勇者に付き合いきれなくなったので、パーティーを抜けて魔王を倒したい。

シグマ

文字の大きさ
6 / 80
第1章 冒険者生活を始める。

#6 生活レベルの違いに戸惑う

しおりを挟む

 聖騎士団を脱退した俺は[フェブラ]という名前の街にやって来た。
 この街は聖都市[ビヴロスト]を離れ徒歩で一日ほど掛かる場所にあり、聖都市ほどではないが十分に大きく、ありとあらゆるものが揃っている。むしろ聖都市の整然とした街と比べると雑多でより多くのものが売っており、賑わいを見せているぐらいだ。
 この街を拠点に生活をすることに決めたのだが、これが初めての一人暮らしであり、騎士として色々と経験をしてきてはいるが不安が募る。
 十歳から聖騎士団の一員として集団生活の中で自立しているとはいえ、まだ成人年齢と言われる十五歳にも満たない十四歳だ。それに普通の暮らしをしてきていないので、これからは未知の体験も多いだろう。
 取り敢えず頼れる人が身近におらず、どうすれば良いのか分からないので、街を見て回ることにした。



 ……どうやら自分の所持金はかなり多いようだ。

 所属していた聖騎士団の給料は幸いにも、一般人より遥かに高かったらしい。
 仮にも聖騎士団で活躍してきたので、特別報酬もあってかなりの額だったみたいだ。
 これまでお金を使う機会と言うと、自身の装備を揃えるときぐらいにしか使っていなかったことも大きいのだろう。
 断言出来ないのは先ほど知ったばかりであり、まだ信じられないからだ。
 城を出た時はお金を僅かばかりしか持っていないと思っていたのだが、それは単に枚数が少ないだけであり、実際に自分の持っているお金の価値を知ると驚くことになった。

──これは露店で食べ物を買おうとした時のこと。

「おっちゃん、これを貰えるか?」

「まいど!一本で銀貨一枚だよ!」

「なら2本もらおう。このお金で大丈夫か?」

「ああ、金貨ね。はいはい、まいどあ……り!?」

 支払われたお金を確認した店主は目を丸くする。
 自分が払った金貨はただの金貨とは違い、聖金貨と呼ばれる価値が高いものなのだそうだ。見た目は金貨を一回り大きくし、聖騎士団の紋章が刻まれている代物だが、一般の生活で見ることなどまずないらしい。

「こんなことも知らないで今まで生きてきたなんて、どこぞのお坊っちゃまなのか?」

「そういう訳ではないのですが……」

 お釣りを払うことが出来ないので、店主にお金を返される。
 しかし聖金貨が、そこまで価値が高いとは思えないので、話をよくよく聞くと本当に聖金貨の価値は高いらしい。
 聖金貨1枚は普通の金貨の百枚分に相当するらしく、銀貨にすると千枚、銅貨にすると一万枚になることが分かった。
 これまで武器を揃える為にしかお金を使わず聖金貨しか使っていなかったので、それぞれのお金の価値は分からないが、銀貨が取引の主流と聞くと、いかに自分が世間知らずだったかが分かる。
 確かにそんなお金を露店で出されても困るのは仕方がないだろう。なのでまずはお金を換金すべく、聖金貨が使えそうなお店を探しに行くことにした。

 しばらくお店を見て回り見つけたのは武器屋だ。

 普段、唯一お金を使っていたのは武器を含めた装備品である。なので武器屋なら高額の商品も、お釣りで払うお金もあると見込んだからだ。
 それに装備品が没収され新しい装備を必要としていることもあり、ここで何かを買ってお金を使い、お釣りを手に入れられれば丁度よいだろう。
 普通は教会か冒険者ギルドにてお金を交換するそうなのだが、教会はもっての他だし、冒険者ギルドも昨日の今日で教会から何か手を回されている可能性があるので躊躇われる。
 消去法で武器屋に来たのだが、これまでは聖騎士団に直接来る商人に頼っていたので、普通の武器屋には来たことが無い。なのでまずは、どんなものが売ってあるのかを見て回る。

……結論から言うと、ろくなものが売っていない。

 普通の冒険者の程度は分からないが、このような武器を使っていたら、ろくにAランクの魔物を相手にすることが出来ないだろう。
 店頭に並んでいるものでは満足出来る物が無かったので、『もっと良いものはないのか? せめて今持っている短剣と同等の質のものが欲しい』と店主に聞くと、『そんな良いものは聖都市にならあるかもしれないがフェブラの街には無いだろう』と言われてしまった。
 逆に店主から『その短剣を売ってくれ!』と頼まれるが、これを失うと武器が無くなり流石にまずいので断る。
 武器だけでなく鎧などの防具もみたが、作りが甘くてこんな物では直ぐに使い物にならないようになるだろう。
 こういう現実を見ると、聖騎士団は恵まれていたのだなと改めて思うがそうはいってられない。
 いつまでも短剣では心もと無く、武器が手に入らないというのは死活問題になる。なので今後、ドワーフの街にでも行って専用の武器でも作って貰う必要が有るのかもしれない。

 買いたいものが見当たらないので、改めて店主に聞くことにした。

「この店で一番高い商品は何ですか?」

「お前さんが使ってる短剣に釣り合う防具や武器はこの店には置いていないが、そうだな……アイテムバックはどうだ?」

「アイテムバック?」

「なんだお前さん、アイテムバックも知らないのか?」

「いえ俺は使ったことはないですけど、他の人が素材の回収に使っていたので知っています。素材が一杯入るように魔法が掛けられたバックですよね?」

「そうか、お前さんぐらいの装備の持ち主にもなるとサポーターがいるか。流石にそのサポーターが持っていたような質の高さは無いだろうが、ここにあるのも一般の冒険者には喉から手が出るほど欲しい代物だぞ」

「なら、それを貰います」

「即決か……流石だな。因みに金貨八十枚だぞ?」

「これで」

 聖金貨一枚を差し出す。これでお釣りは金貨二十枚だ。

「聖金貨か……とことんだなお前さん」

 こうして装備を揃えることは出来なかったのだが、店で一番高かったアイテムバックを買い、お釣りの金貨を手にいれることは出来た。なのでこれで、他の店でもお金を使うことが出来る。
 しかしこれから何を始めるにしても、寝床を確保しておかなければ後で困ることになりそうだと気付き、まずは宿屋を目指すことにする。
 家を買えば良いのではないかとも思ったが、流石にそれをするとお金が底をつくので止めた。まだお金を稼ぐ手段も見つけていないのに、そんな早まった行為はしない方がいいだろう。

 街を見て回り、良さそうな宿屋を見つけたので中に入る。そしてそのままカウンターに行くと、亭主らしき人に声をかけられた。

「いらっしゃい! 宿泊かい? それとも食事かな?」

 どうやらここは宿泊のみならず、食事も提供しているみたいで、食事だけ食べることも出来るみたいだ。
 そういえば城を出てから何も口にしていないので、どうせなら食事も頂くことにする。

「両方でお願いします。それとしばらくの間、この宿でお世話になろうと思っているのですが連泊しても問題ないですか?」

「おっ! お兄さん冒険者なのかい?」

「いえ、そういうわけではないのですが……」

 素直に答えるわけにもいかないので、身の上の説明に困る。

「なんだい訳ありか? ことによっては、うちは宿泊お断りだよ」

「いえいえ、ただ無職になった挙げ句に家も追い出されたので、仕事を探しにフェブラリの街へやって来たのです」

 とりあえず嘘は言ってないがこれでごまかせるだろうか?

「なんだよそういうことか。それならそうと早く言いな! この街には夢見る若者が多くやって来るんだ。お兄さんも聖騎士団の一員になろうって口だろ? 聖都市にビビってこっちならって冒険者を始める奴も多いがな!」

 変な誤解をしているが、何とか誤魔化せたみたいだ。
 亭主の話によると、聖騎士団に憧れるやつは多いが実際に入れる人は少ない。そして、そもそも入団試験を受ける前にビビってしまう人も多いみたいで、そういう人達の受け皿にこの街はなっているとのことだ。
 なのでこの宿にも夢半ばの冒険者がよくやって来るので、自分のこともその一人だと思ったらしい。

 ここの亭主も宿屋を始める前は聖騎士団にいたと自慢されたが、自分が所属する前のことなので全く知らない。だが聖騎士団を目指す後輩だと思われて、上から目線で喋られるようになった。

「へぇー、そうなんですね。自分は別に聖騎士団を目指してやって来た訳ではないのですが……」

 むしろ聖騎士団にこれ以上関わりたいと思わない。

「はっはっ! 皆初めはそういうんだよ、冒険者を初めて調子にのった奴が、聖騎士団の入団試験を受けるなんて、よくあることだぞ!」

 実際にそのような冒険者は多くいるのだろうが、俺は例外だと言えるはずもなく、とりあえずは愛想笑いして受け流した。

「はぁ、それでここは一泊いくらなんですか?」

「ああ、そうだったな。えーと、食事ありの場合は一泊が銀貨四枚だ。連泊するなら安くなるがどうする?」

「それではとりあえず十連泊でお願いします」

「ほいきた、なら金貨三枚にしといてやるよ! 金貨一枚はお前さんの新生活への手向けだな。それと延長する場合は、最終日の前日までに言ってくれたらこれからも安くなるぞ!」

 金貨一枚も値引きをしてくれるとは気前が良いことだと、気分を良くして部屋に入ったのだが、後で亭主──プラトンと仲良くなり聞いた話によると、最初の価格は冒険者などの旅人価格で、後の価格が適正価格だそうだ。
 客の気分も良くして身を切るわけでもない、なんとも商売上手なことだ。
 しかしこれで新たな生活の拠点が出来た。どれだけこの街にいるのかは分からないが、拠点が出来ることは重要だろう。
 勇者一向を抜けて、自分は自分のやり方で魔王を倒そうと決意したのは良いが、まだまだ先は長い。一人になって何をしていけばいいのかまだわからないが、とりあえず使うだけではお金は無くなるので、何か仕事をするべきだろう。

 こうして明日はまず仕事を探すとしようと決意し、一日を終えた。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...