖感はあるが、不思議と気分は落ち着いている……愛しい嫁さんのバニー姿を想像する程度にはな!
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