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side K
結ばれる想い。
しおりを挟む一夜が明けて、涙した痕が残るヨフィエラの顔に少しずつ笑顔が戻ってくる。
この笑顔を守るために自分に出来ることは何でもしなければならないだろう。
「──なら行こうか。皆が、いや父上たちが心配しているだろうから」
これ以上の負担を掛けたくないので、直ぐには報告に向かうことはしなかった。
そのせいで王宮はいつもと違う喧騒に包まれている。
晩餐会での出来事が伝わったのだろう。
父上の元に報告に向かうと、そこにはヨフィエラの父、ロンメル・ティリオン公が押し掛けていた。
「納得が行く説明をしていただけなければ──」
「お父様!」
ティリオンが父の元に駆け寄る。
「おお、我が可愛いティリオンよ。大丈夫なのかい?」
「ええ、私は大丈夫よ。だから落ち着いて」
娘になだめられて、赤くなっていたロンメル公の顔がスッと落ち着いていく。
そして自分の存在に気付いて、視線を送ってくる。
「……なぜここにケルビム王子が?」
婚約破棄は第一王子であるセラフィムとヨフィエラの話なのだ。
本来は関係がない自分が、この場に姿を表すことは相応しくないだろう。
そしてヨフィエラと婚約を結ぶことを今ここで打ち明けることではないのかもしれない。
しかしもう自分の想いを隠すことは止めたのだ。
「わたくしケルビム・フォン・マルクスは、ヨフィエラ・ティリオン様と婚約を結びたく思います」
当然ながらに父上も、ロンメル公も驚きの表情を見せる。
「…………冗談で言っているのではないだろうな?」
「──勿論でございます。私はヨフィエラ様を愛しているのです」
殴られることも覚悟して、ハッキリと自分の想いを告げる。
ロンメル公は自分の目を見て、そして隣にいるティリオンの方を向く。
「ティリオンはどう思っておるのだ?」
ティリオンは返事をする前に自分の方に向かってきて、横に並び立つ。
「私はケルビム様と同じ想いです」
二人で手を取り合い、真っ直ぐとロンメル公を見つめる。
「…………分かった。ティリオンが納得しているのであれば、私は異論を言うまい。だがそれと婚約破棄の件は別だ。当然の処罰がなければ、示しがつかぬ」
王国と公国が決定的に仲違いしてしまうことは避けられた。しかし一方的に婚約を破棄し傷つけられたプライドは、第一王子へ正当な処罰を行わなければ取り戻せはしない。
「ううむ、仕方があるまい。セラフィムの王位継承権は剥奪し、ロッタとやらと共に追放とする」
こうして父上であり国王であるオルタス・フォン・マルクスの名の元に、第一王子であるセラフィムの処罰は国中に御触れが出されることになったのであった。
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