“絶対悪”の暗黒龍

alunam

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例えばこんなダークエルフの過去と 中

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 「おいたん、今日は魔法を教えて!」

 「仕方ないな……」

 


 「おじちゃん、今日こそは武器の使い方を教えて!」

 「まだその小せえ身体じゃ無理だ……大人しく狩りの為の弓を練習してろ……」




 「叔父上!今日こそは爪武器の御指導を賜りたい!」

 「体重が軽すぎる……大人しく弓と魔法の腕を磨いてろ……」

 月日の流れるのは早い……10年など、悠久の時を生きて来たシャドウには瞬きの間でしかない。
 しかし、その瞬間にも子供は大きく成長した。いつの間にか、おいたんから叔父上と呼ばれる様になった事実にシャドウ自身が苦笑してしまう。



 そう……成長するのはあっと云う間なのだろう……それはシャドウにも言える事であった

 「魔肺症……?」

 「そうだ、主にあんたみたいな凄腕の者が掛かりやすい病……空気と共に大気中の魔力を吸収するのが優れている者が掛かる病気だ。その魔力によって常人よりも遥かに強靭な身体能力や魔法能力を発揮するが、同時に強大過ぎる魔力吸収量に肺が耐えられなくなっていくんだ……」

 「治るのか……?」

 「……私には無理だ……闇の神官とは言え、ブロンズクラスの私ではね……恐らく高位神官でも、無理かもしれん。最高位神官や巫女でも呼べれば治せると思うが……後は更に可能性の下がる話だが、高位ドラゴンの角でもあればってところだ」

 「それじゃあ対処法は……?」

 「大人しく安静にしてる事だ……魔力を……魔法を使わない限りは著しく症状が進行する事は無い。それでも大気中に魔力は存在する……息をするだけでも少しづつだが、確実に病は進行していくんだ……」

 「そうか……それじゃあ大人しく引退してゆっくりするとするか……」

 「ああ、医者としては是非そうしてくれと言うべきだろうな……そうなると我々、里の者全員が墓の中でゆっくりする事になるのは確実だがね……遂に月光の金狼が将軍になった今、我々の運命も決まったのかもしれんな……」

 「戦っても、戦わなくても一緒か……忍びねぇ事だな……」

 「すまないシャドウ……あんたが居たから此処まで俺達の里は続いてこれたんだ。そんなあんたを医者として助けてやれない自分を心から恥じるよ」

 「よせよ……どうする?また里の場所を変えるか?」

 「これ以上、一体どこに逃げるって話か?もう残された場所は私達には無い……人外魔境の地、伝説の『魔界都市』にでも賭けてみるかい?」

 「座して奴隷か、在りもしない伝説に賭けて死ぬか……か、クソッたれだな。人生って奴は……永く生きるのも忍びねぇな……ハッハッハッハッ」
 
 「笑うしかないね……私は泣く事しか出来そうにないよ……すまない、本当にすまない……」

 魔肺症の症状は確実にシャドウの命を刻々と削っていった……今まで戦って……否、生きてこれたのが不思議と言っていいのかもしれない。
 既に1年前の話である……余命幾何も無いと思っていいのだろうとシャドウ自身も感じている。



 初期症状なんて些細なものだった……

 「おいたん、ご飯食べないの?」

 「ああ、食欲ないからな……勿体ないからお前が食え……」

 「はいっ!」

 「バドはよく食べるわね!一杯食べて早く大きくなるのよ!」

 「はいっ!」

 ほとんど手付かずの食事を小さな姪っ子に渡すと、ペロリと平らげてしまったばかりか、周囲の大人からも貰った食事を順次胃の中に収めていく……この身体のどこに消えていくのだろうか?
 発端があるとすれば、シャドウ自身がこうして食欲の無い身体に与えられるには過剰な食料……英雄である男には当然、必要十分以上の食事が支給される。
 それを子供の彼女に食べさせていた事が原因でもあるのだろう……里の皆には十分な量が支給されているとは到底言えない。
 敵に追われ、常に居住を変えるダークエルフ達に、安寧の食料提供を図るに足る場所はもう残されてはいないのだから……

 それでも里で2番目に若い女の子……シーディスと呼ばれるダークエルフは、一番若いバドを本当の妹の様に可愛がっている。産まれてくると同時に母を亡くした娘の母代わりと言ってもいいだろう。
 彼女も250歳を過ぎた辺りか?せめて彼女位……いや、エルフ種として一人前と言える200歳まで自分の身体がもってくれたらと今では願ってしまっている。



 そんなシャドウは自嘲的な否定で、叶いもしない願いを打ち消す……おいたんと呼ばれていた時から、月日は流れたとは言え……彼女はまだ15歳になろうか、なりまいかの歳だ。

 エルフ種の身体の成長は人間と変わらない、ただ20歳前後で成長を終え、成人の身体のまま千年近い時を生きてから老いていくだけだ。
 精神的にはともかく、肉体的な成人年齢に達するにも後5年以上……エルフ種にとって、泡沫の弾ける間と言ってもいい時間がシャドウには残されていない。
 
 自分の姉が、父親の分からぬこの子を後5年早く産んでくれればと思わざるをえない……産まれてこなければ良かった等とは、この里の誰も思っては居ない。居たとしても、シャドウは思わない、そんな事を考えもしない。
 永遠とも呼べる時間を戦いの中で生きて来たシャドウにとって、初めて生きる意味を与えてくれたこの子を祝福こそすれ、呪う事など出来はしない。

 だからこそ願わずにはいられない……せめてこの子だけはと……
 救いがあったとすれば、それは里の全員がそう思ってくれていた事だけかもしれない……ダークエルフの里が滅びの時を迎えた日、全員が一致した意見をシャドウに告げた『バドを古代都市の影響の及ばない所へ逃がしてくれ』と

 その任務を達成できる者はシャドウしか里には居なかった。古代都市の周囲を抜けて、一番近い人里……商業都市に行くには、今にもこの里を滅ぼさんとする古代都市軍の影響下を抜けていかなくては為らない。
 そんな中を、せめてシーディスも……などと言い出す事は、シャドウにも出来なかった。

 シーディスはシルバー、バドはブロンズクラスの力があるとは言え、相手は月光の金狼。そして、3個師団……軍団である。
 もはや自分一人が万全の状態でも出来る気がしない任務を成し遂げなければいけない




 ……因果な事に今夜は満月、灰色の狼が最高の月の光を浴びて金色の狼となる夜である。
 だが、それでもやらなければならない……誰よりも彼女を無事な場所へと願っているのはシャドウ自身だからだ
 そして、逃がした所で自分は生きてはいないと思うのも又、シャドウ自身だ……果たしてこの行為に、一体何の意味があるのかと自嘲せずにはいられない……だが、やらずにはいられない。

 矛盾と自嘲と絶望と……それでも自棄にも似た希望を願わずにはいられない。

 「人生ってのは難儀なもんだな……」

 嘲笑か開き直りか……唯、其処には覚悟を決めた男の顔があるだけだった……
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