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第73話 侵入と浸食と
しおりを挟む移動したその先は病室の様にも見えるが、嵌められた鉄格子から隔離病棟か牢屋の様に見える。
鉄格子のドアは空いていた、牢屋としての体裁は無いがその異様さと威圧感は十分だ。
「なぁ、アンリ?ここは一体どういった場所なんだ?お母さんは一体ここでどうしていたんだ?」
「おかあさんがきてくれて、あそんでくれたところ!ここでまってるとおかあさんがきてくれたの!」
「ん?っていう事は……お母さんと一緒に生活してた訳じゃないって事か?」
「うん、ここでいいこにしてるのよって!」
「ちょっと待ってくれ、アンリ!お母さんってのは一体どんな人だったんだ?アンリにパン……アヴェスタを持たせる時に他に何かなかったのか?」
「ん~っとね、やさしいひと!みんなみたいにいっしょにいてくれたひと!えと、えっと……ずっとね、これをもってた」
アンリが一生懸命に説明してくれるがイマイチ要領を得ない。だがアンリがお母さんと呼ぶ人を俺の思う様な親と呼ぶには何かが変だ。俺の現代日本での価値観とは違うだけかもしれないが……5歳児のアンリにこれ以上説明を求めるのは酷か?調べれるだけ自力で探ってみるか……
アンリが指さした先に在る物に目をやると……詰所の窓口の様な場所に置いてある四角い板が置いてあった。……って、これどう見てもタブレットだよな……ご丁寧に充電されてる。
電源を入れると液晶画面が表示される……ちょっと今の混乱した状況をSNSに書き込んでいいっすかね?『ファンタジーかと思ってたら、ハイテク機器が出て来たなう』って……SNSがこの世界にあるとは思えないけどね!
操作の仕方も普通にタッチパネルだ、何か手がかりが無いかと弄ってみるが……ロックが掛かっている。パスワードを要求されてしまった、当然そんな物分からない……
が、今の俺なら問題無い。高位解析スキルに加えて相手の存在を飲み込み我が物とする行為……浸食がある。
タブレットに浸食と言う名のハッキングを仕掛ければパスワードなんぞ在って無い様な物だ。解析スキルのお蔭で効率的に浸食出来る。
この程度のプロテクトは何てこと無かった……炎の壁ならキジンカグヤの火鼠の方が1000倍はキツイと思える程度の抵抗なぞ今の俺にはそよ風にもならない。
アンリと母親に関する事を中心に情報を開示させていくが、あまり大した情報得られなかった。
どうやらメインのホストコンピューターが中央棟に在る事、この棟の管理コンピューターはこの棟の最上階に在る事が分かった程度だ。
端末のハッキングだとこんなものらしい、まずはこの棟の管理施設から掌握しに行くとしよう……
屋上への道中、幾つかの施錠や電子ロックがあったが全て無効化出来た。
物理的な鍵は闇の実体化で、電子ロックは浸食で解除と……随分とまぁ女王との戦いで限界まで色々と酷使したお蔭か、便利技能を使える様になったもんだ。
警報機や罠の類もあったが無事に最上階の管理室へと到着する事が出来た。
完全にモニタールームの様な、壁一面に所狭しと埋め込まれた画面の数々とコンソールパネルや端末の置かれた机……ハイテク機器の数々にユウメ達は驚いているが、取り乱した様子が無いのは流石である。
「さてと……それじゃあ俺はここを調べるから、何かあったら教えてくれ」
「了解よ!初めてみる物ばっかりで手伝えない分、警戒位は役に立ってみせるから!」
ユウメの返答に皆が頷く。
付近に反応は無いが油断は出来ない、彼女達に任せて俺は作業に入り浸食を開始する。
掌握するのは直ぐに終わった……が、それにより手に入った情報の数々は膨大だった。付け加えるなら最悪の情報ばかりの……だ。
まず、この施設は実験施設で在る事。何の実験をしていたかを説明する前に、聞いた限りでは知っていた伝説のお伽話の再確認をさせられた……
ここ魔界都市は完全に魔法では無く、科学が支配している場所だった。コンピューターに管理・運営されている未来都市の様な場所……管理・運営されなければ種としての存続・維持が出来ない人々の場所だった。
何故そこまで住人である魔族達が追い込まれたのか……元は同じ種族同士が二つの勢力に分かれて熾烈な争いが起きた。
後の世で一方は神と呼ばれ、もう一方は悪魔と呼ばれる勢力の戦いは―――第三勢力という名の個体に全てを喰われた……その個体は後の世で暗黒龍と呼ばれる事になったそうだ……
そんな傍迷惑な乱入者に双方の勢力は全滅寸前の被害を受ける事となった……もうお互いにいがみ合っている場合では無い程の……
別れた神と悪魔は再び一つとなり協力して、突如として湧いた暗黒の災厄からの自衛手段を構築する。それが完全に隔離された土地であるこの場所への転移・移住。
だが人々から神や悪魔と呼ばれる者達でも、閉ざされた環境の中では種としての再繁栄には限度があった……それを解決する為に、解決手段を模索する為に建てられた施設がここ魔界都市の発祥でもある。
そして生まれた手段の内の一つが肉体からの解脱……精神体として繁栄し、空間に左右されない存在へと変わる事。だが、これは一部の反対派により別の計画を生み出す事にもなる……
それがアヴェスタによる肉体の入手手段の確保。他にも幾つか別の手段が試されたが、一番効率の良い手段がこれだった……精神体である者達にとって、何かを強く願ったり欲したりするという想いは強ければ強い程、その意志に同調しやすく……憑依し乗っ取り易くなる。
そうして肉体を得て復活し、数を増やして再び大陸へと戻ろうとする派閥……それがこの世界の定義する魔族と呼ばれる存在だった。
アヴェスタで肉体を得た魔族は培養魔族と呼ばれ、肉体を捨てなかった魔族を純魔族と呼ぶのも分かった事だがそれは今は重要じゃない。
培養魔族は精神と肉体が乖離しているので個体としての確立が弱く、天敵の網に引っ掛かる様な反応をしていないので暗黒龍から追われる形となった大陸復帰への足掛かりの為にも積極的に採用される事になる。
それは何度も歴史上に魔族の存在が記されている事からもユウメやオミの言う事と一致している。
時には魔王と呼ばれる強力な個体が生まれる事もあった様だが、勇者と呼ばれる大陸の原住民に倒される……現地の人々には英雄譚と呼ばれる様な記述。
その中に天敵の暗黒龍は出てこない事が長年の研究で確認された所で、更に別の強力なアヴェスタを作成する計画が立案される。
それがパンドラ……最高傑作のアヴェスタとして造られた、人類にとっては最悪の災厄。それを運ぶ為に選ばれたのがアンリ……
何故こんな幼女が選ばれたのか……最高に最悪で胸糞の悪くなる理由は中央棟にある。
中央棟が正にこの国の中枢機関であり、最高意思決定機関でもあるメインコンピューター『世界秩序』と呼ばれる場所に。
しかし中央棟に入るには今居る右棟管理室と左棟管理室から同時に解除コードを送信しないといけない様だ……無理矢理にこじ開けると機密保持の為に面倒臭い仕掛けが色々出て来て、最悪全データ消去になるみたいだからだ。ダイナミックお邪魔しますは駄目みたいだね……やらなくて良かった。
残念ながら中央のメインコンピューターも左棟管理室も独立しているので、まずは現地に行かないと駄目なアナログ仕様なので足を使うしかない。
なので俺達が二手に別れる必要が出て来きたのだが相談の結果、俺とそれ以外のメンバーになった。やはり戦力上、これで別れた方が安定する。
問題は左棟へは俺が行くかユウメ達が行くかだったのだが……俺がここに残ってモニターを見ながらサポート、ユウメ達が左棟管理室に行く事に決まった。
解除コードの送信も難しい操作では無いので通信石のやり取りで十分だ。先にここから左棟道中まで浸食して道を拓いていた方が効率的なのも確かでもある。
まだ他にも出てくる情報が色々ある……膨大な情報を更に精査していく必要もある。
「ここに入って、まだ敵と呼べる物は出て来ていないが気を付けてくれ。不味いと思ったら直ぐに引き返してくれよ、俺も最速で駆けつける様にはするけど……」
「分かりました。従者としてアンコウ様にご心配をお掛けする様な真似は致しません」
「お嬢様の無事は私にお任せを!」
オミとエルナが俺の不安を察してくれた様に力強い声で返してくれる。そんな彼女達を信頼しない訳にはいかない……
「ああ!頼んだぞ皆!」
「ええ、中央棟で会いましょう!」
「いってくるね、アンコウちゃん!」
後はユウメ達がやってくれる……普段と逆で、見送る自分に少し戸惑うが俺には俺の出来る事がある。早速取りかかるとしよう……
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