深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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 天井にぶら下がっていたアラクネは地面に降り、俺を守るように帝国軍との間に入る。後方から俺がアラクネと帝国からの刺客の戦いを見る形となった。
 金髪の男、確かセージによるとアレスという男、が大剣を両手で振り上げた状態でアラクネとの間合いを一瞬にして詰める。

「ふふ……< 毒糸刃ヴェノムカッター>」

 アレスの防御を捨てたかのように見える特攻、アラクネは鋭い紫色の糸を魔法陣から横向きに射出する。恐らくは毒属性、容赦なくアレスに襲いかかったその攻撃にアレスはまるで心配をしていなかった。

「させませんよ。<樹鎧ウッドアーマー>!」

 魔導師と思われる杖を持っている恰幅のいい、トーマスが魔法を発動させれば、たちまちに地面から太い幹が何本も瞬時に生え、アラクネの放った糸の刃からアレスを守る。幹が糸に触れた途端瞬時に融けたことから、その糸の恐ろしさが分かる。

「攻撃支援、防御支援、魔力支援」
「助かる!」

 僧侶の服に似つかわしくないがっしりとした手で、エドワードが支援を発動させ、黒いグローブをつけたライアンが格闘家特有のステップでアラクネの左に回り込む。

「スキル<破砕ブレイク><落撃メテオストライク><初刃ブレードトリガー>っ!」

 前方から突撃するアレスにアラクネは何の対応も出来ず、ただ棒立ちでそのスキルが多重発動した攻撃が来るのを待っていた。

「はぁっ!!!」

 そしてアレスの刃は正面から凄まじい振り下ろしの速度でアラクネに襲いかかる ── が、それは何のダメージも与えることは無かった。

「なっ!?」
「うーん……軽いわね」

 渾身の一撃だったんだろう、アレスは目をまん丸にして次の一手を繰り出せずにいる。
 アラクネはアレスの攻撃に対処出来なかったのでは無い、対処する必要がなかったんだ。その場から一切動かず、指2本で大剣を白刃取りしたアラクネを見た瞬間、誰もがそう悟る。

「……っ!?」

 指2本でアラクネはそのまま大剣をアレスごと持ち上げて、傍の壁に投げる。軽く行った動作だが、尋常じゃないアレスの吹っ飛ぶスピードからアラクネの規格外の力の強さが伺い知れる。
 1秒にも満たない時間、このままアレスが壁に叩きつけられる!── と思ったが、何故かふわっと壁に近付いた瞬間にアレスが減速した。見ればフードを被った転生者、タカダが何かアレスに腕を向けている。彼が何かをしたんだろう。

「<弱霧トキシックフォグ>」

 アラクネがそう言った途端、一瞬にして帝国のヤツらを囲むように霧が満たされる。少し離れた俺の周りにも薄い霧が流れてきて、直ぐに毒の可能性を考えて息を止めるが、長くは続かない。

「ふふ……毒じゃないわ。そんなつまらないことしないもの」
「支援が……消えた?」

 エドワードの言葉通り、霧の中でも見えていた支援魔法特有の発光が消える。だが、アラクネにとって、これで左から回り込む格闘家のライアンの位置が分からなくなった。
 俺だけが唯一、少し離れた後ろから見ているからこそ分かる。ライアンの背後からの一撃、相手が人なら完璧に入る角度。

「スキル<暗拳ステルスブロー><瞬骨スピードパンチ>!」
「見えてるわ」

 だがアラクネは人ではない。下半身が蜘蛛であるこその、人並外れた機動力は予測できない動きを可能にする。背後からのライアンの攻撃をアラクネは腰を180度捻り、伸びた腕を掴む。再び腰を正面に戻す力で、ライアンは振り回され、はるか遠くに投げ飛ばされる。

「ぐはっ……」

 宙をボロ雑巾のように脱力した状態で舞うライアンだったが、またアレスの時と同じように宙で何かクッションにぶつかったように一瞬留まり、ゆっくりと地面に落下する。明らかに物理法則を無視したタカダの未知の力に、アラクネも警戒の色を見せる。

「アレ、やっちゃおうかしら」

 アラクネはそう言って、帝国の奴らに向けて真っ直ぐ片手を伸ばした。

「<奪力ステータススティール>」
 
 何も……起こらない。だが、言いようのない違和感と、そのスキルの名前にアレスは真っ先に行動した。

「ステータ……ス?」

 ステータス画面を開いたアレスは、その内容を見て明らかに動揺を隠せずに声が震える。だが、それは次のアレスの言葉を聞いた残りの帝国の奴らも、その被害に遭わなかった俺ですら同じことだった。

「スキルが、ステータスが無くなっている……?」
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