深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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 目を隠すぐらいに全体的に長い黒髪を海に漂わせながら、半人半魔人の女は俺たちを見下ろす。

「ウォーカー……だと?」

 マサトの低く、掠れた声。女の、過去をフラッシュバックさせる精神攻撃に蹲っていたマサトはいつの間にか立ち上がっていた。

「ウォーカー……ウォーカー。あいつのことか……アレスとライアンはあいつにっ……!」
「いひっ、ま、お前の記憶に確かに映ってたやつさ」

 『セーフゾーン』の上を泳ぎながらそう言った女の言葉で俺もウォーカーが誰かを悟る。断片的に流れたマサトの記憶の中で最後の方、ライアンの死体を踏み荒らして耳元に何かを語りかけてきた中年の太った男だ。

「いひひひっ、<波撃タイダルインパクト>」

 瞬間、話をしていたのが嘘だったかのように、尾びれを動かしほぼ予備動作無しで女が近付いてきたかと思えば腕を『セーフゾーン』に突っ込んで水の斬撃を放ってくる。

「……痛っ……いのぉ」
「<治癒ヒール>!」

 まだマサトのトラウマから立ち直っていなかったリカの背中がざっくりと裂かれる。が、逆にリカはそのショックで元の調子を取り戻したのか立ち上がった。

「いひひっ……駄目だ、いひっ、衝動が抑えられない。話を聞きたいなら、あたしを無力化してからにしな。いひっ……」

 気色の悪い笑みを零しながら女はそう言った。というか、『セーフゾーン』には魔物は侵入できないはずだが、どうしてか女は腕を突っ込んで攻撃を打ってくる。上半身はまだ人間の判定だとでも言うのだろうか。

「無力化のぉ、海に逃げられる相手をどうしろと言うんじゃ……」

 リカが小声で愚痴ったが、俺も同意だ。転生者特典と思われる精神攻撃と、魔人としての海を操る力の2つを併せ持ち、本能で攻撃してくる相手を無力化なんて無理だろ、と言いたくなる。

はいつもそうしてる、いひっ……いひひひひっ」
「あの子ってのは誰のこtっ」
「<渦裂槍ヴォルテックスランス><眠り泡スリープシャボン>」

 再び俺の言葉を遮って、女が差し込んだ手から放たれる歯車のような形の圧縮された海の奔流。それが鋭く回転しながら一直線に……俺の首めがけて飛んでくる!

「っ<盾砂サンドシールド>!」

 リカがそれに合わせて砂で出来た壁を空中に生成する、が、回転の力に砂は一瞬にして削られてあっさりと突破する。

「なっ、……」
「<エアシーrっ」

 まさか破られると思ってなかったんだろう、口をあんぐりと開けて驚くリカに、渦の後ろから現れた何かが当たる。と思ったら、リカはそのまま前に倒れ込んだ。
 だが、それを気にかける余裕は俺には無い。
 確実に首に向かってくる死に対して、防御スキルを俺も発動させようとするが、もう既に渦の斬撃は目と鼻の先、間に合わない!

「あっ、死──」
「<風固壁エアウォール>」

 俺が死を覚悟した刹那、右からマサトが俺の眼前に空気の盾を張る。ガガガガッ── 鋭い音と共に渦裂槍は回転はそのままで数秒間だけ空気を削り、最後には完全に停止して地面に落ちて、地面を潤した。

「いひっ……」

 女は攻撃を止められたというのに、余裕の表情でこっちを観察している。左隣で前に突っ伏しているリカは心配だが、女からは決して目を逸らせない。取り敢えず俺は右の、寸前で命を救ってくれたマサトにお礼を言おうとする。
 
「マサト、助かっ」
「……っ」

 ── ばたり。

 が、マサトもリカと同じように突然、毒でも盛られたかのように前に気を失って倒れた。

「え? ……あっ」

 動揺する俺の、その脚に当たって弾けるシャボン玉。それにを見た途端、俺の視界も暗転した。

「<夢界門ドリームゲート>、開門」

 最後に女のその声だけが聞こえた。
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