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4人目

軌跡

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 ユミがなぜ今の姿になったのか。それがもし悪意によるものだとすれば、到底許されることでは無い。話を聞いているうちに気付けば俺はかたく拳を握りしめていた。

「毎日、決まった時間になれば計器を身体中に取り付けられて、何かを注射されて、何かを食べさせられました。それでも自分たちに何をしているのかを知らされることはありませんでした」
「……その施設の人たちの言葉って?」
「言葉? あっ、いや、分かりませんでした。でもひとつの言語っぽくは無かったような……?」

 俺と言葉が問題なく通じるユミは共和国の生まれなんだろう。その彼女が分からない複数の言語となると、共通語か教国か、亜人の言語の可能性もあるか。
 人とほとんど変わらない見た目だが、魔物の特徴も引き継ぐという亜人族のほとんどは別の大陸に移住している。俺も直接は見たことないが、身体的特徴などいくらでも誤魔化せるだろうし彼らの可能性もあるだろう。

「話の腰を折ってすまない、続けてくれ」
「はい」

 何も分からない、ということが分かった俺にユミは頷いて再び話し始めた。ちなみに話に集中するために食事を止めていた彼女だったが、空腹には勝てないようで6個目のパンに前足を伸ばしてる。

「どのような実験なのか、直接伝えられはしなかったものの、何か良くないことが身に起こっているというのは勘づいていました。でも、それでもそこまで心配していませんでした」
「それはどうして?」
「自由だったからです。寝る時は大部屋に集められるものの、それ以外の時間は研究所内なら自由に行き来できて、欲しいと言ったもの全て支給されました。指示に従うということさえ目を瞑れば、前世を含めても最も豊かに過ごせていたのです。ほかの転生者たちも私と同じように楽観的でした」

 自由で何でも支給される、そんな待遇は確かに素晴らしいだろう。だが、良いものには必ず裏がある。「だけど、」と逆接を繋げる彼女の、今の境遇がそれを物語っている。

「ある日、突然状況が一変しました」
「……」
「その日、目が覚めた私は自身の体の変化に絶望しました。背中にデッドウルフが融合しているのです。しかも皮膚のように表面上ではなく、めり込むような形で。その時点では今と違って四肢はありましたけど」

 死んでいるとはいえ、デッドウルフが背中に融合している、自分がそんな目に合えば俺はどれだけ絶望するだろうか。少なくとも目の前の彼女のようになんでもない様に振る舞うことすら出来ないだろう。

「他の子達も同じような状態でした。自我が無くなったり、体が溶けていたり、その中では私が一番マシでした。症状が比較的マシな者たち数人で研究員とコンタクトを取ろうとしたのですが、その日から私達は部屋から出ることすら叶わなくなりました」
「……転生者特典は?」

 集められたのがみな転生者ならば、その強力な転生者特典を結集させれば突破できぬ問題などないように感じられた。

「存在を知りませんでした。ステータスを見れることすら知らなかったのですから」
「えっ……?」

 きっぱりとそう言ったユミに俺は目をぱちくりとさせる。

「私たちは幼い頃に囚われたせいで、この世界の常識を知らなかったのです。さっきデッドウルフが、と言いましたが当時の私はオオカミだと認識していましたから」
「いや、そうか……確かに」
「もちろん私たちもこの世界に無知であることを黙って受け入れていた訳ではなく、書籍だったり新聞を研究員に要求して、実際に手には入れていたのですが……」
「都合の悪い事実は省かれていた、か」

 ユミは頷く。
 そうだろう、不当に監禁して実験台にしているのだ。ハナから自由で楽園に見せ掛けているだけで、そこに真実など無いのだ。
 
「じゃあどうやって、抜け出したんだ?」
「研究員のひとりが寝返ったんです。理由は分かりません、彼女はただドアを開けて、私にステータスの見方だけを教えてどこかへ行ってしまいましたから」

 ユミは食事をする手を止めて、「<ステータス>」と呟いた。

「あっ……でも、これって他の人に見えるんですか?」
「えっと、俺は見える、な。普通は見えないけど、まぁ……ここら辺の話は後で説明する」

 俺だけが見えるってことに首を傾げるユミには悪いが、取り敢えず先にステータスを見る。

 ユミの転生者特典の欄には『代償成就』と書かれてあった。
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