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第61話 お父さんはつらいよと灰色の狼と
しおりを挟む会談から5日経った今日、女王との謁見の日までは後2日である
その間、俺達は大体訓練していた。面倒くさい利権争いがあっている地下ダンジョンに行くよりも、俺相手に全力で必殺技をぶっ放してた方が修行になるからだってさ……
お父さんは案山子じゃないんだよ……俺の修行にもなってるからいいけどね……
そんな嫁さん達の足腰を毎日立たせなくする日々の中(ヒーヒー言ってるのは俺だけな気がするが)世界樹内部への入場許可証も下りた事もあって、シーディスから内部への招待を受けた
町並を歩くと俺達は好奇の視線だったり、差別の的になったりするので世界樹内部の兵舎……シーディスの住んでいる場所に案内される
最初はエルナとの時間を作ろうとしていたのかと思ったが、どうやら目的は別にある様だ……
「申し訳ありません、わざわざ呼び出した上に付き合って頂いて……しかし、どうしても妹分の主人に当たる人物の力量を見定めたく思い。こうして一手願う所存です」
「ご期待に添えるか分からないけど、精一杯相手させて貰うよ」
案内されたのは兵員訓練場、屋外の広い運動場みたいな場所に俺達は居る。昼間の日差しが、学生時代の体育の授業を思い出させる光景だ
本当ならアンリの出番なのだろうが、勿論シーディスもそう言う訳ではないのだろう。ダンジョン討伐メンバーのカード提出も義務である以上、アンリはブロンズで、俺に至ってはアイアンなのは彼女も知っている
この年でブロンズな事に驚いていたし、アンリは合格みたいだ。ユウメとオミに至っては戦術級ゴールドだ……文句も無いだろう
「感謝します。ゴールドのお二人のお話といい、エルナを短期間でシルバーに引き上げた手腕といい、疑う訳ではありません。未熟な私に胸を貸して頂きたい……参ります!」
「肩書が変わる事がない、万年ヒラ冒険者だからな……その分、実力は証明してみせる!」
俺の品定めが始まる……
シーディスは2本のショートソードを抜いた。逆手持ちで腕に沿った曲刀……トンファーが剣になった様な見た目の物を装備している
そんな彼女の構えは自然体で、どこからでも打って来いと半身を逸らしている……敢えて、隙を見せてのカウンタースタイルって所か
敵の攻撃を受けて斬り裂き、その隙を突いて更に切り裂く。格闘スタイルの俺とは相性が悪そうだ
「凄いな、シルバーかゴールドまで届いてるってレベルか……」
「お褒めに与り光栄です……では、来ないならこちらから行かせて頂きます!」
言うや否やシーディスの身体が消えた……低い姿勢で一気に距離を詰めて、こちらの脚を狩ろうと白刃を煌かせる!
凄まじいスピードだが、ここ数日間の俺はこの数倍の速度に毎日襲われている。ギリギリの距離でも余裕を持って躱す事が出来る様になった、余り大きく避けては次の攻撃が避けた分だけきつくなる
詰めた分だけシーディスの速度を増していくコンビネーションも、冷静に対処が可能だ。俺も段々達人っぽくなってきたと思える……達人の相手ばっかしてるしな!
「こうまで触る事すら出来ないと……自信を無くしますね……ですが、まだ!」
「避けると、捌く、防ぐはやたらと得意になってね!こっちからも行くぞ!」
シーディスのトンファーソードや蹴りを躱しつつ、出来た隙に掌底や蹴りを入れようとするが相手も防御が得意なだけあって手強い。お互いに決め手に欠ける展開を続けるが、自力で勝るのは俺の方だった
どんな動きを見せたら、どんな隙が生まれるか……俺も我が身で散々覚えたからな!以前俺がやった、上半身で躱し過ぎた所に追い打ちでの一撃をシーディスの顔に寸止めした所で勝負ありだ
「まさか丸腰でも歯が立たないとは……悔しいですが、完敗ですね」
「手加減の効く武器じゃないからな、気を悪くしないでくれ。体術でそこまでなら魔法を使えばもっと速いんだろ?」
「幾ら練習試合とは言え、そこまでしては危険も伴いますし……ましてや武器を持たぬ人にそこまでするのは……」
「……だってよ、お前等?」
後ろを振り返って、三人に向かって聞いてみた
「「「常識で判断するとそう」」」
だけど、ですが、でしょうがと三者三様の語尾で続ける戦術級ズ
常識って大事だと凡人のワテクシは思うんですけどねぇ……世のお父さんをもっと労わって上げて下さいお願いします……
「それにお嬢様に拾って頂き、皆様に出会えた奇跡をシーディス姉さんに知って貰うには親方様の規格外っぷりを知ってもらうのが一番早いと思いますので!」
「そうだね、シーディスさんが放った全力の必殺技を受けると満足して貰えると思うし、どうかなアンコウさん?」
「大丈夫ですよシーディスさん、私が回復しますので!」
「きょうは、エルナちゃんのおねえちゃんをおうえんするといいの?」
労わりなんかなかったんや!……彼女達の期待は裏切れないんだけどね……ああーやっぱ俺、チョロいっすわ~
強さを証明するのに、女の人を殴るよか殴られる方が気が楽ってのが問題なのかね……
「まぁいいか、馴れてるから遠慮しないでドンと来てくれ。アンリの……エルナの主人の力も知るいい機会だろうしな!アンリ、一番良い歌をシーディスお姉ちゃんに聴いて貰え」
「はーいっ!いっくよ~♪」
「ッ!?これはッ!?こんな力をバドの主人の親たる人にぶつける等……」
「大丈夫です!己の限界を超えた一撃を試す絶好の機会ですよ!」
「そうです、シーディス姉さん!後悔しない様に全てを出し切ってください!」
「大丈夫ですよ!シーディスさんの回復は私に任せて下さい!」
「えっ!?回復されるの私なのですか!?」
好き放題言ってくれるが、常識人のシーディスを戸惑わせている……動揺してるからか、エルナからバドに戻っているしな
「そうですね……この様な凄まじい加護を頂いて、手加減したとあっては皆様に失礼になります。我が全身全霊の一撃をお見せしましょう!」
ノリの良い事で……まぁいいか、俺もこの数日間の訓練の成果を見せるとしよう
俺とシーディスの力の放出が始まる……シーディスの周りに風が集まり詠唱を始め、彼女の髪を巻き上げている
対する俺は両腕を部分装甲……更に手には盾のイメージを具現化させたダークシールド……細部にまで集中してないとスグに闇が霧散しそうになるが、力の集中を身体の外に持って行く事に成功した
地味な修練の積み重ねでここまで来れた事に感慨深い感想が出るが、どうやらそんな余裕はない様だ
「お互い準備はいい様ですね……それでは参ります!回転剣舞!エアリアル・ソードダンス!!」
シーディスが身体を回転させながら俺へと襲い掛かる、その姿は正に人型のハリケーンだ!全てを飲み込もうとする、暴風剣の扇風機をダークシールドで受け止める!
衝突の後、金属と金属の削れる音を鳴らしつつ……更に回転を上げてきては身体が弾き飛ばされそうになるが、下半身に集中しようとすると盾の維持が疎かになる。でも、ここで弾き飛ばしたり、飛ばされたりしようものなら恰好がつかない。お父さんには……男の子には意地があるっての!!
消えそうになる腕の力に、飛ばされそうになる足に気合いを入れて耐え凌ぐ!……風の刃は、遂に闇の鉄壁の前に停止した
結構危なかった……一回受け止めて、そこから更に削られると維持が難しくなって、もう少し回転が続いていると霧散していたかもしれない……全身進化で全力を出すのと違って、細部に必要な分だけを回すってのはやっぱり極めて繊細な制御を要求される
「可笑しな話ですね……攻撃した方が勝者を見上げ、された方が敗者を見下ろすとは……」
「それが親方様なのです、私達の常識なんか通用しないので安心して下さい!」
「お二人ともお見事でした、さぁシーディスさん。疲れを癒しましょう」
地面に倒れて空を仰いでいるシーディスに向かって、エルナとオミが駆けつけていく
俺の方には
「お疲れさま、もう全身じゃなくてもあの脅威を凌げる様になったのね」
「アンコウちゃん、すごーいっ!」
ユウメとアンリが労ってくれるなら、どんな苦労も報われるか……俺、本当にチョロいな……
「なんとかなったよ……これでアンリの代理か、主人の主人としての役割は果たせたと思う」
「そうか……では、やはり俺も部下の部下の汚名を雪いでやるのが上官の務めかもしれんな?」
!?ユウメとアンリに気を取られていたとは言え、俺達の背中側から知らない男の声が掛かる……いつの間にか、俺達に気配を察知させずに30メートル迄近づいている
その男……なんだろうな、灰色の毛並みに覆われた身体と顔で腕を組んでこちらを見ていた。狼の顔をした2メートル近い獣人が立っている
「閣下!執務中にどこに行かれているのですか!!」
更にその後ろからハイエルフの副官さんがこちらに向かって来ている……って事はこの人物が
「将軍閣下!?何故、この様な場所に?」
シーディスさんが驚いている……どうやらこの狼が、この国の将軍『月光の金狼』で間違いない様だな……灰色じゃねーか……
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