勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

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第0章 アヴラムは決意する

#2 勇者と過ごす日々

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──アヴラムが勇者一行に任命されてから数ヵ月が経過した。

 初めの頃は、この世界に来たばかりの勇者の為に様々な訓練と授業が行われたのだが、『この辺はご都合主義でいいだろ?』と勇者に言われ、アヴラムは困惑する。
 更に、その後に行われた[魔物討伐訓練]は、勇者以外が十分にダメージを与え脅威を排除するというお膳立てをして、最後に勇者が止めを刺すという形で行われた。それもゴブリンやオーク程度の相手でも、である。
 パーティーメンバーでは無いのに常に着いてきている神官によると、『こんな所で勇者が怪我をしたらどうする? 今は経験値を貯める時期だ!』とのことだ。
 幾つもの戦いを潜り抜けてきたアヴラムは、こんなことで本当に強くなることが出来るのか疑問に思う。
 この辺りからアヴラムは、『何かがおかしい』と思っていたのだが、勇者と言えども戦闘は初心者だから仕方ないと、深く疑問に思わず流してしまったのは、後々になって間違いだったと思う。
 この時に注意して、まだまともに思える状態の時に軌道修正することが出来れば良かったのだ。

■■■

 とある日の地方での魔物討伐の時、戦いが長引き、日中に教会がある町に戻ることが出来なくなったので、近くの村に立ち寄り、村の領主の家に泊めてもらうことになった。
 事前に神官が村へ赴き、全ての手筈を整えてくれたので、アヴラム達は何も口を出すことは無かったが、この時の交渉にも何かあったのかもしれない。

 夕食を終えて勇者は個室に、その他のメンバーは大部屋に案内され就寝したのだが、その次の日の朝に何故か領主の娘が妙に勇者と距離感が近くなっていた。
 今となっては分かるのだが、あれは一夜を共にしたのだろう。おそらく神官によって勇者と関係を持つことがステータスだとでも吹き込まれたに違いない。
 国王の直属の使徒として活動する勇者の意思は、普通の国民にとっては国王の意思と相違無く受け止められる。なので勇者の地位は相当なものであり、それに靡かず逆らう地方の領主などいないだろう。

■■■

 後日、勇者一行は各地で魔物を討伐し、といってもほとんどはアヴラム達がダメージを与えたのだが、少しずつ実績を積んだところで、再び国王に謁見する事になった。

「勇者よ! 各地での戦果は見事であったぞ! お主はまごうこと無き勇者である!」

 そう前置きを置いて運ばれてきたのは大聖剣であった。
 アヴラムが使っている通常の聖剣は神官による加護を与えられたものであり、それでも十分な力を発揮するのだが、大聖剣は神そのものによる加護を与えられているとされ、魔王を倒すのに必須の武器であると言われている。
 勇者ユウキが大聖剣を用いて魔王を討伐した時に紛失したとされていたが、教会の主導のもと、聖騎士団がどこかで見つけ出したとのことだ。
 伝説と呼ぶべき武器が目の前にあるということで、やはりアヴラムも心が踊るのだが、既に勇者のモノだからそれを手にすることすら出来ない。
 一度触るだけでもと思うが、大聖剣を手にした勇者は、『これは誰にも渡さない!』と言って、触らせてくれなかったのだ。
 確かに紛失するリスクが無くなるのであればそれでも良いが、この日の出来事を境に勇者はタガが外れ、歯車が完全に狂いだしたのであった。
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