“絶対悪”の暗黒龍

alunam

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第24話 アンコウと行燈と 前

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 「おや珍しい今日はアンドンさんが買い物かい?」

 「……おお、銀ロウと銀粘土2セットづつ売ってくれ」

 アンドンさん……俺の事だ、すっかりこの呼び名が浸透してしまった……
昼行燈のアンドンからだろう、村の人達からはアンコウからアンドンに変わってしまったが分からんじゃない

 2度目のダンジョントライを終えた後、冒険者カードを手に入れて3日程経ったのだが、人の噂は凄い物で……特に小さな村社会では話題も少ないのだろう、ユウメが戦術級千人隊長の証ゴールドカードになった事は一気に広まった
 村の人達も祝福していた辺り、ユウメはこの村でも人気者なんだろう。村の有名人が更なる高みに至った事で我が事の様に喜んでいた
 それに付随して俺がアイアンである事も広まった……どこから漏れたかは知らないが、俺達がダンジョントライで生活費を稼いでいる事は周知の事実だ
 そう、ユウメと同居している以上、ユウメの想い人と思われてもおかしくないアイアンカードの俺
 村の人気者かつ実力はゴールドカードのユウメ
 生活の糧を得る仕事となっているのはダンジョン探索である以上、実力者ゴールドに寄生してる初心者アイアインと思われても仕方ない事ではある
 ……つまり俺はユウメのヒモと思われてるのだろう

 言い返した所で実力を証明する為の物である、カードの色はこの世界での基準である
 口で説明しても言い訳にしか受け取って貰えないだろう事は想像に難くない

 実力者で美人で人気者だったユウメを射止めた男へのやっかみもあるのだろう、アンコウから昼行燈のアンドンに変わるのはあっという間だった
 響きも似てるしな……

 呼び名を気にしない俺だが世間体が悪い事位は理解している、ただ人の口に戸は建てられないので甘受するしかないのであった……
 人の噂も七十五日だろう、俺が人間になってまだ2週間も経ってない位だと思うが……意外と先長いな、まぁいいか






 「ただいま~、おや?来てたんですか大姉さん」

 「こんにちは、お邪魔してるよ婿殿」

 家に帰ると、ユウメの叔母……大姉さんが来ていた
背はユウメよりも少し低くオミと同じ位で、年を重ねた茶髪のユウメという感じだ
 年は聞こうものならユウメと同じゴールドクラスの実力で答えてくれるだろう女傑、頼れる姐さん肌の性格の人だ
 出会った時は病から衰えていた体力も、今ではオミの治療でほぼ完治したと言っていい所まで来ている様だ

 「寝込んでいたら、いつの間にかひよっ子に追いつかれてしまったからねぇ……久しぶりに稽古でもつけてやろうかと思ったら断られた所だよ」

 「ええ、駄目ですよ大姉さん、まだオミ殿の許可も出ていないし……それにこれからも時間はあるんですから万全の体調になってからでいいのよ!焦る事なんかないから!」

 「やれやれひよっ子に諭されるとは、本当に歳はとりたくないねぇ……」

 口ではぶっきらぼうだが嬉しいのだろう、美人二人の仲睦まじい光景は俺も心がほっこりする
 ユウメも固い口調ではなく砕けているあたりあれが素の口調なんだろう、俺達にはまだ少し固いがいつの日か時間が解決してくれる事だ


 「ところで婿殿、仮にも師匠の剣を2度避けたあんただから噂はあてにならないのが分かっちゃいるが村の評判は聞いてるだろ?」

 「ああ……アンドンの事ですね……」

 「知っているならいいよ、ひよっ子の婿なんだからこれから羽が生え変わるのを黙って見てりゃいいのにねぇ……気にしてないんならいいよ」

 「ありがとうございます、大姉さん」

 可愛い娘を思っての事だろう、俺の事も気にかけてくれている辺りやはり優しい人なのだ。本当に頼れる姉さんだ 



 その後、大姉さんが帰るのを家まで送って来るとユウメが出ていき俺一人になる
オミはゴールドカードの実力を持った巫女だというのが一緒に噂で知れ渡り、高位神官クラスの治療が受けれると聞いて集まった人達を村の教会で診察している
 美人の女医でゴールドのオミも俺へのやっかみの一つになっているのは言わずもがなである……

 エルナとアンリは師匠と呼ばれる爺様の所に行っている、21層でアンリへの危険は問題無かったのだがエルナが壁にぶつかった様である
 ハイグリズリーという、火を吐く巨大熊のモンスターがいたのだがすこぶる相性が悪いらしい

 エルナの強弓でも、巨大な体躯を誇るハイグリズリーには効果が薄く、火を吐く攻撃には風や闇魔法は相性が悪く、体力に物を言わせて突っ込んでくる熊と細身のエルナでは接近戦になると勝負にならない
 元から弓が得意なエルナは接近戦が苦手だそうで、弓と魔法ならシルバークラスの太鼓判をユウメに押されているが近づかれたら有効手段がない事を酷く気にしていた
 それが伸び悩みでブロンズに留まっている理由でもあるらしく、爺様の所で特訓して進展があったら次のダンジョントライをする予定だ

 やはり接近戦インファイト遠距離戦アウトレンジもこなしてこその戦術級なのだろう、俺も有効距離が30メートルなので欲が出てくる
 広い所ならドラゴンになって旋風なり、当たるか分からんがブレスを吐けばいい俺だが、人間状態にも自作の銃にもまだ向上の余地が大いにある
 折角の特訓期間なら俺にもやる事はある、買って来た銀材を広げて幾つか思いつく改良点を試していくつもりだ
 ついでにエルナの悩みも解決してやれるかもしれないアイデアがある。それの実験も試みるいい機会だ……




 黙々と作業をしていた所に、エルナの戻りを告げる声がする

 「ただいま戻りました、親方様良かったお戻りでしたか」

 「おかえりエルナ、何かあったのか?」

 「はい、村の方々を集めるようお師匠様から言われまして、親方様で最後になります」

 「珍しいな、何かの集会でもあるのか……行ってみよう」

 作業途中だが、呼ばれてるなら仕方ない。ざっと片付けて家に鍵をして村の集会所に向かうと人だかりが出来ていた

 「アンコウ殿こっちです!」

 手を振るユウメとオミとユウメの足元にいるアンリの所へ向かう、しばらくすると村の代表者の初老の男である村長が壇上に立ち、話始めた

 「実は東のダンジョンからモンスターが溢れて来ているようだ……大量のモンスターが行き場もなく彷徨い、村を襲ってくる確率が非常に高い。幸いこの村には戦術級の戦力が居てくれますが……なにぶん大量で広範囲、どこに被害が出るかも分からんので各自警戒する様に、さらに冒険者を雇い護衛に充てる必要が出てくるかもしれん」

 どうやら東のダンジョンは北に比べて難易度が高く、ダンジョン攻略で生活している冒険者達には不人気らしい
 難しい方と簡単な方が選べるなら楽して稼げる方がいいだろうしな
結果、溢れて来たモンスターでパニックが起きてしまった様である
 ユウメは東のダンジョンを村の為にも攻略していた様だが、俺の討伐で留守だったし、アンリの為に易しい方を選んでくれていたのが仇になってしまった様だ
 

 村長の発言が終わると反対意見が色々出る、今年は不作だったのにそんな金がどこにあるとか、実力者達をどこに配置するんだとかそんなんばっかだ……
 幾ら戦術級がユウメ・オミ・大姉さん・爺様もかな?の4人いたとしても、いつ・どの位・どこにくるか分からないモンスターから完全に被害を抑える事は難しいだろう。内、二人は病み上がりと老人でもある

 答えはまだ出ていないが懐は苦しくても冒険者を雇って数には数で対抗する方向性に纏まりつつあるようだ……


 「まぁ雇った冒険者が護衛してる間、俺達でモンスターを手分けして掃除していく形になりそうだな」

 「ですね!アンコウ様、汚名返上の機会ですね!」

 「ああ、それはどうでもいいんだが面倒臭いな……通信機みたいなのがあれば便利だろうけど……」

 「通信石ならありますよ?風の魔石を加工した石で、数字を合わせればその数字同士の石の効果で離れていても会話が出来る様になります」

 「あるんだ!この村にも在庫ある?」

 「はい、10個程なら……」

 「そんだけあれば十分だ!高い金払う必要もないみたいだし、パパッと終わらせちまおう!」

 「アンコウちゃん、なんかうれしそうだね?」

 纏まりかけた所で悪いが、俺が手を挙げて発言すると注目を浴びる


 大丈夫だ!私に良い考えがる!
……何、最後には力技のドンパチで解決するフラグ立ててるんだって?大丈夫大丈夫やるのはドンパチだからなっ!!
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