“絶対悪”の暗黒龍

alunam

文字の大きさ
74 / 87

第66話 天空の女と

しおりを挟む


 頭の中のアラームが煩い。今まで急激な反応の変化に驚く事はあっても、最初の反応でここまで警戒した事は無かった。
 出し惜しみとかしている場合じゃない……

 「皆、全力で結界を!アンリは補助だ!」
 
 指示通りに4人が集まって周囲に結界が張られる、アンリは歌だけの補助だが加護があるので足しにはなるだろう。今の俺達は装備を全部預けている……ダンジョンコアを献上して、報酬を受け取るだけだったはずの場のドレスコードが仇になっている……

 でもやるしかない……全身進化させて最大出力を身体全体に漲らせる!……でも、女王は相変わらず人間時の姿のままで少し表情が変化しているだけだ。
 蛇伯爵の場合は、人間からデーモンに変わる時には身体の変化も伴い、解析の表示も変わったのにだ……

 多分、コイツは俺の装甲形態とドラゴン形態、蛇伯爵のヘビデーモンからのセイシンジャジャ形態の様な進化形態と本性形態もあるはずだ……

 「安心せい、まずは戯れじゃ……其方の様に黒光りせんでも、準備は出来ておるのじゃ」

 「やりにくいったらないぜ!同郷の女の子相手に全力出すとかよ!」

 相手は、中身バケモノでも見た目は少女にも見える女の子だ。オマケに周りにはハイエルフ達が跪いたまま腰を抜かしている……女王との直線上には居ないとは言え、巻き込みそうな規模のデカイ技は使えない。
 出来る事は限られている。だったら、全力の右ストレート!!

 女王へと駆け出し踏み込もうとした所で、見えない斥力の力場が俺の拳を拒否する!なんとか踏ん張るが前に進めない……相変わらず、笑ってるのか泣いているのか分からない表情のまま目線だけが訴えてくる……明らかな『失望』の色で……

 「なぁーーめんなあぁぁッ!!」

 朧を出して引き裂こうかと思ったけど止めだ!出し惜しみしてる場合じゃないって言ったけど、舐められたまんまで全力を出すのは戯れでも負けた気がするしな!全力パンチだけど全力の全力じゃねーし!
 
 ガキみたいな意地を張るけど、相手は多分力の片鱗も出してはいないのが分かる……武器を出す前にまずは、この邪魔なA○Tフィールドをそれらしく排除してやる!
 弾かれた斥力場の隙間に手を入れて強引に引き千切る!
少し感心した様な表情になった女王が、続けて新たなフィールドを連続で展開させてくる……が、コツは掴んだ!見えはしないが力場を文字通り、千切っては投げ、千切っては投げの繰り返しで一歩づつ距離を詰めていく……




 「どうだよ……これで合格か?」

 「そうじゃの……衣を剥がすとは、中々面白き事をやってのける……じゃが高々、外套を脱がせた位で満足したと思われるのも心外じゃのう」

 漸く俺のリーチの範囲内まで近寄ったが、女王は一切構える事もせずに……変化と言えば身長差のある俺を見上げた位の違いしかない。
 
 「褒美じゃ、受け取れ『火鼠』」

 「なっ!?うおッ!!」

 女王の言葉と同時に差し出された、右手の平から出て来た炎の斥力場。速さも密度も今までの力場とは段違いで、そのまま思いっきり上空高く舞い上がった俺は壁に叩きつけられた!
 背後側にある皆の結界にぶつからない様に自分で上の方に飛び退いたのもあるけど、実体化した装甲で重さもそれなりにある俺を盛大にブッ飛ばしてくれやがった……
 装甲でダメージは無いけど、着地するのと同時に壁からパラパラと破片が降って来る。勢いを殺しても30メートルは飛ばされて尚、この威力とは……

 「ふむ……燕の子安を待つほどの貝なし事も無きか……」

 「よくわからんが……期待には応えたって事か?」

 「言ったであろう、わずかばかり脱いだだけじゃ。それに龍咢りゅうあぎとに食まれ、はぢを捨てるには……ちと人目があるのはのう……お主等は、早う此処から去ね」

 女王は俺を一瞥すると、周囲のハイエルフ達に目を向ける……女王の反応の増大からずっと、震えるだけだった重臣達が関心を向けられ、口々に止める様に上奏するが献言された本人はどこ吹く風だ……
 本当に自分を思って言ってくれている人達の言葉でも、全く聞き入れる様子はない。俺の言葉なんぞ最初から届く事も無かったのだろう。

 「二度は言わぬ……死にたくない者は去ね……」

 「己が死なら受け入れましょう!陛下の御命令とは言え聞けません!」

 「女王陛下!幼き日より千年仕えし、この身!今更、命など惜しくはありませぬ!」

 「我等が命で賄えるのなら、どうかお考え直しを!」

 「面倒な事よな……是非もなし……」

 女王が一度だけ手を叩く……それは命よりも忠誠を誓う、君臣達への一度だけの拍手の様でもあった。
 打ちならされた音が響くと、室内のハイエルフ達は一瞬で消えた。室内に限らず、周囲の反応も無い……存在するのは女王と俺達5人になった。

 「このダンジョン内の者は其方達以外、全て外へと移動させた。遠慮する必要は無いぞよ……持ち物も全部返しておこう、好きな得物を使うが良い」

 俺達のマジックバッグが足元へと置かれる。結界の中のユウメ達の足元に……どうやら結界があっても、このダンジョンの中は女王のテリトリーで無意味の様だ……
 
 「どうせなら彼女達も安全な場所まで退避させて欲しかったんだけどな……」

 「其方が逃げ出さぬとも限らぬ、たまさがなるを繰り返すのも飽いておるでな」

 ユウメ達の元まで行くと、彼女達も結界が要を成さないのは分かっている様だ。
 結界を解いて、豪奢な恰好には不似合いなマジックバッグを身に着け身構えようとするが、俺が止める……これは俺達、本来ならこの世界に存在するはずの無い異邦人達の問題だから。
 だからこそ聞きたい、この世界の先輩とも呼べる人物に……

 「巻き込みたくないと思えるしがらみがあるんだろ……?だったら、まだ踏み止まれるんじゃないか?」

 「生まれては消える泡沫を、自ら割る気が無いだけじゃ……」

 そうだな……俺もドラゴンの時に感じていた人間達に関する想いなんて、大体そんなもんだった……
 そんな俺を変えてくれた存在がいた……あんたにもそんな存在がいたのかもな……でも、今はいないんだろ?
 俺だってそうだ、ユウメもアンリも100年は生きれない。ハイオークのオミで5・600年だっけか?エルナでやっと1000年か……万を超えて生きるなら、何度も繰り返して来た出会いと別れがあるんだろ?
 俺には、まだ1年先の事すらも分からない……でも、もしまたずっと一人に戻ったら……一人残されてると思っていたなら……確かに終わりを望むんだろうな。
 だったら……

 「分かった、自分でも出した事の無い全力を出すから、彼女達がいると不安だ。今から彼女達を遠くに運ぶけどすぐ戻って来る……」

 「自力でやるなら止めはせぬ……所詮ここから出られぬ様では、敢へ無し事じゃしの……」

 進化の全身装甲を解いてユウメ達4人に向き直る……彼女達の抗議の視線が痛いが、この空間じゃ狭すぎるんだ……こんな100メートル四方の空間じゃ、多分……

 「ごめんな、オミ。折角作って貰った服、台無しにしちゃうから……」

 「そんな事は気になさらないで下さい、アンコウ様」

 作ってくれた本人の前で壊してしまうのも、了承してくれているが本当に申し訳ないと思う……が、悠長に服を脱いで、女王の気が変わったら目も当てられない。
 胸の鱗を剥がしドラゴン化……そして、4人を闇の球体で包む。この簡易バリアーの中なら彼女達に危害は出ない強度に設定する……部分進化の訓練で出来る様になった芸当だ。
 
 まずはここから出よう、吸い込んで最小限のブレスを吐く……部屋の壁に大穴を開けたが、外壁となる剥き出しの世界樹が見えるだけに留まる。最小限とは言えブレスでも、こんなもんか……
 どうやら遠慮してる場合でもない様だ、次は大きく息を吸い込んで放てる限界のブレスを吐く!
 
 今度は外へと通じる大穴が空いて、俺が翼を広げても十分なスペースが出来た。

 「それじゃあ、またな……次、戻って来た時はお互いに全力だ……」

 「良かろう……今のそれが全力で無い事を切に願うぞ……」









 10キロメートル程離れた、見晴らしのいい山の中腹までやってきた。ここまで距離を取ったら大丈夫だろうし、周囲に彼女達の脅威となる反応も無い。

 「俺の我が儘でこんな事になって済まない……でも、アヴェスタの事は教えて貰える様……行ってくる!」

 「お待ちください!親方様!」

 「そうです!あの強烈な反応は……アンコウ様すら凌駕していたと感じました!幾ら、自らが死を望んでいるとはいえ……」

 エルナとオミから待ったが掛かる……流石、彼女達だ。日々の特訓で強くなった分、気配察知の精度も増している様だ。今の俺では、勝てない事を見抜いている。
 でもユウメとアンリは……

 「それでも行くんでしょう……?」

 「ああ、任せてくれ。後は……俺がやる」

 不安げな表情ではあるがユウメ……そして抱きかかえられたアンリは無言で俺を見上げてくる……駄目だな、家族を心配させている様では家長失格ってもんだ……

 「あんまり皆の近くではやりたくなかったけど……4人共!もう一度、全力の防御結界とその補助を!」

 「うんっ!わかった!」

 「一体、何をされるのですか?」

 アンリの了承とオミの問いに答える前に、一旦上空に上がり彼女達から距離を取る。声が叫ばなくても届くギリギリの範囲まで離れるが、用心に用心を重ねるに越した事はない。何故なら今からやるのは、今までやろうとしようとも思わなかった事……


 「準備が出来たら言ってくれ……今からドラゴンで『進化』する……」



============================================================================

 本作並びにオールカンストへのお気に入り登録ありがとうございます!休日出勤中に凄い増えてて、会社で変な声出そうになりましたw
 G・Wなんて無かった!けど、これでやっていけそうです!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...