86 / 124
波間
側面
しおりを挟む
視点:エレナ・ブラッディ
────────────────
「そろそろかしら……はあ、今はこんなことしてる場合じゃないのに……」
久しぶりに座る、自身に与えられた役場の一室。大きなデスクに突っ伏しながら私は、領主に呼ばれるのをひたすらに待っていた。名前も覚えていないようなただの領主に呼ばれるのを。
魔王と篝火に関する内閣に直々に下された任務があるというのにも関わらず、どうして私がこんな場所で時間を無駄にしているのか。折角、共和国と教国が同盟を結び、その力を教王が私に授けてくれたというのに、なぜ私がこんな場所に居るのか。
それは何故か突然、魔物被害対策室長として、ただの一領主に召集がかかったからだ。
確かに大きな問題とは無関係に、人々を困らせる魔物の被害は日常的に発生する。が、それでも「今はそんな場合じゃない」と私は首相含む魔王討伐を命じた上層部に訴えた。
今は一刻も早く魔王を倒すか、もしくは篝火を確保して討伐軍を編成しなければならない。国を運営している彼らだ、そのぐらいの論理性は持ち合わせているだろう、と私は考えていた。
だが、その答えは予想外なものだった。これは決定事項である、我々もそれについては関知している、と録に話を聞かずにそう突き返されたのだ。つまり「つべこべ言わず、辺境領主に会ってこい」と、そう上層部も言ったのだ。
どうして? と心の中で呟いてみるものの、実は心当たりが無いわけではない。
私が3層からリューロ・グランツの策略によって議会場に転移させられた時、とっくにイグニススコーピオンが粉砕されていたこと。
それに唖然とするのもつかの間、いつの間にか後ろに連れてきていたはずのアレスとライアンが、前で私と同じように唖然としていたマサトタカダが、一瞬にして姿を消したこと。
そして、その時に僅か0.5秒にも満たない時間だけ視界に捉えた超高速で動く恰幅のいい醜悪な男。
──まさか、ね。
私が下らない自分の推論にそうピリオドを打てば、ようやくドアがノックされた。どうやら領主の準備が出来たようだ。
***
「エレナ・ブラッディよ。今までの俺は愚鈍で、欲深く、考え無しの無能領主であったか?」
️「……え?」
私が部屋に入り、開口一番に領主はそう聞いた。その突拍子もなく、意図が読めない質問に私は答えかねる。少しでも返答を間違えれば、室長としての立場を追われる可能性もあるのだ。戸惑いのせいだったものの、沈黙は最適解に思えた。
「まぁいい。手短に結論から話そう」
返答が無いことを領主はそこまで気にする様子はなく、忘れてくれと手を軽く振る。
気の所為かもしれないが、何となく彼の喋り方や雰囲気が普段よりもハキハキとしているような気がして、私はやはりまた戸惑う。
が、真に戸惑い、驚くのはこの後だった。
「イグニススコーピオンを倒したのは、帝国の連中を捕らえた影は、この俺だ。百年前の[転生者の篝火]である、この俺だ」
「は?」
── 目の前の太ったおじさんは一体何を言っている?
思ってもいなかった話に頭が真っ白になる。そのクリアな脳でもう一度、先の領主の言葉を反復するが、やはり意味が分からない。
領主は紛れもなく、ただのありふれた共和国では珍しくない労働に疲れた中年男性の見た目なのだ。
外見から想定される年齢は三十を少し越えたぐらいだろう。中年特有の下腹部の肥満によって、彼のシャツのボタンはいつ弾き飛んでもおかしく無い状態で、動きもその脂肪のせいで緩慢なものである。でっぷりとした輪郭に、大きな隈が目立つその顔は、まさしく社会に疲れ切ったおじさんだ。
そんな領主が、あの時の男?
私にとってそれは到底受け入れがたい話で、だがしかし事実だった。
────────────────
「そろそろかしら……はあ、今はこんなことしてる場合じゃないのに……」
久しぶりに座る、自身に与えられた役場の一室。大きなデスクに突っ伏しながら私は、領主に呼ばれるのをひたすらに待っていた。名前も覚えていないようなただの領主に呼ばれるのを。
魔王と篝火に関する内閣に直々に下された任務があるというのにも関わらず、どうして私がこんな場所で時間を無駄にしているのか。折角、共和国と教国が同盟を結び、その力を教王が私に授けてくれたというのに、なぜ私がこんな場所に居るのか。
それは何故か突然、魔物被害対策室長として、ただの一領主に召集がかかったからだ。
確かに大きな問題とは無関係に、人々を困らせる魔物の被害は日常的に発生する。が、それでも「今はそんな場合じゃない」と私は首相含む魔王討伐を命じた上層部に訴えた。
今は一刻も早く魔王を倒すか、もしくは篝火を確保して討伐軍を編成しなければならない。国を運営している彼らだ、そのぐらいの論理性は持ち合わせているだろう、と私は考えていた。
だが、その答えは予想外なものだった。これは決定事項である、我々もそれについては関知している、と録に話を聞かずにそう突き返されたのだ。つまり「つべこべ言わず、辺境領主に会ってこい」と、そう上層部も言ったのだ。
どうして? と心の中で呟いてみるものの、実は心当たりが無いわけではない。
私が3層からリューロ・グランツの策略によって議会場に転移させられた時、とっくにイグニススコーピオンが粉砕されていたこと。
それに唖然とするのもつかの間、いつの間にか後ろに連れてきていたはずのアレスとライアンが、前で私と同じように唖然としていたマサトタカダが、一瞬にして姿を消したこと。
そして、その時に僅か0.5秒にも満たない時間だけ視界に捉えた超高速で動く恰幅のいい醜悪な男。
──まさか、ね。
私が下らない自分の推論にそうピリオドを打てば、ようやくドアがノックされた。どうやら領主の準備が出来たようだ。
***
「エレナ・ブラッディよ。今までの俺は愚鈍で、欲深く、考え無しの無能領主であったか?」
️「……え?」
私が部屋に入り、開口一番に領主はそう聞いた。その突拍子もなく、意図が読めない質問に私は答えかねる。少しでも返答を間違えれば、室長としての立場を追われる可能性もあるのだ。戸惑いのせいだったものの、沈黙は最適解に思えた。
「まぁいい。手短に結論から話そう」
返答が無いことを領主はそこまで気にする様子はなく、忘れてくれと手を軽く振る。
気の所為かもしれないが、何となく彼の喋り方や雰囲気が普段よりもハキハキとしているような気がして、私はやはりまた戸惑う。
が、真に戸惑い、驚くのはこの後だった。
「イグニススコーピオンを倒したのは、帝国の連中を捕らえた影は、この俺だ。百年前の[転生者の篝火]である、この俺だ」
「は?」
── 目の前の太ったおじさんは一体何を言っている?
思ってもいなかった話に頭が真っ白になる。そのクリアな脳でもう一度、先の領主の言葉を反復するが、やはり意味が分からない。
領主は紛れもなく、ただのありふれた共和国では珍しくない労働に疲れた中年男性の見た目なのだ。
外見から想定される年齢は三十を少し越えたぐらいだろう。中年特有の下腹部の肥満によって、彼のシャツのボタンはいつ弾き飛んでもおかしく無い状態で、動きもその脂肪のせいで緩慢なものである。でっぷりとした輪郭に、大きな隈が目立つその顔は、まさしく社会に疲れ切ったおじさんだ。
そんな領主が、あの時の男?
私にとってそれは到底受け入れがたい話で、だがしかし事実だった。
10
あなたにおすすめの小説
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
異世界子供ヤクザ【ダラムルバクト】
忍絵 奉公
ファンタジー
孤児院からスラムで育ったバクト。異空間収納と鑑定眼のダブルギフト持ちだった。王都西地区20番街では8割を縄張りとする先代のじいさんに拾われる。しかしその爺さんが死んだときに幹部同士のいざこざが起こり、組は解散。どさくさにまぎれてバクトが5・6番街の守役となった。物語はそこから始まる。7・8番街を収めるダモンとの争い。また後ろ盾になろうと搾取しようとする侯爵ポンポチーコ。バクトは彼らを越えて、どんどん規格外に大きくなっていく。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる