94 / 124
7人目
猿
しおりを挟む
「マサト、気付いてるか?」
「あぁ……かなりの数がいるな」
巨木だらけの森林の中、その大きな根を乗り越え、時に下をくぐって俺達は駆ける。
無数にブラッドオウルが旋回している空では、マサトも流石に飛んで移動することは出来なかったのだ。一応、<対象変更> を利用してマサトにも<潜伏>を付与しているのだが、それには『忍びの術』が反映されていないので目立つ行動をすれば、距離の近い索敵能力の高い相手には直ぐにバレてしまう。
「心当たりは?」
マサトは俺よりも少し前を先行しながら、ダンジョンについて父の影響で人より詳しい俺に聞く。確かに俺はこの、前と後ろと横、全方位を囲むように俺たちを追跡してきている魔物たちについて、ある程度目星はついていた。
「まぁ断言は出来ないが……それでも十中八九キラーエイプだろうな」
「そいつは強いのか……? 特殊な能力は?」
「いや……特筆するような目立った能力は無いし、集団戦と単純な腕力が厄介なぐらいだ。ただ……」
「……?」
「このまま走り続ければ続けるほど数が増えて圧殺される可能性が高い」
ザザーッ、とそこでマサトが高速で移動していたのを無理やり足を地面に擦って減速させて立ち止まる。そんなマサトの急停止にぶつかりそうになりながらも、俺も慌てて足を止める。
そこは今まで見てきた中で最も大きい木の前だった。圧倒されるほどの幹の太さと、背の高さ、それらに俺はある作戦を思いつく。
── 良い作戦、思いついたかもしれない……。
「なら、ここで迎え撃とう」
「了解」
マサトの提案に俺は頷く、このまま走り続けて無闇にキラーエイプの数を増やすのは当たり前に得策じゃなかった。ガサガサ──と周囲の大木の間を埋め尽くすように生えている低木の葉がそこら中で揺れている。キラーエイプが徐々に包囲網を狭めてきているんだろう。
「マサトは今回サポートに回ってくれ。その<隠密>じゃエレナにバレる可能性が高い」
「理解した……なら、取り敢えず防音をしておこう」
マサトは、俺たちが来た方向に向かって軽く手を振った。不可視ではあるが、防音という言葉から推測するに空気を固定して、気体から固体にすることによって音が伝わるのを遮るつもりなんだろう。
「だがリューロ……軽く見積っても相手は千は居るが、どうするんだ?」
「この木を使うんだ。マサト、せーので少しだけ飛んでくれ」
俺の言葉にマサトは首を傾げる。
「少しだけ……というのは?」
「ブラッドオウルに襲われないけれど、水に流されないぐらいに」
「……?」
俺の意味深な発言にマサトは、やはりまだ少し眉をひそめているが、今は説明している暇は無い。
目の前の大木に俺は近づく。
人間の数百倍ものその木は周りを一周するだけでも3分ほどかかりそうで──人間の平均歩行速度は1分80メートルなので外周340メートルほどだろう──高さも20メートルほどあるだろうか。そんな一際大きい木、その肌に触れて俺は叫ぶ。
「<水操術>!」
発動と共に、自らの手に木の中の水分が完全に委ねられるのを感じる。目を瞑って集中すれば暗闇の中、明確に水の動きだけが光って見えた。
と、同時に聴覚ではもう寸前のところまでキラーエイプが近付いて来ているのを知覚していた。木の枝を踏む音、奴らの爪が葉をかきわける音、視覚を無くしたことによってそれすらも聞き分けられる。
水を操る、ゴォゴォとうねる強大な力を必死に押さえ込みながら、この木の命とも言える水分を全て集めていく。管の中も、幹の中も、枝の中も、葉の中も、あらゆる水に力を流して全てを地面に運んでいく。
──すまない、枯らすことになってしまって。
そして、葉が無惨にも変色して落ちていく中でマサトは俺を守るように空気の盾を張る。ガンガンガン!─という何かを強く叩くような音からするに、もう盾を超えたすぐ隣にキラーエイプの群れがいるに違いない。
が、こっちもようやく根の先に、全ての水分を集中させることに成功した。今にも爆発しそうな程の水圧を必死で抑え込む右手、それを一気に解放する!
「今だ!!!」
瞬間、その大木が蓄えていた全ての水を大地に還元された。
ゴォォォ……! ──という地響きのような音。それを脳が認識した時にはもう俺の体はどろどろになった地面に沈み始めていて、<空中歩行>でどうにかそこから逃れる。
「なっ、……これは……洪水か?」
そう、俺がやったのは局所的な人工洪水。生木の含水率は約150%、これほどに巨大な木ならばその量は尋常じゃない。少なく見積もっても4000万リットル……それこそ、この周辺を水浸しにして千匹を超えるであろうキラーエイプを一掃するぐらいには水があるのだ。
「「「キィィィィィ!!!!!」」」
そこらかしこから、水に流されていくキラーエイプの悲鳴が上がる中、俺とマサトはそれを上から眺めていれば、突如背後から
「へぇ、やるじゃん」
という女の声が聞こえた。
──エレナっ……じゃない!!
一瞬焦るが、明らかに違う声に冷静になる。
「誰だ?」
「アタシはミレイ、ユリウス様の指示であなた達を助けに来た」
「あぁ……かなりの数がいるな」
巨木だらけの森林の中、その大きな根を乗り越え、時に下をくぐって俺達は駆ける。
無数にブラッドオウルが旋回している空では、マサトも流石に飛んで移動することは出来なかったのだ。一応、<対象変更> を利用してマサトにも<潜伏>を付与しているのだが、それには『忍びの術』が反映されていないので目立つ行動をすれば、距離の近い索敵能力の高い相手には直ぐにバレてしまう。
「心当たりは?」
マサトは俺よりも少し前を先行しながら、ダンジョンについて父の影響で人より詳しい俺に聞く。確かに俺はこの、前と後ろと横、全方位を囲むように俺たちを追跡してきている魔物たちについて、ある程度目星はついていた。
「まぁ断言は出来ないが……それでも十中八九キラーエイプだろうな」
「そいつは強いのか……? 特殊な能力は?」
「いや……特筆するような目立った能力は無いし、集団戦と単純な腕力が厄介なぐらいだ。ただ……」
「……?」
「このまま走り続ければ続けるほど数が増えて圧殺される可能性が高い」
ザザーッ、とそこでマサトが高速で移動していたのを無理やり足を地面に擦って減速させて立ち止まる。そんなマサトの急停止にぶつかりそうになりながらも、俺も慌てて足を止める。
そこは今まで見てきた中で最も大きい木の前だった。圧倒されるほどの幹の太さと、背の高さ、それらに俺はある作戦を思いつく。
── 良い作戦、思いついたかもしれない……。
「なら、ここで迎え撃とう」
「了解」
マサトの提案に俺は頷く、このまま走り続けて無闇にキラーエイプの数を増やすのは当たり前に得策じゃなかった。ガサガサ──と周囲の大木の間を埋め尽くすように生えている低木の葉がそこら中で揺れている。キラーエイプが徐々に包囲網を狭めてきているんだろう。
「マサトは今回サポートに回ってくれ。その<隠密>じゃエレナにバレる可能性が高い」
「理解した……なら、取り敢えず防音をしておこう」
マサトは、俺たちが来た方向に向かって軽く手を振った。不可視ではあるが、防音という言葉から推測するに空気を固定して、気体から固体にすることによって音が伝わるのを遮るつもりなんだろう。
「だがリューロ……軽く見積っても相手は千は居るが、どうするんだ?」
「この木を使うんだ。マサト、せーので少しだけ飛んでくれ」
俺の言葉にマサトは首を傾げる。
「少しだけ……というのは?」
「ブラッドオウルに襲われないけれど、水に流されないぐらいに」
「……?」
俺の意味深な発言にマサトは、やはりまだ少し眉をひそめているが、今は説明している暇は無い。
目の前の大木に俺は近づく。
人間の数百倍ものその木は周りを一周するだけでも3分ほどかかりそうで──人間の平均歩行速度は1分80メートルなので外周340メートルほどだろう──高さも20メートルほどあるだろうか。そんな一際大きい木、その肌に触れて俺は叫ぶ。
「<水操術>!」
発動と共に、自らの手に木の中の水分が完全に委ねられるのを感じる。目を瞑って集中すれば暗闇の中、明確に水の動きだけが光って見えた。
と、同時に聴覚ではもう寸前のところまでキラーエイプが近付いて来ているのを知覚していた。木の枝を踏む音、奴らの爪が葉をかきわける音、視覚を無くしたことによってそれすらも聞き分けられる。
水を操る、ゴォゴォとうねる強大な力を必死に押さえ込みながら、この木の命とも言える水分を全て集めていく。管の中も、幹の中も、枝の中も、葉の中も、あらゆる水に力を流して全てを地面に運んでいく。
──すまない、枯らすことになってしまって。
そして、葉が無惨にも変色して落ちていく中でマサトは俺を守るように空気の盾を張る。ガンガンガン!─という何かを強く叩くような音からするに、もう盾を超えたすぐ隣にキラーエイプの群れがいるに違いない。
が、こっちもようやく根の先に、全ての水分を集中させることに成功した。今にも爆発しそうな程の水圧を必死で抑え込む右手、それを一気に解放する!
「今だ!!!」
瞬間、その大木が蓄えていた全ての水を大地に還元された。
ゴォォォ……! ──という地響きのような音。それを脳が認識した時にはもう俺の体はどろどろになった地面に沈み始めていて、<空中歩行>でどうにかそこから逃れる。
「なっ、……これは……洪水か?」
そう、俺がやったのは局所的な人工洪水。生木の含水率は約150%、これほどに巨大な木ならばその量は尋常じゃない。少なく見積もっても4000万リットル……それこそ、この周辺を水浸しにして千匹を超えるであろうキラーエイプを一掃するぐらいには水があるのだ。
「「「キィィィィィ!!!!!」」」
そこらかしこから、水に流されていくキラーエイプの悲鳴が上がる中、俺とマサトはそれを上から眺めていれば、突如背後から
「へぇ、やるじゃん」
という女の声が聞こえた。
──エレナっ……じゃない!!
一瞬焦るが、明らかに違う声に冷静になる。
「誰だ?」
「アタシはミレイ、ユリウス様の指示であなた達を助けに来た」
0
あなたにおすすめの小説
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
《カクヨム様で50000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う
なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。
スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、
ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。
弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、
満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。
そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは――
拾ってきた野良の黒猫“クロ”。
だが命の灯が消えかけた夜、
その黒猫は正体を現す。
クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在――
しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。
力を失われ、語ることすら封じられたクロは、
復讐を果たすための契約者を探していた。
クロは瀕死のソラと契約し、
彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。
唯一のスキル《アイテムボックス》。
そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、
弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。
だがその裏で、
クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、
復讐の道を静かに歩み始めていた。
これは――
“最弱”と“最凶”が手を取り合い、
未来をやり直す物語
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる