深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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変化

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 新たなガスマスクが生成されるのを待つ時間、徐々に日が沈み出している中、『セーフゾーン』内はこれまでに無いほどピリついていた。

「ホントなにしてんの? お前のせいで折角進んでた道、引き返すことになったんだけど」
「それは……」

 明らかに苛立ちを含んだ声と、それに返事する気弱な声が『セーフゾーン』の中をこだまする。それはシズクとメイラの声だ。
 罵声を浴びせながらメイラの胸ぐらを掴むシズク、その顔は怒りに醜く歪んでいた。それも十分に驚くに値するが、何よりシズクが人に対して「お前」と言ったことに俺は唖然としていた。マサトも俺と同じようにシズクの豹変っぷりを受け止め切れていないようで、何も言えずにいる。

「何の役にも立たないんだからせめて迷惑だけは掛けるなよ。どういうつもりで平気な顔して、普通に付いて来られるわけ? もう少し申し訳なさそうな表情でもしてみたら?」

 矢継ぎ早に人を傷つける言葉をシズクは吐き出し続け、誰もそれを止められない。まだ戸惑いの方が大きかった。

 こんなことが過去にもあった。
 第7層で、俺たちが魔人リンに追い詰められた時、シズクが後ろからリンを殺した時だ。あの時も長い付き合いの友人であるはずの相手をあまりにも軽く殺していることに心底戸惑って、誰も何も言えなかった記憶がある。しかし、それは俺たちを救うための彼女にとっても苦しい決断だったということで話がついたはずだ。

「あのさ、そもそもなんで転生者でも無いくせにこんなところに来たの? 役立たずじゃん。何か少しでも今回の戦いに貢献した?」

 じゃあ今、目の前でドス黒い感情を露わにしているシズクもそうせざるを得ない理由があるのか? 
 確かに胞子には人の構造そのものを組み替える仕組みがあるせいで肺に取り込めば<治癒ヒール>でも治せないが、結果として俺は無事だった。仲間の命の危機が許せないんだとしたら分からないでもない。分からないでもないが……それはリカの死を終わったこと、と表現した彼女と被らない気がした。

「分かってる……私が足を引っ張ってるのは……」
「お前のせいでリューロが死んでたらどうしてたの? お前とリューロじゃ命の価値が違うの分からないわけ?」
「ごめんなさい……」

 涙こそ流さない。が、しかし俯いて声を絞り出すように身体を震わせるメイラを俺は見てられなかった。特にメイラが頭ひとつ抜けて年長であることが、尚更それを惨めに思わせる。そしてそれはみんな同じ気持ちだったようだ、いくら何でも言い過ぎだとミレイが割って入る。

「さっきから、そんなこと言ってたって仕方ないよ、もう来てしまってるんだから。まさか置いていくわけにもいかないし。アタシが間違ったこと言ってるかい?」
「それはそうだけどさ……迂闊なことをするなって言ってるの。危うくリューロが死ぬところだったんだよ? 今回はたまたま『セーフゾーン』が近かったからよかったけど」
「……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「はぁ……もういいや。付いてくんのは良いけど邪魔だけはしないでくれる? はっきり言って足手まといだから」

 そう言ってシズクは俺たちとは少し離れた場所に座った。と同時にメイラがふっと力が抜けたようにその場にへたりこむ。

「大丈夫? シズクも言い過ぎだよな……」

 ミレイがそばについてやるのを見ながら俺はシズクについて考えていた。

 俺の知っているシズクからはどんどんと離れている……ダンジョンを潜るにつれておかしくなってしまってるのか、それとも……。

 初めてシズクと出会った時の印象は敬語を使って、世界を知らないか弱い少女、といった感じだったが、その印象は5層で再び出会ったときに一変した。自由自在に数多のスキルを操り、簡単にユミを圧倒した彼女は自信に満ち溢れている強者だった。
 自分の過去を語るときは影が宿って、復讐を口にしたときやユリウス陛下のウォーカーに対する怒りを目の当たりにした時には少し意地の悪い笑みを浮かべる。完全無欠に善人ではないし、人らしい悪意もある。それを含めて彼女の魅力であると俺は思っていた。

 でも今のはそれとは少し違う気がした。なんというか仲間が死ぬことを決して許せないのに、でも死については軽く見ているような違和感がある。

 俺たちを守るためには仕方がなかったとは言え、魔人の復活という特性まで『世界図書』で消したのはやりすぎだと感じたし、リカが死んだ時もあまりにもあっさりとし過ぎていた。

 百年もの間、孤独につのらせてきた怨みを晴らせることに現実味が帯びてきて焦っているのかもしれないし、ただ仲間が大切だからこそメイラに厳しいことを言っているのかもしれない。

 俺には何も分からなかった。
 
「今日はもう進めないな……」

 マサトが隣で小さく呟いた。

***

 何か誰かが動くような物音に俺は目が覚める。『セーフゾーン』内ではあるが念のために交代で行っている見張り役、その役割をつい二十分程前にメイラに譲ったばかりだから、まだ深い眠りについていなかったのだ。

 目を細めて、暗さに目を凝らしてみればメイラが寝ているミレイを跨ぐように、足を上げたところだった。何か探し物でもあるのだろうか、と俺は声をかける。

「明かりをつけるか?」
「っ!? い、いや……大丈夫だぜっ!!」

 やけに力の入った語気と、男みたいな語尾でメイラが答えたせいで、シズクが「ううん……」と寝ぼけながらも上体を起こした。

「んん……どうしたの? いま何時?」
「まだまだ夜だ。気にせず寝ていてくれ」
「……? よく分からないけどじゃあそうさせてもらうね」

 シズクが寝たのにメイラは胸を撫で下ろす。その昼の出来事で心に傷がついてしまったかのような振る舞いを見て俺は少し気の毒に思った。

「……リューロも気にせず寝て構わないよ。私が見張りの番だからね」
「いや。妙に目が冴えてしまった、次の交代ぐらいまでは起きておこうかと」

 ちょうどいい機会だし、昔のユミの様子を聞いてみるのもいいかもしれない。そういう思惑もあり、俺はメイラの横に座る。

「そうかい。まぁそれでもいいが……」

 何故か少しだけ不機嫌そうな声色でメイラは返事をした。
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