“絶対悪”の暗黒龍

alunam

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第42話 解析開始と

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 こうして紆余曲折あったが始まったアヴェスタの解析プロジェクト……申請が通る迄に半年待つのもザラって事を聞くと俺達は幸運だったと言えるな

 解析者に一度俺達が訪れたが、守秘義務を理由に門前払いを喰らったアヴェスタ解析経験のある高位スキル持ちの学者をメンバーに得て始まった……のだが、高位スキル持ちでも駄目だった
 予想出来た中では最悪の結果かもしれない……
高位解析スキルでも何が書かれているか読み取る事が出来ず、最高位解析スキル持ちは存在せず、トドメにまた光の渦が解析者の頭上に浮かび、今度は用意された研究室の中に謎の野太い男の絶叫が響き渡った……

 研究メンバーの中には、理性の範疇を超えた不気味な出来事に早々と脱退者が出た……が、気持ちは分かる
 無理強いしてもいい結果が出るとは思えない、残ったメンバーで続けていくことになる

 解析の方は今の所、駄目だって事で結論づけた、ならば次はアヴェスタの処分か破棄方法である
 処分するのは伯爵や解析者の高位スキル持ちの学者等が難色を示したが、決定権は俺達にある。だったらアンリの所有権破棄方法を解析して、それから後に好きなだけ解析してくれって事で現在の方針が決まっている

 この呪いの装備とも言えるアヴェスタ……アーティファクトの呪縛から解かれ次第、俺達は所有権を放棄してプロジェクトから脱退
 次に権利を先生に譲渡する事に決定している、先生が権利を放棄するなら最後は公爵管轄で国に寄付する流れになる

 一応今の所の成果は、解析しない限りは誰が持っても大丈夫な事
アンリにアヴェスタを置いて建物外に出て貰い、数時間程女性陣で買い物したりと時間を潰してきて貰ったが変化は見られなかった事
 試しに研究員の一人に持ち出して貰い、念のために俺も護衛してついて行ったのだが、仮初めの盗難や奪取では何も起こらない事……位かな?進展という進展じゃないが

 
 解析しない限りは大丈夫なのは結構、薄氷である。解析スキルなんてのは低位、高位の差はあれど大多数の人が持っているスキルらしいからだ
 俺達メンバーの中でアヴェスタを開いたのはアンリを除いて俺とオミだけだ

 俺はともかく、オミは村社会で巫女として育ったのが幸いだった様だ
 限定的なコミュニティの中で育ち解析スキルを持っておらず、高位神官並の能力は魔の物に対して強い抵抗力を持っている
 アヴェスタ所持者に教団関係者が多いのはそういった理由からも多いそうだ

 本当に良かった、オミが魔族化して敵になっていた可能性があったと思うとぞっとする……幾ら荒んだ俺でも、オミに手を上げれる気がしないからな多分じゃなくて絶対……
 


 次に二つ目・三つ目の離れていても変化が無いは、四六時中アンリを研究室に缶詰にする訳にはいかないので助かった
 大人達が静かに研究している中、一人子供のアンリには居づらい空気である
 人員の入れ替わりもある研究チームの人事に、初対面の人間が怖いアンリにはさらにストレスのかかる空間なのは間違いない
 このまま学術都市から離れて何もないなら、そのまま好きにやってくれと言いたいが、これでまたアンリの手元に戻って来たら発狂する自信があるのでまだここでサヨナラする訳にはいかない

 
 国の重要研究区画は部外者の立ち入り禁止で警備も厳重だ
おいそれと盗難の被害に遭う事もないので、研究開始から3日程経った今では息抜きがてら都市内を散策するのも日課になってきた 

 人混みの中を歩くよりも、静かな店で珍しい物を見ていた方がアンリも喜ぶので、俺も解析スキル上げがてら付き合っている所だ
 オミ以外の全員で昼食も兼ねて出て来た所だが、1週間前には戦場にいたとは思えない長閑さに欠伸も出てくる
 オミと先生には持ち帰りでサンドイッチを準備しているが、あの二人は一度火が付いたら止まらない……俺も出来る事はやろうと、人名に詰まりながら文献を漁っているが役には立っていない
 最高位解析スキル覚えれたら人名フィルター外れてくれねーかな……

 ユウメやエルナも研究となると戦力になれていない事を気にしている様だ、一度気晴らしに皆で学術都市近くのダンジョンでも行って暴れるのもいいかもしれない
 まだ始まったばかりだし、長期戦は覚悟していた。理想は早期究明だが息切れしない様に続けないとな!
 


 なんて思いながら研究室に帰ると、どうも騒がしい。何かあったのか?

 「伯爵軍を武力制圧し、次はアヴェスタ解析ですか?一体、公爵閣下は何を企んでおいでなのですかな……?」

 「企むとは滅相も無い……彼の有名なアヴェスタ解析者の忘れ形見である彼女の研究要請が目に留まって、プロジェクトを開始しただけの事……当然、解析後は彼女指導の元に国益へと還元して戴く事は了解を得ている」

 そこには穏健派だった下院の議員3名に、公爵が詰問されている
どこから聞きつけてきたかは知らないが国のプロジェクトだ、同じ国の権力者なら耳に入って来てもおかしくない
 わざわざ現地に来て釘を刺しに来るあたり、今回の反乱処理で上がった公爵への評判の良さが気に食わないのだろう

 「余り力を求め過ぎられては、敵が多くなる事は努々お忘れなき様……先祖返りの英雄を期待されている御身には要らぬ助言でしょうが」

 「貴公等こそご存知かは知らぬがアヴェスタは思い上がった者に天罰を与えるリスクがある、くれぐれも想い違いめされて専門家先生方のお手を煩わせぬ様どうか見守って頂きたい」

 おーおーそこまで険悪ムードなら「調子乗ってんなよ」「うるせー邪魔すんじゃねーよ」でも変わらないだろうに……政治の世界ってのは面倒くさいもんだ
 立ち去っていく議員3人が居なくなってから公爵に声を掛ける

 「何か色々重なって俺達が原因みたいになってるな……余計な面倒を掛けるな」

 「気にするな、君の所為じゃないさ。対立派閥の相手なんて、何かにつけてイチャモン付けてくるのはどこも一緒さ……」

 やれやれと言った表情で、自分の執務室へと戻っていく公爵。どうやら公務中に3人が訪れて来たのを知って、慌てて駆けつけて来たそうだ
 本当にやれやれだな……きな臭い事にならないといいけど……



 しかし案の定、俺の立てたフラグは回収される事になるのであった……
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