“絶対悪”の暗黒龍

alunam

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第29話 可能性と目的地と

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 大姉さんのリハビリ二日目、俺達の探索速度は加速度を増していく
アンリはオミの作ったローブのお蔭で疲れ知らずで、東のダンジョン14層から始まって現在22層まで来ているのだが今も元気に魔法を撃っている
 魔力が切れると昏睡や精神疲労によって動けなくなる魔法士にとって、魔力管理は必須である
 疲れた等の戦闘放棄とも取れる言葉も、動けなくなる愚を犯すよりも賢い選択である
 魔法士は常にクレバーでなくてはならない、世界一賢いウチのアンリはそれをよくわかっている。なんせ世界一賢いからね!大事な事なので2回言いました

 しかしそれもミスリルローブの効果である魔力回復のお蔭で、今までなら疲れたで休んでる頃だが、いつもより威力の大きな魔法を連発してもこうして元気なあたり装備の効果は偉大だ

 そして北のダンジョンと同じく21層から出て来たハイグリズリー……
これはもうエルナが一射必殺で、熊の筋肉に覆われた喉元を射貫き、頸椎を砕いて屠っている
 どんどんコンパウンドボウを使い慣れていくのか、射かける速度も比例して早くなっている
 さっきは一呼吸で5射……圧巻の刹那五月雨撃ちを披露してハイグリズリー3匹、コカトリス2匹の大型種を秒殺していた
 壁を乗り越えたエルナも自信がついている様で、耳が高々にピンと上を向いている辺りあの耳は犬の尻尾と同じと思って間違いないだろう
 先頭を歩く姿もどこか誇らしげに見える

 次に

 「こいつはいいね、気に入ったよ!反りもあるから抜刀術に向いていて居合いの速度が上がってるし、魔石の効果も問題なく発動してるよ。婿殿は魔法技師でもあるとは恐れいったよ!」

 大姉さんの使う剣の様な物……様な物と言うのは、そのままの意味で刀身が剣ではないからだ
 俺には業物の剣を作る技術も道具も環境もないので、代用品を使うことにした。俺の爪である
 一般家屋よりも天井の高くて広い道場が家にある御陰で、猫背でいればドラゴン状態でも動く事が可能だ
 俺の正体もエルナに明かしたし、閉め切っていれば外から見られる事もないので、変身して爪を5本程引き抜いて穴を空けて目釘を通して柄を拵えた品である

 後はミスリルで加工した つばや はばきにユウメの魔法剣を参考に、雷魔石を埋め込み魔力回路となった彫金細工を施し魔法剣ならぬ魔法爪となった物に、鞘にも同じく雷魔石で細工したミスリルを使い魔法剣もどきが完成したのであった
 使い心地は大姉さん曰く

 「鉄や鋼よりも軽いが、切れ味は段違いで爪そのものが魔力を通す魔力回路みたいなもんだから込める魔力も少なくていいね!まるで、東方の異国から来た剣士が使ってたカタナとかいう武器みたいだよ」

 武器が体の延長線になっている達人にとっては、重さも重要な武器選びの一つなんだろうが流石は大姉さん。2,3試してる内に片手剣ではなく、日本刀としての使い方が向いていると気付いた様だ
 俺が剣の作り方を知らないので、ネットで見た日本刀の記事を参考にして作った物なので間違っていない

 同じ物をユウメにも作っている、こちらは光魔石で拵えた品で、アンリのローブと同じく体力回復・魔力回復のついた補助効果武器……サブウエポンとして準備した
 ユウメ自身、大姉さんから受け継いだ魔法剣に思い入れがある様なので、慣れない二刀を使うよりは予備として効果の高い物を作ったつもりだ
 こないだ折ってしまった鋼の剣の代わりになればいいと思っていたが、両方を腰に差して装備している
 二本差しのユウメは女侍の様で素敵だ、たまに二刀流で戦ってる辺り本人もノリノリで、いずれは女武蔵になるかもしれない

 残りの爪でエルナとアンリにショートソード、俺の加工道具代わりのダガー数本になって使い切ったが使い勝手が良いので余裕があったらもっと作るつもりである

 この俺の爪で作ったダガーのお蔭で、あのひたすら固かった俺の角もなんとか切り分ける事に成功した
 それによって手甲や脚甲や胸当てが俺の角製になり全員の防御力が大幅にアップした、オミのバックラーも俺の角製になり 丸盾バックラーから 大盾ラージシールドになった
 武器も作ってやれれば良かったのだが、如何せん軽いのでメイスとしては爪も角も材料に向いてない様だ
 代わりに今使っているメイスに地魔石を追加で装着して、重力増強等の効果を付与して微量だが強化してある
 
 木工と彫金に錬金を少々の俺の製作スキルだがこうなると鍛治も欲しくなってくる……趣味は留まる事を知らないな!
 
 防具にして余った角の端材も全員で削り、回復薬がまた結構な量増えたので緊急時にも対応出来るが今の所その心配はない様だ
 油断はしてはいけないが、この調子ならまだドンドン先に進める
 溜まりに溜まっていたモンスター群も落ち着いたのか、モンスターハウスも昨日以降遭遇していない
 23層まで踏破した俺達は休憩の後、午後も探索を続けることにして30層迄行った所で区切りがいいので切り上げた

 皆の強化の甲斐あって驚異的と言っていい速度だろう!
アンリとエルナの遠距離攻撃から始まり、オミが援護し、ユウメと大姉さんで仕留めていくのは凄まじい効率だった!
 うん!空気だな、俺……そろそろ俺自身の強化に入らないと男として泣きそうだ……
 
 14層から始まり30層迄のボスのドロップ品で特にこれだという物はなかった……魔石美味しいです……
 明日は爺様の孫である商人さんが村に来る予定なので、探索は無しだ
今日こそは帰ったら飯食って体洗ってよく寝よう、さすがに二徹は人間になった俺には堪える様である……






 翌日朝食で起こされるも、食べた後二度寝に入り昼前にまた起こされる俺
社畜時代も休日は寝て過ごしていたので、スローラーイフから離れると昔の生活環境をなぞってしまっているあたり身に染みているのだろう

 予定通り、商人さんが村に到着したようである
早速、洗面等を済ませ着替えて5人全員で村の広場に行くと馬車3台の商隊が到着して物資を卸し、又モンスターパニック時の魔石を馬車に集積している様だ
 そこに爺様と大姉さんが話している若い男の姿が見える、近づいていくと俺達に気付いた大姉さんに紹介して貰う
 この人が爺様の孫で商人をやっている人で間違いないようだ、金髪のイケメンで背は俺と一緒位だ
 にこやかに笑いかけてくる顔も爽やかで歯が白い辺り、モデルや芸能人と言われても信じてしまいそうだ

 「やあ、★§Θ……イヤ、今はユウメだそうだね。久しぶりだね、まさか君が良い人を見つけてくるなんて寝耳に水だったよ!」

 「兄さんもお久しぶりです。お子さんも産まれたそうで、お祝いにも行けず不義理をお許しください。本当におめでとうございます」

 「気にしないでくれ!祝福してくれて嬉しいよ、今度抱いてやってくれ!……おっと、申し遅れました。初めまして、アンコウさん。私は祖父の孫でこの商隊の責任者をやっております……ああ、事情は聴いています、ユウメの夫なら私にとっては弟と言える方です。気兼ねなく義兄と呼んでください」

 「こちらこそよろしくお願いします兄さん、俺の事は呼び捨てで構いませんよ。早速ですいませんが、アヴェスタに詳しい人をご存知だとか?」

 「一応は、自分も商売をやっている身なので幾何かの知人や伝手があります。丁度、学問と研究の町として名高い学術都市に所用もありますので……よろしければ、その時ご一緒下さればその筋の研究者を紹介して貰えるやもしれません。私自身に、アヴェスタ専門の学者の知り合いがいないので確実とは言えないのですが……」

 「十分過ぎる位ですよ、突然の不躾なお願いを聞いて頂きありがとうございます!」

 「ははっ、早速義兄としての面目が保てた様で良かったよ!改めてよろしくな、アンコウ君!」

 うーむ、イケメンリア充凄いな……挨拶だけで距離感が狭まっていくわ!商人としてもやり手みたいだし、天は何物を与えたもうたのか……爆発しろとは言えないが、羨ましい限りだ



 「皆、聞いての通りだ。俺達は学術都市に行く、それでいいか?」

 「「「勿論!」」」

 だ、です、でございます……それぞれ語尾は違うものの3人とも快諾してくれた。後は……

 「アンリ、聞いての通りだ……まだひょっとしたらなんだけど、アヴェスタの謎が……アンリの周りで起こる事の不思議が分かるかもしれないんだ。また新しい場所に行くけど怖がらないでくれるか?」

 「うん……こわいけど……アンコウちゃんがいっしょだから、いく!」

 アヴェスタの入ったマジックバックであるポーチをぎゅっと押さえるアンリを、やさしくだがしっかりと抱きしめる
 ドラゴンの時では、到底出来なかった事だ
強大過ぎる力が……抱きしめる事すら破壊になる程の力よりも、今はアンリの不安を受け止めてやれる事が出来る程度の力がある事の方が何倍も誇らしい
 だが人間の力では魔族に対抗出来るか分からない……だがしかし!どうせなら 幼女アンリを抱きしめれるまま 幼女アンリを守りきれる力を、どちらも目指すべきである!

 人間の可能性もまだ未知数だ、まだまだ俺達には目指すべき階段は多い!戦術級・作戦級・戦略級どんと来いだ!
 俺自身、強くなることが楽しい
測定は出来ないけど、人間時で戦略級の……ブラックカードの実力になれば、ドラゴンの時なら ブラックを超えたブラック、暗黒龍の名に恥じない力になってるだろう!
 アンリの敵は例え軍団だろうが、国だろうが、魔だろうが、神だろうが!全部纏めて蹴り飛ばす!!

 学術都市への出発は3日後だ、それまでに出来る事をしないとだ!また徹夜してしまいそうだけど……楽しいんだから仕方ないな!
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