“絶対悪”の暗黒龍

alunam

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第52話 平穏な日常と少しだけ変わった事と

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 「それじゃあ行ってくる」

 「いってきま~す」

 「はい、いってらっしゃい」

 お泊まりから戻って来たアンリと一緒に家を出る
そう、嫁さんに見送られて子供と一緒に家を出ている……ちょっと憧れていたシチュエーションなだけに顔がにやけてしまう
 オミとエルナは祭りの後片付けをしてくれている、そろそろ終わるのでこれから商業都市に向かい食料や生活必需品の買い出しだ

 ユウメは家の掃除をしたいそうなのでお願いしている、確かにそっちの方がいいだろう。むしろ今日一日はゆっくりしていて欲しい……
 なんせ普段のユウメは剣士独特の動いても頭がブレない歩行をする、間合いを測らせない足さばきや、身体の正中線に一本芯が通ってる様にピシッとした動きをするのだが……今朝からは歩き方がぎこちない……
 原因は俺なので今日くらいじっとしていればいいのにと思うが……動いてないと落ち着かないそうなので留守番がてらやりたい様にして貰う
 俺達はオミ達と合流する事にしよう、別れ際のユウメのへっぴり腰姿なんて貴重な光景にさらに笑いが出そうになるが我慢するとしよう……ぷぷっ


 


 東のダンジョンから移動ゲートを使って商業都市に着いた俺達の買い物はあっさりと終わった、エルナが背負っているバックパックサイズのマジックバックに盛大に食料と生活雑貨を詰め込んで行くだけだからだ
 学術都市で研究が頓挫した代わりの詫びとして貰って来た
 お詫びなんか別に要らないって言ったら気が済まないので何か無いかと聞かれたのでこれにした
 
 俺達の持ってるマジックバックはランクで言うと、俺とアンリのが下位、エルナのダンジョンドロップ品が中位、ユウメとオミのが上位に分けられる
 持ち歩く物が着替えと生活雑貨位しかない俺は最低限でいいし、急にドラゴンになる必要に迫られたら破壊してしまう可能性があるので、身につけるのに高価な物は向いていないからだ
 アンリは非常に高価なアヴェスタを隠し持つのに、高価なマジックバックに入れてるのは唯でさえ本末転倒である
 なのでデザイン重視で機能性は低い、パッと見は普通のポーチに見える物にしている

 エルナのマジックバックは今まで俺達の食糧庫代わり……冷蔵庫みたいな扱いだったが、このバックパックのお蔭でその任を解かれる事になった
 この見た目、この大きさだけあってランクで言うと最高位品にあたるバックパック。上位品と比べたらお値段に0が2個付くだけあって、保存能力も尋常じゃない
 ランクが上がるにつれ時間の流れが隔離していくらしく、このクラスになると時間完全停止の完全保存が可能だそうなのだ……腐らせて廃棄する事がないならこんなに素晴らしい事はないのでこちらが食糧庫、エルナのマジックバックの中身は調味料の保管庫と弓矢関連とその他諸々になっている

 ユウメとオミは財布番をして貰っているし、緊急用の品が色々あるので買える中で一番いいのをオミに買っといた
 
 そしてこの最高位バックパックのマスター権限は俺になっている。主人の立場にいる俺が下位で、自分達が中だったり上位を持っているのは心苦しいって言うからね仕方ないね!全然使う事ないけど……
 まぁサブ権限も4名まで任命できるみたいなんで、全員登録しといた

 この世界は男が女の荷物を持つようなフェミニンな世界じゃない。戦える者は武器を持って、戦えない奴が荷物を持つ世界だ
 その点で言えばウチなら誰が持ってもいいのだが、俺が持つと先程述べた通り壊してしまうかもしれないので自己却下した
 これを壊すと小市民の俺は勿体ないオバケが出て来て死ぬ、角を折って売れば余裕で買えるらしいけど問題はそこじゃないしな!

 「皆様に荷物持ちなどさせる訳には参りません、当然私が運びます!」

 って事で一番使うのは食事当番のエルナでもあるので、エルナが持つ事になった
 伯爵の居城に侵入した時も思ったけど、150代半ばの身長で細身のエルナが背負うと完全にバックパックの方が本体に見える
 ……けどこれを背負って盛大に金庫荒らしをした俺達だ、普段持ち運ぶ位訳はない
 
 エルナ自身も痛み易くて今まで使う事が無かった食材も、これなら買えるという事で喜んでいるので善しとする
 残りはオミの裁縫関連一式や、俺の銀材一式を買った位だ。オミにミスリルにして貰う必要があるので、全部オミのマジックバックに収納した
 
 

 帰りも移動ゲートを使って東のダンジョンに出る、そこから徒歩になるのだがちょっと寄り道して久しぶりの東のダンジョンを探索してみた
 ポータルを使って続きから……22層からだったな、懐かしい

 「折角なので前の弓でハイグリズリーと戦ってみても良いでしょうか?」

 「ああ、いいんじゃないか。俺も試してみたい事があるから、仕留め損ねたらトドメは俺が差すわ」

 「アンリちゃんは私と気配察知の練習をしましょうか、格下の気配を知るのも訓練ですからね」

 「はーいっ!」

 結果から言うと仕留め損ねは無かったね……相変わらずダンジョンで俺の出番はないね!
 バックパックを背負ったまま器用に弓を引くエルナの、以前に比べてより正確さを増した射撃に、一射毎に魔法を乗せる余裕も出ている。完全に一皮剥けた腕前になっている

 って事で、出番無しじゃ寂しいのでボスだけ俺が戦わせて貰う事にした。ボスはゴールドグリズリー、4メートルの金色の灰色熊とはこれ如何にだ

 無造作に近寄って行ってゴールドグリズリーの前に立つ俺、4メートルの巨体の鋭い爪をした剛腕が襲ってくるのを左腕でガードする
 乾いた音を響かせた後、のけ反ったのはゴールドグリズリー。粉砕された爪から血が流れている……デーモンの剣すら折ったこの装甲は頑丈だから、ダンジョンモンスターボスとは言えど返り討ちになった様だ
 
 今の状態は左腕のみに装甲を纏わせた、言うなれば『部分進化』だろうか……
 ゴールドグリズリーが反対の手を振るって来たので、左腕の部分進化を解除。右腕を部分進化、かなりの集中力がいる!けどその分、必要な力の大きさと流れをハッキリと意識する事が出来る
 結果は先程のリピート!攻撃した方がダメージを負っている……


 スマンな、甚振るつもりは無かったんだ。直ぐ楽にしてやる……
両脚を部分進化させて跳躍!巨体の頭部……ゴールドグリズリーの眉間目掛けて右ストレート!
 骨と脳漿の砕ける音を出して、崩れ落ちていく4メートルの金塊……右手甲の爪に、余り見た目によろしくないグロい物体が付着しているが闇に吸収させた後に解除したら綺麗サッパリ消えていた
 魔石に変わった後、宝箱も出て来た。ドロップ品は『細工師の魔眼鏡』……俺の解析スキルで分かる範囲は、作成技能補助の効果がある様だ。やっぱり東のダンジョンの方が、ドロップに圧倒的楽しみがある!

 見た目はアンダーリムの銀縁眼鏡だ、試しにオミに装備させて見たら超似合う!知的美人だけど、丸みのある下縁が柔らかい印象を与えてくれてやさしげな雰囲気を出している
 妖艶な美しさと言っていいオミに可愛らしさも演出した見事な逸品だと言えよう!オミに使って貰う事に決定した

 「アンコウ様が使われた方がよろしいのでは?」って聞かれたけど

 「俺が付けるとこうだぜ?」

 鏡が無いから分からないけど、眼鏡ってのは目を大きく見せたり小さく見せたりするからな……俺の目つきの悪さはどう転んでも凶悪なのだ……
 眼鏡を付けた俺を見た皆の反応がコメントに困っている、アンリだけはキャッキャと笑っている……うん、大体察した

 
 「それよりエルナ、冒険者カードも今なら変わるんじゃないか?もうブロンズって事はないだろ?」

 「そう言えば、修練に必死で忘れていました。やってみます!」

 マジックバックからカードを取り出して魔力を流すエルナの手には……銀色に光るカードが握られていた

 「シルバーか!おめでとうエルナ!」

 「やりましたね、エルナ!あなたならゴールドもすぐですよ!」

 「おめでとー!エルナちゃんもせんじゅちゅきゅーなんだね!」

 「ありがとうございます!全て皆様のお蔭です!」

 戦術級が言えないアンリ可愛いけど、喜んでいるエルナも可愛い!耳震度が計測史上最高値である!

 「親方様から与えられし武具の数々で此処まで来る事が出来ました……もはやこの身で返せる御恩では御座いませんが」

 「貸した覚えはない、返すとか気にしたら駄目だ!エルナが嬉しいなら俺も嬉しい、それで十分だ!」
 
 有無を言わさず頭をぐしゃぐしゃに撫でる、その固い頭を軟化してくれようぞ!
おや?耳の動きが止ま……違う!残像……だと……!?もはや震度を超えた世界があったのか!?エルフの耳スゲーな!!


 「あっ!わたしもかわった!」

 「へ?」

 アンリの手には銅のカードが握られている……アンリさんあなた5歳で部隊長クラスって……あれ?これでアイアンなの俺だけ!?
 まぁいいか!測れない物はどうしようもないしな!

 「おお!凄いぞアンリ!」

 「えへへ~、んっ!」

 頭を差し出してくるアンリ……はいはい勿論、撫でさせて頂きますとも!

 「偉い偉い、もうそろそろ武器の強化していいかもな」

 「流石お嬢様です!私もうかうかしてられません!」

 「この短期間で二人とも見事ですね、私も褒められる様な事があったら良かったのですが」

 ん?オミの褒める所とかあり過ぎてどこを褒めればいいのやらだが……あっ!

 「オミも眼鏡似合ってて可愛いぞ!普段と違った愛らしさがあるな!」

 「なっ!?時間差はズルいですよ、アンコウ様!//////」

 さっき肝心な事を言い忘れていたお詫びも込めて丹念に頭を撫でておく、やはり俺にはイケメンへの道は険しく遠い様である……
 この調子で、もうちょっと階層を進めたくなってくるが明日は古代都市へ出発の日だ。これ以上、長居する訳にはいかない
 ダンジョンを出た俺達はエリアルダッシュには慣れが必要なので、安全をとっていつものエアウォークで帰路についた



 「ただいま~」

 「あら、おかえりなさ……何を!?//////」

 「いや、何となく」

 折角なので、ユウメの頭も撫でといた。仲間外れは良くないからな!満更じゃないご様子である

 「ただいまーユウメちゃん!みてみて!」

 「ユウメ姉様、私も見て頂きたい物が!」

 「私は早速、この眼鏡で皆さんに新しい服を仕立てるとしましょう。腕が鳴ります~」

 テストで良い点を取って来た様な報告をするアンリとエルナに、眼鏡姿のオミを見て褒めているユウメ

 「まぁ二人ともカードがランクアップですか!私が御馳走を作れれば良かったのですが……エルナ、主役の一人であるあなたを働かせてしまいますがお祝いの料理を教えて貰えますか?」

 「わたしもてつだう!」

 「私がユウメ姉様に教える等とんでもない事ですが……不肖このエルナ、お婆様秘伝のレシピを皆さんの御助力を得て挑戦致したいと思います!」

 「3人の料理着を作成するのもいいかもしれませんね~この眼鏡の効果でしょうか、創作意欲がドンドン湧いてきます~」

 昨日の静けさが一変して、またいつもの賑やかな日常が戻って来た
二人きりもいいけど、やっぱりウチはこっちの方がしっくり来るね!ユウメと心置きなくイチャラブする為にも、古代都市で更なる進展がある事に期待しよう

 待ってろよ、古代都市!覚悟しろよアヴェスタ!




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 折角なので何かオマケ的な話を考案中です、次の日曜辺りに投下出来るといいな~
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