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「確かこのボタンだったはずだけど、よしっ」
バラバラになったリカの体、その大きな胴体の欠片に通信機と『光魔法迷彩マント』が収納されていたのをシズクが見つける。通信機の方はなにやら赤く点滅していて、ミレイがそれを起動してみるとユリウス陛下の姿が直ぐに映し出された。
その一連の様子を俺は離れたところから地面に座り込んで見ているだけだった。シズクとミレイがリカの死を乗り越えて次に進む行動を取っている、それを俺は後ろからただ見ているだけだった。
マサトは俺の隣に付いてくれていたが、ユリウス陛下が投影されるとこちらに申し訳なさそうな表情をしながらも、やはり俺を置いて通信機の前に行ってしまう。
「ようやく繋がったか。ミレイは居るか?」
「こちらにおります。まだシズクとは出会ったばかりですが、既にリューロとマサトには能力の説明も済ませました」
「よし。それで、リカ王はどこだ……まさか」
「……リカは死んだよ」
覗き込むようにこちらを見るユリウス陛下に、シズクがあっさりと答える。俺たちがこの場に到着した時こそ、彼女は深く悲しんで俯いていたが、もうその影は無かった。
陛下はそのシズクの発言に、ちょっとだけ目を丸くしてマサトの方を向く。マサトがそれに対して神妙な面持ちで頷いたことで、ようやく陛下はそれを呑み込んだ。
「そうか、リカ王も亡くなったか……魔道国があの状態だったことを考えると……もう魔道国は存続が厳しいかもしれないな」
「あまり驚かないんだね、あの状態っていうのは?」
「あぁ。そうだな、まずは──」
魔道国の悲惨な状況を報せるユリウス陛下の言葉が、聞きたくもないのに聞こえてきてしまう。それをまとめると、魔道国はほとんど破壊。政治に関わっていた八人は殺害され、首都も研究所も完全に破壊されていたというものだった。やったのは『膨縮王』と呼ばれるウォーカーの配下で、そいつはリカに殺された、という話も。
それはまるでリカが作り上げた歴史そのものが破壊されてしまったようで、リカの存在ごと消されたようで、俺にはそれが受け入れがたかった。
──帝国に何とかしてもらう……のは、いや無理か。
一瞬浮かんだ考え、ただマトモに考えればそれは無理な話だ。
帝国はまだ正式に魔道国との同盟を発表していない。それは魔王側に付いていると広く知られてしまっている魔道国との同盟が、国民にどう影響を与えるかわからない、場合によっては内戦となる可能性もあるが故の判断だそうだ。つまり帝国は魔道国を助ける正式的な立場に無い。公式には教国と共和国の連合軍が進軍したとされているから、恐らくはこれから魔道国はその二国に吸収されるなり、属国となるなり、の流れになるのだろう。
これから先、魔道国の住民がどうなるのか。それを考えて苦しくなる。
「で、こちらでは誰にリカがやられたか、それは判明しているのか」
「いや、分からなかった……ほとんど一瞬だったし、私よりも速かった。ただ、あの攻撃方法的にエレナでは無いかな」
陛下は「ふむ」と唸る。
「つまりもう一人、敵がそこには居るということか……出来れば新型兵器でも送ってやりたいのだが、それはもうそれは叶わないな。これから支援出来るのはウォーカーとの直接対決時に限ると思ってくれ。もちろんその際は私の転生者軍を全て投入させてもらうとするが」
「そうか、リカが居なくなったもんね。簡単に物資を送ることが出来なくなったんだ」
「そうだ。協力者に持たせるということなら出来るが、しかし命を捨ててまで君たちに協力しようという人間はほとんど居ないからね」
含みを持たせるような陛下の言い方に、シズクは笑う。
「ふっ……で、ほとんど、っていうのは?」
「一応、一人だけ協力者として志願してくれている者が居るのだが……ただ彼女は転生者では無いから迷っているのさ」
***
「いつまでそうしているの?」
陛下との通信を終えたシズクが、木にもたれるように座っている俺の前に立つ。顔は上げていないが、もう二人分の足音も続いて聞こえたからマサトもミレイも同じようにしているのだろう。
「早く移動しないと、エレナとかもう一人の刺客とか来ちゃうから、さ」
極めて合理的で至極納得のいく言葉をシズクは吐く。
それに対して俺は、
──どうしてそんな風に平静を保っていられる!? リカが死んだんだぞ!
と、この握りしめた拳を木にぶつけながら叫びたかった。だけど、そうしない。なぜならダンジョンでは、そしてこの中では自分こそが異端であると理解しているからだ。
「あぁ……そうだな。でも、お願いだ、少し、少しだけ放っておいてくれ……」
だから、俺はただ嘆願した。正しいというただそれだけで、俺は進めそうになかったから。せめて少しでも気持ちを落ち着かせたかった。
マサトもミレイも帝国で鍛え上げられたれっきとした戦力で、仲間の死に対する価値観も違う。シズクもそうだ、百年前、魔物と戦い、そしてすべてに裏切られて親友を失っている。死に対しての重みが全然、俺とは違う。
それが、なんとなくすごく俺には怖かった。
「甘いなぁ、もう終わったことじゃない。失われた命は戻らないんだから」
「おい、そんなに言わなくとも……」
マサトの咎めるような声、それにシズクはため息をつく。
「はぁ……じゃあ9層への道探してくるから、ここに居てね。えーと、ミレイだっけ? 行こ」
シズクは地面に落ちていたネックレスを蹴って、そのままミレイと出発してしまった。
バラバラになったリカの体、その大きな胴体の欠片に通信機と『光魔法迷彩マント』が収納されていたのをシズクが見つける。通信機の方はなにやら赤く点滅していて、ミレイがそれを起動してみるとユリウス陛下の姿が直ぐに映し出された。
その一連の様子を俺は離れたところから地面に座り込んで見ているだけだった。シズクとミレイがリカの死を乗り越えて次に進む行動を取っている、それを俺は後ろからただ見ているだけだった。
マサトは俺の隣に付いてくれていたが、ユリウス陛下が投影されるとこちらに申し訳なさそうな表情をしながらも、やはり俺を置いて通信機の前に行ってしまう。
「ようやく繋がったか。ミレイは居るか?」
「こちらにおります。まだシズクとは出会ったばかりですが、既にリューロとマサトには能力の説明も済ませました」
「よし。それで、リカ王はどこだ……まさか」
「……リカは死んだよ」
覗き込むようにこちらを見るユリウス陛下に、シズクがあっさりと答える。俺たちがこの場に到着した時こそ、彼女は深く悲しんで俯いていたが、もうその影は無かった。
陛下はそのシズクの発言に、ちょっとだけ目を丸くしてマサトの方を向く。マサトがそれに対して神妙な面持ちで頷いたことで、ようやく陛下はそれを呑み込んだ。
「そうか、リカ王も亡くなったか……魔道国があの状態だったことを考えると……もう魔道国は存続が厳しいかもしれないな」
「あまり驚かないんだね、あの状態っていうのは?」
「あぁ。そうだな、まずは──」
魔道国の悲惨な状況を報せるユリウス陛下の言葉が、聞きたくもないのに聞こえてきてしまう。それをまとめると、魔道国はほとんど破壊。政治に関わっていた八人は殺害され、首都も研究所も完全に破壊されていたというものだった。やったのは『膨縮王』と呼ばれるウォーカーの配下で、そいつはリカに殺された、という話も。
それはまるでリカが作り上げた歴史そのものが破壊されてしまったようで、リカの存在ごと消されたようで、俺にはそれが受け入れがたかった。
──帝国に何とかしてもらう……のは、いや無理か。
一瞬浮かんだ考え、ただマトモに考えればそれは無理な話だ。
帝国はまだ正式に魔道国との同盟を発表していない。それは魔王側に付いていると広く知られてしまっている魔道国との同盟が、国民にどう影響を与えるかわからない、場合によっては内戦となる可能性もあるが故の判断だそうだ。つまり帝国は魔道国を助ける正式的な立場に無い。公式には教国と共和国の連合軍が進軍したとされているから、恐らくはこれから魔道国はその二国に吸収されるなり、属国となるなり、の流れになるのだろう。
これから先、魔道国の住民がどうなるのか。それを考えて苦しくなる。
「で、こちらでは誰にリカがやられたか、それは判明しているのか」
「いや、分からなかった……ほとんど一瞬だったし、私よりも速かった。ただ、あの攻撃方法的にエレナでは無いかな」
陛下は「ふむ」と唸る。
「つまりもう一人、敵がそこには居るということか……出来れば新型兵器でも送ってやりたいのだが、それはもうそれは叶わないな。これから支援出来るのはウォーカーとの直接対決時に限ると思ってくれ。もちろんその際は私の転生者軍を全て投入させてもらうとするが」
「そうか、リカが居なくなったもんね。簡単に物資を送ることが出来なくなったんだ」
「そうだ。協力者に持たせるということなら出来るが、しかし命を捨ててまで君たちに協力しようという人間はほとんど居ないからね」
含みを持たせるような陛下の言い方に、シズクは笑う。
「ふっ……で、ほとんど、っていうのは?」
「一応、一人だけ協力者として志願してくれている者が居るのだが……ただ彼女は転生者では無いから迷っているのさ」
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「いつまでそうしているの?」
陛下との通信を終えたシズクが、木にもたれるように座っている俺の前に立つ。顔は上げていないが、もう二人分の足音も続いて聞こえたからマサトもミレイも同じようにしているのだろう。
「早く移動しないと、エレナとかもう一人の刺客とか来ちゃうから、さ」
極めて合理的で至極納得のいく言葉をシズクは吐く。
それに対して俺は、
──どうしてそんな風に平静を保っていられる!? リカが死んだんだぞ!
と、この握りしめた拳を木にぶつけながら叫びたかった。だけど、そうしない。なぜならダンジョンでは、そしてこの中では自分こそが異端であると理解しているからだ。
「あぁ……そうだな。でも、お願いだ、少し、少しだけ放っておいてくれ……」
だから、俺はただ嘆願した。正しいというただそれだけで、俺は進めそうになかったから。せめて少しでも気持ちを落ち着かせたかった。
マサトもミレイも帝国で鍛え上げられたれっきとした戦力で、仲間の死に対する価値観も違う。シズクもそうだ、百年前、魔物と戦い、そしてすべてに裏切られて親友を失っている。死に対しての重みが全然、俺とは違う。
それが、なんとなくすごく俺には怖かった。
「甘いなぁ、もう終わったことじゃない。失われた命は戻らないんだから」
「おい、そんなに言わなくとも……」
マサトの咎めるような声、それにシズクはため息をつく。
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