“絶対悪”の暗黒龍

alunam

文字の大きさ
上 下
69 / 87

例えばこんなダークエルフの過去と 後

しおりを挟む



 シャドウ視点と途中からエルナ視点
============================================================================



 「叔父上……ここは?」

 「目が覚めちまったか……漸く、古代都市の脇を抜けたって所だな……」

 「そんな!?里の皆は!?」

 「本人達次第だ……最後まで戦うか、白旗を挙げて投降するか……この二つの望む方だな……」

 「だったら私も!」

 「こんな場所で大声出してる奴に、選択肢を選ぶ権利はねぇ……黙ってついて来い……」

 「くっ……しかし……」

 納得はしていないが、状況は理解出来たのだろう……危なっかしい姪が静かに反抗の声を出す……
 これ以上有無を言わせる時間も、問答をする時間も無い……逃げれる場所まで逃げるだけだ

 あの鼻の利くビィトの野郎の事だ……里に俺が居ないのが分かったら、草の根分けても探しに来るはずだ……昼から睡眠魔法で眠らせたコイツも、すっかり日が沈もうとする今となっては効果も切れるという事だろう
 担いでいたのを降ろしても、大人しく着いて来る様にはなったが、油断は出来ない。追っ手が来る迄にどこまで距離を稼げるか……夜になったら、数は減るだろうが、その分最悪の奴等もやって来るのだけは間違いない
 
 幸いな事に、古代都市を抜ける迄は敵をやり過ごす事が出来た。後は10日……嫌、一週間かけてこの森を抜ける事が出来ればいいが……
 そんな甘い願いが叶うなら、今現在こんな状況にはなっていないだろうな……自分ではリアリストを気取っていたつもりだが、もしも願いが叶うならみたいな絵空事ばかり考えてしまう




 
 やはり現実は非情だな……反応を隠しては来ているが、隠し切れてない気配が追って来ている
 あいつ直属の猟犬部隊『ビーストハウンド』……将軍に就任して1年ちょっとのワン公が、わざわざ俺なんぞの為に古代都市中から凄腕を集めやがった特殊部隊だ……

 あいつの俺への過大評価は本当に厄介だ。政治が苦手だとか言っときながら、キッチリと成り上がりの獣人族が選民思想に凝り固まったハイエルフ達を黙らせていやがる……
 もはや形骸で、象徴でしかないハイエルフの女王に変わって、アイツが国のトップに立ってくれたなら……俺達も少しは真面な生活を期待して降伏出来たかもしれないのにな
 
 こんな時には何て言うんだろうな……そうだな……ハァ~不幸だ……月光の金狼も、古代都市も、俺の事を逆ベクトルで見くびり過ぎている
 暗殺なんぞ小細工としか言えない、精々が時間稼ぎと呼べる代物でしかない事しか出来ない俺を見誤りすぎだろうと言いたくなる……もう何百年か忘れたが、それだけ時間稼ぎされたなら意地になるのも分かる……が、弱小部族の男一人に国が本気になり過ぎだろ……
 
 まぁ当然だけどな……殺し合いをしているんだ、遊びな訳が無い。俺が殺される事は、ケジメだから仕方ない。それは問題じゃない、むしろ放っておいても直ぐ死ぬのにな……
 でもこの食いしん坊の新芽だけは何とかしなくてはいけない……俺ではもう、どうする事も出来ないのにだ……


 考えてる内に、丁度良い場所に出た。木々が入り組んでいて、ここでは敵も一斉に襲ってくる事は出来ないだろう

 「此処までだな……お別れだ、バド……このまま世界樹を背に真っすぐ進め、開けた場所に出たら街道がある……沿って行けば村か都市に出る、そこで生きていけ……お前の腕なら冒険者でも何とかなるだろ」

 「お別れって……叔父上はどうされるのですか!?」

 「野暮用を思い出した、ちょっと済ませてくる」

 「嘘が下手過ぎます!だったら何故お別れになるのですか!」

 「あ~それはだな……でもあれだろ、お前との約束を破った事は俺には無いだろ……」

 「だったら約束して下さい!必ず追いかけてくると!」

 「お、おう……」

 年は取りたくないな……ガキンチョがいつの間にか、口だけは達者になっていやがる……お前との約束だけは破らなかったのが、俺の数少ない自慢の一つだったのにな……

 「分かった、終わらせたら直ぐ追いかける……だから先に行け」

 「分かりました……終わらせたらという事は、終わらないという事ですね……それ位なら未熟な私でも分かります……」

 「本当に年は取りたくないな、気付かれたくない事まで気付いてきやがる……」

 「叔父上が死を覚悟せねばならない相手が来ているのですね……だったら私もお供します!死ぬ時は……一緒です……」

 「ッ!?誰がそんな事頼んだよ、うるっせぇーなッ!クソガキが一丁前の口利いてんじゃねーぞッ!!」

 アホだな俺は……そして駄目な大人だ……自分でさっきコイツに言ったばかりの事を自分で守れていない……
 でも頼むよ……絶対に守りたいものだけは守らせてくれよ……最後まで守る責任が果たせないのによ……俺の最期の瞬間までの時間稼ぎ位しか出来ないんだよ……
 
 エルフとダークエルフの争いなんざ、俺達の生まれる前の話の事だ。疑問も持たずに、生き延びる為に、出来る事を繰り返して来ただけの俺が心から願った事なんざ……
 お前がどうやったら健やかに育つか位なんだよ……人殺ししか出来ない俺が、身の丈に合わない大それた願いだってのは分かってるんだ……
 それでも、俺ら大人達の都合で戦争を続けたエゴでこうなっちまったお前を、俺のエゴで逃がしたいんだよ……だって仕方ないだろ、お前に死んで欲しくないんだよ……
 もし俺の関係者だって分かったら、お前は唯の見せしめで殺されるかもしれないんだよ……俺の所為でだけは、絶対に死んで欲しくないんだよ!




 「……怖いよ……一人は嫌だよ……皆居ないのに……私だけ逃げてどうするといいの……?」

 「ッ……少なくとも、同じ死ぬでも嬲られて死ぬよりはマシだ……奴隷として生きるよりも、少しでも可能性があるなら俺がそっちを選びたかった……それだけだ」

 久しぶりに昔の口調に戻しちまったな……でも、そっちの方がお前らしいよ……

 「大切な人が望むなら奴隷でも何でもいいよ……おじちゃんに私が出来る事なんて、言う事を聞く位しか出来ないもん……」

 「それは本当に大切な人が出来た時に、したいならそうしろ……でも、俺の望みは……我が儘はお前がここから少しでも遠くに離れてくれる事だ……」

 あの時の自分に選べなかった選択肢を、子供のコイツに選ばせようとしている……本当に駄目な大人ってのは俺みたいな奴の事を言うんだろうな……

 「……分かりました……己より強き者に従うのがダークエルフ……叔父上の命令なら従う他、弱き私には術がありません……」

 「やめろやめろ……心配しなくても死んでも追いかけるさ……誰かに乗り移ってでも、お前のピンチには駆けつけてやるから」

 「輪廻転生なんか信じません!だからどうか……お元気で、叔父上!」

 「ああ、行け!振り返らず走れ!」

 


 それ以上は言えない……言えるはずもない……森の外の世界の事なんか、森で戦争しかしてこなかった俺が知るはずもない
 本当はもっと言いたい事は沢山あるんだ……持たせた食料は考えて食えよ、お前は燃費がすこぶる悪いんだから……食い物をくれるからってホイホイついて行くなよ、お前は食い物くれる人は皆いい人だと思ってるからな。皆が皆、里の連中みたいにお前を大事にしてくれる訳じゃないんだから……
 それが男だった場合は特に注意してくれよ、お前は俺みたいな陰険で目つきの悪いロクデナシにも懐いちまう位に男を見る目が無いんだから……

 碌な男にだけは騙されるなよ、特に俺みたいな奴にはな。ごめんな、駄目な大人で……ごめんな……爪武器の使い方教えてやらなくて……でも大丈夫だよ、お前には必要ない。だってそうだろ?お前が弓の腕を上げていったのは、食の細くなっていく俺に旨い物を食わせようと頑張ってくれたからだろ。
 だからって熊の肝を食わせようとするなよ、子供のお前が熊と戦ったとか聞いてそれだけで寿命が縮んだんだからな!……だから……ありがとうな……お前が居てくれたから……俺はお前が大好きで、駄目なおいたんで最後を生きれるんだ……

 

 「暗闇を照らす光か……月の光も…悪くないな……」

 だから照らしてやってくれ……あの子が道に迷わない様に、迷っても道を照らしてやってくれ……俺はもう、ここまでだから……

 「いたぞっ!新月の影だ!」「逃がすな!将軍が来るまで、死んでも足止めしろ!」

 尤も、俺の光はこれから近づいて来る金ピカ狼なんかじゃない……アイツを道連れに……なんかは御免被りたいな……アイツが将軍なら俺の首で、何が原因で起こったかも分からない、何千年続いたかも分からない戦争を少しはマシな形で終わらせてくれるだろうしな……
 溜息と共に吐き出した、今までのしがらみを全部出しきって思い切り深呼吸する……咽るかと思ったが、最後の瞬間は激しく光る花火みたいな物なんだろう……俺に活力と魔力を満たしてくれる

 「じゃあな……寝る時は風邪引かない様に寝ろよ……おいたんの最後のお願いだ……」









 
 「駄目だ……やっぱり食い切れねぇ……エルナ、箸つけてないから食べてくれない?勿体ないし……」

 ハシとは何なのでしょうか?偶に親方様の仰る事には知らない単語が含まれますが、何が言いたいのかが分かる所が親方様の凄い所でもあります
 お店では絶対に食べきれないと分かっていて、追加で私の分と一緒に注文してくれます……本当に素晴らしい親方様です

 「エルナちゃん、おなかすいてるならこれもたべる?」

 「いけません、ちゃんと好き嫌いしないで食べなさい」

 「そうですよ、アンリちゃん。好き嫌いしてたら大きくなれませんよ~」

 我が主人であるお嬢様の唯一の弱点……それは緑の野菜、グリペパの実が食べれない事です。親方様はピーマンと呼んでいましたが……
 お嬢様を叱るユウメ姉さんは、流石です!私の母代わりだったシーディス姉さんも同じ事を私に言ってくれていました。もっとも途中からは『よく噛んで食べなさい』しか言われる事は無くなりました
 オミ姉さんも同様です、でもオカシイです。私も好き嫌いはしませんが、大きくはなりません……それでも、オミ姉さんが言うのなら間違いないのでしょう。説得力が違いますから……だってそう言ったユウメ姉さん、オミ姉さん、シーディス姉さんの3人全員が大きいのですから……どこがとは言いませんが……
 
 親方様の好まれる女性の傾向も大体分かります。あの見惚れる程美しかったシーディス姉さんの上官であるハイエルフ様より、シーディス姉さんの方を見られていましたからね……
 分類上、分けるとしたらユウメ姉さん・オミ姉さん・シーディス姉さん。私とハイエルフ様ですからね……どこで分けたとは言いませんが……
 寧ろ、私はお嬢様と同じ分類と言う、恐れ多くも女としては見られていないであろう事も分かっています……私を見る目が、お嬢様を見る目……叔父が私を見ていた目と同じ雰囲気を感じますから

 仕方のない事です、魅力も実力も姉二人には遠く及びませんから……でもいいんです、お嬢様の御傍に仕える事が出来たならそれで!
 私の強がりを、あの笑顔と果物で壊してくれたお嬢様に助けられて、私は今を生きる事が出来ているのですから……

 「ん~どうした、エルナ。 おい・・たん・・と食えよ……エルナ?」

 顔から火が出るかと思いました……叔父上を昔はそう呼んでいたみたいなので……
 親方様には呼び方を変えろと言われたのですが、キチンと線引きした言い方をしないと私が誤って言ってしまいそうなんですよね……流石に、おいたんと呼ぶ事はもうないですが……
 この方なら『別に呼びたい様に呼んでくれ』って仰られるでしょうが、オミ姉さんを見習って  まだ・・従者の姿勢を崩す訳には参りません

 少しでも可能性があるならそっちを選ぶ……私が大好きな人の考え方ですから!
しおりを挟む

処理中です...