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お ま け。
しおりを挟むあれから、ひと月が経っていた。
あの日、雑なショートヘアに汚れた裸足で帰った私を見たお父様は、勘当どころか、雰囲気の変わった私とヘアスタイルを褒めちぎり、バカ皇子の件も一切気にかける事も無く、怖いくらい終始笑顔で迎え入れてくれた。
悪役令嬢が終わっても家族の関係は変わず、そして、帰る場所が存在していた事に実感した私は、とても嬉しく激しく泣いた。
そうして、私は今、穏やかに日々を送っている。
ベランダに咲く花に水をあげたり、厨房にお邪魔しては料理長から、簡単な料理を教わったり、執事のセバスから剣術や魔術を教わったり、庭の巨木に身を潜める不審者をマスケット銃で撃ってみたり、庭のガーデニングに身を潜める不審者にダガーを投げてみたりと、毎日がとても充実していた。
実は最近ストーキングに気が付いたのだ。庭の巨木とガーデニングに身を潜める不審者は、バカ皇子とピンクだった。
情報収集をさせたセバスの話によると、あの日、ピンクの魅了魔法の解けたバカ皇子は再度、私にベタ惚れし、ピンクと言えば、バカ皇子を振った毅然とした私の態度に憧れを抱いているという…。
そんな、ピンクやバカ皇子を見ているとなんだか、自分の中にあった真の悪役令嬢としての冷徹な血が騒ぐようだった。
そんなこんなで、あの二つの物陰からまだ、気付かないフリを始めて二週間が過ぎた頃、その二つの物陰が巨木とガーデニングから、各々身体のかなりの部分をハミ出してアピールしていた。
私の中の何かが、完全に目醒めたようだった。
私はあの二つの物陰が人の形になる頃まで、気付かないフリをしようと思う。
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