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第66話 天空の女と
しおりを挟む頭の中のアラームが煩い。今まで急激な反応の変化に驚く事はあっても、最初の反応でここまで警戒した事は無かった。
出し惜しみとかしている場合じゃない……
「皆、全力で結界を!アンリは補助だ!」
指示通りに4人が集まって周囲に結界が張られる、アンリは歌だけの補助だが加護があるので足しにはなるだろう。今の俺達は装備を全部預けている……ダンジョンコアを献上して、報酬を受け取るだけだったはずの場のドレスコードが仇になっている……
でもやるしかない……全身進化させて最大出力を身体全体に漲らせる!……でも、女王は相変わらず人間時の姿のままで少し表情が変化しているだけだ。
蛇伯爵の場合は、人間からデーモンに変わる時には身体の変化も伴い、解析の表示も変わったのにだ……
多分、コイツは俺の装甲形態とドラゴン形態、蛇伯爵のヘビデーモンからのセイシンジャジャ形態の様な進化形態と本性形態もあるはずだ……
「安心せい、まずは戯れじゃ……其方の様に黒光りせんでも、準備は出来ておるのじゃ」
「やりにくいったらないぜ!同郷の女の子相手に全力出すとかよ!」
相手は、中身バケモノでも見た目は少女にも見える女の子だ。オマケに周りにはハイエルフ達が跪いたまま腰を抜かしている……女王との直線上には居ないとは言え、巻き込みそうな規模のデカイ技は使えない。
出来る事は限られている。だったら、全力の右ストレート!!
女王へと駆け出し踏み込もうとした所で、見えない斥力の力場が俺の拳を拒否する!なんとか踏ん張るが前に進めない……相変わらず、笑ってるのか泣いているのか分からない表情のまま目線だけが訴えてくる……明らかな『失望』の色で……
「なぁーーめんなあぁぁッ!!」
朧を出して引き裂こうかと思ったけど止めだ!出し惜しみしてる場合じゃないって言ったけど、舐められたまんまで全力を出すのは戯れでも負けた気がするしな!全力パンチだけど全力の全力じゃねーし!
ガキみたいな意地を張るけど、相手は多分力の片鱗も出してはいないのが分かる……武器を出す前にまずは、この邪魔なA○Tフィールドをそれらしく排除してやる!
弾かれた斥力場の隙間に手を入れて強引に引き千切る!
少し感心した様な表情になった女王が、続けて新たなフィールドを連続で展開させてくる……が、コツは掴んだ!見えはしないが力場を文字通り、千切っては投げ、千切っては投げの繰り返しで一歩づつ距離を詰めていく……
「どうだよ……これで合格か?」
「そうじゃの……衣を剥がすとは、中々面白き事をやってのける……じゃが高々、外套を脱がせた位で満足したと思われるのも心外じゃのう」
漸く俺のリーチの範囲内まで近寄ったが、女王は一切構える事もせずに……変化と言えば身長差のある俺を見上げた位の違いしかない。
「褒美じゃ、受け取れ『火鼠』」
「なっ!?うおッ!!」
女王の言葉と同時に差し出された、右手の平から出て来た炎の斥力場。速さも密度も今までの力場とは段違いで、そのまま思いっきり上空高く舞い上がった俺は壁に叩きつけられた!
背後側にある皆の結界にぶつからない様に自分で上の方に飛び退いたのもあるけど、実体化した装甲で重さもそれなりにある俺を盛大にブッ飛ばしてくれやがった……
装甲でダメージは無いけど、着地するのと同時に壁からパラパラと破片が降って来る。勢いを殺しても30メートルは飛ばされて尚、この威力とは……
「ふむ……燕の子安を待つほどの貝なし事も無きか……」
「よくわからんが……期待には応えたって事か?」
「言ったであろう、わずかばかり脱いだだけじゃ。それに龍咢に食まれ、鉢を捨てるには……ちと人目があるのはのう……お主等は、早う此処から去ね」
女王は俺を一瞥すると、周囲のハイエルフ達に目を向ける……女王の反応の増大からずっと、震えるだけだった重臣達が関心を向けられ、口々に止める様に上奏するが献言された本人はどこ吹く風だ……
本当に自分を思って言ってくれている人達の言葉でも、全く聞き入れる様子はない。俺の言葉なんぞ最初から届く事も無かったのだろう。
「二度は言わぬ……死にたくない者は去ね……」
「己が死なら受け入れましょう!陛下の御命令とは言え聞けません!」
「女王陛下!幼き日より千年仕えし、この身!今更、命など惜しくはありませぬ!」
「我等が命で賄えるのなら、どうかお考え直しを!」
「面倒な事よな……是非もなし……」
女王が一度だけ手を叩く……それは命よりも忠誠を誓う、君臣達への一度だけの拍手の様でもあった。
打ちならされた音が響くと、室内のハイエルフ達は一瞬で消えた。室内に限らず、周囲の反応も無い……存在するのは女王と俺達5人になった。
「このダンジョン内の者は其方達以外、全て外へと移動させた。遠慮する必要は無いぞよ……持ち物も全部返しておこう、好きな得物を使うが良い」
俺達のマジックバッグが足元へと置かれる。結界の中のユウメ達の足元に……どうやら結界があっても、このダンジョンの中は女王のテリトリーで無意味の様だ……
「どうせなら彼女達も安全な場所まで退避させて欲しかったんだけどな……」
「其方が逃げ出さぬとも限らぬ、たまさがなるを繰り返すのも飽いておるでな」
ユウメ達の元まで行くと、彼女達も結界が要を成さないのは分かっている様だ。
結界を解いて、豪奢な恰好には不似合いなマジックバッグを身に着け身構えようとするが、俺が止める……これは俺達、本来ならこの世界に存在するはずの無い異邦人達の問題だから。
だからこそ聞きたい、この世界の先輩とも呼べる人物に……
「巻き込みたくないと思えるしがらみがあるんだろ……?だったら、まだ踏み止まれるんじゃないか?」
「生まれては消える泡沫を、自ら割る気が無いだけじゃ……」
そうだな……俺もドラゴンの時に感じていた人間達に関する想いなんて、大体そんなもんだった……
そんな俺を変えてくれた存在がいた……あんたにもそんな存在がいたのかもな……でも、今はいないんだろ?
俺だってそうだ、ユウメもアンリも100年は生きれない。ハイオークのオミで5・600年だっけか?エルナでやっと1000年か……万を超えて生きるなら、何度も繰り返して来た出会いと別れがあるんだろ?
俺には、まだ1年先の事すらも分からない……でも、もしまたずっと一人に戻ったら……一人残されてると思っていたなら……確かに終わりを望むんだろうな。
だったら……
「分かった、自分でも出した事の無い全力を出すから、彼女達がいると不安だ。今から彼女達を遠くに運ぶけどすぐ戻って来る……」
「自力でやるなら止めはせぬ……所詮ここから出られぬ様では、敢へ無し事じゃしの……」
進化の全身装甲を解いてユウメ達4人に向き直る……彼女達の抗議の視線が痛いが、この空間じゃ狭すぎるんだ……こんな100メートル四方の空間じゃ、多分……
「ごめんな、オミ。折角作って貰った服、台無しにしちゃうから……」
「そんな事は気になさらないで下さい、アンコウ様」
作ってくれた本人の前で壊してしまうのも、了承してくれているが本当に申し訳ないと思う……が、悠長に服を脱いで、女王の気が変わったら目も当てられない。
胸の鱗を剥がしドラゴン化……そして、4人を闇の球体で包む。この簡易バリアーの中なら彼女達に危害は出ない強度に設定する……部分進化の訓練で出来る様になった芸当だ。
まずはここから出よう、吸い込んで最小限のブレスを吐く……部屋の壁に大穴を開けたが、外壁となる剥き出しの世界樹が見えるだけに留まる。最小限とは言えブレスでも、こんなもんか……
どうやら遠慮してる場合でもない様だ、次は大きく息を吸い込んで放てる限界のブレスを吐く!
今度は外へと通じる大穴が空いて、俺が翼を広げても十分なスペースが出来た。
「それじゃあ、またな……次、戻って来た時はお互いに全力だ……」
「良かろう……今のそれが全力で無い事を切に願うぞ……」
10キロメートル程離れた、見晴らしのいい山の中腹までやってきた。ここまで距離を取ったら大丈夫だろうし、周囲に彼女達の脅威となる反応も無い。
「俺の我が儘でこんな事になって済まない……でも、アヴェスタの事は教えて貰える様……行ってくる!」
「お待ちください!親方様!」
「そうです!あの強烈な反応は……アンコウ様すら凌駕していたと感じました!幾ら、自らが死を望んでいるとはいえ……」
エルナとオミから待ったが掛かる……流石、彼女達だ。日々の特訓で強くなった分、気配察知の精度も増している様だ。今の俺では、勝てない事を見抜いている。
でもユウメとアンリは……
「それでも行くんでしょう……?」
「ああ、任せてくれ。後は……俺がやる」
不安げな表情ではあるがユウメ……そして抱きかかえられたアンリは無言で俺を見上げてくる……駄目だな、家族を心配させている様では家長失格ってもんだ……
「あんまり皆の近くではやりたくなかったけど……4人共!もう一度、全力の防御結界とその補助を!」
「うんっ!わかった!」
「一体、何をされるのですか?」
アンリの了承とオミの問いに答える前に、一旦上空に上がり彼女達から距離を取る。声が叫ばなくても届くギリギリの範囲まで離れるが、用心に用心を重ねるに越した事はない。何故なら今からやるのは、今までやろうとしようとも思わなかった事……
「準備が出来たら言ってくれ……今からドラゴンで『進化』する……」
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本作並びにオールカンストへのお気に入り登録ありがとうございます!休日出勤中に凄い増えてて、会社で変な声出そうになりましたw
G・Wなんて無かった!けど、これでやっていけそうです!
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