“絶対悪”の暗黒龍

alunam

文字の大きさ
上 下
77 / 87

第69話 誕生と死と

しおりを挟む



 花が散った……そして巨大な種子が残った……誕生と繁栄を司る彼女に相応しい変身過程なのかもしれない。
 その巨大な種子は、巨大な世界樹を土壌として、巨大なバケモノを誕生させた……巨大という言葉すら、彼女を示す表現としては小さいのかもしれない。

 全長1000メートルオーバーの樹木の化物……1キロメートル超え、文字通りの桁違い。存在感などと言う言葉は、全体が巨大過ぎると把握しきれず認知出来ない。逆に離れれば離れる程に、その雄大さへの畏怖すら感じる始末になっている……

 『待たせたのう、これぞダンジョンマスターたる己の存在を全て引き出した妾の姿じゃ……』

 そう!敵は世界樹天空ダンジョンそのもの!頂上から1kmに渡って生物の様に蠢く樹木……さながら2km級になった世界樹の玉座に君臨する、1kmの月桂冠を頂いた樹木の女王だ。
 一度距離を取って全体図を把握して初めて解析出来る程に巨大な……生物と呼ぶには余りにも規格外過ぎる存在“樹人神虞邪”

 キジンカグヤ……確かに、月の光も無いのに輝く緑を携えた樹木の枝達をローブの様に纏いし姿が、一本の巨大な光り輝く竹を連想させる……満月ではなく、新月のカグヤ姫は月の光を浴びずとも輝きを失わない。

 俺は今40メートル付近で、まさか相手との対比が1:25になるとは思わなかった……あのカグヤ姫から見たら、俺なんぞフィギュア以下のミニチュアだろうな……形のデカさは圧倒的に負けている……

 だがドラゴンの強化された気配察知で判断する限り、反応は俺の方が上だ。質量で負け、密度で勝っている。どちらがいいのかなんて分からない……分かる必要もない。
 相手は万の時を超えて、己の存在を強大にしたダンジョン……人の夢と欲望を吸って育つ生物、その意志……ダンジョンマスター
 新参の俺と違って、己の全てを知るに余りある、時間を持て余してきた敵……全知の相手だ。

 だから分かる必要がない。全てを知っている相手に、何も知らない俺が挑むんだ!お利巧な頭を持っていて物分かりが良かったら、真面に戦うべき相手じゃない……そして俺は真面じゃない。もはや俺の凡人の物差しで測れる様な戦いじゃない……

 そうだ!俺に出来る事なんてたかが知れてる、そのたかがで出来る範囲を唯、全力で遂行するだけだ……消滅して死にたくはないないけど、死ねない理由と逃げられない理由が俺にはある。俺の理由なんて……いつだって一つしかない!

 『それじゃあ始めようか!馬鹿デカイ体に抱いた、ちっぽけな願いを叶えて貰うぜ!俺の馬鹿げた意地を通してな!!』

 『面白い!期待しておるぞ!馬鹿げた星霜を生きた、馬鹿げた望みを願う妾を貫いてみせよ!!』

 


 6枚となり、更に加速度を増した俺の翼の飛翔。初速で大気を断裂させ、真空の世界を引き裂いて眼下の女王目掛け突撃していく。もはやkmの単位など俺にとって瞬きの踏破距離でしかない。
 コンマ何秒の世界で幹を抉ろうとする俺を、そうはさせまいと蠢く枝木達が束となって俺の行く手を阻む。進む俺と、退かせる女王……バケモノとバケモノ。

 自分で言うのもおこがましいが、神と神。死と誕生の戦い……大袈裟な物言い同士だが、勝負のやり方は単純だ。
 キジンカグヤの中央部にあるダンジョンマスターコア……それに辿り着いたら俺の勝ち、辿り着けずに途中で力尽きたら女王の勝ち。
 俺が彼女のマスターコアを手に入れるか、彼女が俺を吸収するか……要は唯の喰うか、喰われるか。至極単純な生命のやり取り、どれだけ存在が強大だろうと偉大だろうと、やる事は変わらない明快なルール……強い者が喰らい、弱い者が喰われる!

 養分に伸びていく根の様に、俺を取り込もうと触手の様に伸びてくる!枝と呼ぶには太すぎる樹木達を斬り裂いて進むが並大抵の質量ではない。
 光を超えた速度、真空すら置き去りにする世界の中に居た俺を己が手の中に捕えようと絡みつく……それは俺の存在する世界を確実にこじ開け、侵入して俺を大気の中……女王の御前へと引きずり出した。

 『ハッ!永年生きてて、随分と初心だな先輩よぉ!身体に触らせてもくれないなんて、死にたがってる奴のやる事とは思えねーぜ!!』

 『下郎に触らせてやる程、妾の身体は安くないでな……もっと本気を出せ、後輩。で、なければ……そのままジッとしておれ。手取り、足取り優しく喰らい方を教えてやるわ……其方の身体でな!』

 枝木に阻まれ女王の本体部分である幹部分寸前で止められた……マスターコアまで後、500メートル。刹那で届く距離が、無限の彼方に感じる程遠い……

 『言っただろ!俺には愛しい妻と娘が居るんだ!俺を手取り足取り好きにしていい女は、もう決まってんだよッ!!』

 『力無き意志なぞ、砂上の楼閣!愛情無き被虐を求める者なぞ居らぬ、何故に虐げる者、虐げられる者が居るか……身を持って思い知れ!』

 『ちょっと受け止めたからって、全部を知った気になってんじゃねぇ!俺はまだまだ、こんなもんじゃないッ!!』

 『男なら言葉では無しに、背中で語ってみせよ!さすれば少しは妾も、この身を許すかもしれんぞ?じゃが……このまま朽ちて我が養分となるも!又、一興よの!!』

 動きを止めた獲物である俺を更に捕えようと、無数の木々が俺へと迫る!
 視界全部を覆い尽くす程の一面緑の奔流目掛けてブレスを吐く!迫り来る新緑の光を、閃光の濁流で飲み込み押し返す!!




……が、それ以上に俺自身が押し返されてしまった……俺のブレスで俺が盛大に後ろへと吹き飛んだ。
 その距離上空1万メートル……高度10km。成層圏まで、ロケットブースターを射出した様に盛大に飛び出してしまった……なんつー威力だよ……首が痛い……


 『表皮を剥して盛大に逃げるとは……其方の言う、こんなものじゃないは衣服を脱がすだけで満足する事かへ……?』

 『スマン……今の無し……もう一回仕切り直しで頼む……』

 駄目だ、迫って来た触手樹木は薙ぎ払ったけど、照準がブレまくってキジンカグヤの中心から外へとハズレる形で幹を抉ったに過ぎない……これでは確かに服か、精々皮一枚を剥いだ様な物だろう。
 事実、大きく抉れてはいるがスグに再生して元通りになっている……ダメージと呼べるものなど皆無だ。マスターコアを奪う以外、彼女に危害を与える術は無いのだろう。
 真っすぐ狙い通りにブレスが撃てるなら、マスターコアへの道が開けるのだろうが……支点の無い、力点のお蔭で、作用点が定まらない……ブレスを撃つのに支えてくれる支点が無いと、また盛大に後ろにブッ飛ぶだけだよな……
 ッ!?後ろに……ブッ飛ぶ……?そうか!


 『善い……が、距離が空けば開くほど其方の不利になると思え……質量とはこの世で一番単純な力強さぞ!』

 その言葉通り、成層圏の俺に向けて巨大な質量が飛んでくる!一つ一つが10メートルはあろうかと言う無数の石柱がミサイル群の様に螺旋を描き俺へと迫る。
 速度を乗せて破壊力を増した流星……避ける場所など無い、それなら!

 手の甲から伸びるダーククロウ……朧
ある程度は俺の意志で伸ばす事も可能な暗黒の爪は、今では12メートルになっている。それを只管ひたすらに振るって奮って振るいまくる!
 片手4挺づつの羽爪包丁を使って、石柱をタケノコの如く切り裂いて進んで行く。
 
 女王の魔力で強化セラミックよりも固められた石柱を、何の抵抗もなく易々と切り裂いていく朧……全てを引き裂くとは伊達では無い様だ!
 これならもっと近づいてブレスを撃つ事が出来る……パズルのピースは揃った!多少、歪でも強引に填める。無知でも……無知だからこその可能性を見せてやるぜ!!
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

わがままな妹のおかげです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:129

転生令嬢は男の浮気を許さない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:167

音楽好きの王子様

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

【R18】琴葉と旦那様の関係

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:129

快感のエチュード〜母息子〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:44

汽車旅つれづれはなし

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

空白を埋めるもの

青春 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

断ち切れないルーティーン

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...