深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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5人目

異常者

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視点:シズク
────────────────────────

「え? なんて……?」

 少年が言った言葉に私は間抜けにそう聞き返してしまう。エレナも何が起こっているのか分からないのだろう、少年に対して訝しげな表情を見せる。

「聞こえなかった? 久しぶりに動かしたせいで声帯がまだちょっとビックリしてるのかな……なら、もう一度言うね。シズク、ボクをその手で殺してくれ」

 やっぱり聞き間違えじゃなかった。そして普通の抑揚で、にこやかに自らの死を望むこの少年はどっからどう考えてもマトモじゃない。
 だけど……少なくともエレナか私かのどちら側か、と問われたら恐らくはこっち側かな。取り敢えずは誤魔化して、協力して貰うか。

「会ったばかりの他人を殺せないなー。君、軽はずみにそんなことを言っちゃ駄目だよ、命が勿体無いじゃない」
「会ったばかりじゃなかったら殺せるみたいな言い方だ?」
「そうだよ? 君が死にたい理由が分からないから殺せない。だからまずは私と友達になろうよ。そうしたら君の願いを叶えてあげられるかも」

 私の言葉に少年は少し考えて、「あぁ」と何か納得したような顔をした。かと思えば、突然私の盾を抑えていたその手で盾の縁を持ち、そのまま思いっきり下に引っ張る。

 ── えっ?

 見た目からは信じられないほどの怪力と、その突発的かつ意味不明な行動に、私がほとんど抵抗する間もなく盾は砂に叩き付けられ、そして

「<神器召喚サモンミシックウェポン>で手に入れた防具は攻撃に使用されると破壊される、だよね? って、急にこんなことしたらびっくりするか、ごめんね。折角だからエレナともちょっと話したかったんだけど、キミが居たらそれが叶わないだろ? 許してくれ」

 どうしてこの子供は<神器召喚サモンミシックウェポン>の細かい仕様を知っている。これは百年前に私が奪った転生者特典で、唯一無二のはずなのに。
 ポカンとしている私に背を向け、少年はエレナに向き合う。人差し指と親指で鎌を挟んでいる方の手を、刃ごと時計回りに捻りながら。

「じゃあ、シズクとボクが友達になる、その礎としてエレナにはどうにかなってもらおうかな。大丈夫、殺しはしないよ。ボクもその鎌はさすがに少し怖いし、ちょっとこの場から離れてもらうだけ。そう言えば<聖撃>を使えるってことは、教国の加護を受けてるんでしょ? もつくづく世界を操るのが上手いなぁ、彼にはそれが使命であり、それ以外ないだけなんだろうけど。エレナは直接会ったことあるのかい?」
「……っ離せ!!!」

 ギィ……ィィ……ィィ ── という歪な音が、鎌の刃が素手で捻られることによって鳴る。エレナは必死に鎌を奪い返そうと引っ張るがビクともせず、それどころか少年は余裕の表情で話し続ける。

「あーごめんね。一気に話しすぎたかな? 長らく、正確には4歳から12歳になった今までずぅぅぅぅっっっと人と話していなかったからさ、こうやって会話が出来るのが嬉しいんだ。で、さっきの質問は答えてくれないのかな。それならそれで勝手に見させてもらうだけなんだけど。<人生譚ライフブック>っと、」
「<外絶アビサルセヴァ―>!! <飛刃エアロブレード>!!」

 取り乱しているのを隠せていない叫び声のようなエレナの詠唱、すべてが至近距離での回避不可能な強力な攻撃なのに、そのどれもが少年に到達する前に跡形もなく消失していき、私は目を丸くした。
 そして、少年が使った<人生譚ライフブック>というスキルもエレナに何の怪我もおわせていない。少しエレナが光った、それぐらいだ。が、少年は満足げのようだった。

「えーっと。エレナ・ブラッディ、共和国にて22年前生まれる。父は第1兵団長、母は……って、驚いた。母も兵団長なのかい? 0歳、極めて愛の溢れる一般的な家庭ですくすくと育つ。初めて喋った言葉は『ママ』、生後5ヶ月にしてつかまり立ち!? 凄いね、遺伝なのかな、運動神経が抜群だ」
「は……?」
「んー、0歳はガッツリ見ちゃったけど、よくよく考えれば別に細かく見る必要も無いか。所詮、普通の恵まれた人間の恵まれた人生だからね。君の人生最大の悲劇って、父親が死んで母親が両脚を失い、頭がおかしくなったぐらいだろ? そんなものありふれてるじゃないか。いちいちそんな人生をボクに提示しないで欲しいね。ボクが見たいのはここ数ヶ月だけだからーー……あっ、このページか」

 少年は独りよがりに言葉を吐き出し続ける。その全てを見通したような眼で語られる悪意なき、只の感想に過ぎない発言は、それだけで私を不気味に思わせるのに十分だった。
 そして、無関係な私でさえ少し気分が悪いのだ、当の本人は……。

「あっ、んだ、あの男のことは。いや、この感じだとちょっとは勘づいているのかな? でも見て見ぬふりをしているって感じかな?」
「っ黙れ!!!」

 エレナはそう叫びながら少年にとびかかった。
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